キミのいた跡 その4
謎の切り株に対する紺野先輩と雨乃の推理はひと段落し、それぞれまとめに入った。遅れていた住職もやってきて、謎は解決編へと動き出します。
私たちがおばあさんと会話したのち、座敷で推理のまとめに入ってからしばらくすると、蓮田さんが、先ほどの写真で見た袈裟姿の男性を連れてきた。彼がこの寺の住職さんだろう。
「おまたせしました。住職の蓮田 譲治です。すみませんね、遅くなりまして」
深々と住職さんが一礼する。私たちは、恐れ多く、慌てて立ち上がって否定をする。
「いえいえ、わざわざ忙しい時に時間を取っていただいて、こちらこそ恐縮です。私がお電話させていただいた、大々牙象高校新聞部二年の紺野と言います」
先輩が深々と一礼する。
「同じく…」
先輩は、手のひらで私を指す。
「同じく、一年生の雨乃と言います。宜しくお願いします」
私も綺麗に四十五度の礼をする。
「これはこれは、どうもご丁寧に。よろしくお願いいたします。それで、このお寺についてお話を聞きたいとのことで?」
「実はですね、その前にお聞きしたいことがありまして」
先輩が、恐る恐る会話に分け入る。
「ええ、何なりと」
にっこりと笑顔を浮かべる住職さんに、先輩は、ふぅと深呼吸を一度する。
「実は私たち、住職さんがいらっしゃるまで推理大会をしてまして」
「推理大会、ですか?」
「そうなんです。あちらの、切り株についてなんです。色々と不思議な切り株だったので、二人で何なのか、推理してたんです」
「ああ、あちらのですか。確かに、見ず知らずの人が見たら、不思議ですものね。何だか分かりましたか?」
にこっと微笑み、興味をもってもらえたことが嬉しそうな表情を浮かべている。
「一応まとめましたので、住職さんに教えていただく前に、私たちそれぞれの推理を聞いてもらえたらなって思いまして」
「ええ。もちろんお聞きしますよ。そういうの、私も好きなので」
住職さんの了承が得られたようなので、推理大会の解決編を始めることになった。
「じゃあ、芽来ちゃんは自信ありそうだし、私から行くね」
「え、こういうのは後輩からじゃないんですか?」
「実はさ、言い出しっぺだけど、結論に強い自信がなくてね。ちょっと論じるには証拠と推測が弱いから先に言わせてもらおっかなって」
紺野先輩、自分からやりたいって言い出したのに、いざ推理となると強い自信ないからって先がいい、なんてちょっとずるいな。私は少し苦笑いを浮かべた。でも、先輩がそう言うなら仕方ないので、順番を譲る。
「わ、わかりました。では、先輩からどうぞ」
「では、私の推理から始めさせていただきます」
そう言うと、先輩は立ち上がり、一礼をした。
「おぉ〜、楽しみですね」
住職さんもノリが良く、拍手なんかしている。少し先輩の表情がこわばった。
「まず、結論から言いますと、あの切り株は、昔、有名な木だったんだと私は推測しました。キミさんというおばあさんが丹精込めて育てたその木は美しく、そのため多くの人々が一目見ようと、足を運んでいました。
しかし、悲劇は起きました。木が何らかの影響、すなわち落雷とか病気等であの木は折れてしまい、切断を余儀なくされてしまいました。そして、あの切り株が出来上がったのです。
あの美しかった木に対する信仰、そして過去の知名度の高さは、未だにやってきてお賽銭する人が居て、硬貨が切り株に散らされていること読み取ることができます。さっきも参拝に来る人もいました。
そして、猫たちがあの切り株に集まる理由ですが、あの木からはマタタビと似た匂いや分泌があるためではないでしょうか。私も、あの切り株からいい香りを感じましたし!
