黄色い狐と黒の冒険者 ダイジェスト【第一章~第四章】
沢山の本が棚に並べられている空間、そこに一人の”女性”が一冊の本を取り出した。
題名は「黄色い狐と黒の冒険者」、そう書かれていた。
書庫の中心に円型の机と一つの椅子が置かれており、椅子に座り、本をめくった。
ー第一章ー
音を立てて降る冷たい雨の中、馬車は不気味な森へと進んでいった。馬車には、鉄格子で作られた牢が乗せられており、その中に黄色の長髪にそれに似合わせた狐の耳と尾を持った女の子が横たわっていた。
雨のせいで足場が悪く上下に揺れ、少女は鉄格子に体をぶつけ唸り、何もできないまま、進む馬車は森の奥深くへと消えていった。
◇
朝、小鳥たちはチュンチュンと声を立てて鳴いている。そんな声とともに母親と思わしき人物が毛布の中で気持ちよさそうに眠っている一人の少女の耳元に優しく囁くのである。
「ほら、カナリア起きなさい。今日は大切な日なのだから忙しくなるわよ」
くすぐられるような声を聴きいた少女カナリアはかわいらしいあくびとともに体を伸ばすため毛布から出てきた。
ここは『ティア』と呼ばれている森の中に存在する大きな国であり、ここには獣人が住んでいる。
今日は国において働くための魔力を測り、国で働ける階級を得る儀式が行われる。
「いってきます!」
彼女の名前はカナリア。狐の獣人で黄色い長髪に同じ色の耳と尻尾を特徴とし、今年で十歳になる陽気な少女である。ちなみにカナリアのような狐の獣人を狐種と呼び獣人は獣のような耳と尻尾を持っている人類のことをまとめてそう呼ぶのである。
会場は神が存在する『神域』に近い場所と信じられている教会だ。
教会の中は、無音に近い空間だった。周りを見渡してみるとそれなりの人数が儀式に参加しておりこの国で自分と同じ歳の人たちがこんなにいるのだと能天気なことを考えているので他の人たちと比べると緊張感が欠けている。
教会の中心には藍色あおいろの大きな透明のクリスタルが浮いておりその周辺には円の装飾品がクリスタルを中心にして回っていた。これを『フスターム』と呼んでいる。この国で働くための階級をこのクリスタルに触れることにより祭壇に透明なプレートに映り階級分けは映しだされたステータスに記載されいている魔力で大司教様が決めるそうだ。
しばらくして時間になったのか奥の扉から大司教様が出てきた。
「それではこれより階級の儀式を始める! これは国の未来がかかっている。この場には国王様もおられる。では、まずはそこの少年から始める」
大司教様は大きな声で儀式の宣言をし最初の人をフスタームの前に呼んだ。少年は緊張しながらもクリスタルに手を伸ばした。次の瞬間、クリスタルは大きな光を放ち装飾品はものすごい速度で回り始め徐々にその現象は収まり落ち着いたところで大司教様の前へ行き結果を聞いた。
「それではそなたの階級は……なるほど、『コントリブス』であるな」
この国では、宮廷で働き『魔術師』や『騎士』といった職に就ける『コントリブス』と、商売や農作、武器を作るなどといった生産をメインとする『プロディデント』の大まかに二つに分けられる。
次々と階級分けがされていく中、ようやく自分の出番が呼ばれ立ち上がりフスタームの前へと歩き始めると、先ほどなかった緊張が一気に湧きでしまった。それでも立ち手を伸ばした。
しかし事は起こった。そう、クリスタルは反応しなかったのである。
空気が一瞬にして凍った。
そんなことが起きるのかと周りの人たちは騒然 とした。それもそうだ。先ほどまで反応を見せていたクリスタルが何も起きないのには疑問を抱くのも無理もない。そして一番不安がっているのがカナリアだ。反応しない事は今まででそんな事例は聞いたことがないのだから。いつまでも落ち着きを見せない教会の中で、ある人物が動いた。その人物は......
「彼女か! 彼女こそが奇跡の子か!」
喜びの声が教会に響き、カナリアに近づいてくる者が一人いた。それはこの国の王『ドノヴァン・エスルマ』であった。
「お主はこの国の一番の役割を持っている貴重な人材。お主は今から我が城へ来てもらう!」
王はあらかじめ用意されていたと思われる馬車にカナリアを乗せ彼女だけが城へと向かわさせた。突然の出来事にカナリアは混乱してしまっていた。クリスタルは反応しなかったのに『奇跡の子』『この国の一番の役割を持っている貴重な人材』と言われ馬車に乗せられ城へと向かわされているのだから。
そんな出来事に頭を回しているうちにだんだんと眠くなってきてしまった。馬車が揺れているのでそれで眠くなっているのだと思い、しばらくして小さな寝息を立てて眠ってしまった。だがこの眠気は意図的に起きたことだと彼女は知らないのだった。
◇
彼女に冷たい風が襲い目が覚めた。
(ここは……牢屋?)
起き上がり辺りを見渡して見るとそこはレンガによって作られた部屋であり一面だけ鉄格子になっている。だからここは牢屋だとわかり首には嫌な雰囲気を放っている首輪がつけられていた。
「うまく睡眠魔法の魔法陣が起動してなにより」
知らない男二人と身に覚えの人物が気味の悪い扉から入ってきて、その中にはこの国の王、ドノヴァン・エスルマがいた。ドノヴァンは上機嫌な笑いをしながら経緯を話し始めた。
「なぜ自分がここにいることを疑問に思っておるだろう? あの儀式には、国を守る優秀な人材を分けるためのものであり、そして別の目的もあるのだよ。この森には『神獣』様という神によって生み出された偉大なお方がこの国を守ってくださっているのだ。国に魔物をよらせないよう結界を張ってくださっている。その代わりに、お主のようなものを生贄にするという条件で取引が行われているのだ。安心せい、お主のことは国に侵入した奴隷商売の人間に拉致されたで処理しとけば真実は闇の中じゃ!」
声高い笑いを出しながら王はその場を去ってしまった。
しばらくして王と一緒に入ってきた男二人がカナリアを持ち上げ外へと運ばれ、外には馬車が停まっており、荷台には鉄格子の牢が乗せられていた。牢の中に入れられその上に外から見られないように厚い布を被されてしまった。
どうしてこんなことになってしまったのだとカナリアは涙目になってしまった。何か魔法にかかっているのか声が出せないので助けを呼ぼうにも叫ぶことができず本来持っているはずの獣人の身体能力もこの首輪のせいで下がっており自力で脱出はできずどうしようもない状態である。
馬車は走り出し町の中を通っていいるのかにぎやかな声が聞こえる。
(そういえば……今日は儀式の感謝祭だったけ……)
毎年この時期になると開催される祭り、屋台には外の国の者も来るという大きな祭りであり他国との交流を深めるためのきっかけにもなるという。
外は祭りを楽しんでいる人々の声が聞こえる中、自分は今日、人生を壊されてしまい家族のみんなともう会えないという悲い感情が湧き出て涙が流れてしまった。そんな少女の気持ちはむなしく目的の森へと消えていってしまった。
◇
大雨が降り始めた。
馬車に乗せられずいぶんと時間が経たところで突然雨が降り始め風も次第に強く吹いた。風のおかげで布は取れ自分は森の中へと来てしまったと確認ができたが雨が降っているため体はだんだんと冷たくなってきた。
何もできずただ自分は国の闇を知った上でその闇は誰かに伝えることもなくただ運ばれていくしかなかった。
(もう、だめなのかな……)
暗い森の中、雨は先ほどよりもひどく降っており雲は黒くなってきた――その瞬間、真っ黒な雲から雷が馬の目の前に落ち馬たちは驚き馬車のスピードが速くなってしまった。
「おい! お前たち! そんなにスピードを上げたら――っは! 落ちる!!」
御者が大声で叫んでいるが聞こえず、馬はその先にある崖にそのまま馬車と一緒に落ちてしまった。
(ああ……また死ぬんだ……あれ? ”また”?――)
その言葉にカナリアは疑問を抱いた。どうして「また」という言葉が出てきたのか。だが、考える時間よりも先に地面に叩きつけられてしまった。
◇
「……」
馬車が崖に落ちて少し経ったあとに森の奥から四足歩行の大きな生物がカナリアに何かを確認するように周りをまわり始め、しばらくし何か確信をしたのかカナリアが入っている牢を破壊し彼女を銜くわえ森の奥へと入っていった。
◇
ジリリリリ!!
耳元に大きな時計が早く起きろというような音でアラームが鳴り響いている。
大きな音を響かしている時計を止めようと毛布から少年の手が伸びアラームを切り、それと同時に大きいなあくびを出しながら彼は起きた。
「おはよう、真。相変わらずギリギリまで寝ているな」
「ほら、ちゃんと朝ごはん食べて学校行きなさい」
ダイニングルームにはマグカップを片手に持って新聞を読んでいる父がいつものことに笑いを浮かべ、キッチンで洗い物をしている母は息子に朝食を食べるよう促した。
彼、日々谷真はいつものように学校は遅刻寸前のギリギリまで寝ている寝坊助である。
「じゃ、行ってきます」
朝食も終わり支度を済ませた真は学校に行くためのバス停へ走っていった。
真は高校二年生であり学校はバスで登校するのだ。道中に広々とした道路を横に目的地であるバス停へ向かう、だが道が長い信号機を渡らなければ止まってしまうとかなりの時間をそこで過ごさなければならない、急いで渡るため走る速さを上げた。
(はあ、はあ、これなら渡れそ……う……あれって……ちょっとまずいんじゃないか?)
