第三十八話 猫族の双子の冒険者登録
「お、きたきた。おはよう二人とも」
「うるさい人間」
「黙れ、人間」
朝、早々に罵倒が飛んできた。
二人は昨日購入した防具を着て宿の一階へと降りてきたのだ。
「そういえばお前たちの名前を聞いていなかったけどなんて名前だ?」
「最初にそっちから名乗るのが礼儀じゃないのか人間」
「そう簡単には名乗らない、人間」
結局はこのくだり。シンは予想していたが実際聞いてみて肩を落としてしまう。
「俺の名前はシンだ、よろしく」
「ふん、私の名前はミア、私はお前をご主人様とは認めない」
「私はニア、お前をご主人様とは呼ばない」
二人は息ぴったりの双子の姉妹だと実感するが、なんでそこまでしてそんなに言われなきゃいけないのかがわからず首を傾げてしまう。ちなみにミアが姉でニアが妹だ。そんなこんなで冒険者ギルドへやってきて最初に朝食を食べてから受付窓口へと向かった。
「おはようございます、シンさん! あ、彼女たちがシンさんが買われた奴隷ですか? かわいいですね!」
「おはようマベリ、まあそうだね。それで彼女たちの冒険者登録をしたいんだけどできる?」
窓口でシンを担当したのはマベリだった。彼女は後ろにいたシンの奴隷である猫族を見てまたまた興奮が止まらず前に出てきたのだ。いつもの彼女に落ち着かせてからミアとニアの冒険者登録を可能かどうかを聞いた。
「ええ、可能です。では、まずはステータスを確認するためこちらへどうぞ」
マベリはシンたちをギルド内へと案内し着いた場所は検査室と書かれた扉の前へと来たのだ。中に入るとそこには水晶が台の上に置かれているだけの部屋だった。
「王都ではこんなところはなかったような気がするけど」
「ええ、王都と帝国で使われる水晶が違うのです」
そこで王都と帝国の水晶の違いの説明を聞いた。王都の場合はすぐに受付入口で水晶に手をかざすだけでステータスを確認できるがそれは本人しか見ることのできない仕組みであり帝国はその技術はなくステータスは大きく表示されてしまうため情報漏洩を防ぐためにこの部屋が作られたという。王都と大国は強力関係だが最低限のことしかしないためそれぞれ違うのだ。
「では、同時にできるので二人とも、前へどうぞ」
「はぁ、これに手をかざせばいいんでしょ」
「むう……」
二人はマベリに呼ばれると不機嫌そうに水晶の前に出て手をかざした。その時ミアとニアの目の前に薄い透明な板が現れた。
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名:ミア
歳:14歳
性別:女
種族:猫族
魔法特性:火・雷
魔力:s
スキル:気配察知・危険察知・弱点察知・音速
耐性:なし
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名:ニア
歳:14歳
性別:女
種族:猫族
魔法特性:水・風
魔力:s
スキル:気配察知・危険察知・弱点察知・音速
耐性:なし
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「こ、これはすごいですね」
マベリは双子のステータスを確認すると驚き結果を長々と眺め言葉を漏らした。それは魔法特性がそれぞれ二つ持っており、魔力がsクラスであることだ。
「魔力制御は習得していないみたいだし俺が訓練させればいいかな」
獣人族は魔法よりも力が強いため魔法なしでも戦うことができるがどうせなら覚えていても損はない。
「ふん、魔法がなくても生きていいける」
「どんなものでも、かかってこい」
「でもお前たちって確か怪我したところを保護されたって聞いたけど」
二人はシンの言葉に「うっ」っと声を漏らした。
オスボーンから聞いた話だと二人はシンがドラゴン討伐に行った森で大怪我で倒れていたという。それは魔物による傷だったと。その傷はオスボーンが所有していた聖水で完治させたと言っていた。だが、そんな言葉を口にしてしまったシンは彼女たちに怒りを買ってしまったそうで、殺意がどんどんと刺さってくるのだ。
「なら、私と勝負して。どっちが強いのかわからせてあげる」
「ミアの言う通り、お前なんかすぐ終わる」
「でしたらちょうどいいので、2対1の決闘を行って彼女たちの冒険者ランクを決めましょう」
まさかの勝負を仕掛けてきたのだ。シンはどうしてこうなってしまったのかと頭を悩ませマベリに助けを求めたのだが彼女から発せられた言葉に頭を抱えてしまう。
◇
「ルールは簡単、相手が戦闘不能もしくは降参したら決闘は終了です。いいですか?」
「問題ない」
「さっさと、終わらせる」
今、シンは冒険者ギルドの闘技場のステージの上に立っていた。ミアとニアに怒りを買ってしまいマベリがそれを機に俺と決闘をして彼女たちの冒険者ランクを決めようとし今に至るのだ。
