第四十三話 対処方が見つかればやることは一つ
静まり返る空間、最後の死を見届けたディとガイ。これで後は迷宮を出れば冒険者ランクはSランクへ昇格できるそう浮かれているとどこからか響き渡って聞こえる笑い声が近づいてきた。
「本当に殺すことができるなんて、私の見越しは間違っていなかった。ははは!!」
「ただあなたと私たちの目的が似ていたので手を貸したまでです。魔族とは関わる気はなかったのですがね」
ディは面白がるように笑う男に不屈であるものの仕方なく手を組んでいると伝えはめ息をついた。
「それはそうとこいつが一年でここまで昇り上がった冒険者、聞いた話だと私の同胞を殺したという冒険者らしいがあまりにもあっけなかったな」
魔族と呼ばれた男は少し興奮気味に倒れているシンの傍へ寄ってきた。だがこんなにすぐ死んでしまうような人物だったと知り少しがっかりしているようだ。
「それはそうと今回も珍しい獣人、それも双子の猫族。今回はどんな報酬が欲しい?」
次にシンの傍に倒れているミアとニアを見下ろし嬉しそうにディの元へ寄っていった。
「今回も同じようにアーティファクトで、ああ、ただし効果は新しいもので」
「喜んで! いや~、私が研究した”呪い”の効果を持つアーティファクトに興味を持ってもらってうれしいよ!」
呪いの効果を持つアーティファクト:人工的に呪いを付与したアーティファクト
「それじゃあ契約通りこの二人はもらっていくからその男はお前たちにあげる」
魔族はルンルンと鼻歌を歌いながらスキップをしミアの元へやってきた。
「ふふふ、今回はどんな成果が得られるか……な?」
ミアに触れようと手を伸ばした魔族はいつの間にか首を切られ後ろへ倒れこんでいた。コロコロと転がる首を見たディとガイは何が起きたか状況が呑み込めずその場でただ転がる魔族の首を眺めていた。その先には徐々に起き上がる一人の姿が見えた。
「お前、俺の”仲間”に触るな」
「……な、ば、馬鹿な! なぜ……なぜ生きているのだ!!」
それは心臓に短剣が刺さり確実に死んだ、死ななければならない人物が立っていた。それはシンだった。シンは心臓に刺さっている短剣を抜いて手に持った。これが自分を、彼女の手で無理やり刺した短剣と。
短剣を眺めていると火の球が飛んできた。勢いがあり今から避けるには無理がある距離だった。しかしシンはその火の球を左手を突き出しただけで火の球は意味を無して消えた。
「な、魔法が、消された……」
「だがこれでまだ楽しめるってことだろ? そんじゃああいつの相手は俺がする……ぜ?」
ガイはシンと一騎打ちがしたかったのだがそれが叶わず終わってしまって内心がっかりしていたが生きているなら今からでも遅くはないと腕を鳴らしわくわくでシンに向かって飛び掛かろうとした。しかし、地面から足を離した瞬間、ガイも首がゴトリと落ちた。
「……は?」
誰もがそう思うだろう。シンはその場で一歩も動いていない。それなのに距離があるガイの首が意味なく落ちた。ディは冷や汗が止まらない。息が荒く今度は自分の番だと悟った。
「な、何を――どうやったんだ! こんなこと、こんなことがあってたまるか!!――っ!?」
ディはシンに向かって走り出した。殺されることを恐れ認めたくない彼のあがき。しかしシンは指を鳴らしただけでディはその場で固まってしまったのだった。この指を鳴らして同じことをさせている力は反響魔法というものだ。なのでそんな魔法または呪いだろうとその力が相手に跳ね返り動こうにも身動きとれず首から上だけが動くが口が開かずただ唸っているだけである。そんな状態のままシンは徐々にディの元へ一歩、また一歩と近づいた。死が近づいてきているのを感じたディはどうにかして動こうとあがくが叶わずとうとうシンは彼の目の前まで来てしまった。
「最後に言うことは?」
