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レインズ・ライフ  作者: Atsu
Who is the 6th writer(s)?
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Who is the 6th writer(s)? その9

雨乃は相川との話し合いで、第六の作者を絞り込み、断定した。しかし、雨乃の中では、作者が作品を書いた理由が不明であることから、未だにモヤモヤとした気持ちが立ち込めていた。そんな中、会場に戻った二人は、いよいよ午後の発表会を迎えたのだった…

 相川君と共に、会場の選択教室に戻ると、他の文芸部一年生たち、宮原先輩、関先輩が原稿を片手に談笑していた。戻ってきた私たちに宮原先輩が気づき、歩み寄ってくる。

「おかえり、雨乃さん。あら、相川君とご飯食べてたの?」

「ええ。ちょっと話すことがありましたので」

「珍しいわね、相川君が部員以外とご飯に行くなんて」

「雨乃さんと話すことがあったんです」

「そうなんですよ。せっかくの機会だったので、品評会の話とかしてました」

「なるほどね。そうそう。午後の発表会なんだけどね、部長が来てから始まるから、もう少し待っててね。もうすぐ来るって連絡きたから」

宮原先輩は携帯電話をポケットからひょこんと出し、小気味よく揺らした。

「はい、わかりました」

「じゃあ、座っていようか。雨乃さん」

午前中と同じように、私は相川君の隣の座席に座った。

 授業開始のチャイムが鳴り響き、しばらく経った頃、教室のドアが勢い良く開き、文芸部長の蝶本先輩が入ってきた。

「まってました!」

「おかえりー!」

まるで、飼い主が帰ってきて、大喜びで迎える犬のように、蝶本先輩に様々な黄色い声援が飛び交い、盛大な拍手が部屋に広がった。正気なところ、まだ、この部活のテンションについていくのは難しいなと感じる。でも、みんなで盛り上がることは嫌いじゃないから、慣れれば楽しいんだろうな。そんなことを思いながら、ふいに横の相川君を見ると、かすかに微笑みながら拍手をしていた。クールな印象だっただけに、このオーバーリアクション気味な雰囲気に乗り気ではないのかなと思っていたけど、案外楽しんでるようだ。

 教壇に着くと、部長は拍手を制し、口を開いた。

「またせた、みんな。では、これより品評会の審査発表会を始める! まずは、優秀賞から」

他の一年生の数名は、祈りを捧げるように両手を組み合わせ、上下にゆする。

「こいこいこい…」

「たのむ、たのむ!」

ポケットから受賞者の名前が書かれているであろうメモ用紙を取り出し、蝶本先輩は教壇の上に開いた。

「ごほん。優秀賞は…《ダンジョンの向こう側!》」

「えっ、お、俺!?」

「お、春日(かすが)だったのか!」

「まじかよ!」

私の三つ隣の座席に座っていた男子が立ち上がり、教壇に向かった。

「おめでとう!」

「面白かったぞ!」

同期の一年生達が机の合間を縫っていく間に声をかけ、肩や背中を叩き、検討を讃えた。

「とりあえず、公表は最後にまとめて配るから、一言だけ。小説は最初の三行が重要だと言われている。導入で、その小説を読みたいかどうかが決まるからな。今回の作品の中では、春日の作品の出だしが、一番引き込まれた。そこからの状況描写もいい出来だった。おめでとう!」

「ありがとうございますっ!

そう言うと、蝶本先輩の手から、春日君の手に賞状が渡された。拍手。

「確かによかったよね?」

相川君に投げかける。しかし、疑問に満ちた表情をしており、どこかおかしい。

「ああ、そうなんだが。それよりも、おかしくないか。僕たちが話し合っていた作品のうちのどちらかが、優秀賞で出てこなかった。つまり、最優秀賞は一枠だとすると、今回の品評会、おかしなことにならないか?」

「あ、確かに。今回の作品の中で、ダントツであるはずの二つのうち、どちらかが選ばれないとなると、最優秀賞が一つの場合、意図的におかしなことになるね。ということは…」

