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第13章・2:神々の会議

アテナイ評議会の扉が、ゆっくりと開かれた。


重く、軋む音。


それは単なる扉ではない。


幾世代もの歴史を背負い、

神々すら超える時の重みを刻んだ門だった。


薄暗い光の中、


最初の来訪者がその境界を越える。


人の領域と、神の領域を隔てる一線を。


白く染まった灰色の髪。


そこには、無限とも思える知識と経験の重みが宿っていた。


片方の瞳には、九つの世界の記憶が揺らめき、


もう一方の瞳には、


死すらも超えた未知の力が宿っている。


「……久しいな、小さきゼウス」


穏やかな笑みとともに言葉が落ちる。


「ずいぶん老けたものだ」


「最後に見た時は……もっと輝いていたはずだがな」


ゼウスは静かに応じた。


「国を背負うというのは、時と共に重くなるものです」


「かつては仲間や兄弟のために戦っていましたが」


「今は……一国そのものを背負っています」


「正しき選択を求められる立場です」


オーディンはゆっくりと頷いた。


「……見事だ」


「この地は見違えた」


「その評判に偽りはないようだな」


「その言葉、光栄に思います」


ゼウスは軽く頭を下げる。


「オーディン様」


【オーディン:神々の評議会メンバー/ノルク王】


「謙遜するな」


オーディンは静かに笑った。


「今や我らは同格だ」


その瞬間――


空気が変わる。


「……弱くなったな、ゼウス」


重く響く声。


場を包み込む圧力。


振り向いた先にいたのは、


青い肌を持つ神。


圧倒的な肉体。


揺るぎない意志を宿した瞳。


「その筋肉はどこへ消えた?」


「かつての自信はどうした?」


ゼウスは軽く肩をすくめた。


「時は流れるものだ」


「神であろうと例外ではない」


「……そう言いながらも」


男は口元を歪めた。


「中身は変わっていないようだな」


「相変わらずの傲慢さだ、雷野郎」


視線がぶつかる。


空気が張り詰める。


ほんのわずかな動きで、


すべてが崩壊してもおかしくない緊張。


……だが次の瞬間。


バンッ!!


