↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーフライフ  作者: スノウ
16/237

死にかけた少女



タクシーから買って来た荷物を下ろし、部屋に戻った。


まだ午後4時40分だったから、異世界転移までは間があった。


僕はまるで内職をしてるかの様に、たた黙々とLEDライトをパッケージから出しては、ベルトポーチに詰めていた。


「おにいちゃん、タクシーの運転手さんがバッグ忘れてましたよって。」 と妹が、リアシートの足元に忘れて来たらしいディバックを持って来た。


「みのり、ちょっとこれを詰めなきゃいけなくて忙しいからさ。何か食べるもの無いかな?」 


僕はLEDライトを詰め込みながら、妹に食べ物を頼んだ。


「了解っ。 何か作って来てあげるね!」


階段を駆け下りながら、みのりは嬉しそうに答えていた。


90本のLEDライトを、ジーンズショップで買った4つのベルトポーチに何とか詰め終えて、僕はベッドに寝転んだ。 


スマホでタイマーを見ると『00:51:37』の表示、転移まであと50分程だった。


「おにいちゃん、またオニギリなんだけど良かった?」


何故か頬を赤らめながら、妹はお皿に乗せたオニギリを持って来てくれた。


「ありがとう、みのり。」 僕は朝から何も食べて居なかったので、ただの塩味のオニギリが、何より美味しく感じられた。


「美味しい? おにいちゃん。」 ブレザー姿のまま床に体育座りした妹は、上目使いで聞いてきた。


「みのりが作ってくれたんだから、美味しいにきまってるさ。」


僕は妹の頭を撫でながら、そう答えた。


「ところでさ、何で顔を赤らめてるのかな? みのりは」 と僕は聞いた。


「えっとね、、おにぎり作ってから気付いたんだけど、握る前にトイレ行ったのね、私。」


とみのりは小さな声で呟いた。


「手は洗ったでしょ?女の子なんだから。」と、おにぎりを食べながら僕は聞いた。


「えっとね、おにいちゃんに早く食べて欲しくて、、覚えてないの。」 と小さな小さな声で囁いた。


いくら目の中に入れても痛く無いほど愛しい妹とは言え、その言葉を聞いて涙が出そうになった。


でも、おにぎりを食べ続ける自分を、何だかおとこだと感じていた。






異世界に行く前に、妹に伝えなければと大切な事を思い出した。


「みのり、このバッグの中にね、4500万円入ってるから引き出しに隠して置いてくれる?」


と、妹の淹れてくれたお茶をすすりながら、僕はそう頼んだ。


「え?今朝のあれ、そんなに大金になったの?」 


みのりはバッグの中身を見ると僕の顔を見上げ、「こんなに入るかなあ、、」 と情けない顔でつぶやいた。


「あ、そう言えば私もおにいちゃんに渡したいモノが有ったんだ。」


みのりはそう言うと、自分の部屋から100円ショップの買い物袋を持って来た。


「これね、嵩張かさばらないから持って行って。 私の勘だと絶対売れるはずだから!」


渡された袋の中身は、何十個ものキーホルダーに付けるLEDライトと、4個で100円で売っている100円ライターの山だった。


「あ、ちなみに机のお金で買っちゃった。」 と、みのりはいたずらっぽく笑った。


フローリングの床に新聞紙を敷き、靴を履いて転移を待った。


「おにいちゃん、ちょっと実験して良い?」


「何を?」と聞く前にみのりは毛布を引っ張って来て、隅を丸めて僕のポケットに突っ込んだ。 


「あのね、これで毛布も異世界に行くんなら、何でも持って行けるじゃん! 」


僕は妹の発想に苦笑した。







気付いたらまた裏通りの、住宅街らしき場所に転移していた。


