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レインズ・ライフ  作者: Atsu
Who is the 6th writer(s)?
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Who is the 6th writer(s)? その8

 第六の作者が絞られる…。答えたものの、どうにも腑に落ちない雨乃。そんな中、相川の意見を聞いて…

 黒川が第六の作者。相川君は私の発言に驚かなかった。そう、既知の事実であるかのように。どちらかというと、私の発言に満足したような表情だ。頬杖をつきながら窓の外を眺め、少しだけ、口元を緩めたように見えた。

「まぁ、そうだろうね」

この前の文芸部訪問時や、さっきまでの鋭い視線は感じず、どこか遠くを見ているようだった。

「…納得はいかないが」

そう彼は小声で付け足した。分かりきっているが、分からない。事実の理由がわからない、そういう彼の思いが伝わってくる。焦点の合わない瞳はグラウンドに注がれ、ただ光を受けるだけのガラス玉のように見えた。

「納得が、いかない…?」

私の言葉に、相川君は向き直る。

「今度は僕の考えを順を追って話そう。先輩が提示した一年生のみの作品であることが守られていることを前提に。もちろん、ルールを持ち出した部長が破るとは思えないからね。

 この前提を踏まえて、今回、作品『はなびらのように』を書いた可能性のある一年生は、僕ら文芸部、そして、今回のコラボとして関わる新聞部のうちの、君たち。雨乃さん、黒川君の二人だ」

「そうなるよね」

これは、私にも分かりきっていた。私たちも一年生であるということは、候補からは外れない。

「まず、君の言ったように、最初は内部によるものではないかと考えた。僕自身がやっていないと考えると、作者候補は残りの作品を提出した四人だ。しかし、今回の品評会に向けて、彼らと一緒に作品を作り上げ、様子を見ていた立場からすると、彼らには不可能に思えるんだ」

「どうして?」

「理由は簡単さ。作品を脱稿したのはギリギリのようだったし、並行して、もう一作品作るほどの余力があるようには見えなかったからだよ。もちろん、彼らに実力がなかったからではない。手を抜いた作品作りを彼らはしていないからだ。この僕が保証する。一文、一言に対して、重箱の隅をつつくようにより的確な表現を追求していた。本気だったんだ。だから、物理的に厳しいと思う。

 もう一つ。以前、彼らと読書や過去の執筆についての話をしたり、作品を読ませてもらったことがあったのだけど、今回の『はなびらのように』のような作品や作風、思想についての話を彼らから聞いたことはないんだ。いわゆるライトノベルであったり、ミステリであったり。ことに心傷的な作風であったり、このような残酷さを主テーマとする作品の話は、一度も出てきたことはなかった。これは、あくまでも僕の偏見になってしまうけれど、今回の僕の作品、そして『はなびらのように』以外で、『はなびらのように』の雰囲気や作風を感じる作品はなかった。

 つまり、物理的にも、彼らの作風的にもあの作品を書ける人物はいなかったと思えるんだ」

相川君のいう通り、今回の作品を通じて、作品間での類似性みたいなものは感じられなかったし、作者らしさというものが、作品ごとで異なっていたと思う。

「そこまで言われると、文芸部の部員という可能性はほぼゼロに近いよね」

「となるとだ。うちの部員でないということは、君たち新聞部のうちのどちらか、ということになるわけだ」

「疑われてもおかしくないね」

「まずは、雨乃さん。君を疑った」

一瞬、鋭い視線が送られ、私は少しビクッと肩を震わせた。

「そ、そんな。私が書くわけ…」

「そう。雨乃さんがそんなことをする理由がわからない。初めて文芸部にやってきた後、あれから部長に会ったり、部室に来ているところを目撃したり、聞いてないし、今朝も、やってきたのは一番最後だ。それに、僕らにわざわざアドバイスを聞きに来て、評価する立場で頑張ろうとしている雨乃さんが、自分の作品を混入させて、自分の作品を評価するなんていう意図が僕にはわからない。

 …となると、残るのは黒川君、彼だ。ただし、これには部長が関与していることが必須だ。

 雨乃さん、君が文芸部に初めてやってきた時のことを覚えているかな?」

「うん。蝶本先輩に会いに来た日のことよね?」

「ああ。では、その時、黒川君が部長に封筒を手渡す際に言った言葉を覚えているかな?」

「え」

突然の質問に私は戸惑う。黒川はなんて言ってあの封筒を手渡していただろうか。私は記憶を辿る。しかし、そんな些細なセリフ、覚えていられる方が難しい。あの時の記憶を昔のアナログ映画のように、脳内でぼやぼやと再生する。確か、『はい、俺もこれを』みたいな感じだったような。考えて黙り込む私をよそに、相川君は自答する。