「もしかしたら、そういうことだったのか」

相川君は何か閃いたようだ。

私たちが話していた作品、《少女は祈り、花は咲く》と《はなびらのように》。どちらも、他の作品と一線を画す作品であったのは明白だ。私が品評した際も、得点は両者同じにしており、他との点差がそこそこあり、品評した人数を考えると、上位にはあがっていると推測できる。それにもかかわらず、優秀賞でどちらかが姿を表さないということは。相川君の言葉に私の頭は急速に思考を始めた。


ごほん、と蝶本先輩が咳をし、場の高揚を抑えた。

「では、次は最優秀賞だ!」

蝶本先輩の言葉に場の空気が急転し、静寂に包まれ、皆が沈黙した。

「最優秀賞は…」

一言たりとも聞き逃がさない、という部員の気迫が肌で感じられる。私も、このおかしな状況について思考しつつ、部長の口元を見据え、作品のタイトルを聞き逃すまい、と注視した。その時だった。

「ハクションッ!」

部長が大きな、くしゃみをする。緊張感に支配されていた間が、あらぬ方向から崩される。あたりは、爆笑の渦に包まれた。

「びっくりしたー」

「わ、笑わせないでくださいよ先輩!」

私も思案しながら聞いていたため、調子を崩されて、くすりと笑ってしまった。しかし、それにしても部長の咳はさっきから多いし、午後の部長は若干鼻声だ。午前の間、薄着でもしていたのだろうか。

「すまない。なんだか、鼻の調子が悪いみたいだ」

蝶本先輩は鼻をかみ、仕切り直す。

「優勝は…じゃかじゃかじゃか…じゃん!《少女は祈り、花は咲く》!」

その言葉に相川君は立ち上がり、ガッツポーズで答えた。その瞬間、他の一年生達は、机に突っ伏して、落胆を全身で表現した。

「はぁ。やっぱりなー さすがだ」

「読んでて思ったよ。負けたぜ」

みんなが負けを認めていたようで、悔しがっている。部長の元に向かった相川君は蝶本先輩の横まで歩み寄ると、相川君は蝶本先輩に何かを耳打ちをした。

「…なんだ、気づいていたのか」

蝶本先輩の口元から、先輩がそう呟いたように読み取れた。

「えー、ではとりあえず一言。特に、描写力。他の作品とずば抜けていた。描写とそこからの物語の誘導が素晴らしかった。審査員の評価も概ね満点多数。良い作品に仕上がったな。おめでとう!」

「ありがとうございます」

相川君には同じく賞状が手渡される。拍手に包まれる中、相川君の口元が動いたように見えた。座席に戻ってくると、相川君は私に一言告げた。

「やはり、もう一人だ」


「受賞した二人、おめでとう。みんなも日々上達しているな!」

嬉しそうに蝶本先輩が笑んでいると、一年生の一人が声を上げた。

「部長、もう一作品すごいのがあったと思うんですけど、あの作品は受賞なしですか?」

純粋に疑問に思っているようで、拍子抜けしたかのように一人がつぶやいた。それに呼応する形で、また一人と、例の作品のことを口にし始めた。

「ああ、確かに! あれもすごく良かったと思うんですよ。《はなびらのように》」

「うんうん。あと、一作品増えてましたけど、紛れ込んでた作品は結局どれだったんですか?」

「《はなびらのように》、なんですか?」

次から次へと投げかけられる疑問に、蝶本先輩は想定済みといった感じで、ニヤリと表情を歪め、口を開いた。

「ホント、一年はいい反応してくれるな。では、ご期待に答えて、続きと行こうか。君たちが思っているように、今回はもう一作最優秀賞がある」

「やっぱりだ!」

「ですよねー」

「その作品は、ずばり《はなびらのように》だ! そして、みんなに紹介したい人物がいる」

「おお!」

部員達の期待が一体となってうなり声が生まれた。みんなの瞳が輝いており、ワクワク感が表情から伝わって来る。私の方も、今までの推理が正しかったかどうかがわかる瞬間で、心臓の鼓動が早まっていることを感じている。

「では、作者の登場だ! 拍手で迎えてくれ!」

蝶本先輩が率先し、大きな拍手を教室入り口のドアに向けて送った。一同がざわつく中、全員の視線が、入り口ドアのすりガラスに浮かび上がっている黒い影に注がれた。

次に続きます

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