「ま、待ってくれ! 欲しいものがあれば何でも用意する! 金か? それとも女か? わかった獣人の女が欲しいんだな? たくさん用意してやる、だか――」
ディの口を自由にさせ彼がシンに放った言葉を返した。ディはただ涙を流し震えた声を出しながら命乞いをしたが素振り見せることなくただ首が落ちる音だけですべてが終わった。
「……くだらない、だが俺はお前たちのような卑劣な人間じゃない」
シンは左手を振り部屋全体に魔法陣を展開した。迷宮は魂を引き留める鳥籠ともいわれている。それならすることはただ一つ、彼らを蘇らせる。
「……あ、あれ? 私は一体? 確か、!? なんだこの体は!? 一体何が起きているのだ! お前、お前お前! 一体何をしたのだ!!」
目覚めたディは自身がまだ生きていることに疑問を抱きながらも状況を把握しようといていると身体がなく頭だけが地面に転がっていたのだった。シンは魔族の体に座り頭だけで暴れているディを眺めていた。
「あ、あれ? ……って、なんだこれは!?」
続けて起きたのはガイだった。もちろん彼もこの状況に驚く。そんな彼らを見ているとシンは少し怒りを浮き出し魔族の顔面を思いっきり掴んだ。するとようやく起きたのか苦しもがき始めた。しかし顔だけでなく体も動いた。
「いだだだだ!! わかった、わかったからもう掴むのをやめろぉぉ!!」
魂を呼び戻した際に魔族だけの魂がなかったためもしかしたらと思ったが見事的中だった。魔族は首をはねられたからといって死んでいなかったのだ。
改めて魔族の容姿を観察すると白衣を着た細い体の魔族だった。白衣となると先ほど話していた研究となると研究者だとわかったがその内容は知らないし興味もない。
「俺はお前らみたいな卑劣な人間じゃない、今からお前たちを最下層に連れていく。その前に一つだけ聞いておくことがある、俺に掛けた呪いってなんだ?」
「は、それで生かしてくれるか? そんなわけないだろ? ならノーコメントだ!」
別に終わったことで聞く必要はないと思ったがもし今後、似たようなことが起きたらすぐ対処できるよう聞いておくことにした。しかし、断られた。当然だ。なのでシンは再び指を鳴らした。そしてもう一度問いた。
「俺に掛けた呪いってなんだ?」
「は! それは特定の人物の動きを停止させることと本当のことしか言えない効果だ――え? あれ?」
これで決まった。ここのエリアに広がっている呪い。それは把握していた身体停止の呪い、そしてこのエリアに入ってからディたちに対して猛烈に攻撃的になった彼女たちの発言。それが本当のことしか言えない呪い。言い換えればそう聞こえただけでもあるが彼女たちがあそこまで毒舌になるのは珍しいと思っただけだ。そんなことを考えていると後ろから小さく唸り声が二つ聞こえた。
「うぅ、頭が痛い」
「むぅ、力が出ない」
ミアとニアだ。彼女たちには申し訳ないことをした。それはシンが心臓を刺され倒れこんだところで彼女たちの頭に少しショックを入れ気絶させて相手に生きていることを察知されないように死なない程度に身体のあらゆるところを停止させた。そのため頭痛や体がうまく動かせないのはそのせいだ。ただこのやり方のおかげでディが彼女たちに掛けた精神魔法の後遺症が残らずに済んだのだ。
「おはよう、お前ら」
起き上がろうとする彼女たちに近づき一言添え手を伸ばした。その言葉、そして聞き覚えのある声、自身の手で殺してしまった主が目の前に会いたかった相手が目の前にいることにうれしく涙を流しながら二人はシンに抱き着いた。
「うぅぅ、ご主人様、生きてる……」
「あるじ~、あるじ~」
ミアはシンが生きていることを確かめるため心臓の部分に耳を当て彼の鼓動を感じニアはただ主と言い泣きながら胸の中で泣いている。そんな二人を抱きしめながらシンは涙を仮面の下で流した。




