1.邂逅と再会
森を抜けた先に現れた裏戸邸は、絵に描いたような『武家屋敷』の姿をしていた。大きな門をくぐったところで、ようやく車が停まる。車を降りて姿勢を正し、運転手さんが玄関まで荷物を運ぼうとするのを丁重に断った。たいした量もないし、この立派な屋敷の奥様になれる可能性はゼロ。実家にいた時と同じように、謙虚さと低姿勢を崩すべきではない。
玄関の前では、使用人の代表らしき女性が待っていた。
「お待ちしておりました、大上良音、さま…………?」
「はい、わたくしが大上良音でございます。」
自分で荷物を持ち古びた服を着たみすぼらしい女が、とても大上家のお嬢様だと信じられないのだろう。狼狽える女中さんに、私は大きく頷いて返す。女中さんは慌てて「申し訳ございません」と謝りながら、屋敷の中へ入るよう促してくれる。その際も荷物を預かると申し出られたが、こちらも丁重にお断りした。女中さんをさらに動揺させてしまったが、客人として振舞う気にもなれない。客間であろう一室に通され、当主様が来るまで座って待つよう促される。女中さんが部屋を離れ一人になり、さて座るべきか否かと思案して、立って待つことにした。
数分と経たず、低く「入るぞ」と声をかけられ襖が開いた。
入ってきたのは、黒の着物と羽織がよく似合う美しい男性。もう一人、お付きの方らしき青年も続けて入ってくる。当主様らしき男性は立ったままの私に目を見開き、お付きの青年が「あはは!」と笑い声をあげた。
「調べた通り、“妹”のほうが来たよ譲治!」
「そのようだな…………事情は聞いている、座りなさい。」
「事情……?」
「ほら、君も早く入ってきなって。」
青年が部屋の外へ声をかけると、おずおずと若い女中さんが顔をのぞかせる。見覚えのある顔に、私は驚いて目を見開いた。
「花音……!?」
「お久しぶりです、良音お嬢様。お元気そうで、なによりでございます…………!!」
その若い女中の名前は、櫻井花音。
実家で唯一、私に優しさをくれた使用人。でも私に優しくしたせいで、使用人をクビになってしまった人。そんな彼女が、どういうわけか裏戸家の女中になっていた。