真は渡り切れると思い安堵した瞬間、どこからか大きなエンジン音がこちらへ近づいていることがわかった。彼は音のする方を向くとそこにはトラックがとんでもない速さでこちらに走ってきた。
みんなが逃げようとしている中、目の前にいた小さな女の子がつまづいてしまい地面に倒れこんでしまった。トラックはすぐそこまで迫っており危ない状況の中、すぐさまに真は倒れこんでしまった少女のところへ走り彼女を持ち上げた。しかし、今から走り出しても間に合わない距離であり、このままでは二人とも轢かれてしまう。そう確信した真は最後の力を振り絞り彼女を安全なところへ投げ飛ばした。
次の瞬間、真はトラックに轢かれてしまい惨い音と共に空中へ飛ばされ地面へと叩きつけられてしまった。誰かが彼に声をかけているようだけどもその声はだんだん聞こえなくなってしまった。
◇
「すばらしい! あなたの行動にわたくし感動しました!」
真が目覚めた場所は、真っ白な所であり水平線が見えるほどなにもなく、目も前には世界を管理する神『ヴェブレリタ』と言う、真とあまり年齢は離れていないようみ見え女性に出会った。
「あなたはあの出来事に一瞬のあの時間の中で小さな女の子を優先したその行動を称え前世の記憶を持ち第二の人生を送ることができますよ!」
勢いのある説明をしながら真へどんどんと近寄ってきた。なにか焦っているのか汗もかいているのがわかる。そんな真はなにか裏があるなと思い彼女が焦っている理由を問い詰めることにした。
「それで、その神様がどうして僕にこのような話を始めたのですか? それに何か困っているように見えるのですが?」
「!? べべ別に! 焦ってないよ! ただ君が転生するにあたって少しお願い事があるってだけど面倒ことじゃないし! ほら! 欲しいスキルなどもあげちゃうし!」
真が理由を聞き出そうとしたら神様は焦っているという言葉をポロリと吐いてしまい、やはり自分が転生をすることは簡単じゃないことが分かった。そんなに焦る理由は何なのか考えてみたがあまり理由が見当たらない。
「実はね……本来の転生はもうそのまま転生先で生まれた時から記憶を持つのだけど、君みたいな人たちは必要な存在になるための抽選があって……その……君はその抽選に当たっちゃった☆」
世界で全うするための運命を背負って転生するものだった。そして背負う運命は”獣神王”といい、獣人の柱になる存在になることになった。
”獣神王”の役割は、獣人の国は王様のせいで徐々に悪い方へと進行していてこのままでは滅んでしまう獣人の国を、神のお墨付きである獣人を玉座に座らせることによって国を安定させるということである。
「で、君は王様にこのことに気づかれると殺されてちゃうから君の場合は前世の記憶と今の会話の記憶、そしてあなたのスキルを隠す――というより最初っから無の状態にするからあとはこの国の制度を利用して生贄という存在となるから森に連れてこられたところでわたくしが作った動物に回収させますので安心してください☆ ちなみに記憶を覚醒させすればスキルなどは元通りです☆」
神様は重要そうなことを言っているみたいなのだが、ちょっと言い方に問題があるのか緊張感がなく逆になんの動物が自分を回収するのか気になってしまった。
「と、いうことで転生するにあたりあなたが欲しい力を4つプレゼントします!」
「4つまでなんでもいいなら……」
真はスキルのところに欲しい力を説明と一緒に書いた。
『創造[魔法]:魔法を自分で創造することができる』
『創造[スキル]:スキルを自分で創造することができる』
『魔力無限:魔力が尽きることなく無限に使える』
『全魔法適正:どんな魔法も習得できる』
「これで大丈夫……ですか?」
「ふむふむ……これでOKだね!」
こんなにチート級のスキルたちを神の許可が下りてしまい本当にいいのかと疑ってしまったがウェブレリタは指を鳴らしステータスボードに先ほど書き入れたスキルたちが反映されていた。
「それじゃあ早速転生するための穴を作るね」
ステータスを確認し終わるとウェブレリタは足元に穴を作り始めた。真はその穴を覗いてみると暗く深く――いや、そもそもこれを穴と良いものなのか不思議な感覚を感じた。
「転生の準備ができました。すいません、我々のルールに縛ってしまって……」
ウェブレリタは転生の準備ができたのと同時に、真に謝罪を始めた。それはやはり転生をするにあたり自分にはこのような宿命を持って転生とするということに申し訳ないと思っているのだろう。
「謝らなくてもいいですよ。代わりに欲しいものをくれたので問題ありませんし、それにあなたとの会話は楽しかったので大丈夫ですよ」
確かに現実でありえないことが起きてしまい混乱してしまったが、神様のこの性格のおかげで短かった時間が何気に楽しかったのだ。
真は穴の前に立ち再度、中を覗いた。やはり中は暗く深いのに、この不思議な感覚はなんなのかよくわからなかった。
「それじゃあ神様、最後までありがとうございました」
ウェブレリタに体を向けて感謝を伝えそのまま背中から穴へと落ちていった。
自由落下をして風を受けているはずなのに不思議なことに受ける風は感じなかった。
そろそろ出口なのか光が見えてきた。
「これから始まる第二の人生……ま、何とかなるでしょう」
真は一応めんどくさがりな人であり何か起きればそのときに解決すればいいという考えの持ち主なのではあるが楽しい人生を送れるよう祈るのであった。
◇
「……ん、ここは……?」
目が覚め起き上がりあたりを確認したところ知らないベットにおりここが部屋で自分は建物の中にいるのが分かったのだが壁に木目が広がっていた。
「確か……わたし……いや……俺は……崖から……違う……トラックに轢かれて……あれ?」
記憶が二つあることに気づきまだ頭が冴えないのようで整理しようにも混乱してしまい状況が分からなくなってしまった。そんな状態の中に部屋の扉が開き、そこから高身長の男性がたくさんの赤い何かを持って入ってきた。
「目覚めたか、神の子よ。……なるほど、これはかなり混乱しておるな。ほれ、俺が採って果物でも食って落ち着け」
彼の名前は”シルビア”。神様が言っていた『わたくしが作った動物』であり、この森の『神獣』である。
自分は二つの記憶が整理しきれておらず状況を理解できていなかった。それを落ち着かせるよう果物を与えたりと、少し対応に困るようなユーモアな性格の彼。
食事を終えたその後、自分が誰なのかわからなく混乱する自分にシルビアは、
「お前は誰だ?」
シルビアは自分の顔を抑えながら近づいてきた。急な質問に自分は戸惑ってしまったがまた繰り替えし、「もう一度聞く。お前は誰だ?」と尋ねられた。
その時自分の心臓の鼓動がドクン跳ね上がり呼吸は落ち着き先ほどまでの迷いがどこか飛んで行ったように心の雲が晴れたような気がしそして、
「私はカナリアであり日比谷真。俺は死んでこの世界に転生し神からもらったこの宿命とともに生きる人間だ!」
迷いは吹っ切れ自分が何者で自分が誰なのかをようやく整理ができ落ち着くことができた。
「ふむ、先ほどのよわよわしかった目つきはなくなったな。では、お前はどうしたい?」
そんなこと、もう決まっている。そう覚悟を決めた顔で、「もちろん強くなって自分の役割を、自分のやるべきことをやりたいことをやる」と答えた。
「決まったな、ではついてこい!」
シルビアは覚悟を決めた自分についてくるよう言った。
「これからお前は強くなるための特訓をしてもらう、容赦はしない。強くなるその心がなくならない限り俺はお前を全力でサポートするぞ! それはそうとお前の名は?」
ものすごく燃えているお方がいるがそれは無視をし少し考えこんでしまったが、
「この時はカナリアと呼んでくれ」
狐姿の時はカナリアと呼ぶよう指示をした。
こうして、シルビアから課されたメニューをこなし、体力向上訓練や自然でスキルを習得する訓練、環境や生き物の知識を得る森のサバイバル生活。道中、不思議なことが起こったりとあったが、何事もなく生き延びていった。
「あんなところに巣でもあるのか?」
行き来していた大きな鳥を見つけたカナリアは、興味本位で登ることにした。そうとうな高さのある木であったが、ノシノシと登り切り、頂上へ着いた瞬間、巣の主である巨大な何に「パクっ」とくわえられ、大きな穴に捨てられてしまった。
そこで鳥でないことに気づき始めたカナリアの背後には、大きいことには変わりないが異様にも歯が鋭く、鳥が持つ羽毛がなくゴツゴツとした皮のような羽で、大きな尻尾を持っていた。
そう、ワイバーンだった。そして穴の中にすでに住んでいた先ほどのカナリアを咥えたものよりも大きかったのだった。
◇
カナリアは恐る恐る後ろを振り返ったその先にいたのが……
「――グォアアアァァ!!」
ワイバーン、それもカナリアをくわえここへ吐き捨てていった方よりも倍の大きさのワイバーンであり雄たけびとともに尻尾を勢いよくカナリアめがけた横に振りかかってきた。
「――っつ、あっぶね」
間一髪のところで空中に飛び避けるとに成功したものの体が大きいのに対しものすごい速さで尻尾を振るのでこれは苦戦するだろうと思っている矢先に次は大きな羽をはばたかせ風圧を起こし空中にいたカナリアを壁に衝突させたのである。
「――ッガハ」
壁に衝突した際にダメージが大きく入ってしまいカナリアは気を失ってしまった。
もう終わりかとワイバーンは気を失ったカナリアに近寄り大きな口を開きごくりと飲みこんでしまった。
飲み込み住処へ帰ろうとしたワイバーンに何かが体の中から襲ってきたのだ。
体内をものすごい力で殴られているのかワイバーンの体が浮くほどの威力を出しそしてその正体が口を力ずくで開けそこから出てきたのはそうカナリアである。
カナリアは気を失っているのに対しここまでの力を出している。
ワイバーンの口から出たカナリアは本当に彼女なのか疑うような笑いを出してワイバーンへ迫っていった。
迫りよってくるカナリアを風圧で押し返そうと羽をはばたかせたがその圧を上回る速さで突っ込んいきその恐怖にワイバーンは空中へ逃げようと羽をはばたかせ飛ぼうとした瞬間、カナリアは飛ばせないという勢いで大きな羽に乗り、上挙の手にし右羽の根本にすばやく突き刺した。
ワイバーンは激痛と共に制御ができず落下してしまい右羽がちぎれ落ちてしまった。激痛を感じているワイバーンに容赦なく左羽を狙いに素早く体制を立て直し目に見えないほどの速さで回り込んだ。
尾を勢いよく振り円を描くように回ったワイバーンであるがカナリアは飛び跳ねてそのまま空中を蹴りワイバーンの左羽の根元にしがみつきこんどは左羽を食いちぎりワイバーンは雄たけびが出ないほどに弱っていった。
ワイバーンなどのドラゴン種の中で下の方ではあるものの再生能力が凄まじいのだがその再生能力が追い付かないほど損害を素早く与えているのだ。
ワイバーンの息の根が止まるまで殴り食いちぎり、体を引き裂く、あんなに大きなワイバーンは原形すらもうなく穴の中はワイバーンの血や肉片があちこちに飛び散っており血の海になりカナリアは返り血を浴びておりあんなにきれいだった黄色の髪たちが真っ赤に染まってしまっていた。
「……」
カナリアはワイバーンの体に生成されていた紫の石を発見するとためらわず「……ゴクン」と飲み込みそのままカナリアはそのまま倒れこんでしまった。
◇
「これは派手にやったな」
真っ赤に染まり気を失っているカナリアをシルビアは小脇に抱え穴を抜けどこかへ飛んでいった。
◇
ワイバーン戦闘後、シルビアの家に帰ってきたカナリア。落ち着いたところで彼からステータスボードを表示させてもらい自身のステータス状況を確認した。
その中でいつの間に手に入ってスキル等が書かれていた。
「いろいろ聞きたいことは山ほどあるが……まあよくやったな」
シルビアは何か言いたげそうだが頭をポンポンと優しく叩いて褒めた。
ステータスを確認していると神様からもらったスキルなどが使用不可であることや自分がもらった覚えのない加護があること、三つは状態:errorがあること。調べようにも?のせいで詳細を見ることができないのである。
加護に関しては、シルビア曰く、彼が生成した森には彼が必要だと思っている生き物、植物、罠も同時に創っていた。その際に外からの干渉、侵入は不可能ではあるが、妖精や精霊などの生き物は例外である。そのためカナリアが持っている妖精の加護とフェニックスの加護はどこかで出会っているからである。そして状態:errorに関しては彼もわからないという。
「よし、休憩も十分しただろうし次の特訓は――魔法だ」
スキルボードでのカナリアの説明を終え右人差し指に火を起こし魔法の特訓をすると伝えた。
そっからはいろいろと叩き込まれた。魔法の常識や発動条件、歴史といったことから始まった。
魔法は魔力を他のものに例え顕現すること、魔力は大昔に空から降ってきた大量の隕石には魔力の素である魔素を持っており、地面に埋もれそれが自然発生し大気に放出、それを大昔の人類たちが吸ったことにより魔力を持つことができその分岐となる獣人や様々な人種、動物にも魔力を持つことができるようになった。反面、動物は魔力の影響が大きすぎたため魔物に変貌してしまうものもいた。今でも魔素は出ているが昔よりは薄く身体に影響はなくなった。魔法の発動条件は魔法陣を描きながら詠唱を唱えることで発動可能である。魔法の種類は基本5つあり、火、水、風、雷、土でありそのほかにも魔法の派生として多く存在するためこの5つを基準としている。