「はぁ、奴隷の印とアーティファクトの解除」
シンはめんどくさそうにため息をつき奴隷の印とアーティファクトでチェーカーの効果を解除した。そうしなければ印とアーティファクトが反応してしまい戦いにならないからではあるが、それでも戦う気にはなれないのだ。
「では、決闘……はじめ――っわ!」
マベリが決闘の合図をした瞬間ミアとニアは見えない速度でシンに迫ってきたのだ。二人は単純な拳の攻撃だが、その一撃はそこらにいる冒険者では防いだとしても大ダメージなほどのある攻撃だった。だが、シンは二人の拳を掴み風圧が吹いた。その拳を掴んだまま彼女たちを宙へ放り投げた。
「な!」
「弱そうなのに、強い」
二人は宙回転をして着地しシンの強さを見直した。だがそれだからなんだと二人はもう一度攻撃を仕掛けた。今度は二手に分かれ交互に攻撃をしていくパターンへと来た。
息がぴったりの連携にさすが双子と言ってしまうほどでシンは攻撃を受けながら二人の力を確認していった。
「はぁ、もう終わりにしようか」
シンは彼女たちの実力を確認し終えた瞬間、ニアの腕を掴みミアの方へと投げ飛ばしたのだ。
「――っく!」
「ニア!」
ミアは飛んできたニアを受け止めた。
「急に気配が変わった、今まで手加減していたと思う」
「確かに、だけどだからなんだって話。行く――!!」
先ほどまでのシンはただ突っ立ていた男だと認識していたが突如、気配が変わり警戒心を上げた。ニアの言葉に同感したがそれがなんだと言いもう一度仕掛けようとした瞬間、シンはミアの目の前に立っていたのだ。
気配なく近づいてきたシンに驚き腕を振りかざしたがその手は簡単に掴まれてしまったのだ。
「なんでそんな――っが!」
シンはその隙にミアに腹パンを食らわせ気絶させ彼女を地面に打たないよう支えた。
「それで、まだやるか? ニア」
「……降参、します」
ゆっくりと彼女を下ろし今度はニアの方へ視線を向けシンは気配とは違うオーラを放ち彼女に問いかけた。ニアは悔しそうにしていたがこれは自分が負けると察し降参したのだ。
これで二対一の決闘は終了。その後、マベリから彼女の冒険者プレートを受け取った。あれだけの試合をしたことでBランクだった。
◇
「これでもうここには用はないし、そろそろ王都に帰るか」
「王都、あなたはそこから来たの?」
ギルドから出たシンは気絶しているミアを背負って宿へ向かっている途中の会話だ。
「どこで冒険者になるかは自由だけどAランク冒険者として認めてもらったのは王都だから、王都から今度Sランク冒険者の依頼が来るんだ」
「ふうん……まあ、私たちは最悪だけどあなたの奴隷。仕方なく付いていく、でも一つだけ聞きたいことがある」
シンは王都でAランク冒険者になり王都の王から昇格章をもらったのでSランク冒険者の昇格依頼も王都からなのだと説明するとニアはどうでもいいけどとそっけない態度で返したのだが、珍しく彼女から一つの質問が来た。
「あなたから血の匂いがする、しかも獣人の」
「……え?」
まさかの質問にシンは足を止めてしまった。
「あなたから血の匂いがする、それは獣人を殺した証拠」
「いや、俺は獣人とはそんな殺し合うようなことはしていないし……」
これは動物でいう嗅覚で物を判断するあれであれだ。シンから臭う血の匂いはそういった意味があるのだと勘違いしているらしい。確かに獣人とは一人だけ王都で殺り合いそうになったがあれは違う。と、なると自分が獣人と気づかれたか知らないうちに獣人の血の匂いがどこかでついてしまったのだということ。
「もしかしたら、多分その匂いはドラゴンの巣に転がっていた遺体が獣人のものだったんだと思う」
「ドラゴン……、その人たちの遺体はどうしたの?」
奴隷商人からの依頼でドラゴン討伐へ向かった先にあった人骨の遺体、埋葬するため運んだ際についてしまったのかもしれない。それだと説明するとニアからその遺体について聞かれたが簡単な弔いしかできなかったと伝えた。
「……そっか、でもその人たちはうれしいと思う」
夕日が昇りシンたちを照らされ何も話さずただ宿へと歩いた。そんな沈黙を打ち破るものが現れた。
「ちょっと、首に違和感がある」
「今さら? だけどもう遅い、あなたの命は私が握っているといっても過言ではない!」
気絶していたミアがいつの間にか起きており首に腕が回していたためその腕がシンの首を絞めていたのだった。ここで彼女を背負い投げしてもいいと思ったが一応相手は女の子であるのでそのまま宿へ向かった。
そんなこんなで彼女たちからの呼び方が「お前」から「あなた」に変わっていたことに気づきシンは少しは絆が深まったかなと感じたのだった。