二人は勢いよく手を打ち合わせた。


満面の笑み。


「久しぶりだな、友よ」


「こちらこそだ、ゼウス」


【ウィツィロポチトリ:評議会メンバー/テノチティトラン統治者】


「相変わらず骨と皮だな」


「だがその目は……まだ狩人だ」


「正直、今すぐにでも戦ってみたいくらいだ」


「やめておけ、コリブリ」


ゼウスは笑った。


「触れることすらできないぞ」


互いに笑い合う。


だがその奥には、


確かな闘志が潜んでいた。


その時、


別の声が割り込む。


「……相変わらずだな」


「口ほどにもない雷のくせに、よく吠える」


ざらついた声。


「その雷とやらは、俺の音には程遠いがな」


ゼウスの視線が鋭くなる。


「よく言う」


「ガキに敗れた男が」


「……ペルーン」


光の中から現れたのは、


金髪の男。


戦の傷跡が刻まれた顔。


手には、


巨大な石の斧。


古代のルーンが刻まれた、


重厚な武器を携えている。


「俺の雷に挑むか?」


ペルーンが挑発する。


【ペルーン:神々の評議会メンバー/サモ統治者】


ゼウスは不敵に笑った。


「望むなら」


「一欠片の力で、灰にしてやろう」


雷の神同士が、


正面から睨み合う。


その視線の奥には、


都市一つを消し飛ばすほどの嵐が渦巻いていた。


・・・


「ほう……これはまた面白い光景だな」


落ち着いた、老練な声が響いた。


「どうやら、この場の連中は私の“スタイル”を真似しているらしい」


神々が振り返る。


そこに立っていたのは、緑の瞳を持つ老人。


その顔には、長い時を生き抜いた者だけが持つ静かな威厳があった。


片手には、蔦に絡まれた巨大な槌。

もう片方には、素朴な土器の壺。


「……おい、ふざけるなよ」


ウィツィロポチトリが鼻で笑う。


「お前と同列にされる気はないぞ、クソ爺」


「生まれた時から老いぼれてるような奴が」


老人はゆっくりと首を振る。


「勘違いするな」


「この白髪一本一本が、知恵の証だ」


「……お前には縁のないものだがな、出来損ないのコリブリよ」


一瞬で空気が変わる。


ウィツィロポチトリが一歩前へ出る。


その瞳には、殺意が宿っていた。


「今、何て言った……スケルス」


「その気なら、今ここで地獄に叩き落としてやるぞ」


「やってみろ」


スケルスは軽く笑った。


「その前に、私はお前の墓の上で酒を飲んでいるだろうがな」


【スケルス:神々の評議会メンバー/ケルトの長】


緊張が一気に高まる。


――だがその瞬間。


「相変わらずだな」


別の声が割り込んだ。


視線が向けられる。


そこに立っていたのは、


黒い肌の巨躯の戦士。


全身に刻まれた紋様。

剃り上げられた頭。


そしてその隣には、


妖艶で危険な美を纏った女性。


その瞳には、世界すら焼き尽くす炎が宿っている。


「力しか知らない連中は、いつまで経っても同じだ」


男は淡々と言った。


【オグン:神々の評議会メンバー/ヨルバの支配者】


「放っておきなさい、オグン」


女性は冷ややかに言う。


「彼らの小さな頭では、拳以外で世界を動かす方法を理解できないのよ」


【マフイカ:神々の評議会メンバー/トンガの女王】


ウィツィロポチトリが睨みつける。


「口だけは達者だな」


「弱者のくせに」


「……死にたいのか?」


オグンが低く呟き、


腰のマチェーテに手をかけた。


「今すぐ試してみるか?」


一触即発。


だが――


その瞬間、


青い四本の腕が二人を包み込んだ。


「まあまあ」


穏やかな声。


「少し落ち着こうじゃないか」


振り返ると、


そこには優しい笑みを浮かべた神がいた。


「一緒に呼吸を」


「……ほら」


【ヴィシュヌ:神々の評議会メンバー/シャングリラの統治者】


なぜか逆らえない圧。


オグンとウィツィロポチトリは、


自然と呼吸を合わせていた。


(……見た目に反して、とんでもない存在だな)


ゼウスは内心で呟く。


(あのゼンカ……底が見えん)