「では早速魔法を使うようになるために魔法陣を描いてもらうか。はじめっから無詠唱で魔法を発動は無理だからな!」
そういってシルビアは魔法陣を描きこれを真似して描いてみろと言われたがさっそく難題にぶつかった。
「どうやって描くのだ?」
「え?」
「は?」
シルビアはそんな質問が来るとは予想していなかったようで愕然している。
「これは魔力制御で魔力をうまく使い魔法陣を描かないと発動しないぞ? まさか……そこから? じゃあお前はどこまで魔力を出せるか見せてみろ」
魔力が扱える前提で話が進んでいたらしくシルビアも少し申し訳ないように顔を下に向けた。
今回はシルビアも同行だがやはり自分の力で見つけて出す必要があるみたいだ。カナリアはまず魔力がどのようなものなのか思い返してみた。森の中でちらほら見た光……紫の石を触れたときに感じた暖かな感覚を再現しようと全身に集中させ何か暖かいのもが全身に巡っているのを感じた。次の瞬間「ゲボッ」と急激にその感覚を巡らせたせいで嘔吐してしまった。
「初めての魔力を制御するのだ、そんな急激に魔力を巡らすと吐いてしまうぞ」
「ゲホゲホ、先に言ってほしかった……」
この感覚が魔力だとわかったカナリアはしばらくして落ち着き今度はゆっくりと魔力を巡らせ全身にいきわたったような体に暖かな感覚がカナリアを包んだ。
「よし、正直できないと思っていたがお前を舐めていたようだな。では次に魔法を発動させるためにまずは魔法の基準である5つを使えるように身体を適性にするための修行をしてもらう」
今度は修行だといい指を鳴らした瞬間、火の海に飛ばされた。
「あっつ!!」
全身溶けてしまうほどの熱さの中、火の真ん中にぽつりと立っている。
「魔力をまとっている状態で頑張って火に慣れろ。それができたら自動的に次の空間に転送されるからがんばれよ」
そう言い残しどこかへ消えてた。たぶんあの魔法が転移魔法なのだろうと思いながらも今は目の前のことに集中するため手を火に近づけさせ火の感覚をつかもうとした。
「熱い……けど……!」
カナリアはこの熱さに耐えながら火の感覚をつかもうとただ火に手を伸ばし続け長い間ずっと立っていたせいなのか急に目の前が真っ暗になり倒れてしまった。
その後、水、風、雷、土の属性を習得するために直接慣れるという、力技で魔法基本属性の適性者になることに成功したカナリア。
「それにしてもすごいなお前。本当に俺が思っている以上の成果をだすよな。これでも羽織っていろ。あとはこれでも食って元気出せ」
やはりシルビアは自分が本当にここまでやってくるとは思っていないらしく毎回カナリアのことに驚いている。それとは別で5つの魔法特性を習得するためその環境の中にいたためカナリアが来ていた服などがボロボロになって肌があちこちはだけていたため大きい布を被せてくれた。あとはやはり彼は果物が好きなのかカナリアのおなかにどんどん黄色い果物『レモン』を乗っけていった。
「これでお前は無詠唱でも魔法を発動することができるぞ。ではその状態で何か魔法を出してみよ」
そんな無茶苦茶なことを言われて「はい、どうぞ」と火をどんと出せるわけ――
「あ、できた」
できてしまった。火を想像し魔力で火を再現したら見事火を発動することができたのであった。そこでカナリアは疑問というか矛盾が発生してしまった。
「なあ、魔法陣は?」
カナリアの無詠唱は頭の中に魔法陣を形成し詠唱なしでも詠唱以上の火力を出しその上でちょっとカッコイイ技名を言い放つようなものだと思っていたのだが魔法陣を頭の中に描かなくても火を出してしまったことで魔法陣要素が消えてしまった。そんな疑問にシルビアはやはり魔法陣を描くことを忘れていたような顔でこちらを見ていた。
「……」
「……」
真顔で二人は見つめあい時間がただ過ぎていったのであった。
その後無詠唱について聞いたが、魔法陣を頭の中で描くのだがシルビアは長生きているため魔法陣を描かなくても無意識で魔法を出すことができるのである。それを今カナリアもやり遂げたのであった。
ちなみに土に関しては地中の中に埋まっていたため気づかない間に終わっていたのであった。
◇
魔法適性の修行を終えてから数日。シルビアからドラゴンの退治をおつかいとして頼まれたのだ。当然、カナリアは彼を睨むがこれは彼女の最後の仕上げだというのだ。
そういいカナリアのステータスを映し出した。
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名:カナリア 歳:16歳 性別:女
魔法特性:全魔法(使用不可能)使用可能条件:縛りを達成することで使用可能
火・水・風・雷・土
魔力:∞(使用不可能)使用可能条件:縛りを達成することで使用可能
スキル:変化・創造[魔法](使用不可能)・創造[スキル](使用不可能)・鑑定スキル・気配察知・危険察知・探知・弱点察知・身体強化・音速・魔力制御
耐性:毒耐性
加護:神の加護《獣神王》・妖精の加護《妖精の祈り》・フェニックスの加護《再生能力》・《不老不死》(18歳まで発動不可)
状態:error
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魔法の基本5つの適性を習得したことで魔法特性の欄に5つ獲得した魔法種属が記載されている。ただシルビアも不思議になっているものがありそれは魔力が使用不可能なのに対し魔力制御、そして魔法が使えるということである。
「まあ、わからないものはわかるやつに聞いてこいということでドラゴン退治していくついでにそいつに聞いてこい」
そんなわけのわからないことを聞かされ、こっから北に何キロかにある洞窟に入り自身の魔力を全開放することによりドラゴンがいる空間へ転移するという。そんなあまりにも不安定な情報で目的地に行けと言われ少しめんどくさい気持ちが出ているが、これは自分のためということなので行くことにした。
それからの森での道は長かった。途中で魔物が襲ってくるが拳を振りかざすだけで吹っ飛んでいくし、日々魔力を身体に纏わせているおかげで魔物が近寄ってはこないが食材に偏りができている。走って追いかけることもできるがそのせいで一番の難題、道に迷子になってしまったことがあるため探知を使いながら目的地を探しようやくの洞窟へたどりついた。
一見外からみた洞窟は大きな穴で特にほかのものと変わらない見た目である。
「長かった……。フウ……さっそくドラゴンとやらとご対面と行きますか」
一息つき洞窟の中で魔力を全開放した瞬間あたりが光に包まれた。
目を開いた時、先ほどまでなかった天井から水があちこちに流れてきており下には大きな水たまりができていた。その真ん中には大きな白いドラゴンが眠っていた。カナリアがこの空間に入ったことで白いドラゴンが目を覚ましこちらを見てきた。
「ほお……」
ドラゴンは老いているのか口調がずいぶんお年寄りでこちらを見ようと顔を向けてきているが動き鈍い。
「お主は何しにここへ来た……?」
「俺はお前を退治しにここへ来た」
「退治? ホホホ、面白いことを言うな……」
ドラゴンは最初、面白い子供が来たと笑っていると思ったら何かを感じとったのか先ほどのゆったりとした表情がなくなり目を細め何かを察したように問いかけてきた。
「……我を退治といったがそれは誰からの指示だ?」
「森の神様」
「なるほど、シルビアだな」
このドラゴンとシルビアは知り合いだとわかったが退治とはまた別の目的を思い出した。
「それと俺のことについて聞きにきた」
「ほお……それはお主の縛りであるな」
やはりこのドラゴンは何かを知っている。そう確信したカナリアは戦闘態勢に入り「さあ今、俺についてわかることを全部吐くか、ここで俺に退治されるか」っと忠告をした。
だが、白いドラゴンの口からは「もちろん……話すぞ」とあっさりと話すと答えたことにより返答を聞いた瞬間飛び掛かっろうと考えていたカナリアは予想外の答えに勢い余って水たまりに落ちてしまった。
「ゲホゲホ……すんなり話すなんて何を企んでる?」
「お主はこの世界の転生ルールを変えることができる存在だと見たからだ」
少し考えこんだがこの話は面白いと判断し警戒を解いた。
「お主が聞きたいことは先ほども言っていた縛りだな。この縛りは記憶が覚醒した際に本来はすぐに使えるようになるのだが、転生時に神に聞かされなかったのか?」
ドラゴンが立ち上がり顔を上に向けた瞬間、空間が光を包み映像のようなものが流れ始めた。
「これは映写魔法というものだ。これで転生者の歴史について話そう」
この世界が誕生してから何千万年の時、初めての覚醒転生者がこの世界に生まれた。その転生者は神からもらった力を使った際に身体が爆散してしまったのだ。理由は、適応していない身体で急に力を使うと身体が力に追いつけずしてこのような結末になってしまう。覚醒転生者は数年に一度なのでそのたびに負担をどのように補うのかを次の覚醒転生者に縛りを付け足し、今のカナリアの縛りはこの使用不可能である。そして力を身体に馴染めるよう神が作り上げた存在『神獣』による教訓を行うことで力を使えるよう鍛えすべてを乗り越えることで解放されるのである。ちなみに普通の転生者は生まれてから記憶を持っているけれども神からはなにもなく、覚醒転生者はあとから記憶が蘇るが神からの宿命を持たされる代わりにスキルなどをもらえる。
「なるほど……つまりは覚醒転生者に力を与えているにも関わらずその力を扱えるよう鍛えてから使えるようにした……か」
「これがお主ら覚醒転生者の歴史だ。……お主は最初に我を退治と言っていたな。それはあながち間違ってはいない」
覚醒転生者についての話を終え話をまとめたカナリアはドラゴンの言葉に首を傾げた。
「我があの神獣にお主を来させるよう言ったのだ」
「それ――っ?!」
カナリアがドラゴンにどうしてそのようにしたのかを聞こうと顔を上げたその先の光景に言葉が出なかった。先ほどまで美しかったドラゴンの真っ白な鱗がだんだんと剥がれ落ちドラゴンの体がだんだんと変色していったのである。
「寿命だ。もうわかっていたことなんだ。だからこそお主をここへ来させるようにしたのだ。我の体内に生成された竜の魔石を取り込んではくれないか? 推測だがお主は過去に魔石を取り込んだことがあるのだろう? そのおかげで魔力の使用ができないのに対し魔力を使えたのは魔石による魔力生成なのだよ」
記憶にはないがドラゴンから見るとやはり何かが見えているのだと。だがどうして自分に彼の魔石をくれるのかがわからなかった。
「……どうしてそこまでしてくれるの?」っと聞くことしかできなかった。
「……我は見てみたいのだ、この世界を変える存在を、我は力になりたかった。長い間、ただ見ていることしかできなかった我の無力を今ここで晴らすときが来たのだ」
世界を変える存在、これが彼の意思をカナリアに託す最初で最後の望み……、なら自分は……、
「……名は? お前の名はなんだ?」
カナリアは白きドラゴンの目を見て名前を聞いた。
「ルルティマ」
最後に自身の名を伝え、ドラゴンは石のように崩れていった。
崩れ散ったルルティマの崩れた破片の中心には輝く石、魔石が落ちていた。
「ルルティマ……お前のその望み、確かに受け取った」
ルルティマの願いを受け入れた彼はルルティマの体と同じ色を持った白く美しい魔石を両手で持ち上げ彼に届くようつぶやき魔石を飲み込んだ。
魔石を飲み込んあと空間は次第に自分が入ってきた洞窟の姿に戻っていった。
「……帰ってきたんだな」
洞窟を抜けた空は星が浮き上がっており月がカナリアを照らしていた。この言葉をつぶやくカナリアの頬には雫が流れたいた。
◇
森から出て二年、帰ってくるのに一年の月日を経てカナリアはシルビアの家へと来た。
帰ってきたカナリアは本来の力を確認した。
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名:カナリア 歳:18歳 性別:女 種族:狐種
魔法適正:全魔法
魔力:∞
スキル:変化・創造[魔法]・創造[スキル]・鑑定スキル・気配察知・危険察知・探知・弱点察知・身体強化・音速・魔力制御・咬合力強化・飛行制御・気配遮断・気配調節・空間移動
加護:神の加護《獣神王》・妖精の加護《妖精の祈り》・フェニックスの加護《再生能力》《不老不死》・竜の加護《白竜の願い》
状態:ワイバーンの魔石・白竜の魔石
耐性:毒耐性・風圧無効
魔眼:竜眼
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使用不可能または発動不可であった項目はなくなり状態には魔石が表示され新たに魔眼が追加されていた。
「なるほどな、お前が縛りで使えなかった魔力を使えていたのは魔石を取り込んだことだったんだな……にしてもいつの間に」
「ワイバーンに関しては覚えてない」
覚えていないとかではなくその記憶そのものがないだけなのだ。
「それはそうとお前このあとどうするんだ?」
特訓も終え使用不可だった能力も扱えるようになった今、ここにいる意味はもうないのである。考えているうちに自然に「……外の世界を見てみたい」、そうつぶやいていたのである。
