【閑話2】からかわれる主君(※譲治視点)
「やったね譲治ぃ~、「旦那様」だって~。」
「お前が言い出したんだろう……。」
せっせと主人の寝支度を整えながら、日正は愉快そうに譲治へ語りかける。からかわれたことに譲治は眉を顰め、低い声で答えた。
「良音サマはまだまだ、この婚約に実感湧かないだろうからね。ちょっとした後押しになればいいなと思って。」
「白々しい…………どうせ、俺の反応を見て面白がりたかったんだろう。」
「それもあるけど。でも譲治だって満更でもなかったじゃん、わかりやすく赤くなっちゃってさぁ。」
「────ッ、俺はもう28歳で良音殿はまだ18歳だ!十歳も離れた相手に「旦那」と呼ばれて、冷静に受け止めるほうが難しいだろう!今回は事情が特殊なだけで、普通なら犯罪だ犯罪!!」
「なるほどね、若い子に呼ばれて舞い上がっちゃったんだ。」
「舞い上がってない!!罪悪感だコレは!」
カッとなって文机を叩く譲治に、日正は怯んだ様子もない。ケラケラと笑いながら布団を敷き終えて、自室に帰るべく動く。
「僕としては、素直に舞い上がっちゃっても良いと思うけどね。」
少し真剣味を帯びた声に、譲治は机から日正へ視線を移す。
「君は裏戸家の跡取りとして教育を受けて、完璧な当主になった。為政者として合理的かつ機械的に、妖術師を管理する『機構』であろうと徹底している。君のそういう生真面目で頑固なところは、上に立つ者としては長所だ。でも幼い頃からずっと君の隣にいた僕は、ちょっとくらい“緩さ”も残してて良いんじゃないかなと思うわけ。良音サマは、君が心安らげる相手になれそうな気がするよ。」
「………………お前が言うなら、そうなんだろうな。」
物心つく頃から隣にいた2人である、お互いの事情も在り方も理解している。ただ純粋に主人の重責を憂う日正の言葉に、譲治は曖昧に返すしかない。為政者としての在り方を受け入れ、機構に徹することに決めたのは自分自身であるがゆえに。日正も譲治の覚悟は理解しているが、それと『友人を心配する気持ち』は別のもの。
「国を変えることは難しいけどさ、お嫁さん一人の幸せまで犠牲にしないでね。」
「肝に銘じておく。」
「そ。じゃ、おやすみ~。」
「あぁ、おやすみ。」
退室する日正を見送りながら、譲治は彼の言葉を噛み締めていた。




