Who is the 6th writer(s)? その1
部長の命を受け、文芸部の部長を訪ねることとなった雨乃と黒川。文芸部には国語学年ツートップのうちの一人、相川隼也がいるという。果たして、どんな出来事が巻き起こるのか。
チャイムが授業からの解放を告げる。クラスメイトは、身体に溜まった疲労をため息として吐き出したり、背伸びをしたりした後、ある者は帰路のための準備、またある者は部活の準備を始めた。
今日は新聞部の活動日…ではないが、部長から頼まれた依頼の為、文芸部を訪れることになっている。私は、同行する黒川の席へと向かう。
「準備できた、黒川?」
「ああ、大丈夫」
黒川は身支度を整えており、立ち上がる。手には、ノートより一回り大きな茶封筒を抱えている。
「その封筒、どうしたの?」
「ああこれか」黒川は封筒に視線を落とす。「部長から文芸部の部長に渡すよう言われた」
「そうなんだ。重いの?」
「いや、そんなに。数十枚程度の重さだよ」
ふと目が合う。黒川の目の下には、はっきりとクマができていた。
「ちょっと。その目、どうしたの?」
「小テストの勉強やら何やらで寝不足。大したことじゃないさ」
確かに今日は数学、古典、そして英語と小テストの多い一日ではあったが、そんなにヒドイというほどの量ではなかったと思うんだけど。…ああ。自分の尺度ではそうだけど、黒川は古典、そして英語が苦手だって言ってたし、そう考えると大変か。私は納得する。それに、小テストの結果は成績にも反映される。手は抜けないから頑張ったのだろう。
「それはそれはご苦労様。で、手応えはどうだったの?」
「…思い出したくないね」
その半開きの目は、言わずとも結果を物語っていたのだった。
黒川とともに、文芸部の活動教室となっている生徒棟二階の第六選択教室へと歩みを進める。私もたまに選択授業で使ったりしている教室だ。しかし、教室からそこそこ遠いので、休み時間には早めに移動しなければならず、普段であれば面倒な教室だ。
「なあ、雨乃。確認なんだが、文芸部ってのは、小説とか文芸作品を自分たちで創作する部活、って認識でいいんだよな?」
「うん。文章を書く、っていうところが私たちと共通しているね」
「そうだな。で、今日はそこの部長に依頼内容を確認する、と」
「部長から荷物を頼まれてるのに全然聞いてないのね。そうよ。うちの部長が、向こうの部長と仲が良いらしくてね。今日は忙しいから、代わりに内容確認してきて欲しいって話」
「確認ならさ、俺要らないよな。これ、持って行ってくれないか? 読みたい本もあるし。どうせ俺が居てもそんな役には立てないだろうし」
黒川がポケットから本を取り出そうとする。
「黒川が頼まれたんでしょ。責任持ってアンタが持って行きなさい。それに、読書スランプで長く読んでいられないんでしょう? 時間あるんだし、いいじゃない」
「そう言われると何も言えないなぁ」
黒川は痛いところを突かれたようで、しょぼんと項垂れた。
生徒棟に着く頃、黒川は一人でブツブツと何か言い始めた。
「文芸部、文芸部…」
何かを思い出そうとするように、一音一音に力を入れて発話する。
「どうしたの?」
「文芸部って、なんか聞いた事なかったか?」
「私は知り合いもいないし、ないよ」
「あ、思い出した。そういえば、文芸部といえば、アイツ、文芸部じゃなかった?」
「アイツ?」
「相川、相川隼也だよ。藤島と双璧をなしている、国語学年トップの」
「あ、あの人か」
相川隼也。その名前は私も何度かすでに耳にしたことがある。いや、目にもしたことはあるか。私の学校ではテストの際に、上位二十位までが掲示板に張り出される。そこで、麻衣ちゃんこと、藤島麻衣と相川君はいつも一位と二位に名を連ねて争っていて、学年でも有名になっている。