そうだ、カナリアは10年を獣人の国に住んでおり外のことを知らず、記憶の覚醒をしてからの特訓で8年、ドラゴンに会いに行ってから帰ってくるまで3年、合計21年という時間を森の中で過ごしていたため今の世の中を何もしらないのである。
だからこそ今、外に出るタイミングだと思ったからだ。
「それがお前の答えなんだな……。それじゃあお前にこれをやろう」
シルビアの確認にうなずくカナリアに彼は空間魔法である『収納』を使い仮面と衣装というどちらも黒という統一されたものと、文字が刻まれている紙を取り出した。
「これは?」
「これはお前が外に出るときの正体を隠すための変装服とスキルの書だ」
カナリアは死んだ人間なので公の場などは常に避けるための衣装だということであり女声やステータスを見せる際に隠すためのスキルが書かれていた。
「あとは……お前があの時、馬車の中で握りしめていたペンダントだ」
そういってカナリアと同じ色のペンダントを取り出した。その真ん中には金色の宝石がはまっていた。ペンダントを受け取ったカナリアは「あ、忘れてた」と言葉をこぼしてしばらくペンダントを眺めていた。
「それじゃあ渡すもん渡したし今夜はお前の遠征前の飯と行こうか!」
ポンと手を叩いたシルビアは嬉しそうに夜食の準備を始めた。
今夜はたくさんの料理を目の前にし森の動物たちも一緒に楽しい夜を過ごすのであった。
◇
朝、旅立ちの日。
「お前がここに来て長い間、俺の特訓によくここまできたな。正直どこかで挫けると思ったが何百年も耐えきったな。ほんと俺の予想を超えるやつだな」
「ッフ……面白いことを言ってくれるね……ん? 何百年?」
特訓をしていた場所はシルビアが生成した空間なので時間が通常よりも遅くなっていたためシルビアからしては8年だがカナリアは気づいてないだけで本当に何百年という時間をあの森の中で特訓していたのだ。その真実に目を丸くするのは当然である。
「ほれ、果物フルセット持ってけ」
そんな空気の中でもシルビアは果物を沢山入っているバスケットを渡してきたので果物好きの神獣なのだと改めて思い返し言葉がこぼれ、
「……本当に果物が好きなやつだな」
ここに来て初めて笑みを浮かべたカナリアにシルビアも笑って返した。
ー第二章ー
外の世界に出てきたカナリアは、冒険者になるため王都を目指した。
道中、山賊に襲われていた少女、ルナを救出。王都の道をわからなかったので彼女と共に向かった。その後は検問を通し、自身を証明するものがない自分でも最低限のものは欲しかったため、王都入門許可書をもらい、冒険者ギルドの道も教えてもらい目的地へ目指した。
「ここが冒険者ギルド、目立つ看板、確かに目立つけど、なんか違う……」
シンが目にしたのは冒険者ギルドの大きな看板、だがその看板はギルドを象徴する紋章だと思っていたが本当に迷わず、すぐわかる看板『王都一の冒険者ギルド”スペス”』。ここが冒険者ギルドということに足が止まってしまったが、わかりやすい……というよりはもうここがそうだと主張しているので仕方なく入ることにした。
中はとても広く受付と思われる番号が振られているカウンターが並んでおり入って左には居酒屋があるのか多くの人たちが飲食しながらにぎやかになっている。
「すまないがここで冒険者登録ができると思うのだが可能か?」
「あ、はい! 冒険者登録ですね! ――で、では! 初めにこの水晶に手を当ててもらいそこに記されているステータスをここに記入してください!」
受付の女の子は緊張しているのか慌てた様子で大きな水晶と書類を出した。書類の内容は魔法適性、魔力、スキル、またそれ以外にステータスに記されているものも記入ということだがそこで使用するスキル『ステータス偽装』を使い書類にはこのように書いた。
疑われないぐらいの自然のステータスにすることができたと思っていたのだが受付の女の子が驚いていたのだが次は実力を測りある程度の冒険者ランクを決めるための試験があるといわれ武器が並んでいる小さな闘技場へと来た。ランクは全部で9つあり一番下からF、E、D、C、B、A,S、SS,SSSであるというがS以上のランクは数を数えるほどしかいないという。そんな説明を聞いていると目も前に体が大きくムキムキの男が仁王立ちでこちらをみていたのだ。
「こいつが冒険者登録をした男か! 見た目は弱そうだが――強いな、お前」
自身の気配を調節し周りの人たちと同じぐらいにしたのだがこの男にはあまり効果がなくそれなりの実力者だと見抜いたようだ。受付の女の子曰く、男の名前は”ホリデイ”といい冒険者ランクは現在BランクでありAランクにも達する実力だという。なぜこんな人物と戦うのか意味がわからなかったが闘技場に偶然居合わせ勝手に相手をするということになってしまったのだという。
「貴様、戦闘の経験は?」
「少々」
近くにあった短剣を取り簡単な素振りをしてホリデイと向かい合うよう立ち両者はただ睨み合いが始まった。ホリデイの武器は拳でありシンがやる目つきに変わるとそれに合わせ腕組みをやめ戦闘態勢へ入った。しかし決着はすぐについた。
「ま、まいった……」
ホリデイが立っていた位置から動いた瞬間、シンは目にも見えない速さで背後をとり短剣を彼の首へと突き付けたのであった。その光景に受付の女の子は驚きのあまり口があいたまま驚愕してしまっている。
◇
「こ、これで冒険者登録が完了しました。おめでとうございますシン様、あなたは今日からランクCの冒険者です」
最初の目的であった冒険者登録に成功したシンは、次にランクを上げるため依頼を受け、目的場所である森へと向かった。
◇
森へ入ったシンは、レナードという冒険者に出会った。いつもはパーティーで動いているが、今回は仲間が負傷しているなどの理由でソロで来たのだと。その後、彼にシンの依頼の手伝いをしてもらい、無事終わらせて帰ってきたのだった。なんか、依頼内容がドラゴン討伐だとは知らなかったといろいろ呆れられたみたいだった。
ギルドに帰ってきたシンは、突然ギルドマスター、シェリア・ヘインズに呼び出されてしまった。その理由は彼の実力を見込んで依頼、内容はダンジョン攻略だったのだ。
ダンジョンとは、地下に魔素が溜まりそれが結晶化しダンジョンのコアが生成され地上に建物として生まれ中にはレアな武器や素材が出るという冒険者にはラッキーボーナス的な存在なのである。
それとは反対に、近くの観光地では冒険者が迷惑になってしまうのだ。村で宿泊されてしまえば観光客ではなく冒険者だけになってします。そのためダンジョンを攻略し撤去してもらうということだった。
◇
何も考えずダンジョンに潜った。そのため、どれくらい時間が経ったのかわからないまま進んでいくと、瀕死状態の冒険者パーティーを助けたら、前に依頼を手伝ってもらったレナードと再会。パーティーメンバーのパーネル、アリアナ、レイラ、そしてレナードに弟子にしてもらうよう交渉され、即答で断り逃げるようにダンジョンに潜ったが、ずっと付いてくることに同行を許した。
ダンジョンを進むにつれ、少しレナードたちに助言しながら最下層、ボスのいる部屋へと来た。
最初はシンがボス部屋へ入ることを止めていたレナード、パーネル、アリアナの三人。レイラはシンの魔法が見たいと着いていくことに。結局五人でボス部屋へ入ることにしたのだった。
◇
ダンジョンボスのいる部屋へ入ると入ってきた大きな扉が閉まり暗闇へと変わったが一瞬にして壁に飾られていれう松明が部屋全体に光が灯られた。部屋の広さはとにかく広いとしか言いようがない広さであるのだが何かがいないのである。そう、ダンジョンボスがいないのである。ダンジョンボスは部屋に入った際に部屋の中央にボスが待ち構えていると言われているらしいがボスの形が見えないのである。
「おかしいな……ダンジョンボスがいないなんて。本来はあの中央にいるはずなんだが……あ、おいシン、何かの罠の可能性が高いからうかつに進むのは良くない」
レナードが注意するがシンは部屋の構造的にレンガの模様が中央に向いているため何かがあると感じ取り中央には大きな円ができていた。その円に入った瞬間、円に魔法陣が描かれ光と共に魔法陣から大きな何かが現れた。一つ目で体が大きく身長は3mぐらいで鎧を着たサイクロプスであった。
レナードたちはまさかの出来事に驚愕してし固まってしまったがシンはこの状況でも顔ににやけが出ていた。
召喚によるボス戦に固まってしまっているレナードたちは急いで隠れるところがないかと慌て始めた。
サイクロプスは辺りを見渡し逃げ回っているレナードたちより、ただ茫然と立っているシンの方へと目をやり、雄たけびを上げながらシンの方へ走り拳を振り落とした。かなりの腕力があるようでレンガの床に披裂が走りクレーターのようなくぼみがで風圧によって隠れ場を探していたレナードたちは風圧によって足を止めてしまった。シンは攻撃を避けておりサイクロプス横へと立っておりその攻撃がなんだと言わんばかりの視線を送った。
サイクロプスはシンの行動によって逆鱗に触れ怒りが沸き上がったような声を上げ大きな腕を振りまわした。しかしそんな攻撃もいとも簡単によけシンも攻撃を仕掛けた。これは力によっての拳の戦いだ。
「すごい……攻撃が見えない……あんなでかいのと互角に戦っているなんて……!!」
アリアナが言葉をこぼした。あんな大きなサイクリプスに拳でやり合っている光景に驚きが隠せない。そんな戦いをしている二人だがサイクロプスの方が徐々に速度が落ちてきていった。サイクロプスはこの戦い方は自分が不利だと察し攻撃方法を変え次は拳同士の衝撃で壊れた床や壁のがれきを投げ始めたのである。だがそんな攻撃はシンに対抗することなく避けられ距離を詰められていくのであった。その間に魔法で剣を作り固い鎧を壊しサイクロプスの生身をあらわにし息の根を止めようとした。
「おぉぉ!! 魔法で剣を!」
一人だけ興奮している人がいるが金属を叩きつける音が響き渡る。だがあまりの固さに鎧に傷一つつかない。シンはこの戦いはもう飽きたということで一発で終わると剣を槍に変えサイクロプスが唯一鎧で身を守っていない大きんな目玉めがけ槍を投げた。
サイクロプスは槍が自身の目玉めがけてきていることを察し大きな腕でクロスするようにし目玉を守った。しかし、槍はそのようなものを貫き頭を貫通させてしまった。
この戦いは一瞬で終わった。ただシンはダンジョンボスなのだから期待できるものだと思っていたが期待外れだったことにより一撃で終わる選択をしたのであった。
それからレナードたちは何かを言うことを諦めアリアナは魔法によって作り出した剣やそこから槍に変えた構造はどうなっているのか詰め寄ってきたが、誤魔化すよりかはもう無視をして、ダンジョンのコアを回収し、地上へ脱出した。心臓であるコアを失ったダンジョンは徐々に崩れていき、ぽっかり穴が開くと思ったが綺麗に更地になっていた。
それからは、村の人からお礼として貸し切り温泉に入って王都へ帰った。
◇
王都に帰ってからは、ギルドマスターであるシェリアからはいろいろ怪しまれ、一緒に行動していたレナードたちのメンバー「デリカウス」も証言してもらってと事なきを得た。
そうしてシンの冒険者になってから最速でBランクへと上がった実績を獲得した。それからはレナードと冒険者になった理由を話したり、王家の息子であるイオという少年を偶然助けたりといろいろあったが、数日後にギルドから今度行われるギルド主催の【Aランク昇格トーナメント】というBランク冒険者同士が戦いAランク冒険者になるためのイベントの招待が来たのだ。
シンは早速申込みをして、その日まで少し寝ることにしたのだった。
◇
「コロシアム……この時期は冒険者以外にも王都の住民や外に人間も観客として参加する我々にはビックイベント……それまではおとなしくしていましょう……ふふふ」
暗い地下道に一人の人間……それと不気味な形のした生物とは言えないほどの体をした何かが群がっていた。
これから始まることは世界に知らしめる何かになるということはまだ誰も知らない。
ー第三章ー
「それでは――Aランク昇格トーナメント!! 開催です!!」
開催の言葉と共に観客たちが大きな声で会場を盛り上げた。
Aランク昇格トーナメントは勝ち上がりでありそれぞれ4つのリーグが存在している。そこで各自の決勝をしそのリーグの優勝者たちをクジ引きで対戦相手を決め最後は優勝者との戦いが見れるといったイベントである。
シンは冒険者同士で戦うことができるのだと期待しながら参加したのだった。ついでにレナードたちも参加していたのであった。
その後はそれぞれ戦い抜きシンはいよいよ決勝戦まで進んだ。
◇
シンは傷一つなしでどんどんと決勝へ近づき、いつの間にか決勝に上っていたのだった。
「さあ! リーグ1での決勝戦はBランクの中で強者として恐れられてきたこの男、ランドル!」
歓声は今までよりも勢いを増し待ってましたと言わんばかりの熱がこもった。
「そして今回初出場にも関わらず傷一つなしでここまで勝ち上がって男、シン!」
これもある意味の盛り上がりらしく歓声が鳴りやまずそのまま舞台へと立った。
「戦いを見ていたが、実際、目の前に立ってみるとあまりにも弱すぎる見た目だな。それにその恰好、ふざけているのか?」