ついさっき端をポケットに突っ込まれた毛布は、だらしなく石畳に広がっていた。


みのりの予想した、「ポケットに一部でも入るモノは異世界に持って行ける」事は、このだらしなく地面に落ちた毛布が証明した。


僕は落ちた毛布をそのままに、バンデラスの待つ本通りへと向かった。


商店の並ぶ本通りは、早くも片付けを始める店もあったが、まだそこそこの人通りだった。


僕は待ち合わせた場所へと向かいながら、子供の姿が全く無い事に不思議を感じた。


向こうでなら当たり前の様に見かける、子供連れの親子の姿が無い。 まるで子供が存在して居ないかのようだ。


バンデラスは約束の場所で待っていた。


昨日連れていた青年も、今日は物陰で隠れずに皮袋を抱えて立って居た。


「持って来たか?」 彼は無駄な挨拶もせず、用件だけを呟いた。


「対等な商売相手なんだから、僕ももう敬語は使わないよ。」


変にへりくだり警戒されるのが嫌だったので、僕はそう告げた。


「渡す前に少し相談がある。」 僕は少しでも引き止め、情報を得たかった。


「内容に寄るな。」 バンデラスは暫しばらく僕の目を見ながら考えて、やがてそう答えた。


「どこかゆっくり話せる場所は無いかな?」 僕がそう言うと。


「街の外れだが俺の家がある。 そこで良いか?」


言いながら手招きすると、彼はもう歩き始めていた。




防壁沿いに探索した時に見かけた、篝火かがりびまばらな通りに彼の家は在った。 


レンガ作りの一軒家で、決して古びている訳では無かったが、手入れをされたのが随分前なのは見てとれた。


剣や槍の様な見える獲物を持っては居ないので、彼はさほど僕を警戒している風には見えなかった。


ドアをくぐり抜けるとそこは、何脚かの椅子の並んだテーブルのあるリビングで、僕は指差された椅子に腰を下ろした。


バンデラスは暖炉の上にある角で出来た刀掛けに、背中の大刀を仕舞い、テーブルの僕の向かいにゆっくりと腰掛けた。


青年は皮袋を僕達の間に置くと、作り付けのかまどに、銀の魂を使って火を付けた。


ポットを火にかけると奥の部屋へと引っ込んだ。


「まず、取引を片付けよう。」 バンデラスは皮袋を、僕の方へと押しやった。


僕はちらりと中身を見ると、ベルトポーチからLEDライトを抜いて並べた。 10個づつの山を九つ作ると、彼はひとつを摘まみ出し、明かりを点して確認した。


「さて、相談とはなんだ?」 


湯が沸いたのか、青年が来てお茶を淹れた。


僕は青年が奥へ行くのを待ち、話を始めた。


「火を起こすのには何を使ってるか、教えてもらえるかい?」と僕は真顔で聞いてみた。


「そんなもん銀魂で起こすに決まってるだろ。 まあ金持ちなら金魂使ってもおかしくは無いがな。」 彼は苦笑しながら僕に言った。


「火を起こす度に毎回1個使うのかい?」 


僕の問いかけに、何かあると感じたのか、バンデラスは真顔になって座り直した。


「当たり前だ。 火を付けるのには1個。ランプを2日灯しておくにも1個。 毎回1個だ。 何が言いたい?」


僕はカーゴパンツのポケットから、100円ライターを取り出しテーブルに置いた。


「なんだこれは? ガラスの割には軽いな。」手に取り弄いじ りながら、彼は興味深そうに呟いた。


「こうすると火が出る。これ1本でおよそ1000回火を付けられる。名前はライターと言う。」


僕は着火スイッチを押し火を点けながら、説明した。


「1000回だと! これ1個で銀魂1000個分着くと言うのか?」 疑わしそうに僕の顔を見た。


「預けていくから1000回試してみろよ。どうだい、売れそうか?」


「これなら2個で1ストーンでもみんな買うな。1個250ペブルってところだな。」 と、ニヤリとして笑った。


