Who is the 6th writer(s)? その5
文芸部の品評会、エントリー作品が6作品に増えている。一体どういうことだろうか。部員たちはみな困惑し、頭を抱える関先輩。
そんな中、主人公、雨乃の知り合いで、部員の相川が混入作品も含めて評価すべきではと先輩に提案する。
いよいよ品評会。評読が始まったー。
エントリーされた原稿が六部に増えている。奇妙な出来事に、文芸部員たちは皆、困惑や恐怖に満ちた声を上げている。宮原先輩は、青ざめる関先輩の元へと駆け寄り、肩を撫でる。
「落ち着いて、関くん」
先ほどの、作品タイトル発表時のハイテンションが嘘だったかのように、関先輩は気を落としていた。オーバーリアクションではと思いつつも、私は教壇の上に並べられた原稿を目測で確認する。確かに六つの束が、それぞれ右端をピンで止められ、教壇の上に広げられていた。
「あ、ああ。少々狼狽してしまった。すまない、みんな」
先輩は気を取り戻しつつも、驚きのせいか、少し老けたようにもみえた。
「増えたのはどれ?」
宮原先輩が関先輩に尋ねる。
「一番上に置いてあるやつだよ」
宮原先輩が代わりに最後の原稿のタイトルを読み上げる。
「タイトルは『はなびらのように』、ですって」
あたりがざわつく中、相川君が不審そうに投げかける。
「あの。先輩方は、エントリー作品が増えること、本当に知らなかったんですか?」
先輩方は知っていたのではないかと疑問に思う反面、先輩方が嘘はつくはずがない、という半信半疑の様子が、相川君の表情に出ていた。
「ああ全く。冗談抜きで。知ってたらこんなに驚かないさ」
両手を広げ、関先輩はお手上げだと言わんばかりだ。
「ええ」
宮原先輩も即座にうなづいた。
「みんなは?」
相川君は座席側に振り向き、他の部員に問いかける。しかし、皆首を横に振った。
「…となると、知っている可能性があるのは部長だけか」
関先輩がポツリと呟くように言う。さっき、関先輩が文芸部部長である蝶本先輩から原稿入りの封筒が手渡されたのを私も見ている。蝶本先輩だけが封筒を触っていたならば、間違いなく蝶本先輩が関わっていると考えるのが普通だろう。
「うーん。どうしようか、関くん。はなちゃんは会議で居ないし」
宮原先輩は困惑した表情を浮かべ、関先輩に投げかける。
「形式は守られているとはいえ、この作品、本当に蝶本が間違って入れたんだろうか」
「いいえ、先輩。その作品が必ずしも、間違って入った作品とは限りませんよ」
相川君が立ち上がり続ける。
「関先輩の手元が見えなかったので確証はありませんが、取り出す順番次第では、一番最後の作品が一番初めに取り出されるかもしれないじゃないですか。そうなると、必ずしも最後の作品が混入物とは限りません」
「確かに。そう言われれば。そうなると、混入物はどれかというのは断定できないわけか!」
関先輩は目から鱗が落ちるかのように目を大きく見開き、相川君をみた。
「そうです。そこでなんですが、部長がこの件について知っていると仮定すると、これは、混入したものを含めて審査しろ、ということになるんじゃないでしょうか。その中から、混入した作品を当てるということも含めて」
推理ゲーム、という言葉に部員たちがざわつき始める。
「なんか、推理ゲームみたいで楽しそうだ!」
「みんなで見つけましょうよ!」
部員達も皆躍起になったようで、どうやら、皆の意見は相川君に同意のようだ。
「よし、それじゃあ相川の案で行くか! コピーしてくるから、みんな待っててくれ!」
関先輩は先ほどまでのテンションを取り戻し、教室から出て行った。
数分後、それぞれの作品をコピーしてきた先輩は全員に六作品を配布した。
「では、みんな。審査委員以外も存分に楽しんでくれ。では、雨乃さん。説明した通り、審査をよろしくたのむ!」
「はい、わかりました」
スタートの合図が出て、各々が原稿に目を通しはじめた。コピーされた作品は全てワープロで作成されており、筆跡でわからないようになっている。一ページ目には、タイトルとあらすじが最初に書かれており、表紙の役割も果たしているらしい。二ページ目以降から本文が続く形式になっている。今回は短編ということで、原稿用紙換算で十枚程度にまとめられている。話によると、作品は完結している必要はなく、今後、新聞部で掲載していく上で、どう展開するかがわかるよう、イントロのような感じにするか、世界観の大枠が見えるような形になっているらしい。一枚あたり、千字程度で、三枚から四枚分となっている。
再度、評価用紙に目を通し、評価のポイントを確認する。それと。昨日麻衣ちゃん、相川君に言われた読む三つのポイント、そしてアドバイスも思い出し、ぽつりと呟いてみる。
「描写の美しさ、物語のルールを破っていないか、メッセージ性があるか。そして、楽天的に評価する、だったね」
今一度ポイントを反芻して意識しつつ、一つ目の作品の評読に入る。
《あめふりダンシ》
『 主人公、太陽は名前に反して”超"がつくほどの雨男。ふとしたきっかけで出会ってしまった雨の精、ミーコに好かれてしまい、気づけばいつも雨の中。ミーコを引き離し、晴れ男となることができるのか!?』
主人公は雨男で、雨運を振り切ろうと必死で様々な策を練ってもがいていた。しかし、それは同時に雨の精であるミーコを嫌わなければならないことを意味していた。話していくうちに、ミーコに対する恋心も芽生え始め、主人公は葛藤する。そのジレンマを乗り越えるために、行動していく、というようなラブコメ要素の強い作品だ。