「そうですかすいませんね。ちなみにこれは俺がチョイスしたものではない」
そんな試合前の選手同士の会話を交わしたところで戦闘態勢へと入った。
「それでは、試合……開始です!!」
鐘と共に開始の合図が響き歓声もそれに合わせ盛り上がりを見せた。
◇
先に攻撃を仕掛けてしたのはランドルからだ。彼は身体がでかいのにも関わらずとんでもないスピードで大きな斧を振りかざした。その攻撃は地面もが切れるほどの力であり避けなければ体は真っ二つである。
「ほお、これを避けるとはお前、見た目以上に強いな」
ランドルは避けられたことに驚きつつシンの強さを見直した。
「ま、人は見かけによらないって言うし……ね!」
次はシンが攻撃を仕掛けた。シンも彼のスピードに負けない速さで蹴りを食らわせた。それは斧により防がれてしまったが威力のある蹴りを食らい風圧と横に押し出されたのだ。
「なんて威力、だがまだまだこれからだろ!」
ランドルはその場で踏ん張りはじめランドルの体からだんだんと魔力が斧に集まってきたのだ。斧はみるみるうちに先端が赤く輝き始めたのだった。
「この攻撃、見抜けることができるか――な!!」
今度も同じ斧を振りかざす攻撃だが先ほどよりも速度が速く気づけば背後を取られていた。
「もらった!」
ランドルは勝利を確信し会心の一撃を食らわせた。ものすごい怪力により地面は揺れ砂埃が立ちステージが隠れてしまったのだ。
「なんと! ランドル選手の攻撃によって砂埃が立ってしまい状況が確認できません! これはどうなったか!?」
観客はその結果を静かに見守る。
たちまち砂埃が散っていきその中から一人の人物が立っていた。それは、
「な、なんと! あの攻撃でもこの男には届かなかったのか!! 勝者、シン選手!!」
まさかの勝敗に観客席からは熱狂の嵐、今大会最後に熱い戦いが展開したことに誰もが興奮を隠すことはできない。
「まさか、あれを避けるなんて。お前、反射速度スゴイ奴だろ? 振りかざす一瞬のところで懐に入り、俺の鎧を拳で――いたたた」
「すまん、だがこれくらいの威力ならすぐに動けるだろ?」
そう、ランドルが斧を振りかざす一緒の中で懐に入り普通は鎧を拳で殴ったところでへこんだりはしないのだ。それが今、見事に拳のへこんだあとが残っているのだ。
会場がまだまだ歓声が鳴りやまい中、いつのまにか空が怪しくなってきたのだ。
「急に雲が。ん? あそこに誰かいるのか?」
青に染まっていた空は黒い雲によって遮られ空中には一人の男が立っていたのだ。
突然の状況に全員はただその男を眺めるしかなかった。だが、男が喋りはじめたと同時に我に返ったのかとざわつきはじめた。
「私の名はデストロゴン、魔族だ。これより魔王様の命により冒険者、そしてこの国を破壊する」
名乗った男は指を鳴らすと王都に謎の柱が2本、地面から天へと伸びてきたのだ。
会場にいる観客は何が起きているのかわからず混乱の渦により悲鳴が響き渡った。
「緊急クエストです! 総員、王都各地に出現した柱へ向かってください!」
会場のスピーカーから莫大な音量で大会に出場していた冒険者たちに緊急クエストを発令したのだ。
「ま、魔族だと! ここにいたら殺される! おい、突っ立っていないで逃げるぞ!」
「……魔族ってそんなに怖いものなのか?」
「当たり前だ!」
シンは魔族と聞いたとして彼のそのような人種についたは知識ゼロなためどれほどの脅威なのか知らないのだ。そんなシンの言葉にツッコミをかましてしまうランドルであるがシンは首をかしげてしまうが今はこの混乱の渦を鎮める必要があると判断した。
「ランドル、魔族ってやつの相手をするからあそこにいる偉い人たちを護衛してろ。たぶん、読み通りならあとから雑魚が溢れかえる」
「はぁ!? 何言ってるんだおま、っておい! どこ行こうと――ぐわぁ!」
シンはランドルに王族たちを守るよう指示を出し呼び止められていたがそんなことを気にせず魔族に向かって飛び出したのだ。ちなみにその時の風によってランドルは吹き飛ばされました。
「ほお、一人で挑んでくるのとはいい度胸ですね。ですが、あなたみたいな冒険者に何ができますか?」
「別に、ただ魔族は俺がやっつけた方がいいかなって」
シンは浮上してデストロゴンの目の前へ来たのだ。
「お前って強いのか?」
「ええ、あなたよりかは」
シンは魔法で大きな死神が持つような鎌を生成し鎌を振り回し戦闘態勢へと入った。それを見たデストロゴンは受けて立つといった魔法陣を自身の周辺に大量に張ったのだ。
「では、私から先手を打てさせてもらいます。 破壊光線!」
デストロゴンは複数の魔法陣からとてつもない速さの光線を放った。シンはその光線を鎌で一本、また一本と次々と切り振り払った。
「ほお、私の光線をいとも簡単に。では、これならどうですか? 魔法陣を重ねる、――破壊光線!」
同じ魔法を発動したがその魔法は先ほどの細い光線とは違いブレスのような強力な光線を放ってきたのだ。
「魔法ってこんなこともできるんだな、でも。――あんまりよくわからないや」
シンは魔法に関心をしたがそれでも先ほど同様に光線を真っ二つに切ったのだ。その光景にデストロゴンは自身の魔法をこうも簡単に切られ、冷静にはいられず怒りがこみあがってきたのだ。
「貴様、何者だ?」
「俺か? そうだな、しいて言うなら……自由を求める、冒険者だよ」
今度はシンから攻撃を仕掛けた。大きな鎌を振りかざしデストロゴンの首めがけて切りかかった。だが彼も簡単にはやられるわけもなく魔法を使った瞬間移動魔法で距離を取った。
「まあいいでしょう。ではこれなら私の光線を避けることはできますかな? ――破壊光線!」
先ほど同様の魔法をくりだしシンの方へと向かってきたのでシンは鎌を振りかざすが目の前で消えたのだ。その瞬間、左腕を光線が貫通したのだった。
「急所を外しましたか、ですが次は仕留めます」
「……目の前にあったはずの光線が後ろから?」
左腕を抑えながら目も前に迫ってきた光線が消え後ろから打ち抜かれたという状況に困惑するシンにデストロゴンは笑い始めた。
「ふふふ、貴様みたいなやつには理解できないだろう。では、終わりにしよう……!? 柱の魔力がなくなっていっているだと」
勝利へと確信したデストロゴンが魔法陣を生成しようと手をかざした瞬間、2つの柱からの魔力がどんどんと減っていくのが感じられ慌てているのだ。
柱の方には大勢の冒険者が止めに行き、一つはレナード、パーネルの活躍、もう一つはレイラとアリアナによって柱が破壊されたのだった。
「あっちも終わりそうだね。それじゃあ、こっちも終わらせるか……」
「は、貴様ごときに私が――。……あ?」
シンはケリをつけると鎌を構えデストロゴンが負けるわけがないと愚痴を言おうとした瞬間、デストロゴンの四肢が切断され血しぶきが雨のように地面に降りそのまま地面へと落下していったのだ。自由落下をしているデストロゴンは何が起こったのか頭を回すがそれも一瞬で地面へと叩きつけられてしまったのだ。
「き、貴様! さては、力を隠していたな!」
「なんでそんな状態でも喋れるんだよ。まあいいや、お前が知っていること全部話せ」
体中血まみれ状態のデストロゴンだがそれでも怒り狂った声でシンにぶつけているがその光景にシンは引いてしまったがデストロゴンの首に鎌をかけ脅した。
「は、誰が我々の計画を話すか!」
「計画? 計画って何?」
「言ったはずだ! 貴様ごとき――」
次の瞬間、デストロゴンの首は地面へと転がっていた。そこは情報をどうにかして聞き出さなければいけないかもしれないが、シンにとってはほんとどうでもよくこのやり取りもただ何となくである。
「……手加減をしてもこれだったか、残念だ」
そんなことをつぶやきながら鎌を片付けいつのまにか腕の傷も治っており魔族襲撃は幕を閉じたのだった。
◇
「これでお主はAランク冒険者じゃ、おめでとう」
Aランク昇格トーナメントは、無事に終わり、魔族襲撃があって数日後。
シンは王様がいる城へといたのだ。理由はAランク昇格トーナメントの優勝者であり、また王都を救った英雄として、本来とは特別な形で冒険者昇格授与式が執り行われたのだった。
こうして昇格式は少しざわめきながらも終わったのだった。途中で数ヶ月ぶりに再会したルナが王様の娘であったり、なんか名前を間違えられたり、シンが仲間が欲しいと奴隷を買いに帝国へ行くと、いろいろあったが王様となぜか仲良くなったり、イオや女王様に会ったりと忙しい日だったが、何気に楽しい一日だった思っている。
余談だが、奴隷を買うと言った際に、それは決して欲情ではないことを証明するためお面を外したりと信じてもらおうと対応をしたところ、王都に冒険者の中で美女顔を持つ者がいると噂が広まってしまったのだった。
◇
「お久しぶりですね、シンさん! まずはAランク昇格おめでとうございます!」
「ありがとうございます、クルミさん」
この日は帝国へ行くための馬車の手配などをしに、冒険者ギルドへ訪れていた。その際にもシンはいつもお世話になっているギルドの受付嬢でもあるクルミからシンがAランク昇格にお祝いの言葉をいただいた。
「それでシンさんは今日はどのようなご用件で?」
「実は帝国へ行きたいんだけど、ここで馬車の手配ができると聞いたんだけど」
「はい、帝国行の馬車ですね。そうなると明後日の早朝に出発するのがあります。ただ、帝国行の馬車は少ないので行くならその日にした方がいいですけど」
帝国はここ王都から馬車へ移動すると約四日もかかるという遠い場所にあるため馬車の出る回数もすくないのである。
「ああ、問題ない。明後日の馬車をお願いできるか?」
「わかりました! では、今すぐに馬車への書類を用意しますね!」
そうしてクルミはシンの名の書かれた手続き書類を受け取り、笑顔で見送ってくれたのだ。
「あれ? シンじゃないか。ギルドになんか用事か?」
「お、レナード。まあね、実は明後日に帝国に行こうと思っていてね。そのための馬車の手続きをしに」
ギルドを出たシンはある男に呼ばれ振り返ると声の主はレナードであったのだった。
「そんなお前は何でギルドに?」
「俺か? 俺は依頼の現状報告をしにな、――お、きたきた。久しぶりだな、レイ」
レナードがギルドに訪れた理由を話していると奥から獣人の若い男の子が歩いてきたのだ。
「お久しぶりですレナードさん、今回はどうでしたか?」
「今回もお姉さんの情報はなかった、すまない」
レナードが言ってた依頼の現状報告、それはレイという少年のお姉さんの捜索依頼なのだと察した。そんなことを推測しているとレイはあなたは誰だという目で睨みつけてきたのだ。
「レイ、この人はシンだ。彼は冒険者になってまだ一年もしないでAランク冒険者になった人だ。それでシン、彼はレイ。獣人の国からやってきた冒険者だ。レイはある日、偶然森で出会って話を聞いて、彼のお姉さんの捜索依頼を受けて定期的に報告しているんだ」
「初めまして、レイといいます。年は十四です。狐種という獣人です。よろ――!」
「ああ、俺はシンだ。よろしく――」
レナードがそれぞれの自己紹介をしてレイは握手を交わそうと手を差し出しシンも握手をしようと手を出した瞬間、レイは急に腰についていた剣を抜きシンに切りつけてきたのだ。シンは避けることができたがレイのあまりの速度に思わず声が漏れてしまったのだ。
「な、何をしているんだレイ! きゅ、急に武器を構えるなんて――」
「貴様、なぜ姉さんの匂いがする! 姉さんをどこにやった!」
レナードは突然のレイの行動に困惑してしまうがレイは怒りを感じられるほどの声でシンに剣を向けた。
「すまないが獣人の人は王都で沢山いる、君のお姉さんが誰なのかわからないが、俺は獣人の人とは関わった記憶もない」
シンは王都に来てから獣人族を見かけるがそれは目に入るだけで特にコミュニケーションを取ったりとはしていなのだ。それなのに、このように警戒されるとなるといつの間にかレイのお姉さんとすれ違ったか、あるいはどこかで話しているということ、だがそれを覚えていない、そもそもその記憶がないシンにとってまずは誤解を解く必要がある。
「まずは話を――」
「お前にそんな話をする必要は――ない!」
レイは冷静を忘れただシンを敵として認識しているため会話が断念するしかないと悟ったシンは、向かってくるレイにため息をつきながら拳を頬に食らわせレイは「ッグハ!」っと声を漏らし壁に叩きつけられたのだった。
◇
「それで、シン。なんでレイを縛っているのかな?」
「また暴れられては話にならないから、これならは何かしらと吐いてくれるだろう」
その後、騒ぎがでかくなる前にシンは誰もこなさそうな橋の下へと逃げレイを椅子に縄で拘束しているのだ。
「……うぅ」
「お、起きたな」
ようやく目が覚めたレイは唸り声を出しながら目を開けそれに気がついたシンはレイの目の前へ立った。
「そんじゃあ、全部話してもらおっかな」
「その前にお前からなぜ姉さんの匂いがするのか答えろ!」
結局は結果は同じく繰り返しなのだった。
「結局はそれか、それならレナードから聞いた方が早い。レナード、なんでこいつはそこまでしてお姉さんのことを探しているんだ?」
「それは……なあレイ、彼に話してもいいかい? 彼なら力になってくれると思うんだけど」
