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第四十二話 裏

 迷宮に潜って数時間、魔物が現れ次第狩り徐々に下の階層へやってきたシンたちは先ほどまでの空間とは違う場所へと出たのだった。


 シンたちがおりてきた道や壁は洞窟のようにゴツゴツだったが、ここは誰かが建築したような跡がある。


 魔物の気配はなくこの先に次に進む道があるだけで注意しなくてもいいと思っているがやはり少し引っ掛かることがある。それはここがどこまでの階層なのかによって先に潜っていったガイとディと合流できるかどうかだがそろそろ出会ってもおかしくないのだ。それにこの構造的に魔物がいてもおかしくない。と、なると彼らはもう先に進んでここの魔物は彼らによって狩られたと考えていいと思った。


「二人とも、少しこの先のことを考えて作戦会議をしないか?」

「作戦会議? さっきまでそんなことしなくても戦ってこれたのに。もしかしてビビったりして?」


 魔物を狩る際にアンデットのような死体系の魔物でない限り出血はする。それに戦闘をしたのなら辺りが交戦した跡など残る。しかし、このエリアには交戦した痕跡があまりにもない。これによって考えられる答えは一つ。


「いいや、ただ俺たちはあいつらにはめられていたということだ」

「それって、どうゆうこと? ――!」


 シンが奥の入口を向きはめられたことを説明した。ミアとニアは不思議そうにシンが向いた視点を追うとそこからガイとディが歩いてきたのだ。ミアとニアは彼らが現れるまで気づかなかった。


「それはどのような根拠でおっしゃっているのですか?」

「別に、ただお前たちの迷宮内での行動が怪しかったからな」


 迷宮へ入れば魔物があちこちといる中で戦闘は避けられない。そんな中で分かれ道が現れるまで魔物と一体も遭遇しなかった。最初は彼らによって狩りつくされたのが自然だ。しかし、戦闘の跡があればの話だ。ガイは剣術を使うため魔物の出血は確実、そうなると地面に血の跡があるはずなのにそれはなかった。拳だけで仕留めれば話は別だが結局は交戦した痕跡がないことが一番である。


「彼が剣を使わず戦う方法は確かに拳での力技。しかし、私はバフ魔法で彼の身体向上効果を付ければと考えるのが妥当では?」

「確かに、じゃあ聞くけどお前ら魔物は何体倒した? その死体はどこへやった?」


 シンの回答に彼らは黙り込んだ。つまりこれはもう答えを言っているようなものだ。そんな会話をしているうちに黙っていたミアとニアが体を低くし戦闘態勢へ入った。


「もうこいつらと話す意味はない」

「殺す、それで解決」


 警戒している人間に対し彼女たちは毒舌になるのは知っているがここまでどスレ―トに言ってしまうのかと思った瞬間、彼女たちは突っ込んでいったのだ。


 風が遅れて押し寄せてくる中、ミアは最初にディを仕留めバフ魔法を発動を阻止しようとした。


「まずはお前――!!」


 ディの背後へ回ったミアは彼の後頭部めがけて蹴りを入れようとした瞬間、地面に魔法陣が発動しそこから無数の鎖が彼女を身体に巻き付き動けないよう拘束したのだ。


「私たちを怪しんだのな考えて行動したのかと思いましたがただの馬鹿でしたか」

「ミア! ミアをはな――っ!?」


 ミアの攻撃でディを前のめりにしたところをニアの蹴りを入れてとどめを刺すといった作戦を阻止されミアが拘束されてしまった以上、先にミアを解放することを優先するニア。しかしガイを戦闘に加わり彼もスピードに特化しており彼女以上の速度でニアを地面に抑えつけた。


「これで残りはあなただけですが、動けば彼女たちを殺します」


 人質を取った彼らにどう対抗するか考えるが普通に見えない速度で彼女たちを回収することはできる。彼によって簡単なことだが、実際動こうとするとなぜか一歩も前に進むことができなくなっており気づけば声ですら出せず仁王立ちの状態なのだ。