噂によると、相川くんは勉強に対してなかなかのプライドの持っているらしく、なかなか打ち解けにくい性格だと聞いている。もし、しゃべることになったら大丈夫かな。マンモス校というだけあって、名前だけが先歩きすることが多く、顔自体は見たことがない。先入観だが、メガネをかけて、いかにも真面目な感じの男子って感じなんだろうか。
「個人的には、部活でどんな感じなのか気になるところだな」
黒川が言う。
「そうね。四六時中勉強してる真面目タイプなのかな」
「まぁ、今日居るかも分からないんだけどな」
会話をしているうちに目的の場所へとたどり着く。
「ついた。ここね」
ドアを叩く。中から、どうぞと言う声が聞こえたので、ドアを開ける。
「失礼します。新聞部一年の雨乃なんですが、部長さんいらっしゃいますか?」
そういうと、奥に座っている学ラン姿の人が立ち上がった。
「はーい。私よ」
「ん?」
私と黒川は顔を合わせ、首をかしげた。今、学ラン姿の男が立ち上がったはずなのに、女の声が聞こえた。私は目を見開く。その部長らしき人物が近づいて、その顔立ちから女だと言うことが分かった。学ランにスカートといういでたち。どういうことだろう。
「はは。その顔はびっくりしているみたいね。なんで女子生徒が学ランを着ているのかってね。その話はさておき、私が文芸部部長の蝶本華よ」
学ラン、スカート姿とは対照的に、凛々しさを持った顔、そして、上半身の学ランのから幅とは対照的に、スカートから伸びる長い下腿と、モデルのようなスタイルのよさ。なんとも謎に満ち溢れたこの人が、文芸部の部長、蝶本先輩らしい。
「あの、部長から仰せつかったものを持ってきました。こちらは、内容の確認書類です」
「ああ、マコからの。ありがとな。どれどれ…」蝶本先輩が文書に目を通す。「なるほど、そういう方向に落ち着きそうなのか。ありがとう」
マコというのは、どうやらうちの部長のあだ名のようだ。
「あ、俺も。これも、部長から」
黒川が部長に例の大きな茶封筒を手渡した。
「どれどれ。ああコレか。ありがとう。こっちは後で読ませてもらうよ」
黒川の書類を机に置くと、まあその辺に座ってくれということで、席に着いた。
「あの、私たち、詳しい内容は完全には把握していないんですが、一体何についてなんでしょうか?」
部長からは書類の不備や、追加事項があるか聞いてきて欲しいと言われただけで、実を言うと私自体も内容までは部長から言及されていなかった。
「そうか、まだマコから聞いていないか。まあ、簡単に言えば私たち新聞部とコラボしないか、と言う話だ」
「コラボ…ですか?」
「そう。もともとマコと私は幼馴染で仲が良いからな、前々からお互いの部活の話で、話を咲かせることが多くてな。この前、それがきっかけで、お互いの刊行物で何か出してみないか、と言う話になったんだ。第一弾として、新聞部の出している新聞に文芸部から連載モノの短編を出そうと言う話になったんだ」
「そういうことだったんですか。知りませんでした」
「ということは、蝶本先輩が書く、と言うことなんですか?」
「そこなんだが、単に私がやっても面白くないだろう。だからうちの一年に無記名でそれぞれ一本出してもらって、上級生で投票して決めようか、と言う話にしているんだ。その方が、うちの部員も気合が入るし、いい作品が出るだろう。一石二鳥の企画ってわけだよ」
「それは良いですね。ちなみにエントリーは何作品の予定なんですか?」
「一応、今のところ全員出すように言ってるから、五作品を予定している。ほら、そこに居る相川も出品するぞ」
蝶本先輩の指差す方向には、一人の男子生徒が机に向かって黙々と原稿用紙を埋めていた。私たちは、相川君と始めて顔を合わせることになったのだった。
その2に続く。