あの切り株の断面にあった穴は、何かを固定するために開けたものだと考えます。例えば、…そうですね、注意書きとか。よく人間も動物も集まる場所ですからね、なんらかのトラブルがあってもおかしくありませんし。
最後に、冒頭で紹介したキミさんについてですが、それはズバリ、言わずもがなこの人です!」
そう言って紺野先輩が指差したのは、横に置かれた写真たての、先ほどの猫を抱えた住職と、老女の写真だった。おお、と住職が声を上げる。
「この、猫を抱えたこの女性がキミさんだと考えます! この人が美しかったあの切り株を育てた張本人で、それを祝福するイベントの際にこの写真を撮ったのではないかと思います。
以上が私の推理です」
先輩は礼をする。私と、住職さんは拍手をした。
「ど、どうでしょうか。住職さん?」
「面白い、いい推理です」
うんうんと腕を組んで住職さんは頷いている。
「で、合ってるんですか?」
「そうですね。部分部分、良い所を突いていましたが、残念ながら不正解ですねぇ」
「そうですかぁ…やっぱり」
先輩はうなだれ、膝をついた。
「…じゃあ私の推理はここまでにして。芽来ちゃんのターン、始めてちょうだーい」
ショックで低くなったトーンで紺野先輩は言った。
「は、はい」
私は立ち上がる。
「では、始めます。まず、最初に。先輩も想像で言っていましたが、あの切り株がなぜ切られたのか、そこは判断しかねます。なので、私は切られる前の木だった状態からの推測は除いて、切られた後のあの状態、すなわちお金が散らばり、猫の集まって酔っ払う切り株の状態を推測すること前提に話し進めさせてもらいます」
一つずつ確認を取って話していくやり方が良いかもしれない。私は、住職さんに尋ねていく。
「まず、分かったことから言います。キミさんというのは「猫」のことですよね、住職さん?」
「ご名答、正解です」
「よかった。…そう、キミさんという猫がいました。そして、キミさんはもういないということ。これも合っていますか?」
「おぉー、よくお分かりで」
「そして、キミさんはあそこの切り株の上にいつも居て、ある種の招き猫のような存在だったのではないでしょうか。そう考えれば、いろいろと説明がつきます」
「説明っていうのは何、芽来ちゃん?」
「まず、切り株の上に撒かれた小銭です。あれは、キミさんへのお供えみたいなもので、いなくなった今も、キミさんを偲んで置いていく人がいるんじゃないかと。そして、その風習は、切り株に備え付けられた「賽銭箱」があったころの名残で、賽銭箱を固定するための穴が、あの切り株の断面に開いた赤サビの穴だったんじゃないでしょうか。キミさんがいなくなってからは時間が流れて、今の散らばった形でお賽銭をしていくという形が定着したと考えます」
「なるほど、それなら確かに納得いくかも!」
「そして。なぜ、あの木の周りでは猫が集まり、酔うのか。それはもちろん、ここまでの流れから分かると思います。あれは、住職さん。あなたが仕組んだマタタビが理由ですね」
住職さんを見ると、頷いた。
「なぜ、マタタビを撒いているのか。私たちは最初、猫の愉悦のために撒いているものだと思っていましたが、謎が解けた今、そうではないことが分かりました」
「それって、もしかして」
先輩もどうやら分かったようだ。
「そうなんですよ、先輩。あれは猫を呼び寄せて、あることを起こす、いや正確には猫にある行動を起こしてもらう為の住職さんの作戦です。それは、キミさんのように、あの切り株の上で再び招き猫となる猫が現れて有名となるように、猫たちにあの場所を良い場所として刷り込ませる為です。そして、もう一つ理由がありますよね?」
「…そうですね」
少し、住職さんは悲しい表情を浮かべた。
「もう一つは…。住職さんが何もいなくなってしまったあの場所が寂しかったからではないでしょうか。この寺を、あの切り株からいつも見守っていた猫がいなくなってしまい、ポツンと誰も集まらない切り株となってしまったことが。だから、賽銭箱も撤去はしていますが、第二のキミさんが現れ、寂しい場所ではなくなることを未だに望んでいて、あの切り株の周りにマタタビを撒いているんではないかと私は推測します。
…以上が、謎の切り株の全容です」
二人の推理を終え、住職が語る真実とは。次回完結です。
すみません、長さの関係で次のその5で完結となります。ご容赦ください。




