Who is the 6th writer(s)? その2
部長の命を受け、文芸部へと足を運ぶ雨乃と黒川。学ランスカートという出で立ちの文芸部部長、蝶本先輩に出迎えられる。そこには、相川の姿が。挨拶を交わすことになるのだが…。
カリカリカリ、と鉛筆が紙をリズムよく撫でる音が聞こえてくる。その絶え間ない流れはうっとりとするほど耳障りよく私たちの耳に響いてきた。相川君は机に向かい、次から次へと原稿用紙を言葉で埋める。
「彼が、相川君ですか?」
「ああ、そうだ。うちの次期エースといっても過言ではないな。おい、相川! 新聞部の一年だ。今後交流があるかもしれないから挨拶しときな。では、私はこれで。原稿のルビ振り作業が残ってるから。また何かあったら頼むな」
蝶本先輩がそう言って、席に戻っていく。と同時に、先ほどから鳴っていた鉛筆の音が止み、相川が立ち上がりこちらに向かってくる。目が合う。
「どうも、相川隼也です」
色白で、学生服の上からでも判るほっそりとした体型。しかし、どこか人とは違う、きりりと鋭い眼つき。例えるなら、飢えた猛禽類。そんなオーラを放つ彼が相川君のようだ。確かに噂通りに、高貴と言うか、ひとつ高い次元の人間という雰囲気が、彼から感じ取れる。なんだか、身が引き締まる。
「こんにちわ、相川君。新聞部一年の雨乃芽来です」
「同じく一年の黒川零介です。よろしく」
「よろしく。雨乃さんに、黒川君。どこかで名前を聞いたような…」
左手をあごに当て、相川君が考え込む。
「えっと、どこかで接点ありましたっけ、私たち」
「まさか、”国王"に名前が知られてるなんて。何か光栄だな!」
黒川は少し嬉しそうに言った。
相川君は、さっき黒川と廊下で話していた通り、国語科目に関しては誰よりも優れているので、国語王、略して”国王"と言う二つ名が男子の間では広まっているようだ。なんというか、安直で幼い二つ名だなぁと思いつつも、男子なりの尊敬の念があると思うので、あまり深く突っ込まないことにしよう。
「済まないが、そのあだ名はよしてくれ、仮にも藤島さんと争ってる身。彼女に完全勝利するまでは、恥ずかしくてそんな名前で呼ばれるのごめんだ。勝ち越しているわけでもないのに恥ずかしい。それに、藤島さんに対しても失礼だしね」
またかと言わんばかりに、二つ名を否定した。
「ご、ごめん…」
黒川は申し訳なさそうに言った。
「いや、いいんだ。分かってもらえたなら。うーん。やはり、二人に会うのは初めてに違いないが、どこかで二人の名前を聞いたことがある気がしてね。…あ、雨乃さんはあれだ。藤島さんの友人だ。そうだね?」
「よく知ってますね!」
「いつもテストの話をするとき、藤島さんがよく君の話をするものだからね。覚えていたよ。君が雨乃さんなのか。会えて嬉しいよ」
私の話題が上がっていたなんて、テストはそこそこだし、一体何の話で盛り上がっているんだろう。少し気になる。
「で、俺は誰の友達で?」
黒川が期待に満ちた目で相川君を見る。
「思い出した。確か君の名前は噂で聞いた。読書をしながら呻き声を上げる人。確か、ロダンの”考える人”と掛けて、”悶える男”だと」
「は…はい?」黒川はきょとんとした顔をする。「そんな噂流れてるんですか…」
黒川は少しがっかりした表情を浮かべる。いい噂だと思ってたのにと言わんばかりだ。
「そんな噂流れてるの? 私も知らなかった」
「だよな。それなのに相川に流れてるなんて…。誰だよ、流したやつ。まあ、少なくともクラスの誰かだとは思うけど」
「いや、こちらもすまない。私も二つ名を否定したばかりなのに、こんなことを言ってしまって」