「この街の相場が分からないんだが。部屋を借りるのに、家賃はいくら位なんだ?」 僕は何気なく聞いてみた。


「月に2から3ストーンだな。 もちろん広いテラス付きの10ストーンなんて豪勢なのもあるがな。」 彼は面倒臭そうにそう言った。



持って来たライターは、テーブルに出したら55個有った。 僕はバンデラスに、売値の半分を渡す事で手を打ち、独占でライターを渡す事を約束した。


次にキーホルダー付きのLEDライトを見せると、「こんなに小さいもんが明るい訳があるか!」と疑った。しかし点ともした明かるさを見て驚き、何回も点せると聞くとさらに驚いた。


これも売上の半分を折半する事で手を打った。


「何でこんな儲け話に俺を誘ってくれるんだ? ユウト。」 


バンデラスは急に真顔になると僕に聞いてきた。


「多分、あんたは幸運の女神に出逢えたって事だね。 僕は男だけどさ。」 僕は微笑みながら答えていた。






今夜泊まるところが無いので泊めてもらえるかと聞くと、「すまん。娘が病気で、1部屋塞ふさがってて、泊める部屋が無い。」と、彼はすまなさそうに言った。


「悪いのかい?」と聞いた。流行り病やまいで、もう20人を越える子供と年寄りが死んでいると言う。


「金さえあれば、都で良い薬が手に入るらしいんだ。」と悔しそうに呟いた。


「一目会わせてもらえないか?」と、バンデラスに言った。


「ミーシャもずっと部屋の中で退屈だろうから、喜ぶよ。」


バンデラスに付いて奥の部屋へ入った。 あの青年が濡れたタオルで顔を拭き、話しかけていた。


「息子だ。 妻はこの病で先月死んだ。」


僕は苦しそうに息をしている7、8歳に見える少女が、独特の擦過音さっかおんを立てている事に気付いた。 


「もしかして、緑色の痰が出ていないか?」 僕は彼女の側に膝ま付き、胸に耳を当てて呼吸音を聞いた。


「ああ、何で知ってる?」 バンデラスは僕の肩を掴むと声を強めて聞いてきた。


「病気に罹かかった人たちは、庭や落ち葉のある所で何かしなかったか?」 僕は彼に思い出すように言った。


「そう言えば、春先に森に腐葉土を集めに行ったもんばっかりだ。花を育ててる家の、、」 彼は思い出しながらそういった。


(細菌性肺炎だ。それもレジオネラ菌の、、)


僕は小学生の時自分が罹かり、自分を殺そうとした病気に今再会していた。


「明日、もう一度来る。」 彼にそう告げると、僕はミーシャの傍に座り


「もう少しの辛抱だからね。頑張るんだよ。」と、優しく囁いた。


「何なんだ?ミーシャは治るのか!」 と問う彼に、僕は祈るような気持ちで答えていた。


「僕が助ける。」 と。






橋のたもとの石積みで、僕は横になりながら星を見ていた。


拾って来た毛布を敷いたので、ここ数日で一番の寝心地だった。


明日は早くから行動して、何とか抗生物質と点滴を手に入れなければならないから、何とかこの異世界で寝ようとしていた。


小さな手だった。 あの子を救う薬は、多分この世界には無いだろう。



「ユウトさん、、」


エミリアの声がした。 僕は起き上がり石積みを上がった。


スマホを見ると、もう零時を過ぎていた。


「どうしたの?こんな夜中に。 何かあったのかい?」


また酷い目にあって辛くて来たのかと思い、聞いてみた。


「声が聞きたくなって、顔も見たくて。 どうしてか分からないの。」


月明かりに照らされたブロンドの髪を、風が撫でて行った。


僕はただ愛しくて、何も言わずに彼女を抱き締めた。


「何故こんなに逢いたいの? 触れていたいの?」


僕はエミリアの頬に手を添えて、気付いたらキスをしていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。