私個人としては、テンポも良く、面白い話だと思う。ただ、問題は主人公の性格が一貫しない、というところだろうか。まっすぐで強く葛藤するキャラクターなのか、それとも、なよなよしていて、人に言えない苦しみ(ミーコは主人公にしか見えない)に弱々しく苦悩してするようなキャラクターにしたいのか。両方の描写が文中に混同しており、ブレの大きさから所々違和感があるように思える。雨の精、ミーコに関してはイメージがつかみやすく、キャラクターがしっかりしていたので主人公の方向性さえ決まれば良い作品となると思う。
「描写、ルール、メッセージ。うん。こんな感じかな」
私は、読み終えて品評用紙に正直な思いを評価に書き込み、次の作品を読み始めた。
《インビジブル・シティ》
『行かなければならない。俺から全てを奪ったあの場所へー。
あるはずなのに、視ることのできない不可視都市。そこへは勝者のみがたどり着くことができる、覇者の領域だ。家族、友人、富、地位。全てを覇者に奪われた主人公は、全てを取り戻すため、今、反旗を翻すー』
マイナスからのスタートを強いられる主人公の成長と苦悩の冒険譚だ。読んだ限りでは、どんな逆境にも負けない主人公が、同じく不可視都市へと向かおうと、貶める敵と戦っていくというストーリーだ。今回は、短編に収めようとする為か、描写は敵一人と戦うところまでで、直接的な不可視都市の話があまり出てこなかったのが、少し残念なところだった。
印象に残ったセリフは『これから進む道は、茨の道なんかで済むもんじゃない。幾重もの針だけでできたような道だ。棘のない部分なんてない。そんな苦しみしかない道だ!』で、孤児院を一人去る主人公の覚悟が強く現れていた。そして、もう一つ、『欲望ごときが渇望に勝とうなんて甘いんだよ!』というセリフだ。ただ大富豪になりたくて、不可視都市を目指す、武装した輩との戦い、その決着を決める最後の一撃に主人公が、汗と泥にまみれながらも剣を突き刺し、吐いたセリフ。欲望と渇望、似ているようで似ていない両者の対比が伝わり、これもまた主人公の『絶対に不可視都市へ行くんだ』という覚悟の強さがひしひしと伝わってきた。
総評として、新聞に収めるにはもったいない作品だという感じだ。問題は新聞で連載するには長さが足りないこと。どうしても、迫力ある戦闘シーンを文字で表現するには、字数というものに縛られるのは辛いものがある。今回、戦闘シーンに文字数が多く割かれており、どの描写も省くことができない。物語自体も、連載することによって分割するには少々厳しいものがある。しっかり作品を描ききってコンクールに出す方よい作品だと思った。私は評価を書き込んだ。
《少女は祈り、花は咲く》
『病床のクラスメイトと交わした約束。
「きっと、花を咲かせて見せるからね」
少女と病床の少年の儚くも美しい一ヶ月間と、その記録ー』
まず、作品を読み終わった時に感じたのは、恐ろしいほどの没入感だったということだ。先に読んだ二作は、どちらかというと、世界観という枠の外から映画を観ている感じだったけれど、この作品は、主人公たちの側に寄り添っている。例えるなら、彼らと行動を共にする友人の一人として、一緒に見届けている。そんなその場にいるような没入感を得た。
ストーリーはこうだ。後天性の病に突如襲われることとなった少年。余命宣告をされるわけではないが、医者からは、実質の万年床宣言をされてしまう。有効な治療法が見つかるも、それは同時にこの街を離れることを意味していた。街を離れるまでのタイムリミットは約二ヶ月。少年は見舞いに来てくれている幼馴染の少女に一枚の写真を差し出し、こう依頼する。
「僕は、あの花が咲く姿が見たいー」
その花は、少年が少女とともに、小学生の頃に育てた思い出の花だった。少女は少年の最後の願いのため、奔走するのだが、もちろん時期も時期。春をまでもう少し先である二月初旬。どこにも咲いているわけがなかった。少女はその花を手に入れるため、花屋を回ったり、栽培している人はいないかと探すが一向に見つからなかった。その時、あることを思い出した。
「またいつか育てられるように、種、取って置こうよ」
押入れの奥にしまわれた「思い出のたね」と書かれた封筒を思い出し、取り出した。もしかしたら、間に合うかもしれない、と。
少女の少年への献身、その想いと思いが、精緻な文章と緻密な描写から伝わって来る。読み返してもなお、心に余韻を残す選び抜かれた言葉に、私は感動した。言葉の力が実在する、そう思わせるセリフだった。ラストの少年が病床を移す前日、小さな鉢を抱えて、少女が病室に現れた時のセリフ「咲かせたよ」と涙ながらに言うシーンは、涙が流れそうになった。そこまでに至る過程の描写を最小限でかつ、最大限に表現しているところは、すごいの一言に尽きると思う。
登場人物は少年少女の二人が主要となっており、キャラも最低限で、これなら連載しても、読みやすいし、分割しても問題無い。私は、思いのままを品評用紙に綴った。
前半の三作品を読み終わり、時計を見ると約一時間が経過していた。現在の中での順位は、やはり一番最後に読んだ作品が一番良かったと思う。技術が一回り抜けていたと思う。
前半戦の評価をきっちりまとめ終えたところで、一度深呼吸をする。思った以上に、読むことと評価することを並行するのはエネルギーを使う。軽く腕を回したのち、私は、後半第一作目の《西方冒険記》の原稿を手に取った。
つぎに続く。




