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レインズ・ライフ  作者: Atsu
Who is the 6th writer(s)?
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Who is the 6th writer(s)? その7

品評会を終え、昼休憩をしようと会場の教室から出ると、相川君が待っていた。きっと、あの話題なのだろう。私たちは昼食をとりながら、お互いの考えについてを話し合うことにした。

 相川君と私は別棟二階奥にある食堂に向かった。ここ、大々牙像おおがし高校の食堂は、一度に二百人以上が食事が取れるほど、大きなスペースが取られており、部活動が盛んな土曜にも営業している。ちょうど正午を回った頃であるため、座席の半分近くはすでに生徒、そして学校に関わる人々で埋め尽くされていた。

「雨乃さん、僕は弁当なんだ。雨乃さんは何か買う?」

「うん。私は今日は弁当忘れちゃったんだ。サンドイッチでも買ってくるよ」

そう、寝坊の代償はここにもあったのだ。普段の弁当はお母さんに用意してもらったり、自分で作ったりするけど、今日は完全に寝坊による時間不足で準備できなかった。

「わかった。座席は僕が取っておくよ。奥の窓ぎわでいいかな?」

「うん。おねがいします」

財布のみ携えた私は、食券販売機横にある自動販売機コーナーに向かう。幸いにも、パン類の売れ行きは平日並みではないようで、種類の選択権があった。私は野菜サンドイッチを購入し、相川君の待つ窓際の席を探した。

 相川君を発見する。先ほどまで手に携えていた、四角い弁当箱を机の上に置いて広げ始めていた。

「どうした、雨乃さん」

つい、相川君の手元に目がいってしまった。食堂に向かう最中に思っていたのだけど、弁当箱が明らかに大きいのだ。赤い風呂敷を解くと、二段の重厚な櫃が姿を現した。おせちとかで見る、まさにあの重箱だ。視線の理由を理解した相川君は、あぁと口を開き、説明してくれた。

「今日の品評会の話を母親にしたら、張り切っちゃってね。もう書き終えているから、今更結果が変わるわけでもないのに、頑張ってねって持たされたよ。さながら鬼ヶ島に向かう桃太郎にきびだんごを持たせるおばあさんさ。よかったら、雨乃さんもどうだい? カツが入っている」

蓋をあけると、箱枠いっぱいにカツが敷き詰められていた。もう一段の箱にも手の込んだ副菜がちりばめられていた。それほど、相川君のお母さんにとって、文芸部の品評会が重要なものだと思ったのだろう。最もハードな運動部とご飯の量が大差ないような気がする。なんというか、ちょっと圧倒されてしまった。

「う、ううん。私少食だから、大丈夫よ」

ちょっと、萎縮してしまったのは確かだけど、少食の私にはサンドイッチを食べる以上の余力がないので遠慮した。

「そうか。燃費がいいんだね、雨乃さんは」

何だか、相川君と食事に関して大きな解釈の違いがあるようだ。相川君にとっての食事は、栄養摂取という本来の意味。しかし、私にとっての食事は、お腹の虫を抑えること、食べたいものを食べるという楽しみ、そんな違いだ。だから、私の返しは、ズレているような気がする。

「そんなことないよ。私だってすぐお腹なっちゃうから、こまめにチョコレートとか食べてるし。それに相川君だって、そんな量食べ切れるのに太ってないじゃん。体に溜め込まない分、正く消費されているから燃費がいいってことなんじゃない?」

「いいや、燃費は悪いさ。少しのエネルギーで体を動かせないわけだし。それに、これだけ食べているのだから、もう少し肉がついて欲しいとは思ってる。その点では、残念な体質さ」

そんなことを簡単に言ってしまう、相川君の性格だからこそ。女子とっては羨ましい体質だということを自覚してないのかもしれない。

閑話休題。

「まぁ、いつでもできる話はこの辺にしておいて。雨乃さん、率直に聞きたい。混入した作品。そして、もう一人の執筆者。ずばり、どの作品だと思う?」

正直なところ、可能性がある作品を考えると、私はまだ一択にはできていなかった。私は一度、意識して呼吸をして、問いに答える。

「私は〈少女は祈り、花は咲く〉か、〈ばなびらのように〉、だと思う」

「それはどうして?」

「この二作品は、他の作品とは明らかに一線を画していた。なんというか、これに関しては自分の主観になってしまうけど、書く力って言えばいいのかな。それが他の作品よりも明らかに差があった。二つ目なんだけど、私と黒川が最初に文芸部を訪れて、相川君に会ったときのこと、覚えてる?」

「ああ。覚えてるよ」

「あのとき、相川君は「花」をテーマにしてる、って言っていたよね。あの日から、品評会の日までの日数を考えると、あの日の書いていた作品を今回の品評会に出していてもおかしくないなって。そう考えると、花という言葉が含まれるこの二作品のうち、どちらかは相川君、あなたが書いた作品だと思う。まだ、結果発表が出てないから、どちらかは伏せてもいいんだけど、この推測は正しいかしら?」

相川君は私の発言に意図があるかのように計っているようで、私を見た。誤解がないように、私は言葉をつなげる。

「別に、深い意味はないよー。ただ単に、聞きたいだけ。評価も終わったし、公表しても大丈夫だと思う」

そう私が言うと、それならいいかと相川君は答えてくれた。

「ああ。雨乃さんの言う通り、僕の作品があるよ」

「ということは、あのときの作品?」

「ああ。その通り。あのとき書いていた作品だ」

二つの作品。今まで相川君と接してきた私の勘では、相川君の作品は。

「だとすると、相川君の作品は〈少女は祈り、花は咲く〉、だと思う」

私の言葉に、何か悩むような仕草を見せた後、

「つまり、混入した作品って言うのは〈はなびらのように〉と言いたいんだね?」

相川君は真っ直ぐに私を見つめて言った。


「その通りだよ、雨乃さん。僕の作品は、〈少女は祈り、花は咲く〉だ。それはつまり、僕も〈はなびらのように〉が混入作品だと思ってるということだ。実は、同期の一年生に関しては、この手のジャンルを書かないことだけは前もって彼らの趣味趣向からわかりきっていた」

