忘れ物
タクシーで家に帰ると、僕達は部屋に戻った。
「おにいちゃん、お金どこに隠せば良いのかな?」 と、
500万の現金を入れたディバックをベッドに置き、ホッとした表情をしたみのりが聞いてきた。
「みのりの部屋には鍵の掛かるとこ無いの? 机とか。」
僕の部屋にはベッドとパソコンデスクしか家具は無く、鍵の掛かる様な家具は無かった。
「勉強机あるから鍵の掛かる引き出しは有るけど、マジで500万を机に隠すの?」
「だって明日は月曜日だから、みのりは学校だろ?母さんに見つかったら、援交してるとか思われるかもよ。」
何せ僕の部屋には隠す場所が無い。
「でも、援交で500万貯めるってスゴいよね。」
みのりの返事を聞き、僕は言葉の間抜けさに思わず笑い出した。
「確かにスゴいな、500万貯める援交女子高生が居たら。」
結局お金はみのりの机に鍵を掛けて隠してもらう事にした。
僕は買って来た催涙スプレーのホルスターを、丁度背中の右側来るようにベルトを通した。
転移した時にまた持って行けなかったら困るので、ジャケットのポケットにももう一本入れて置く。
アルペンで買ったLEDライトは6灯式で、説明書によればLEDを1灯で使えば140時間使えると書いてあった。
もし昨日の酔っぱらいが来たらこれを渡せば揉めずに済むだろう。
10本は多いかとも思ったが、もし男が来なくても、何処か隠せる場所を探してあちらに置いて来るつもりだった。
何せ僕が異世界で過ごすのは夜なのだから、持っていて邪魔になる事は無いだろう。
みのりが「売れるはずだ」と言う100円ライターも、売れなかったなら異世界に隠して来ようと思っていた。
基本的に異世界では野宿生活だ、火を起こす必要も無いとは言えない。
「おにいちゃん、何でそんなに薬を持っていくの?」 と、みのりは不思議そうな顔で聞いてきた。
異世界で出会ったエルフの事は話したが、それが美しい少女だとまでは説明していなかった。 みのりの機嫌が悪くなりそうな気がして。
「ほら、異世界に無い薬だったら売れるかな?と思ってさ。」 と、僕はさり気無く誤魔化そうとした。
「ふーん。 そうなんだ、、火傷の薬をねぇ、、」
小さい頃から鋭いとは思っていたが、今更ながらに妹の勘の鋭さには驚かされた。 これはもう完璧に疑っている。
昨日は持って行けずに、川の水を飲む羽目になったペットボトルを、カーゴパンツに突っ込んだ。 カロリーメイトもポケットに入れた。
スマホを見ると『00:03:51』の表示。 後4分後に転移する予定だ。
「あ、みのり。 明日の朝は多分この部屋に転移出来ると思うよ。」 と、まだ話していなかったスマホの写真と転移先の関係に付いて、説明を始めた。
「おにいちゃん、それなら転移前に最後に撮った写真の場所が庭で、そのままなら庭に戻って来る訳でしょ?」
「多分そうなると思う。」
「じゃあ異世界に行ってからその写真を削除したら、1枚前の場所に戻って来る事になるのかな?」
削除すると言う考えは今まで浮かばなかった。 もしその通りで、スマホの中の最新の写真の場所に転移されるのなら、色々便利に使えそうだ。
僕はとりあえず、この部屋に戻る為に写真を1枚撮った。
準備万端で後は転移を待つのみ、タイマーを見ると『00:01:47』の表示だった。
「転移まで後2分位だよ。」と、みのりに告げた。
「おにいちゃん、絶対向こうで危ない事しないでね。」 とみのりは心配そうな顔をして僕に言った。
「屑拾いしてるだけだから、冒険してる訳じゃ無いし、、大丈夫だよ。」
僕は自分で言って居て、何だかとても辛い気分になった。 本当に屑拾いしかして無かったから、、。
みのりも僕の悲しそうな顔を見て、返答に詰まったらしく、重い空気が流れていた。
「ところでおにいちゃん、気になってるんだけどさ。」 みのりは急に真面目な顔で僕に言った。
「何が気になるの?」と聞くと。
彼女は僕の足元を見ながら、呟いた。
「靴は履かなくても大丈夫なの?」 と。
「あ、、」
と、気付いた時にはもう、僕は転移していた。




