Who is the 6th writer(s)? その10
雨乃は相川との話し合いで、第六の作者を絞り込み、断定した。しかし、雨乃の中では、作者が作品を書いた理由が不明であることから、未だにモヤモヤとした気持ちが立ち込めていた。そんな中、会場に戻った二人。午後の部が始まり、いよいよ第六の作者が扉の向こうに現れる…
ドアが開くと、見覚えしかない人物が立っていた。人前に立つのは慣れていないようで、どこに視線を送ればよいか戸惑っている様子が目に表れており、軽く礼をして入ってきた。
「えっ、黒川!?」
そう、私と同じ新聞部一年生、黒川零介であった。
「悶える男じゃん! まじかよ!」
「え、すげぇ!」
「やっぱりすげえやつだったんだ!」
なぜか文芸部内でも知名度が高いようで、一年生たちは黄色い声援に近い甲高いコールを送った。因みに、悶える男というのは、黒川の二つ名みたいなもので、活字中毒だった黒川が、急に活字を見続けられなくなるという読書スランプに陥り、眉間にしわを寄せて、呻きながら読書するようになっ様子から、ロダンの考える人になじってつけられたものだ。
黒川が作者だと当たったこともあり、目のあった相川君は満足そうに笑みをくれた。
「ということは、混入していた作品って…」
教室内がどよめき立つ中、黒川は蝶本先輩に着席を促され、近くの席に座った。すると、興奮覚めやまない周囲の一年生たちが黒川に集まってくる。
「ファンでした! 握手してください! 見るたびに読んでいる小説が変わってて、めっちゃ読書家なんだなって尊敬してました!」
「嘘つけ! こいつはただの流行り好きなだけです! フォクサーの小説が好きと聞いて、前から話してみたかったんですよ! 握手してください!」
一年生たちが我先にと、黒川の前に入りみだれる。
「あ、ああ…」
なんなんだ、と苦笑いを浮かべつつも、黒川は分入ってくる一年生達に握手していく。多分、悶える男である以前に、彼の読書歴が尊敬の対象となっているだろう。ここまで人気になったことがないようで、黒川は困惑の表情を浮かべながら、ありがとうと一応の感謝を述べている。
慌ただしくなった室内を、手をパンパンと鳴らして、蝶本先輩が収拾づけた。
「よし。主役も入ったことだし、ネタばらしといこう。実は、最初から新聞部の新聞に掲載する小説は二作品に決まっていたんだ。しかし、ただ単純に文芸部から二作品出すだけでは面白くないからね。コラボと言っていたからには、新聞部側からも文芸部にコラボレーションしてもらいたいと考えていたんだ。その結果、新聞部の刺客、黒川君にお願いし、一年生の提出作品の中に混入させることになったんだ」
確かに、新聞部と文芸部がコラボするとは言っていたが、新聞部側から文芸部側へのコラボがなければ、ただの寄稿になってしまう。だからこそ、文芸部の主宰する品評会で、新聞部からの作品を交えることで、新聞部側からのコラボレーションを実現させたということだろう。
「では、受賞の黒川君、君からひとこともらっていいかな?」
「俺なんかが書きあげたものが褒められるのは嬉しいですが、文芸部の皆さんを驚かせてしまったのはなんというか…すみません」
黒川らしからぬ、遠慮がちなコメントを述べる。周りはそれに反して、大きな拍手を述べた。
「そんなことないぞ!」
「よかったぞ!」
「というわけでだ。今回の品評会の結果を反映し、新聞部への掲載は、新聞部の黒川君の作品と、うちの相川の作品の二作品になる。修正期間も考えて、掲載は二ヶ月後を見ている。では、最後に、二人に大きな拍手を!」
割れんばかりの拍手が教室内を包んだ。
二人への賛辞が送られたのち、通り打ち上げと歓談会がおこなわれた。文芸部の一年生達は、黒川、そして相川君の作品の世界観や、構想背景、さらには作品の作り方など、興味が絶えないようで、相川君は尋ねられるだけでなく、意欲的に他の一年生と意見を交わし合おうとしているのに対し、晴れ舞台というか、騒がしい雰囲気に慣れていないらしい黒川は、しどろもどろになりながら、あまり個性のない一般論のようなテクニックを答えていた。やはり、こういう部分で差が出ることもあり、次第に黒川に集まっていた人々は、あっという間に相川君の周りに引き寄せられていった。なんだか、先ほど一年生の一人が言っていた流行という言葉が思い起こされ、当てはまっているように見えた。今がタイミングだと思い、私はかねてから思っていたことを黒川に尋ねた。
「思ってたんだけど、なんで書くことを引き受けたの?」
そう、私と相川君で推理したのはあくまでも作者が誰かということであって、彼が書くに至った理由というものは推理の外だったのだ。
「…その件、か」
少し間をおいて、黒川は答えた。どうやら、話そうか考えあぐねているらしい。
「まぁ、事情があってな」
どうやら、気軽な話題ではないようだ。
「それは、聞いていい話?」
「雨乃は多分聞いていいと思う、ただ…」
「ただ?」
「新聞部の一年生には内緒にできるか?」
内緒、という黒川らしからぬ子供っぽい言葉に少し拍子抜けしたが、顔は真剣そのもので、珍しく私の瞳覗き込んで真意を確認してきた。
「それってもしかして、…蝶本部長が関わってる?」
蝶本先輩。私の言葉に、黒川は目の色を変えた。
「まさか、雨乃。…気付いてたのか?」
「えっ、それって」
「俺が書くに至った経緯に、蝶本先輩がどう絡んでいるかだ」
次話に続く




