第五十二話 パート2 侍の覚悟
「光、いよいよ私の出番ですね」
アリアナは深呼吸をし刀を握り、態勢を低くし構えた。彼女の役割はドラゴンの態勢を崩す最大の一撃を与える、それがどれだけ危険であるのか。
彼女が仕掛けようとしている技はレイド開始一ヶ月前に遡る。
◇
真っ白な景色だけ、壁が見えるのに近づこうと歩いても壁は動いている様子がなかった。ここは過去にシンは修行した空間を再現した場所、空間魔法”空間部屋”。
「それで、私は何をしたらいいですか?」
他のメンバーには先にやってもらうことを伝え最後に残ったのが彼女だった。なぜ最後なのかは彼女もわかっているような目で見ている。その目は覚悟が決まっている目だった。
「ここに来る前に言ったのを覚えているか?」
「ええ、体が裂けそうでもドラゴンの硬い足を切り落とすでしたよね?」
シンは頷いた。だが彼女はわからない、切り落とすとしてもどうやってそれを成すのか。思いつくのはとてつもない速度を出してでもと言っていた彼の言葉から推測すると見えない速度を出して勢いよく切断が考えられる。つまりこの空間は端へ行こうとしても底なし沼のように無限に続いている場所であれば練習にもってこいだ。だがそんな予想は見事外した。
「速度は走ってでも出せるが肝心な距離がある。どれだけ遠くにいようと無理だ」
ならどうすればいいのか。ゴムの力を使った戻る力で速度を出すのか?と考えるがこれは魔法を使う前提のものだった。それは、
「重力を利用した自由落下だ」
「……それでは足じゃなくて体の方ではないですか?」
攻撃対象は足なのになぜ自由落下なのかに疑問が浮かぶ。空中から足へどう飛ぶのかがわからない。そこで彼の言葉に頭を傾げる。
「だからお前には一つの魔法を覚えてもらう、その魔法は重力魔法だ」
重力魔法、その名の通り重力を扱う魔法。それでどう攻撃するのかがわからなかった。彼女は魔法知識が無いため察するのが悪い。レイラなら顔が青ざめるだろうが彼女はわかっていない。
「つまり、重力魔法でお前の重力をドラゴンに向けてることによってその方向に自由落下する、その力を利用して足を切り落としてもらう」
そこでようやく理解した。いわば特攻である。シンたちがドラゴンの注意を引いている間に待機、合図と共にドラゴンに向かって重力魔法で重力方向を変え自由落下の力を使って足を切り落とす。
「それって、別に私がその風圧に耐えられれば問題ないのでは?」
それもそうなんだが、そうなんだが。彼女はそれがどれだけ危険なことかわかっていないのだ。なので実際体験してもらうことにした。
「それじゃあ早速かかる重力と風圧を感じてもらう」
シンは彼女の手を取って体を寄せた。その行動に困惑するアリアナを無視して重力魔法を発動させた。先ほどまで重力が下だった体が徐々に横の方へ引きつけられた。そして壁が底になり底に向かって自由落下が始まった。少し苦しそうだがそれでも気絶せず彼女は耐えていた。時速はどれほど出ていたかはわからないがそれほど速さは出ていた。
「ハァハァ……これを私がやるんですね」
気分が悪いとはなく単純に疲れたみたいだ。それでも疲れただけならばもうあとは重力魔法を習得してもらうことだ。
それからはアリアナに魔力制御を習得してもらい重力魔法を使えるようにしてもらった。あとはその自由落下に耐えられるよう訓練してもらった。おまけに刀にも魔力を使った斬撃を出してもらうようにしてもらった。
◇
「重力魔法、”フォール”」
アリアナは重力魔法を発動させドラゴンに目掛けて落ちていった。彼女は目を閉じ感じた。刀に力を入れドラゴンへ頭を上にし突っ込んでいった。そして刀を抜き、
「”刃”」
ドラゴンの真下で刀を振った。その瞬間大きな円が生まれドラゴンの四肢が切り落とされた。アリアナは自由落下の速度でドラゴンの真下から脱出しシンから受け取っていた”翼の着地”によって地面へ転がり止まった。
「これですべてが揃った。お前ら、その場から離れろ」
これでチャックメイト、シンはドラゴンから離れるよう合図をした。これが最後の仕上げ。