「僕は覚えていた。確か、彼の持っていた封筒が『部長から』であると言っていた。よく考えてみてくれ。君もあの時、部長からの預かり物をもらっていて、うちの部長に手渡すことになっていた。そうであるにもかかわらず、どうして君たちは、君たちの部長からの書類を別々に手渡す必要があったのだろうか」

そういえばそうだ。その言葉に、私はハッとする。文芸部に向かうとき、黒川には自分で受け持ったものなんだから自分で渡しなさいよ、とは言ったけど、同じ人からの預かり物を同じ人物に対して渡すのだから、部長がどちらかに頼んでしまった方が手間が省けるはずだ。どうしてそんなことにも気付かなかったのだろうか。

「つまりだ。彼が持っていた封筒の方は、一度彼に渡して、確認させる必要があったか、部長の命を受けて、彼が作成したものである可能性が高い」

相川君の言葉に、あの日の記憶が少しずつ蘇ってきた。確か、あの日。黒川は寝不足って言っていた。私も、そこまで量のない小テストで徹夜する必要なんかないだろうと思っていた。でも、それが作品制作をするためだったのなら。

「黒川のもっていた封筒が、作品を指していたのであれば…」

「矛盾はしないね。それに、封筒を手渡された部長も、詳細を知っている様子だったことから、部長もなんらかの関与をしている可能性が高い。ただし…」

「ただし?」

相川君は一息置いて言葉を付け加えた。

「あくまでも、これは推理の域でしかない。ここまでは起きた出来事がうまく矛盾していないだけであって、断定する材料がそろった訳じゃないんだ。たまたま、書類のタイミングがずれたから任せた可能性だってある」

「確かに。それに、黒川の作品を見たことないし、あの作品を一から作り上げるなんていうのは、前々から書いていた経験があるか、よほど才能がないと無理だよね?」

「ああ、そう思う。いきなりこんな作品を書けるのだろうかということも怪しい。それに、黒川が書いていたとなると、黒川と部長の間に前々から面識がなければならない、ということだ」

そのとき、五分前の予鈴が鳴り響いた。

「とにかく、僕らの解答を得ることができた。午後からは部長も戻ってくる。さぁ、答え合わせに行こうか」

「うん」

 自分たちの解答が出たとはいえ、黒川が第六の作者であることに違和感が拭えずにいた。まるで、未だもやもやとした霧の中にいるようだった。普段、SF、ミステリを選り好んで読んでいるような彼が、ここまで苦しみに打ちひしがれるような作品を書いたとは内心では未だに信じられないでいる。

 そもそも、彼が作品を書いた理由がわからない。読んている方が好きそうだし、わざわざ徹夜をしてまで書き上げたほどに彼を突き動かした理由は一体何だったのだろうか。廊下をひた歩きながら、考えてみる。

 少なくとも、黒川本人の性格からして、自らの意思で書かれたわけではなく、頼まれて書いた可能性が高いように思える。きっと、普通の理由では断るだろうから、重要な出来事だと彼自身も感じて引き受けたのではないか。つまり、黒川ではない誰かに、理由があるというのが筋の通る理由であるということだろう。

 その相手は、私たち新聞部ではなく文芸部にあり、相川君との話ででてきた、蝶本先輩の関与を考えると、蝶本先輩の頼みではないのだろうか。

 もし、この線が正しければ、午前の出来事も繋がってくる。今朝、目撃した黒川。会議があると言って出て行った蝶本部長。もしかすると、二人は午前中、会っていたのではないだろうか。今回の黒川の協力に感謝を伝えるだとか、理由はいくつか見つかりそうだ。しかし、腑に落ちない点もある。蝶本先輩が、午前中の間帰ってこなかったことから、午前中を使い切るほどの長い時間を話していたということだ。そんなに長い間、話すほどの内容は何なのか。この、文芸部においても大きなイベントである品評会を抜け出してまで話す内容が私には思いつかない。普通であれば、文芸部を優先するはず…。

 そのとき、相川君が私の肩をポンポンと叩いた。

「まだ、そこまで先を見なくていいんじゃないか、先ずは事実を確認すべきだ」

 いろいろ考えてしまったけど、まずは黒川が作品を書いたことが断定されなければ、すべては繋がらない。

「そ、そうだよね」

私は慌てて笑みを繕った。どうにもわからないことが多くて、すっきりしないというのも事実で、表情の曇りが出てしまう。

 気持ちを切り替え、私たちは文芸部の会場へと戻り、午後の結果発表を待ちわびるのだった。

次に続きます。次の話も近日中予定です。

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