レイのお姉さんの捜索を手伝っているレナードならば知っていると思いレナードに聞くことにしたが、レナードはレイを説得することを選んだ。これは相当な件なのだとわかった。
「……わかった、だが条件がある。すべてを話したらお前から姉さんの匂いを探る」
「えぇ、なんかやだ。でも、このまま逃げても結局は追いかけてこられるのも困るし、わかった」
レイの条件をしぶしぶ承諾しシンはもう一つ置いたあった椅子に腰を掛けて話を聞くことにした。それはレイがまだ四歳だった頃の最後の姉の話だった。
レイが四歳の時、姉は獣人の国で行われる儀式に参加へ行ったきり帰ってこなかった。獣人の中でも嗅覚が優れているため、屋台で道草をしていると思い向かったのだった。
しかし、姉の姿はなく、ただお祭りを楽しんでいる人たちだけだった。必死に探すレイは、一台の馬車からした姉の匂いに気づき、追いかけたが、だんだんと距離は離され、次第には倒れこんでしまった。
その後は姉は行方不明、レイは姉を探すために十歳になった時に行われる儀式で、『コントリブス』の分類に選ばれ、国のために周囲を調査したり、より国に貢献できる冒険者を選び、姉を探しながら冒険者をしているのだと。
「だから、シン。無理にとは言わないが、もしよければ彼のお姉さんを探すのを手伝ってくれないか?」
レイの話を聞き終え整理をしているとレナードから協力を頼んできたのだ。だが、シンはその時「あ」っと記憶が呼び起されたような声が漏れてしまった。そして、レイに決定的な質問を聞いた。
「……お姉さんの名前って、もしかして、カナリア、か?」
その時レイの目が大きくなったのが分かった。
「どうして姉さんの名前を? やはり姉さんに何かしたのか!」
つまりレイのお姉さんは誰なのか、それはシンであるカナリア、つまりレイのお姉さんは自分であるということ。
シンはここで自身の正体を明かすか否か。しかし、今は黙っておく選択をした。しかし、どうやって嘘を付くか。そこでレイが首に掛けているペンタンとに目が入った。
「……そのペンダント、もしかしたらこれにカナリアの匂いがついていたんだと思うぞ」
そこでシンは自身が首に掛けていたペンダントを取り出した。それはレイが掛けているペンダントと形は同じだが色が違うものだ。そのペンダントはこの世でたった二つしかないペンダント、それはカナリアが弟にプレゼントした自作ペンダントである。
「思い出したよ、カナリアって女の子を」
「姉さんに、会ったことがあるのか?」
レイは信じられない顔でシンを見る。それは姉が今でも生きているとわかり今どこにいるのかを暗示ているのだ。
「会ったことがある、11年前だが」
シンはレイに嘘の話をすることにした。
「姉さん、生きていてくれたんだ。よかった、よかった……」
シンは椅子からレイを解放しペンダントを渡した。レイはその場で泣き崩れペンダントを握り占めた。
◇
「落ち着いたか?」
「姉を救ってくれて感謝する、そしてあの時あなたを切りかかろとしたこと、本当にすまなかった」
それからレイは落ち着きシンに感謝と謝罪を言ってきたのだ。
「……それはそうと、これからかどうするんだ?」
「一度実家に帰る。これを聞いて国は何かを隠していると感じた、いや、何かを隠している。だから俺は姉が生きていることだけでも両親に話し策を練ります。だから――」
レイは国の闇を暴くため一度国へ帰ると言った。その時、彼から手が差し掛かった。
「その時は、助けてくれますか?」
「……その時が来たら、な」
シンは曖昧な回答をし握手を交わした。
偶然の出会い、それは11年ぶりの弟との再会。あの頃の弟は姉を失い悲しみから今の彼がいるのだと感じてしまい、今でも抱きしめてあげたいがその気持ちを我慢し、いつか必ずその時がくるとレイと別れた際に、彼の背中を眺めながら心の中で思った。
ー第四章ー
「お客さん、もうそろそろ帝国につきますぜ」
王都から出て数日、馬車で帝国『インペリウム』へ奴隷を買いにやってきたのだった。
「あ、奴隷が買える場所聞くの忘れてた」
帝国に着いたのはいいものの、どこにどんなお店があるのかわからないシン。
そうして彷徨て帝国の冒険者ギルド『イメロオ』を発見。そこで奴隷店を聞くことにした。
「こんばんわ、私はマベリと言います。今日はどのようなご用件で?」
「どうも、王都から来た冒険者だ。実は奴隷店がどこにあるかわからなくて、ここに来れば教えてくれると思ってきた」
「わぁ、王都から来たのですか! ここまで長い道のりだったでしょう、お疲れ様です!」
マベルという女の子がシンの接客をしてくれ。シンは挨拶をし奴隷店の場所を聞こうとしたらマベルは興味深々に話かかけてきたのだ。
「えっと、どうも。それで奴隷店がどこにあるかわかる?」
「あ、すいません。少し興奮しすぎました。では冒険者さんは帝国に初めて来たのですね?」
シンは彼女が体を乗り出して王都について話を聞こうとしてきたのでシンは彼女に一応感謝を伝え本題に戻るよう話をつづけた。マベリは少し恥ずかしそうに椅子に座りなおした。
「そうだけど」
「でしたら奴隷店に紹介してもいいですか? そうすれば奴隷商人に信頼度が上がって後が楽になりますよ!」
そこで奴隷の買い方の説明を簡単に教えてもらった。まず、奴隷は簡単にはお金を払って買うことはできないということ。理由は様々な人種を売るため簡単に買われてはいけないと。そして奴隷を買うには奴隷店からの依頼を受ける必要があるという。それは依頼を受け達成することで奴隷商人の信頼を得て初めて奴隷を買う権利を得ることができる。
シンはその奴隷店の依頼が来るまで帝国へ滞在せざいし、数日、
「あなたが奴隷を買うとおっしゃっていた冒険者様ですね。初めまして、私の名前はオスボーンと言います」
奴隷店からの依頼が来たため、奴隷店へ訪れ客室で机を挟み対面している。
依頼内容は全部で三つ、一つは発掘。一つは討伐。一つは捕獲。シンは依頼書に目を通した。
「どれにしよっかな」
予想外の言葉に目を丸くしてしまった。いくらAランク冒険者だろうとソロでやるものではないのに受ける依頼に悩んでいるということにオスボーンはくすりと笑う。
「この討伐でいいか? えっと、ドラゴン討伐だけどなりべく鱗の損傷を避けることってどうゆうことだ?」
「ええ、ドラゴンの素材は高く売れますがこの依頼はすべて我々奴隷店が活用するためのものなのです」
これが奴隷商人が依頼を出す理由であった。
「この依頼に書かれている森ってどこだ?」
「受けるんですね、この森は東の門から出てそのまま進むと大きな森があります。そこにドラゴンが住んでいるのです」
オスボーンは机に地図を広げ場所を指さした。それは地図でもわかる大きな森。その森にドラゴンが住んでいるのも納得だ。
「分かった……今日中、いや明日までには戻る」
「そうですか、では期待して……ってどこから行こうとしているのですか!?」
シンは早速ドラゴン退治へと向かうため奴隷店の二階の窓から飛び降り森の方角へ走っていったのだった。
◇
シンは森へ侵入し探知と気配察知を使って森全体を観察し、ドラゴンが巣から出てきたのを見つけた。
「それじゃあ……、――ささっと終わらせますか」
シンはドラゴンの位置から少し上に空間魔法の一つ『空間移動』を使いドラゴンの真上に一瞬で移動したのだ。
「!?」
ドラゴンはシンの影に気づき見上げた時にはもう目の前におりシンは口を開けたドラゴンにめがけ右手を突き出し紫の霧をドラゴンに掛け、飛び掛かろうとした瞬間、苦しはじめ、倒れこむ振動が周囲の木を揺らした。
「よし、これを運べは……っとその前に完全に死んでることを確認して。うん、なら解毒して収納っと」
シンがドラゴンに放ったのは毒の霧でありめちゃくちゃ強いものでありドラゴンはシンの周りを回ったことによって毒が体に早く回り死んでしまったのだった。これで鱗に損傷なく依頼は達成すると思いシンはドラゴンから排出している毒を解毒しこれで害のないドラゴンの死体になったのだ。
「よし、約束通り今日中には渡せ……ってなんだこれ? 骨……」
帝国へ戻ろうとしたら巣から一つの人骨が見つかった。そして巣の奥を見ると山のように積み重なれている骨が見えた。
「俺はこれだけしかできませんが許してください」
シンはドラゴンに食べられてしまったのだと察しに外に並べ出し土へ還してあげ、その場に背を向け帝国へと走っていったのだった。
◇
「本当に傷なしでドラゴンの鱗を持ってくるとは。しかも、外に目立つような傷すりゃもなく、一体どんな手を使って……」
「簡単な話だ、ドラゴンを毒殺した」
シンは奴隷店に戻って早速、ドラゴンの死体をオスボーンの元へ届けたのだ。依頼書ではドラゴンの鱗はなりべく損傷を避けると記載されているのに嘘みたいな立派な鱗に目が大きくなってしまっている。
依頼を達成したため、翌日に奴隷が保護されている施設へと案内すると言われた。ここの奴隷は、国からの公認で奴隷を扱っているのだ。そのため、慎重に取引を行るのだという。なのでおとなしくギルドで待つことにした。
◇
「ここは冒険者がお求めする戦闘力の高い奴隷が集まっている施設です。では、中をご案内いたします」
オスボーンの迎えによって奴隷が保護されている場所『セーヴォス』という名前の施設へとやってきた。
奴隷でも、保護されて集められた場所なのできちんと健康的な生活を送っているのだと、見てわかる場所だった。そして、牢に入っている獣人の子供たちを見ていると二人の猫耳の女の子に目が入った。
「……なあ、この猫耳の子たちは?」
「おぉ、シン様はお目が高いですね。これは獣人族の中でも珍しい種族である猫族であり、双子なのです。ですがこの子たちはおすすめできません。理由は、――っとこれです」
猫族は素早さに特化している種族であるが警戒心が強いのだ。そのためオスボーンが近づくと猫族の双子は勢いよく飛びついてきたのだった。
「なるほどね、じゃあこの子たちにする」
「……はい? えっと、この猫族を?」
シンは頷いた。
先ほどの彼女たちの行動を見ていなかったの驚いた顔になっていたがこれは単純に猫族が気に入っただけであると説明するとオスボーンは笑いながら買取の手続きをしたのだった。
奴隷である証明の奴隷の印と、最低限の安全を配慮したアーティファクトであるチョーカーを双子の猫族に付け、保護施設から出た。
「お前たちも俺と一緒に冒険者になってもらうからな」
「うるさい人間、私たちに指図するな」
「私たちは人間を信じない、それが主であるお前だろうと」
きつい言葉が飛んでくるが、気にせず彼女たちに服や防具と言った必要な装備をそろえ、二人用の宿部屋を用意し、翌日にギルドで冒険者登録をすると言って解散した。
◇
「俺の名前はシンだ、よろしく」
「ふん、私の名前はミア、私はお前をご主人様とは認めない」
「私はニア、お前をご主人様とは呼ばない」
朝、ギルドへ向かう前に二人の名前を聞いたが、ここまで罵倒されるのが不思議と感じながらギルドへ向かった。
冒険者登録をするため、ミアとニアのステータス確認から始まった。
「では、同時にできるので二人とも、前へどうぞ」
「はぁ、これに手をかざせばいいんでしょ」
「むう……」
二人はマベリに呼ばれると不機嫌そうに水晶の前に出て手をかざした。その時ミアとニアの目の前に薄い透明な板が現れた。
二人ともスキルは同じであり、魔法特性は二つ持っており二人とも対になる特性だった。
「魔力制御は習得していないみたいだし俺が訓練させればいいかな」
獣人族は魔法よりも力が強いため魔法なしでも戦うことができるがどうせなら覚えていても損はない。
「ふん、魔法がなくても生きていいける」
「どんなものでも、かかってこい」
「でもお前たちって確か怪我したところを保護されたって聞いたけど」
二人はシンの言葉に「うっ」っと声を漏らした。
しかし、それが原因で怒りを買ってしまい、次第に殺意へ変わった。
「なら、私と勝負して。どっちが強いのかわからせてあげる」
「ミアの言う通り、お前なんかすぐ終わる」
「でしたらちょうどいいので、2対1の決闘を行って彼女たちの冒険者ランクを決めましょう」
「ルールは簡単、相手が戦闘不能もしくは降参したら決闘は終了です。いいですか?」
「問題ない」
「さっさと、終わらせる」
シンは冒険者ギルドの闘技場のステージの上に立っていた。ミアとニアに怒りを買ってしまいマベリがそれを機に俺と決闘をして彼女たちの冒険者ランクを決めようとし今に至るのだ。
「はぁ、奴隷の印とアーティファクトの解除」
シンはめんどくさそうにため息をつき奴隷の印とアーティファクトでチェーカーの効果を解除した。そうしなければ印とアーティファクトが反応してしまい戦いにならないからではあるが、それでも戦う気にはなれないのだ。
「では、決闘……はじめ――っわ!」
マベリが決闘の合図をした瞬間ミアとニアは見えない速度でシンに迫ってきたのだ。二人は単純な拳の攻撃だが、その一撃はそこらにいる冒険者では防いだとしても大ダメージなほどのある攻撃だった。だが、シンは二人の拳を掴み風圧が吹いた。その拳を掴んだまま彼女たちを宙へ放り投げた。
「な!」
「弱そうなのに、強い」
二人は宙回転をして着地しシンの強さを見直した。だがそれだからなんだと二人はもう一度攻撃を仕掛けた。今度は二手に分かれ交互に攻撃をしていくパターンへと来た。
