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風使いのイタチ三人衆

死神の屋敷どころか魔界に鍵という物が存在するわけがない。その代わりに、死神は自身で創り出した魔法陣───冥界へ(インヴァイト•トゥ•)誘う(ザ•アンダーワールド)を仕掛け誰も近づけない様にしていたのだ。何度か引っ掛かった奴も居り、魔法陣の威力は知れ渡っている筈なので命が惜しい物は近付こうとはしないだろう。

だが、それすら関係なく中に入れているという事は死神の死と共に魔法陣も消えて無くなったのだろう。


「扉が開かない、という事は」

「もう既に誰かの棲家って事か」


弧狛の言葉に酒呑童子が続けて話すと屋敷を睨みつける。

ただの物取りなら誰か居るとバレない様に獲物以外には無闇に触れたり小細工をしたりなんてしないはずだ。それに、すぐ逃げられる様に逃走経路の一つである出入口を封鎖したりはしない。そうなると考えられるのはただ一つ、今も感じる三つの妖気がこの屋敷の主人だと言う事。


「仕方がない、俺の部屋から行くぞ」

「そこからなら入れるのか?」

「俺なら入れると思う」


死神の部屋───そこは死神が生前長く過ごした場所であり、最後を遂げた場所でもある。

 

死を誰にも邪魔されたくなかった死神は自分にしか解く事が出来ない結界を自身の部屋に張り、思い残す事なく眠りについた。結界も魔法陣と同じく消えて新たに閉められているかもしれながセフルが生きているので死神の妖気が一番強く残っているであろう自身の部屋もそのまま残っているではないかと考え、近くに生えていた木を伝って正面から見て左側に設置されたバルコニーに三人で降り立つと幸はそっと窓に手を添える。

 

「……やっぱりこの部屋には誰も入ってないようだな」


微かに幸の中に残っている死神の妖気に反応した結界は瞬時に消え、窓が静かに開く。

中に入り部屋を見渡すと、埃一つない綺麗なままだった。懐かしさに浸っていると暖炉の方を向いて置いてある椅子に目が止まり思い出す。

確かここで死神は最後を遂げた─── 気がする。

死の瞬間だけ記憶が薄れているが気になるという事はやはりここで死んだのだろうか。そう思うと居ても立っても居られず自分の死骸がまだ残っているのではないかという考えが頭を過ぎる。死んだ自分を見るのは何とも不思議な感覚だが見てみたいという好奇心は大いにあった。

唾を飲み込み、幸はゆっくりと椅子に手を伸ばす。


「そりゃそうだよな、」


椅子の引き、自分と向き合う様に位置をずらしたが座面には何も無かった。

やはり人間の様に火で弔わずとも霊魂が亡くなった魔妖怪は存在しなかったかの様に全てが消えて無くなってしまうと言う事だ。自分の屍と対面する事が出来ず安心した様な悲しい様な感覚に陥る。


「ここにはいない様ですし場所を変えましょう」


孤狛の言葉に意識が椅子から逸れ、ここに来た目的を思い出す。幸が考え事をしている間に酒呑童子と孤狛は部屋の中を探していた様だが居ないと判断したのか部屋を移動しようとしていた。それに大人しく幸も後を続く。


「やっぱアイツらの所なんじゃねえの?」

「恐らくそうでしょうね」


死神の部屋に居ないとなると屋敷に住み着いている奴らに捕まっている可能性が高い。だとすると、今気配を強く感じる一階の大広間に居ると考えた幸は中央ホールに設置してある二重階段を警戒しながら降りる。

その途中で目に入った何も置いていないホールに今更ながら物寂しさを感じてしまった。この屋敷はただ雨風が凌げられれば良いという気持ちだけで創り出した建物で特にこだわった点はなく人間が持っていた本の中に書かれた屋敷をイメージしただけにすぎなかった。

その証拠に中身の家具は必要な物以外は無く、装飾類に関しては一切置いていなかった。この殺風景ぶりに死神だった頃は本当に人間の醜さ以外興味がなかったのだと改めて痛感した。

