6.裏戸家での朝
慣れない部屋でしっかり休めるか心配していたが、逆に暖かい布団でぐっすりと眠れてしまった。当然だ、今まで寒い屋根裏部屋の薄い布団で寝て生きてきたのだから。初めて経験する『人並みの就寝』に、翌朝はすこし寝坊してしまった。
掃除の行き届いた清潔な部屋で目を覚まし、本当に生きる環境が変わったことを実感する。
「失礼しま~す……あっ、良音さま御目覚めですか!おはようございます!」
「おはよう花音。ごめんなさい、少し寝坊してしまったみたいで。」
「謝ることないです!お疲れだったんですから…………それはもう、ずっと。」
目を潤ませながら身支度の手伝いをしてくれる花音に、胸が熱くなった。譲治様────旦那様は、既に朝食をとり始めているらしい。初日から寝坊なんてみっともないけれど、それを頭ごなしに叱られない環境に心は凪いでいた。
「おはようございます旦那様、遅れてしまい申し訳ございません。」
「おはよう、先に頂いているぞ良音殿。そう畏まり過ぎるな。」
「……はい。」
先に朝食を食べ始めていた旦那様の向かい側に座り、一汁三菜が揃った献立にたじろいでしまう。ずっと、使用人が適当に買ってきた菓子パンや、家族の残飯で命を繋いできた。あまりの落差に、動揺が隠し切れなかった。
「ど、どうした?体調が優れないだろうか。」
旦那様を驚かせてしまった、申し訳ない。私は必死に自分を落ち着かせて、事情を話す。
「いいえ…………申し訳ございません、こんな、しっかりした食事は学校の給食以来で、つい。」
「────。」
今度は彼を絶句させてしまった。私のことを調べていたとはいえ、こんなこと言われたら誰だってそうなる。余計なことを喋ってしまった、反省しながら姿勢を正す。
「すみません、御心配をおかけしてしまって。」
「…………いや、謝ることではない。お前の事情を考慮すれば、十分想像できる話だった。それよりも、急に食事の量が変わっては胃に負担がかかるかもしれない。残しても構わないから、食べられる分だけ食べなさい。場合によっては、粥を用意させよう。」
「そんな…………いえ、お気遣い、ありがとうございます……」
私に対して、こんなにも穏やかに話をしてくれる旦那様。涙が流れそうになるのをぐっとこらえて、箸を手に取った。