息がぴったりの連携にさすが双子と言ってしまうほどでシンは攻撃を受けながら二人の力を確認していった。
「はぁ、もう終わりにしようか」
シンは彼女たちの実力を確認し終えた瞬間、ニアの腕を掴みミアの方へと投げ飛ばしたのだ。
「――っく!」
「ニア!」
ミアは飛んできたニアを受け止めた。
「急に気配が変わった、今まで手加減していたと思う」
「確かに、だけどだからなんだって話。行く――!!」
先ほどまでのシンはただ突っ立ていた男だと認識していたが突如、気配が変わり警戒心を上げた。ニアの言葉に同感したがそれがなんだと言いもう一度仕掛けようとした瞬間、シンはミアの目の前に立っていたのだ。
気配なく近づいてきたシンに驚き腕を振りかざしたがその手は簡単に掴まれてしまったのだ。
「なんでそんな――っが!」
シンはその隙にミアに腹パンを食らわせ気絶させ彼女を地面に打たないよう支えた。
「それで、まだやるか? ニア」
「……降参、します」
ゆっくりと彼女を下ろし今度はニアの方へ視線を向けシンは気配とは違うオーラを放ち彼女に問いかけた。ニアは悔しそうにしていたがこれは自分が負けると察し降参したのだ。
これで二対一の決闘は終了。その後、マベリから彼女の冒険者プレートを受け取った。あれだけの試合をしたことでBランクだった。
奴隷を買う目的を終えたシンは、王都へ帰ることにした。ミアは試合のせいでまだ気絶をしていたため、背負って宿へ戻った。
帰り途中にニアと少し話をした。その中でどうしてシンに対してあんなに警戒をしていたのかが判明した。それは奴隷店からの依頼で向かったドラゴンの巣の近くにあった獣人の遺体だった。血の匂いはそう簡単に取れるものではないため、殺人鬼だと思われていたらしい。きちんと弁解をし、誤解を解いた。
そして、気絶していたミアがいつの間にか起きており首に腕が回していたためその腕がシンの首を絞めていたのだった。ここで彼女を背負い投げしてもいいと思ったが一応相手は女の子であるのでそのまま宿へ向かった。
そんなこんなで彼女たちから会話の中、「お前」から「あなた」に変わっていたことに気づきシンは少しは絆が深まったかなと感じた。
◇
王都に帰ってきたシンは、Sランク冒険者昇格試験を受けるとになった。内容は迷宮攻略だ。定期的な迷宮内の魔物を倒せないと溢れ出て周りの被害がひどくなるのだ。
今回の試験にはもう一組の共同作業で迷宮を潜ることになった。そうして、王都の廊下でルナにあって彼女から一つの手紙を受け取ったり、ミアとニアを紹介したりとやって帰った。その時、名前の誤解が生まれた、なので頑張って誤解を解いたりしたのだ。
◇
早朝、城の門の前でミアは寝足りなくあくびをしニアは王様に憎悪を抱いている。そんな彼女たちを見てシンはくすりと笑ってしまう。
そんな二人を見ていると急に険しい顔を変わった。シンが笑ったことが原因かと思ったがシンの後ろに隠れてしまい違いとわかった。その視線の先には二人の男がこちらに歩いてきたのだ。
「あなたが一年もしないうちにランクAになった冒険者ですか?」
「ああ、そうだけど」
一人がシンを知っている口で話しかけてきた。それでシンは今回の迷宮攻略の共同者は彼らだとわかった。
「俺の名前はガイ、戦闘系で主に先陣で戦う」
「どうも初めまして、ディです。私はサポート系でバフ魔法で彼を支援しています。どうぞよろしく」
パーティー名『ウィッシュ』。二人で組んでいる冒険者で戦闘担当とサポート担当と人数がこれだけしかいないのにAランクまで来たということはそれなりの実力者だとわかりディから手を差し出し握手を求めてきた。
「俺はシン、今日はよろし――」
シンは名前を言ってディの握手を交わそうと手を伸ばした瞬間、ミアからその手を掴まれぎゅっと抱きしめられてしまった。
「私のご主人様に触れるな!!」
ミアは二人を威嚇するよう睨みシンの手を強く抱きしめた。まさかの行動にシンも驚いているがニアもびっくりしていた。
そこまで警戒するミア、あとで自分が言った言葉に気づき暴れてしまった。
そんなこんで馬車に乗り、目的地へと向かったのだった。
◇
「はぁ、こんなことさっさと終わらせて帰りましょ」
「迷宮、不愉快」
「これが終わったらお前たちの欲しい物でも買ってあげるよ」
迷宮に入ったシンたち、ガイとは別行動で階層を降りていった。
何もなく進んでいくことに退屈していたミアとニア、進んでいくと広い空間の場所へ出るとそこに、真っ黒な巨大な狼が座っていた。
「何気に初めてのパーティー戦だな」
「足引っ張らないでね」
「これが終わったら、ここで休憩しよ」
シンは拳を狼に向けミアとニアは体を低くしそれぞれ戦闘態勢へと入った。
狼はこちらへと走ってきた。徐々に大きくにつれ狼はシン目掛けて走ってきていた。ミアとニアは横へ避けシンはそのまま狼が迫ってくるのを待っていた。
シンの目の前にきた狼は噛み砕くようにお大きく口を広げ突っ込んできたのだ。だが、シンはその攻撃を視えていたため勢いよく後ろへ一回転して下がりちょうど狼が口を閉じた瞬間に顔を上へ蹴り飛ばした。
攻撃で狼は顔を上に逸らすような体制へなったところでミアとニアは喉に狙いを定め走り出し蹴りを入れた。ミアとニアのダブル攻撃により狼はそのまま倒れ込んでしまった。
「あれ、もうおしまい?」
「あっけなかった、では少し休憩を」
あまり体を動かせなかったことに不満が少しあるもののすぐ終わったことを良しに二人は地面に座り込んでしまった。ただ、一人だけ悩んでいた。
(……力加減難しいな)
シンが狼の頭に蹴りを入れた瞬間、勝敗は決まっていたがミアとニアの最後のトドメを刺して終わったのだ。恐るべし訓練されし肉体。
そんなこんなで狼の体に生えている魔力のクリスタルを取って何かに使えると思いしまい彼女たちの休憩が終わるまで周囲を警戒しながらくつろいだ。
◇
迷宮に潜って数時間、魔物が現れ次第狩り徐々に下の階層へやってきたシンたちは先ほどまでの空間とは違う場所へと出たのだった。
シンたちがおりてきた道や壁は洞窟のようにゴツゴツだったが、ここは誰かが建築したような跡がある。
魔物の気配はなくこの先に次に進む道があるだけで注意しなくてもいいと思っているがやはり少し引っ掛かることがある。それはここがどこまでの階層なのかによって先に潜っていったガイとディと合流できるかどうかだが、そろそろ出会ってもおかしくないのだ。それにこの構造的に魔物がいてもおかしくない。と、なると彼らはもう先に進んでここの魔物は彼らによって狩られたと考えていいと思った。
「二人とも、少しこの先のことを考えて作戦会議をしないか?」
「作戦会議? さっきまでそんなことしなくても戦ってこれたのに。もしかしてビビったりして?」
魔物を狩る際にアンデットのような死体系の魔物でない限り出血はする。それに戦闘をしたのなら辺りが交戦した跡など残る。しかし、このエリアには交戦した痕跡があまりにもない。これによって考えられる答えは一つ。
「いいや、ただ俺たちはあいつらにはめられていたということだ」
「それって、どうゆうこと? ――!」
シンが奥の入口を向きはめられたことを説明した。ミアとニアは不思議そうにシンが向いた視点を追うとそこからガイとディが歩いてきたのだ。ミアとニアは彼らが現れるまで気づかなかった。
「それはどのような根拠でおっしゃっているのですか?」
「別に、ただお前たちの迷宮内での行動が怪しかったからな」
迷宮へ入れば魔物があちこちといる中で戦闘は避けられない。そんな中で分かれ道が現れるまで魔物と一体も遭遇しなかった。最初は彼らによって狩りつくされたのが自然だ。しかし、戦闘の跡があればの話だ。ガイは剣術を使うため魔物の出血は確実、そうなると地面に血の跡があるはずなのにそれはなかった。拳だけで仕留めれば話は別だが結局は交戦した痕跡がないことが一番である。
シンは問い詰めると、ディは黙り込んだ。これはもう答えを伝えているようなもの。そんな会話をしているうちに黙っていたミアとニアが体を低くし戦闘態勢へ入った。
「もうこいつらと話す意味はない」
「殺す、それで解決」
警戒している人間に対し彼女たちは毒舌になるのは知っているがここまでどスレ―トに言ってしまうのかと思った瞬間、彼女たちは突っ込んでいったのだ。
風が遅れて押し寄せてくる中、ミアは最初にディを仕留めバフ魔法を発動を阻止しようとした。
「まずはお前――!!」
ディの背後へ回ったミアは彼の後頭部めがけて蹴りを入れようとした瞬間、地面に魔法陣が発動しそこから無数の鎖が彼女を身体に巻き付き動けないよう拘束したのだ。
「私たちを怪しんだのな考えて行動したのかと思いましたがただの馬鹿でしたか」
「ミア! ミアをはな――っ!?」
ミアの攻撃でディを前のめりにしたところをニアの蹴りを入れてとどめを刺すといった作戦を阻止されミアが拘束されてしまった以上、先にミアを解放することを優先するニア。しかしガイを戦闘に加わり彼もスピードに特化しており彼女以上の速度でニアを地面に抑えつけた。
「これで残りはあなただけですが、動けば彼女たちを殺します」
人質を取った彼らにどう対抗するか考えるが普通に見えない速度で彼女たちを回収することはできる。彼によって簡単なことだが、実際動こうとするとなぜか一歩も前に進むことができなくなっており気づけば声ですら出せず仁王立ちの状態なのだ。
「今さらお気づきですか、ま、一年でAランク冒険者になったところで所詮そんなものですね」
チート能力を持っているシンでも、謎の力によって身動きが取れれなくなっているのだ。
「そうですね、私たちのことを知ってしまった以上生かせてはおけません。ですが、魔物によって死亡ではあまり効果がありませんね……」
ディはシンたちの処分をどうするか考え込んだ。彼らが自ら殺し魔法で誤魔化そうとしても下手すれば魔法を見破られる危険性がある。『魔物によって死亡』は証拠も魔物の腹の中で隠滅することはできるが魔族をも殺したという冒険者が迷宮の魔物で死ぬということはないと考えているだろう。そう思ったディはある方法を思いついた。
「そういえば、彼女たちはあなたの奴隷でしたね……ならば彼女たちに殺してもらいましょう」
彼の選択は『奴隷によって殺害』を選んだ。奴隷は主に危害を加えると首に付けているチョーカー型アーティファクトが発動し奴隷は苦しむことになる。それが殺害となると奴隷も当然死んでしまう。
「私たちがお前のいうことを聞くわけがない」
「拘束が解けた瞬間、お前たちは終わり」
もちろん彼女たちはそんなことは絶対にしない。
「そう、だからこの魔法を使うのです。精神魔法を」
完全に洗脳状態にしてしまうと殺したことにはならない。だから、ディは彼女たちの意識だけがわかるように、そして体だけを動くように魔法をかけた。
たちまち彼女たちは拘束が解け体が秒刻みに震えている。歩き方もぎこちない。これが精神魔法で特定の箇所に掛けると抵抗しようとするがいうことが効かずこのようになってしまうのだ。
「……やだ、殺したくない」
「……助けて、ご主人」
彼女たちは涙を流しながらシンの前へ一歩、また一歩と近づいていった。シンはどうにか抜け出す方法を探るが魔法でなければアーティファクト類でもアーティファクトは魔法を道具で発動させるものであるため魔法アンチは効かないことによりこの現象からはどうしようもできないのだ。そう策を絞り出すがもう時間はなかった。
「最後に彼女とお別れの言葉を言うくらいの時間はくれてあげますよ」
ディはそういい指を鳴らすことによってシンは喋れるようになった。しかし体は動くことはなくどうしようもなく心臓を刺されるのを待つしかなかったのだ。
「……もっと、素直な気持ちであなたと一緒にいたかった」
「ニア……」
ニアはシンの背後に回りお腹に腕で抱き着き本音をつぶやいた。
「……ご主人様があなたで良かった」
「ミア……」
ミアはそのままシンの心臓の部分に短剣を突き付けた。
「さあ、シン。最後に彼女に言うことは?」
もう死ぬという選択しか残されていないシンは彼女に掛ける言葉。それは彼が彼女にいつか打ち明けるつもりだった真実。
「……俺はお前たちに嘘をついている、いつか明かそうと思っていた事実。それは俺は女であり、そして本当の名前は――」
次の瞬間、シンは心臓めがけて短剣が突き刺さった。
「――カナリア」
シンは最後に自身の本当の名を伝え前に崩れるように倒れた。それに続くようにミア、ニアも倒れその場は静まり返った。
◇
静まり返る空間、最後の死を見届けたディとガイ。そこに一人の影。
「本当に殺すことができるなんて、私の見越しは間違っていなかった。ははは!!」
「ただあなたと私たちの目的が似ていたので手を貸したまでです。魔族とは関わる気はなかったのですがね」
ディたちは魔族と手を組んでおり、魔族は獣人を使った”呪い”のアーティファクトを製造。
「それはそうと今回も珍しい獣人、それも双子の猫族。今回はどんな報酬が欲しい?」
「今回も同じようにアーティファクトで、ああ、ただし効果は新しいもので」
「喜んで! いや~、私が研究した”呪い”の効果を持つアーティファクトに興味を持ってもらってうれしいよ!」
魔族はルンルンと鼻歌を歌いながらスキップをしミアの元へやってきた。
「ふふふ、今回はどんな成果が得られるか……な?」