今の幸なら何を置くだろうかと考えているといつの間にか一階に着いていた様で酒呑童子と孤狛は二重階段の間にある大広間の扉の前まですでに足を運んでいた。


「この部屋ですね」

「あぁ、開けるぞ」


両扉の片方に手を添えて音を立てない様に押しながら中の様子を確認すると物の配置も幸の記憶にある限り特に変わった様子はなく二階部分もふんだんに使った円形の空間があるだけで一見誰かが居る様子はないが、妖気は明らかにこの部屋から感じる為、気を抜かぬ様伝えると酒呑童子がもう片方の扉を開けて中に入る。

妖気を警戒しながら三人でセフルを探していると───


「ネズミが入り込んで来たよ」

「良く入れたものだな」

「ど、どうするの……っ!」


余裕そうな男女の声と弱々しい男の子供の様な声が聞こえてくる。明らかに自分達ではない声色に一体何処から発せられた物なのかと声を頼りに顔を上げると二階部分の高さに設置された細い通路の上に見えた三つのシルエットに弧狛は口角を上げる。


「なるほど、死神の屋敷に貴方達が居るのは納得ですね」

「イタチ三人衆……」


孤狛の言葉に幸は自分の中で思い当たる人物の名を呟く。

(イタチ)族はその名の通りイタチの見た目をした動きが素早い魔妖怪が多く、風の神に好かれた一族だと言われていた。

その中でも、宝石が敷き詰められた鋭い鉄の鉤爪を右手に備える真っ黒な美しい毛皮を身に纏ったイタチの女王─── ミン

最強の鎌を求めて数多の鎌使いを襲っては自身に取り込み、物にしているイタチの中で身軽さは最強クラス─── テン

見た目は狸に似ており、すぐ逃げ出す臆病者だが薬品の事に関しては敵なし─── ホン

イタチ三人衆と呼ばれた「ミン」「テン」「ホン」は妖気が強い上にチームワークも良く、何人も敗れてきたと言われているほど手強い魔妖怪だと幸は噂で聞いていた。

すると、イタチ三人衆はやってきた幸達の姿を今頃になって捉えたのか先程の余裕から一変し、目を見開いて焦った様にミン、テンと続いて口を開く。

 

「な、なんで九尾が魔界に居るんだい!」

「それに死んだはずの酒呑童子まで……っ」


冷や汗を流しながら混乱している様子を見るとやはり酒呑童子と孤狛は恐れられている存在なのだと改めて感じていると一人頭を抱えながら怯えているホンと目線がかち合い、一瞬驚いた表情をしたかと思えばホンは立ち上がって幸に向かって指を指す。


「でも、もう一人は人間だよ」


死神だとバレてしまったのかと思ったがやはり他の魔妖怪からは死神の妖気が感じられないのか人間判定を喰らってしまった。だが、死神だと知られ命を狙われるよりかはただの人間だと認識されたほうが寿命が長く持つかもしれないと考え、自ら正体を明かす様な事はしないが魔界に長いしている時点で何かがおかしいと気付けないのはどうかと思う。

そんな幸の呆れを知らないイタチ三人衆は幸達三人のうち一人は人間だと言う事に少し安心したようで調子を戻す。


「お前らもコイツが狙いか?」


後ろに置いてあったのか鉄の擦れる音を響かせながら鳥籠の様な檻に閉じ込められ、動かないセフルを見せつけられる。死んでいるわけではないが捕まえる時に手荒な真似をしたのだろう、幸が近くに居るにも関わらず死神の妖気にすら反応しない程弱まっていた。


「鎌使い最強と言われた死神が死んだと聞いてすぐに調べたぜ」

「まさか、こんな生き物が鎌になるなんてね」


未だに信じられないと言った様子のテンとそれに同意するかの様にミンも口を開く。

鎌を武器として扱っている魔妖怪がこの屋敷にやってくる理由はただ一つ─── 死神が生前に愛用していた鎌を自分達の物にする為だ。

 