「それはつまり、同期の一年生は相川君とジャンルがかぶらない、ってこと?」

「ああ、そうだ。このような話を書くのは、学年でも自分一人とわかっていた。そうなると、自分の作品でない方になるわけだ。選ぶまでもなく〈はなびらのように〉になる」

これで、混入した作品が判明させられた。あとは。

「となると、あとは誰が書いたか、ということになるね」

「そう。間違いなく、うちの同期ではないだろうね」

うちの同期、という言葉に、確認しておきたいことがあったので相川君に問いかける。

「こんなふうに話し合いをしているのに、馬鹿らしい確認なっちゃうんだけど、相川君が二作出した、なんていう叙述トリックではないのよね」

そう、可能性ではあるが、同じジャンルを書く人間が自分以外にいないのなら、自分が二作書いたということでも問題は発生しない。となると、相川君がもう一作書いていれば、間違った言葉ではない。まぁ、ありえない推測だけど。

「確かに、僕が二作出せば矛盾はないが、僕が出したのは本当に一作だけだ。その点は保証する」

「そうだよね。愚問、ゴメンね」

確認だとしても一抹の疑いをかけたことに私は謝罪した。

「外部の人間なら、まずは内部の人間を疑うのは普通の発想だからね。雨乃さんの考えもわからなくはないよ」

話しながらも、弁当をぺろりと食べ終えた相川君は箸を置き、腕を組み直す。

「では雨乃さん。君の考える、第六の作者を教えてもらおうか」

私の中で浮かんでいる作者。私がこの品評会に至る仮定の中での疑いのある人間を私は列挙した。

「候補は今の所三人。蝶本先輩、麻衣ちゃん、そしてうちの黒川」

そう。この三人とは品評会に至る仮定の中で、〈はなびらのように〉を書いている可能性があるのだ。

「ほう。なるほどね。先に雨乃さんの意見を全部聞かせてもらうよ」

「うん。このうち、二人はほぼありえないけど、なぜこの三人なのかを順に説明していくね」

「頼む」

ちゃんと説明できるだろうか。私は息を吸い直し、思い当たる理由を順番に話していった。

「まず、蝶本先輩。当たり前だけど、この品評会を計画したのは蝶本先輩で、封筒を管理していた人間だから、まず最初に疑われるのは、蝶本先輩になるよね。文才ある蝶本先輩なら、ネタとして混入させてもおかしくないんじゃないかなって最初は思ったの」

「最初は?」

そう、最初は。私は続けて説明する。

「うん。でも、先輩との会話を思い出すと矛盾するの。確かに先輩は、出された作品は一年生のみって言っていたから。自分で決めたルールを自身が破るなんてこと、先輩がするのはおかしいかなって思って」

「確かに、ルールを決める側がルールを破ってはルールを定める意味がないね。で、二人目の藤島さん、と言うのは?」

「これも、可能性が低いんだけど、二人に図書室で相談に乗ってもらったじゃない? あの時、相川君から原稿をもらっていたんじゃないかって思ったの。相川君が麻衣ちゃんに「一作書いて欲しい」って言っていたとき、『もう読む専門でいい』って言っていたと思うの。それって、書く苦労を知っているからという意味だったんじゃないかなって。あのとき、ちょうど書き終わったときで、その言葉が出たのかなって。で、私が相談する際に相川君渡して、その後相川君が提出封筒に入れれば可能、って思ったんだけど、これも弱い説なんだ」

「まぁ、そうだろうね」

「まず、一つ。まいちゃんのあの優しすぎる性格であの作品を書けるとは、思えない。偏見になるけど、あんな作品を書く心情が私には分からないの。そして、もう一つ」

「それは?」

「今一度聞くけど、相川君は、『作品が増えること』を本当に知らなかったの? みんなの前に姿を現したとき、相川君は一番最初に『これも踏まえて協議しましょうよ』、って言い出したし。そう考えると、相川君の関与があれば、この説も可能なの。ただ、この作者当ての推理も相川君の自演ということになって無駄だから、ありえないとおもうんだけど」

私は相川君の表情を伺った。

「ああ。あれは、あくまで部長の性格を考慮した結果であって、なんらかの意図があったから言い放ったわけじゃない。もちろん、作品が増えることなんて知らなかったさ」

「それなら、完全に麻衣ちゃんの線は消えたね。麻衣ちゃんが相川君に関与しなければ成り立たない説だから。それに、麻衣ちゃんと部長の接点も考えられないし」

「では、最後の黒川が作者説というのは?」

「私たちが最初に文芸部を訪れた際に、黒川も部長に封筒を手渡していたの。その封筒が実は原稿で、一年生である黒川が投稿したのなら、蝶本先輩のルールは守られている」

正直なところ、あの黒川がこんな作品を書けるのか。そう思いながらも、私は肝となる事実をなおも打ち明けた。

「そして何より、今回の品評会に関与している人間の中で、外部の一年生は私以外は黒川しかいないということ。この説だけは矛盾をはらんでいないのよ」

次に続きます。

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