ミアに触れようと手を伸ばした魔族はいつの間にか首を切られ後ろへ倒れこんでいた。
「お前、俺の”仲間”に触るな」
なんとシンが起き上がったのだ。
「……な、ば、馬鹿な! なぜ……なぜ生きているのだ!!」
シンは心臓に刺さっている短剣を抜いて手に持った。これが自分を、彼女の手で無理やり刺した短剣と。
短剣を眺めていると火の球が飛んできた。勢いがあり今から避けるには無理がある距離だった。しかしシンはその火の球を左手を突き出しただけで火の球は意味を無して消えた。
「な、魔法が、消された……」
「だがこれでまだ楽しめるってことだろ? そんじゃああいつの相手は俺がする……ぜ?」
ガイはシンと一騎打ちがしたかったのだがそれが叶わず終わってしまって内心がっかりしていたが生きているなら今からでも遅くはないと腕を鳴らしわくわくでシンに向かって飛び掛かろうとした。しかし、地面から足を離した瞬間、ガイも首がゴトリと落ちた。
「……は?」
誰もがそう思うだろう。シンはその場で一歩も動いていない。それなのに距離があるガイの首が意味なく落ちた。ディは冷や汗が止まらない。息が荒く今度は自分の番だと悟った。
「な、何を――どうやったんだ! こんなこと、こんなことがあってたまるか!! ――っ!?」
ディはシンに向かって走り出した。殺されることを恐れ認めたくない彼のあがき。しかしシンは指を鳴らしただけでディはその場で固まってしまったのだった。
シンは反響魔法という、相手が使った魔法、アーティーファクトの効果を跳ね返すことができるのだ。
「最後に言うことは?」
「ま、待ってくれ! 欲しいものがあれば何でも用意する! 金か? それとも女か? わかった獣人の女が欲しいんだな? たくさん用意してやる、だか――」
ディの口を自由にさせ彼がシンに放った言葉を返した。ディはただ涙を流し震えた声を出しながら命乞いをしたが素振り見せることなくただ首が落ちる音だけですべてが終わった。
「……くだらない、だが俺はお前たちのような卑劣な人間じゃない」
シンは左手を振り部屋全体に魔法陣を展開した。迷宮は魂を引き留める鳥籠ともいわれている。それならすることはただ一つ、彼らを蘇らせた。
「……あ、あれ? 私は一体? 確か、!? なんだこの体は!? 一体何が起きているのだ! お前、お前お前! 一体何をしたのだ!!」
目覚めたディは自身がまだ生きていることに疑問を抱きながらも状況を把握しようといていると身体がなく頭だけが地面に転がっていたのだった。シンは魔族の体に座り頭だけで暴れているディを眺めていた。
「あ、あれ? ……って、なんだこれは!?」
続けて起きたのはガイだった。もちろん彼もこの状況に驚く。そんな彼らを見ているとシンは少し怒りを浮き出し魔族の顔面を思いっきり掴んだ。するとようやく起きたのか苦しもがき始めた。しかし顔だけでなく体も動いた。
「いだだだだ!! わかった、わかったからもう掴むのをやめろぉぉ!!」
魔族は死んではおらず、自身を改造しているのかまだ生きていたのだ。
「俺はお前らみたいな卑劣な人間じゃない、今からお前たちを最下層に連れていく。その前に一つだけ聞いておくことがある、俺に掛けた呪いってなんだ?」
「は、それで生かしてくれるか? そんなわけないだろ? ならノーコメントだ!」
どうでもいいことだが、一応聞いておいた方があとからが楽だと思い、口を割らない魔族に強制的に吐かせることにした。
「俺に掛けた呪いってなんだ?」
「は! それは特定の人物の動きを停止させることと本当のことしか言えない効果だ――え? あれ?」
これでこのエリアに広がっている呪いは身体停止と無意識に本音のことしか言えない呪い。そんな時、後ろから小さく唸り声が二つ聞こえた。
「うぅ、頭が痛い」
「むぅ、力が出ない」
ミアとニアだ。彼女たちにはシンが心臓を刺され倒れこんだところで、彼女たちの頭に少しショックを入れ気絶させて相手に生きていることを察知されないよう、死なない程度に身体のあらゆるところを停止させた。そのため頭痛や体がうまく動かせないのはそのせいだ。ただこのやり方のおかげでディが彼女たちに掛けた精神魔法の後遺症が残らずに済んだのだ。
「おはよう、お前ら」
起き上がろうとする彼女たちに近づき一言添え手を伸ばした。その言葉、そして聞き覚えのある声、自身の手で殺してしまった主が目の前に会いたかった相手が目の前にいることにうれしく涙を流しながら二人はシンに抱き着いた。
「うぅぅ、ご主人様、生きてる……」
「あるじ~、あるじ~」
ミアはシンが生きていることを確かめるため心臓の部分に耳を当て彼の鼓動を感じニアはただ主と言い泣きながら胸の中で泣いている。そんな二人を抱きしめながらシンは涙を仮面の下で流した。
◇
「私の目的はただ一つ、獣人を使い人工で呪いのアーティファクトの生成だ!」
落ち着いたところで最下層へ向かう途中、ミアが魔族の目的を聞き出していた。
魔族は、獣人のプライドを利用した呪いのアーティファクトの生成。それは拷問による苦痛を与えていたのだった。
「だが、もうこいつの計画はここで終わる。いや、俺たちが終わらせる」
最下層へ近づきていくと徐々に脅威となる魔力が伝わってきている。
「ま、待て! 最後にチャンスをくれ! ここにいる魔物の情報をやる、それで見逃してくれないか!」
「そんなことしてももう遅い」
「お前たちは、もう死んだも同然」
命乞いをする魔族にチャンスも与えないミアとニア。これ以上の犠牲者を出さないためだ。
「悪いけどミア、ニア、最下層にいる魔物は――」
「そうだろう、そうだろう! 情報が欲しいよな? ここにいる魔物は脅威だ、無知で挑む相手じゃな――っぐ!?」
最下層の魔物がいるエリアの前でやる気満々の二人には申し訳そうに言おうとした瞬間、魔族に会話を遮られ少し怒りを露わにして魔族の顔をまた掴んだ。
「別にそんなのいらない、ただ二人には悪いけどここの魔物は俺にやらせてくれないか?」
回復全開のミアとニアには申し訳ないのだがと命令ではくお願いをした。
「わかった、その代わり後で愛でて」
「ちゃんと帰ってきて、聞きたいことが山ほどあるし」
彼女たちはシンのお願いを承諾した。その代わり彼女たちの要求が少し忙しくなりそうだと肩を落とした。ここでディは疑問が浮かんだ。このような体にしてここまで連れてきた理由がわからないと。
「シン、私たちをここに連れてきた理由がわからない。私たちをギルドに追放するのか?」
ディは冒険者ギルドに追放され冒険者の資格を失い投獄生活があるのだと思っているらしい。それならガイも同じようにしたのも納得がいき魔族は魔界について聞き出すことができる。そう勘違いされているらしい。シンの目的は一つ。彼らに粛清を与える、と。
「まあ、見てればそのうちわかる」
そう言って最下層の魔物がいるエリアへと入っていった。
◇
最下層のエリアには巨大なドラゴンが眠っていた。ドラゴンは蹲って寝ているのにそれでもという大きさであるためエリアも広い。ドラゴンの体には迷宮に住み着いている魔物特有の魔力のクリスタルがたくさん生えていた。
「こいつを狩るなんて、それもソロで。なんで私たちを連れてきたのだ? って、無言で歩くな!」
ディはこそこそとシンに語りかけるがシンは無視をしてドラゴンの元へ進んでいった。魔族はもう絶望の顔で喋る気力がなくガイはドラゴンを見て戦意喪失しているのだ。もう耳元で浮いている頭がうるさいのでもうドラゴンを起こすことにした。
「なら、これでお前がこそこそする必要はない、な!」
眠っているドラゴンに目掛けてそこらにあった石ころを見えない速度でドラゴンの硬い部分にぶつけた。痛みに起き上がったドラゴンは怒り狂った咆哮を放ちエリアが震えた。そんな脅威のある魔物相手に勝ち目はない。そう思ったディは震えた声でシンに退却するよう促すが彼は何か勘違いしているのだと。
「さっきからお前、生かしてもらう前提で話しが進んでいないか? まあ、今からお前らがどうなるか、こいつで見せてやるよ」
「は、ち、ちがうのか? お、おい! ガイを掴んで何をする気だ!!」
シンはガイの頭を掴みドラゴンの真上まで飛んだ。ドラゴンは飛び上がったシンを目でおい空中状態のシンを落ちてきたところを噛み砕こうと大きく口を開けた。これがシンの狙いであった。大きな口、この口目掛けて手に持っているものを投げ飛ばしても外れることはないちょうどいい的である。
「それじゃあ、お腹の中で罪を償え――よ」
彗星のごとくガイの頭は風を受けながらドラゴンの口の中へと放り込まれた。これを見ていたディと魔族はただ唖然とするしかなかった。こんな死に方があっていいのかと。わざわざ生き返らせこんな姿にさせといて結局は殺される。これはもう諦めるしかないと彼らは悟った。
「さて、次はどっちからがいい?」
力を入れすぎたせいかドラゴンが少し苦しんでいる。そりゃあ勢いある頭が口の中に入っていったのだからそりゃあ痛いわけですね。そんな余裕ができたので次に餌食になる相手を決め始めた。鬼じゃないのできちんと選択肢を与えた。だが結局は死ぬのだとわかっているので答えてはくれない。
「ま、わかりきってるみたいだから今度は同時にいこっか」
そんなことを聞いていても相手は待ってくれない。ドラゴンはよくもやってくれたなと口を再び大きいく開けるが奥から真っ赤な何かがあった。それはどんどん大きく、そして周辺が赤く照らし始めた。これはドラゴンの攻撃の一つであるブレスだろう。だが頭を突っ込ませるより好都合なことが起きた。ならすることは一つ。シンは二人の頭を掴みドラゴンのブレスが発射される直前までまった。
「お、おい! 馬鹿なことはやめろ!! そんなことしたら、あなたも巻き込まれぞ!!」
「やだ、やだ!! まだ、まだこんなところで死んでたまるか!! 私は、まだ私には魔王様に貢献しなければならないのだ! こんな、こんなことで死んでたまるか!!」
ブレスの前触れ、赤い球体がフレアを発生させながらどんどんと大きくそしてドラゴンも準備は整ったらしい。それならば時間はもうない。彼らの命乞いもここでおしまい。結局この魔族の名前も、ディたちが魔族と手を組んでまでやろうとしたこともどうでもいい。なので潔く消えてもらいましょう。
「では、長い長い地獄の道のりだと思いますがご達者で」
ドラゴンはブレスを放った。一瞬だけ時間が止まったような感覚に襲われその後猛烈なブレスがシン一直線に飛んできた。だがそんなブレスを避けるわけもなくディと魔族を勢いよくブレス目掛けて投げ飛ばした。二人は最期に叫んでいたがそんなのも一瞬で聞こえなくなった。そしてシンは右手を突き出しブレスを受け止めた。ブレスは数本の線へと分かれあちこちに飛び散った。
ブレスは次第に止み、高熱だったようで地面が赤く抉れていた。それほど威力だったのにかかわらずシンは無傷、熱さも感じずただすごかったなとしか思っていないのだ。ミアとニアは何が起きているのかわかなず茫然としているが彼女たちには耐熱やブレスが飛んいっても大丈夫なよういろいろ結界でまもっている。
「それじゃあ、さっさと終わらせる」
一言つぶやきシンはドラゴンの方へと走っていった。ドラゴンは向かってくるシンを排除しようと大きな尻尾を横へ振った。シンは横から押し寄せてきた尻尾をスライディングするように避けドラゴンの足元へとやってきた。
シンは双剣を瞬時に作り出し切りつけながら登るように素早い速度で螺旋状にして背後へと飛んだ。今回はドラゴンを狩っても何も問題ない。ならば宣言通りさっさと終わらせる。そうシンは双剣に力を入れクロスするよう刃を飛ばした。
一回転しシンは地面へと着地した。次の瞬間、ドラゴンはボロボロに崩れ落ちていった。ドラゴンは振り向くことできずシンは一撃ももらうことなく終わってしまった。
◇
その後は、ミアとニアの質問攻めにあい、自身が転生者であり、仮面の下は女で獣人であることを隠すため男として生きていたことを吐いた。
そして迷宮だからとケモミミと尻尾は宿で確認するということで、一旦帰ることにしたのだった。
王都へ帰ってきたシンたちは、王様の元ですべてを話した。しかし、ディに関してはシンだけがすべてを知っていたのだ。迷宮攻略前、ルナからもらっていた手紙には、ディとガイのパーティ『ウィッシュ』の監視を依頼されていた。
そのため、やり方は不明だが今回の事件が起こることは予想していたシンにとって、ミアとニアは当然お怒りで宿屋戻ったら説教だと言われてしまった。
そんなこんなで無事、シンはランクS、ミアとニアはランクAと昇格し、今回の依頼は終わったのだった。
これでひと段落ついたと思ていたが、宿から帰ってきてからが忙しかった。ミアとニアに今回の件と、獣人の姿を見せるといった長い夜と三人で過ごし、後日女子会と言った形で王都を観光したり、一人で王都を回り、カフェで不思議な出会いをしたりとゆったりな時間を過ごしたのだった。
パタン、本を閉じる音が、静かな空間に響いた。
「思っていた物語より、少しエラーが発生してるわね」
表紙をめくり最初のページをめくった。それは、カナリアや世界の情報が書かれていた。
ペンを持って何かを書き足そうとしたが、止めた。
「まあ、この世界がどう結末を迎えるのか、見ておいてもいいわね」
女性は椅子から立ち、元の本棚に、本を閉まった。