「コイツは俺様が美味しく喰ってやる」


テンはセフルを見ながら舌なめずりをして自分の一部になる事を今か今かと待ち望んでいる。

そんな不愉快な視線をセフルに向けられている事に腹が立つ。

その瞬間、今までに感じた事もないくらい頭に血が上り、拳を握り締めて奥歯を噛み締めながら殺気を放つ。

 

「セフル……っ!!」

 

幸自身でも恐ろしい顔をしていると分かっているがポーカーフェイスが出来るほど今は冷静ではいられなかった。

すると、今にも殴りかかりそうな幸の姿を見た孤狛はそれを隠す様に一歩前に出る。視界に影がかかった事によって正気を取り戻した幸は力を抜いて気持ちを落ち着かせると孤狛に向けて「ごめん」と小さく告げる。


「ここは俺一人に任せてもらいますよ」

「はぁ?全員でやった方が─── っ!」


孤狛の発言に理解が出来なかった酒呑童子は少し怒りが込もった口調で孤狛に食ってかかる。しかし、その怒りは孤狛に対してではなくイタチ三人衆の行動を不快に感じて自分で一発お見舞いしてやらないと気が済まないといった様子だった。だが、孤狛は二人の怒りを重々承知の上で今現在怪我をしている幸と怪我は無いが妖気が完全では無い酒呑童子を戦わせる訳にはいかないと判断しての発言なのだろう。

その意味を理解し、感情だけで動いてはいけないと気持ちを落ちつかせる。

 

「いや、弧狛一人で平気だ」

「だが、お前だって胸糞悪いだろ!」

「当たり前だ……っ!だが、俺はまともに動けねえし、お前はアイツらの妖術と相性が悪すぎる」


風を使うイタチ三人衆とでは酒呑童子の炎と相性が悪い。もちろん妖術だけが酒呑童子の全てではないがイタチ三人衆は風の他にコンビネーションも優れており、つい先程会ったばかりの二人では自身の良い所を潰し合って足を引っ張るだけだろう。

それを理解したのか酒呑童子は一つ溜息を零し、幸の横で腕を組みながら見物の体勢を取る。


「九尾一人なら俺達でも何とかなるんじゃねぇか……?」


やっと纏まった幸達を見てイタチ三人衆は三対一であれば九尾の孤狛に勝てるのでは無いかと考え出す。孤狛が倒せれば必然的にそれより弱い幸と酒呑童子は余裕だという思考だろう。


「てか、待てよ。九尾の煙だってアイツらと相性悪いだろ!」


忘れていたのか酒呑童子は孤狛に指を指しながら幸に訴えかける。孤狛が強いのは会った時に確信したであろうがやはり三人を一人で相手する事に未だ納得がいっていない上に、得意属性の相性も最悪となれば自分だけが黙っているのは釈然としない様子だった。

確かに、煙や霧は風で吹き飛ばされてしまえば最も使い物にならない属性の一つだろう。それならば相性が悪くとも少しでも勝ち筋のある二人で戦った方が良いだろうと酒呑童子は意見を述べるが、一向に焦る様子のない幸は弧狛を見つめながら口を開く。

 

「大丈夫だ。アイツにはもう一つ─── 得意属性がある」


風に強いかと言われればそうでもないが丁度良いハンディキャップなのではないかと幸は考える。あまり表には出していなかった弧狛のもう一つの属性、それは一体何なのか。酒呑童子が幸から目を離し、弧狛に向けると手にしていたのは先程まで持っていた煙管ではなく紫を基調とした綺麗な花が描かれた扇子である事に気が付く。


「扇子……まさか─── 」

「お前ら行くぞっ!」

 

扇子で予想がついた酒呑童子が言葉を続ける間もなくテンの言葉を合図にイタチ三人衆は一斉に動き出しばらける。その速さはまさしく風の様で、幸ですら油断をすると見失ってしまう程だった。

置いていかれぬ様に集中していると、微かに頬を撫でる風を感じとる。


「風だ……」


しかし、誰もまだ技を出している様子もなかった。弱い風力なだけに何処かの扉や窓から入り込んだものなのだろうかと考えていると、イタチ三人衆の襲撃が始まった。


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