背中をさする孫娘
僕がこの現代の車や抗生物質と言った科学を持ち込んでしまった事に因り、ブリデガルドと言う街自体が危機に陥っていた。
それは『協会』と言う魔法士の組織が成し得なかった、肺炎と言う病気の治療を僕がした事に由来していた。
その噂が広まる事を恐れた協会は、病から救った子供達とその親の抹殺に出た。
その先には、ブリデガルドの街を攻めて焼き滅ぼす事も、彼ら『協会』の計画にはあるらしかった。
僕の手足を捥ごうと、カイルの暗殺に殺し屋を送り込み。
さらには直接、僕を殺そうと暗殺者を送り込んで来た。
僕らは異世界で、穂高神社のお守りと言う絶大な魔力を手に入れていた。
そして今、ハウス食品の『北海道シチュービーフ』と言う、異世界でも在り得なかった治癒魔法をも手に入れていた。
僕はブリデガルドを医療都市として知らしめて、国中に力を示し、『協会』も手出し出来ない街に甦らそうとしていた。
それが異世界での、僕の戦い方だった。
井沼章象、僕の祖父だと分かったこの老人は、話し終えるまで何も言わず、時々頷いてはずっと聞いて居た。
「優人、その『協会』とやらの魔法使いの人数と規模、これは調べねばならんぞ。」
祖父は静かにそう言った。
「しかし優人、お前もほとほと運が無い男じゃな。」
そう言うと祖父は何故か嬉しそうに笑った。
「でも向こうで何十人も子供を救えたし、こっちでも難病の子供達を何百人も救えたよ。 それにほら、じいさんにも会えた訳だしね。」
僕は良い訳の様にそう言った。
確かに僕は運が悪いのだろう。 就職先は潰れて無職のままだったし、両親は死んでしまっていたし。
「じゃがな、勝てん戦と言う訳でもない。」
祖父は僕達の顔を見ながらそう言った。
「戦してるつもりは無いんだけどね。」 と僕は答えて居た。
「じゃが戦じゃ。お前たちの持つ力を欲する者達が居る。手に入らんと分かったら他の手に渡らぬ様に殺そうとさえしたじゃろ? それは戦じゃ。」
そう彼はきっぱりと言い切った。
「お前たちの力は、使いように依っては世界さえも変えられよう。ほれ、言う事を聞けば治してやると言えば誰でもがお前にひれ伏すじゃろ。」 そう祖父は言った。
「そんな事は言うつもり無いけどね。 確かに僕とみのりの力は強大だとは思うよ。でもそれだけだよ。」
僕は世界を征服するつもりも無かったし、ひれ伏さそうとも思わなかった。
「それにあの弁護士の若造じゃ。 あれはとんでもないな。」
昭和の妖怪と言われ、引退するまで権勢を誇った祖父が、細貝先生を指して「とんでもない」と呟いていた。
「あの若造のめぐらす策略と謀は、ただ事では無いな。 あれが居ったなら、先の大戦でおめおめと日本も負けはせんじゃったろうにな、、」
祖父は遠い目で窓の外を眺めながら、そう小さく呟いた。
「ゴホッ」
思い出した様に祖父は咳をした。
「大丈夫?おじいちゃん。」
みのりが優しく背中を撫でていた。
好々爺然として、嬉しそうに目を細めてみのりに背中をさすって貰う祖父を見ながら僕は、なぜか訝しんでいた。
確かに1時間前までは真っ白な顔色で、黄疸の出たその寝顔は臨終の床にある老人だった。
みのりの間違いで『金魂』では無く、『特級珠』の魔力により息を吹き返した祖父には死相など視得ようも無く。
今はただの孫フェチの老人にしか見えなかった。
「みのりや、次に見舞いに来てくれる時にはじいちゃんがな、大きなクルーザーを買って於いてあげるからな。」
と、嬉しそうな顔でみのりに言っていた。
「でもおじいちゃん。 全財産を私達に譲ってお金ないんじゃ無いの、、無理しないでね。」
みのりは心配そうな顔でそう言った。
「お前たちに残したのは1500億でな。残りは寄付でもするつもりじゃったがまだ1兆近く持っとるわ。」
そう言うと、妙に健康的な顔色のじいさんは、声高らかに笑っていた。
こうして僕達は、突然に祖父と出会えた。
「老い先短いからのう」と孫に甘える、権謀術数に長けた妖怪の様なじいさんと。