その空気を切り裂くように、


新たな声が響く。


「ごめんなさい、少し遅れたわ」


艶やかで、包み込むような声。


「外の人たちが、どうしても離してくれなくて」


神々の視線が集まる。


そこに現れたのは、


圧倒的な存在感を持つ女神。


絹のような黒髪。

燃えるような橙の瞳。

黄金の輝きを放つ冠。


「……相変わらずだな、アマテラス」


ゼウスが軽く笑う。


「年を取る気配すらない」


「あなたたちと違って、争いとは無縁の統治をしているもの」


彼女は静かに言い返した。


【アマテラス:神々の評議会メンバー/太陽の帝国の女帝】


オーディンが玉座に腰掛けながら言う。


「……その後ろの子は?」


「紹介してくれるのだろう?」


「ええ、もちろん」


アマテラスは軽く頷いた。


「出てきなさい、アヌビス」


その背後から現れたのは、


まだ若い神。


黒い肌。

人とジャッカルの特徴を併せ持つ姿。


そして、


この場にいる誰とも違う――純粋な瞳。


「は、はじめまして……」


ぎこちなく頭を下げる。


【アヌビス:神々の評議会メンバー/ネチェルのファラオ】


「つい最近まで彼は王ではなかったけれど」


「ホルスが地位を譲ったの」


「だから、優しくしてあげてね」


「……地獄へようこそ、坊や」


オグンが小さく呟いた。


「……あ、ありがとうございます……」


場違いなほど素直な返答。


ゼウスが周囲を見渡す。


「……ほぼ揃ったな」


「残るは、パチャママの魔女と」


「シャンディの坊やくらいか」


軽く息を吐く。


「それ以外は、着席しろ」


「まもなく評議会を開始する」


神々はそれぞれの玉座へ向かう。


羽毛で飾られたもの。


蔦と葡萄に覆われたもの。


砂と布で形作られたもの。


その一つ一つが、


彼らの存在そのものを象徴していた。


同じものは一つとしてない。


それぞれが、


それぞれの世界の象徴。


そして、


世界そのものが、


ここに集結していた。


・・・




やがて――


すべての席が埋まった。


円卓に集いし、十二の神。


アマテラス。

アヌビス。

ウィツィロポチトリ。

マフイカ。

オーディン。

オグン。

パチャママ。

ペルーン。

シャンディ。

スケルス。

ヴィシュヌ。


そして――


ゼウス。


静寂の中、ゼウスがゆっくりと立ち上がる。


その声は、場を支配した。


「……まずは感謝を」


「この場に集ってくれたことに、心から礼を言う」


「大戦以降、我々には多くの隔たりがあった」


「それでもなお、こうして一堂に会したことに意味がある」


神々は黙って耳を傾ける。


「皆、多忙であることは承知している」


「それでもアカイアへ足を運んでくれたこと、改めて感謝する」


一呼吸。


「間もなく、“トーナメント・オブ・ゴッド”の第一ラウンドが始まる」


「我々は再び、世界に示さねばならない」


「団結していることを」


「いかなる脅威にも屈しないことを」


視線が強くなる。


「もし我々が導かずして、誰が導く?」


「我々が光でなくて、誰が光となる?」


その言葉に、神々の表情がわずかに引き締まる。


「そして今――」


「我々には共通の敵が存在する」


「……ブラック・ライツ」


その名が放たれた瞬間。


空気が凍りついた。


神々の肌に、冷たい戦慄が走る。


まるで、


“死”そのものが近づいたかのように。


「奴らに恐れは見せない」


「世界にも示す」


「我々が健在であることを」


「そのために――」


「この場に集った」


ゼウスの言葉に、


神々は静かに、しかし誇らしげに笑みを浮かべる。


「……許可を得る」


「これより、世界へ向けて発信する」


その瞬間――


空が変わった。


世界中の空に、


無数のホログラムが展開される。


ノルク。

アカイア。

トロイア。

アトランティス。

太陽の王国。


あらゆる地で、


人々が空を見上げる。


十二神の姿が映し出される。


新たな時代の幕開けを告げるために。


「――世界の皆よ!」


ゼウスの声が響き渡る。


「待ち望んだ時が来た!」


「トーナメント・オブ・ゴッドは、今――」


「――いや」


その瞬間。


すべてが止まった。


歪んだ声が、空間に割り込む。


「……それは違う」


神々の表情が凍りつく。


ホログラムが乱れ始める。


映像が歪む。


ノイズが走る。


「何……?」


アフロディーテが空を見上げる。


「何が起きているの……?」


その時だった。


ドォォォン――


アテナイ全域を覆う、


巨大な結界が展開される。


「まずい……!」


次の瞬間。


人々が次々と倒れていく。


意識を失い、


地面へ崩れ落ちる。


紫色の濃密な霧が、


街の隅々まで広がっていく。


そして――


再び、声が響く。


「子供の頃から、ずっと疑問だった」


ホログラムに映し出されたのは、


ヨゲン。


その歪んだ笑み。


「なぜ、力を持つ者たちは真実を隠すのか」


「なぜ、守れるはずの命を守らないのか」


静かな声。


だが、その奥に潜む狂気は明らかだった。


「でも、ある日分かったんだ」


「簡単な話さ」


「真実を明かした瞬間」


「奴らの力は必要なくなる」


視線が鋭くなる。


「病を治す術も」


「不死の方法も」


「新しい世界を創る力も」


「全部、持っている」


「それでも隠す」


「なぜか?」


「力を失いたくないからだ」


歪んだ笑み。


「……だがな」


「小さな子羊たちよ」


その目が変わる。


底知れない闇。


「真実を隠すには――」


「代償が必要だ」


映像が消える。


そして、


空が映し出される。


その中心に――


存在していた。


巨大な剣。


“光でありながら闇”


理解不能な存在。


その圧力だけで、


生き物たちが逃げ出す。


神々すら、


言葉を失う。


ゼウスの瞳が見開かれる。


「……まさか」


剣が、


ゆっくりと落ちてくる。


都市へ向けて。


「やめろ……」


「やめろ……!!」


「やめろォォォォォォ!!」


――――――――――


世界が、裁かれる。


家族。

記憶。

歴史。

絆。


すべてが、


ただの“対象”として。


地面が裂ける。


石畳が紙のように砕ける。


神々の像が崩れ落ちる。


家も、


店も、


学校も――


何もかもが、


破壊されていく。


そして。


――――――――――


ドォォォォォォォォン!!!

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