「今さらお気づきですか、ま、一年でAランク冒険者になったところで所詮そんなものですね」


 シンはこの状況に何が起こっているのかわからず困惑している。今、彼が持っているスキル創造[スキル]を使い魔法アンチというスキルを取得し発動中なのにそれがまったく効果がないのだ。


 魔法アンチ:すべての魔法を無効化することができる(自分自身にかかっているまたは直接触れると発動可)


 つまりこれは魔法ではなく何らかの力によって身動きがとれなくなっているのだ。 


「そうですね、私たちのことを知ってしまった以上生かせてはおけません。ですが、魔物によって死亡ではあまり効果がありませんね……」


 ディはシンたちの処分をどうするか考え込んだ。彼らが自ら殺し魔法で誤魔化そうとしても下手すれば魔法を見破られる危険性がある。『魔物によって死亡』は証拠も魔物の腹の中で隠滅することはできるが魔族をも殺したという冒険者が迷宮の魔物で死ぬということはないと考えているだろう。そう思ったディはある方法を思いついた。


「そういえば、彼女たちはあなたの奴隷でしたね……ならば彼女たちに殺してもらいましょう」


 彼の選択は『奴隷によって殺害』を選んだ。奴隷は主に危害を加えると首に付けているチョーカー型アーティファクトが発動し奴隷は苦しむことになる。それが殺害となると奴隷も当然死んでしまう。


「私たちがお前のいうことを聞くわけがない」

「拘束が解けた瞬間、お前たちは終わり」


 彼女たちが自ら行動するわけもないのにディは気味の悪い笑みを見せた。


「そう、だからこの魔法を使うのです。精神魔法を」


 精神魔法:使った相手の精神に干渉することができる。主に催眠に使わる


「しかしそれでは彼女たちが殺したことにはならずアーティファクトは発動しない。そこで精神魔法を掛けるのは体だけ。一人が彼を抑え、もう一人が彼の心臓をこの短剣で刺す。これは彼女たちの意思でなくても殺したという事実は生まれる」


 ディは魔法陣を生成し彼女たちに魔法をかけた。たちまち彼女たちは拘束が解け体が秒刻みに震えている。歩き方もぎこちない。これが精神魔法で特定の箇所に掛けると抵抗しようとするがいうことが効かずこのようになってしまうのだ。


「最後はあっけなく奴隷に殺される、悲しい人生だったな。ははは!!」


 徐々に迫っていくミアとニアを見てガイが侮辱するように笑い始めた。


「……やだ、殺したくない」

「……助けて、ご主人」


 彼女たちは涙を流しながらシンの前へ一歩、また一歩と近づいていった。シンはどうにか抜け出す方法を探るが魔法でなければアーティファクト類でもアーティファクトは魔法を道具で発動させるものであるため魔法アンチは効かないことによりこの現象からはどうしようもできないのだ。そう策を絞り出すがもう時間はなかった。


「最後に彼女とお別れの言葉を言うくらいの時間はくれてあげますよ」


 ディはそういい指を鳴らすことによってシンは喋れるようになった。しかし体は動くことはなくどうしようもなく心臓を刺されるのを待つしかなかったのだ。


「……もっと、素直な気持ちであなたと一緒にいたかった」

「ニア……」


 ニアはシンの背後に回りお腹に腕で抱き着き本音をつぶやいた。


「……ご主人様があなたで良かった」

「ミア……」


  ミアはそのままシンの心臓の部分に短剣を突き付けた。


「さあ、シン。最後に彼女に言うことは?」


 もう死ぬという選択しか残されていないシンは彼女に掛ける言葉。それは彼が彼女にいつか打ち明けるつもりだった真実。


「……俺はお前たちに嘘をついている、いつか明かそうと思っていた事実。それは俺は女であり、そして本当の名前は――」


 次の瞬間、シンは心臓めがけて短剣が突き刺さった。


「――カナリア」


 シンは最後に自身の本当の名を伝え前に崩れるように倒れた。それに続くようにミア、ニアも倒れその場は静まり返った。

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