「いいよ、その噂自体はあんまり気にしてないから。ひとつ言わせてもらうとしたら、笑い話みたいな噂になってるけどさ、実際のところ、これに関しては結構困ってるんだよね。実はさ、俺読書スランプってやつみたいで…」
黒川は相川君に、自分の抱えている”読書スランプ"のことについて話した。
「そうだったのか。それは興味深い…、いや大変だな。出来ることは協力させてもらうよ」
「そう?じゃあ、何かあったらお願いするよ」
黒川は気づかなかったようだが、今の相川君の反応はどちらかというと、心配というより好奇心のような気がするんだけど…。確かに小説のネタになりそうだもんね。
そう言えば、さっきまで机で書いていたものはどんな小説なんだろう。少し気になっていたので、私は相川君に聞いてみた。
「ちなみになんだけど、さっきまで机に向かって書いていたのって、うちの新聞に出してくれるものなの?」
「あれはネタ、兼トレーニングの為に毎日やっている十五分間の即興小説だよ。運動部と同じで、部活動をサボるとパフォーマンスは下がるだろう。だから毎日テーマや必須ワードを決めてやっているんだ。今回もアイディアが溢れんばかりに出てきてね、最近は良いペースで書けてるよ」
さすが、十五分で物語を作れるなんて、国語ができる人は違うな。感心してしまった。
「へぇー、面白そう。今日のテーマは?」
「今日は、”花”をテーマに書いていたよ」
「少し見たいかも!」
「済まないが、あくまでも”練習用"なんだ。人に見せられるようじゃないんだ。ご容赦願うよ」
「そっか。無理言ってごめんね」
「いやいや。作品ができたら、是非とも読んでくれると嬉しいよ。それまで待っててくれるとありがたい」
ここで、黒川が相川に尋ねる。
「なあ、相川。話変わるんだが、ひとつ聞いていいか? 蝶本先輩って、何で上が学ランなんだ?」
そういえば黒川の言う通りだ。先輩が出迎えてくれた時から気になっていたけど、どうして女子なのに学ランスカートなんて特殊な格好をしているんだろう。
「あれか」相川君は奥の座席に座る先輩のほうへ振り向く。「先輩の小説の登場人物で、年中、学ランのキャラクターが居るそうだ。で、登場人物の気持ちになる為に、幼馴染から借りているらしい。一種の役作りというやつだ」
のめり込むことが小説づくりでは大事なのかな。蝶本先輩はたまにペンを止めて、ポーズをとっては書き、自分の役に入り込んでる。
「なるほど。面白い先輩だな」
「他にも面白い部員が居ていい刺激になっているよ。機会があれば紹介するよ」
「それは楽しみだね。ぜひとも」
「ああ。じゃあ、この辺で僕は執筆に戻らせてもらうとするよ」
「私たちもこの辺で。またね、相川君」
「ああ、また」
こうして、お使いと挨拶を無事に終えた私たちは文芸部を後にした。
それから約二週間後、再び、部長から私の元に連絡が入った。なんでも、文芸部の作品が上がったから是非とも私に見に来て欲しい、と文芸部部長、蝶本先輩から要請がかかったらしい。なんでも、せっかくの機会だから審査もやってみないかとのことだった。私なんかでいいのだろうか。詳しくは、当日に部員の方から話してもらえるとのことだった。
しかし、国語は少しできるくらい、授業の成績などで評価をされることはあっても、評価したことなんてない私がいきなり審査なんて…。少しおこがましさを感じるし、恥をかかない為にも、少し情報を入れて予習しておく必要があるかな。私は行動に出た。
ラッキーなことに、私には麻衣ちゃんという心強い友人がいる。国語の好成績はもちろんのこと、読書もよくしているし、確か昔、読書感想文で賞をもらっていた。麻衣ちゃんなら、物語を読む”コツ”を知っているだろう。私の周りではピカイチだと思う。
作品審査会は金曜の放課後。私は麻衣ちゃんに相談に向かったのだった。
その3に続きます。




