5.裏戸家の従者たち
婚約成立で話が決まった後、私は譲治様から従者の皆様の紹介を受けていた。
「この軽薄な男が、側近の合口日正だ。」
「合口…………長年、裏戸家にお仕えしている家系の方ですね。」
「知っていたか。」
小学生ぐらいの頃、妖術師の主立った名家の名前は覚えさせられた。後々『接待』を押し付けられるようになってから、このためだったと理解した。覚えられなければ暴力が待っているので、必死に勉強したものだ。
「日正は主に、俺の秘書として傍について貰っている。合口家の稼業は裏戸家のための『諜報活動』でな、今回も良音殿や大上家について調べさせてもらった。」
「花音ちゃんが居たから簡単に済んだけどね~、よろしく婚約者サマ。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
「次に…………良音殿の案内を頼んだのが、百乃木一四。当家の家政婦長で、櫻井たち女中のまとめ役だ。」
私を部屋まで案内してくれたのが、家政婦長さんだったらしい。花音の上司である彼女は、丁寧に「百乃木でございます。」と挨拶してくれた。
「女中達にも、良音様の事情はお伝えしております。ですので旧知である櫻井を、良音さま専属のお世話係として就けたいと考えています。よろしいですか?」
「まぁ……!願ってもないお言葉です、お気遣い頂きありがとうございます。」
「ありがとうございますっ!精一杯務めさせていただきますっ!!」
百乃木さんの嬉しい申し出に頷くと、花音も満面の笑みを浮かべてくれる。コソコソ隠れずに堂々と、花音と一緒にいられる日がくるなんて。
「他の女中たちまで紹介していては時間が足りませんから……櫻井、すれ違うことがあればご紹介して差し上げてね。」
「はいっ!お任せください!!」
浮かれた調子で返事をする花音に百乃木さんは苦笑するが、そこに軽蔑の感情は見られない。大上家では常に周囲からキツくあたられている姿しか見なかったから、つられて私も嬉しくなった。お父様としては裏戸家との繋がり欲しさと私の厄介払いを兼ねて用意した縁談なのだろうけど、予想外に私も平穏な生活を手に入れられそうだ。
「さて、今日のところはここまでにしよう。良音殿も山奥までの移動で疲れている筈だ、お部屋に案内してやりなさい。」
「はい、御館様!」
「婚約や詳しい役割についてはまた明日から、順番に説明させていただこう。今日はゆっくり、長旅の疲れを癒してくれ。」
「お心遣い感謝いたします、えっと────」
「好きに呼んでくれて構わない。」
「ちょっと譲治ぃ!それだったら、結婚するんだし「旦那様」って呼んでもらいなよ~!ね?花音ちゃんもそう思わない?」
「そうですね!日正くんの言う通りです!!」
「おい……」
「えぇっと…………」
日正さんと花音に詰め寄られるのを、譲治様が慌てて制す。私はどうしようか少し考えて、意を決して呼吸を整える。
「だ……旦那様と、お呼びしても…………?」
「────!!」
口を開けて驚く譲治様に、私は「いきなり過ぎただろうか」と心配になる。でも顔を逸らした彼の耳が赤らんでいるのを見て、杞憂に終わった。
「っす、好きにしてくれて、構わん……。」
そう言って────旦那様は、頷いてくれた。
「うっひょー!譲治が照れてる!SSRだよ!!」
「よかったですね御館様っ!!」
「こら!!御館様をからかうんじゃありません!!」
はしゃぐ従者2人と、たしなめる百乃木さん。三人の声が、なんだか遠くに聞こえるような心地だった。




