第34話:【飽和】重なり合う悲鳴と絶望の楽器
本日も、絶望の深淵へようこそ。
第34話では、魔女の「審美眼」がさらに歪んだ方向へと進化します。
異界から訪れた代行者たちの魂を汚し尽くしたリアナは、次に彼らを「個」として扱うことさえやめ、神殿に響く「音」の一部へと変貌させます。
肉体を楽器とし、神経を弦とし、悲鳴を旋律とする。
もはや人間としての尊厳など微塵も残らぬ、文字通りの「器」としての末路。
魔女が指揮を執る、世界で最も残酷で美しい合奏が始まります。
神殿の広場には、今や見るに堪えない、だが魔女の美意識が凝縮された新たな「装飾」が施されていた。
かつて高潔な正義を叫び、リアナを浄化しようと目論んだ異界の代行者たちは、いまやリアナの手によって神殿の太い白亜の柱に生きたまま埋め込まれ、その皮膚を丁寧に剥がされて神経系を剥き出しにされていた。
彼らの背骨、指先、そして脈打つ臓器からは、銀色の魔糸が幾条も伸び、天井から吊り下げられた漆黒の鐘や、壁に配置された歪な骨のパイプへと複雑に繋がっている。
「アスタロト、聞いて。この子たちの魂は、混ぜ合わせるとこんなにも澄んだ音がするのよ。純粋な『光』が、泥にまみれて濁っていく瞬間の、最高に贅沢な不協和音を」
リアナが空中に浮かぶ一本のタクトを振るうように指先を軽く弾くと、魔糸が一斉に振動し、柱に埋まった代行者たちの喉から、人間のものではない「音」が漏れ出した。
それは、複数の人間の悲鳴を強制的に音階へと組み替えた、狂気の旋律。
一人が苦痛に顔を歪めれば、その神経の震えが糸を伝って隣の者の痛みを増幅させ、絶望が連鎖して一つの巨大な、そして悍ましい「合奏」を構築していく。
「あ、あぁ……ッ、あ……お、おぉおぉ……!」
かつてのリーダー格の男は、いまやその喉に魔女の呪骨を埋め込まれ、生きた「管楽器」へと改造されていた。
彼が恐怖に喘ぎ、呼吸をするたび、肺から溢れ出した血が気道を通り、この世の終わりを告げるような、低く重苦しい重低音が神殿全体を震わせる。
彼自身の意志で声を出すことはもう許されない。
彼はただ、リアナが望むリズムに合わせて、自分の肉体が奏でる苦痛の調べを、耳の奥から直接聴かされ続けるだけの「部品」に成り下がっていた。
「……あ、あはは! お姉様、この曲、大好き! もっと、もっと強く叩けば、もっと真っ赤で綺麗な音がするよぉ……っ!」
エルナは、柱に埋まって動けない男たちの剥き出しの腹部に、毒華の蔦を執拗に叩きつける。
その蔦は打撃のたびに彼らの肉に食い込み、神経を直接刺激する。
衝撃が走るたび、楽器となった彼らの指先や爪先から、火花のように魔力の残滓が飛び散り、神殿の冷たい床を鮮血と光の破片で彩っていく。
エドワードもまた、その肉塊のような巨体を波打たせ、彼らの「音」に合わせて床を這い回り、己の肉が床に擦れる湿った音で、歪な拍子を刻んでいた。
「復讐とは、ただ相手を物理的に壊すことではなく、その存在のすべてを私の快楽のための『機能』に変えてしまうこと。彼らは死ぬまで――いいえ、死なないこの世界で永遠に、私を愉しませるためだけの調べを奏で続ける消耗品なのよ」
リアナは玉座に深く腰掛け、瞼を閉じてその地獄の合奏に身を委ねた。
一人の悲鳴ではもはや足りない。数千、数万の魂が重なり合い、絶望が物理的な密度を持って飽和したその先にこそ、彼女が真に求める「完璧な静寂」が存在するのだ。
天界の空は、絶え間なく奏でられる悲鳴を吸ってさらに深く、どす黒く淀んでいく。
世界の理は、魔女の指揮棒一つで、より凄惨な、より美しい「完成」へと一歩ずつ近づいていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第34話、リアナの虐待はついに「芸術」の域へ達しました。
代行者たちの肉体と魂を完全に解体し、神殿を彩る「楽器」へと作り替える。自分の悲鳴が、自分をさらに苦しめる音楽の一部になるという、逃げ場のない閉鎖的な地獄。リアナの帝国は、いまや視覚だけでなく「聴覚」までもが絶望の旋律で支配されています。
次回、第35話:【共鳴】地上の王たちの震えと魔女の招聘。
天界から鳴り響くこの狂気の音楽は、地上に住む生き残りたちに、どのような恐怖を植え付けるのか。
そして、リアナが次に呼び寄せる「観客」とは誰なのか。
引き続き、評価やブックマークで、この終わらない断罪劇を見届けてください。




