表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/77

第10章・4:ハデス寮

「ずいぶん時間がかかったね。」

シュウが軽く振り返った。


「何かあったのかい?」


「いや……特に何も。」


エデンはそう答えたものの、

あの謎の男の姿が頭から離れなかった。


「そうか……じゃあ行こうか。」


「うん。」


四人は再び歩き出す。


ハデス寮へ向かう石畳の道。


夕暮れの光が、ゆっくりと夜へ溶けていく。


その時――


ヴァイオレットが小さく口を開いた。


「……ごめんなさい。」


「どうして謝るの?」

ユキが首を傾げる。


「私のせいで、一番下の寮になってしまって……」


「本当に、ごめんなさい。」


「気にする必要はないよ。」

シュウが穏やかに言った。


「全部、51位のせいだから。」


「この中で一番順位が低いからね。」


「……何か言ったか、天才。」

エデンが作り笑いを浮かべる。


「さあ、どうだろうね。」


「そういえば、誰が僕との試合で負けたんだっけ?」


「……卑怯者の声は聞こえないな。」


「なんだと?」


二人は互いに額を押し付け合う。


まるで縄張り争いをする山羊のようだった。


「ちょっと、やめてください!」


ヴァイオレットが慌てて止めに入る。


「大丈夫よ、ヴァイオレット。」

ユキは平然としていた。


「しばらくすれば飽きるから。」


「でも……」


「安心して。」


ユキは肩をすくめる。


「殺し合いにはならないわ。」


「……たぶん。」


「それ、あまり安心できません……」

ヴァイオレットは苦笑した。


「ヴァイオレット。」


エデンが声をかけた。


「はい?」


「そんなに悪いことばかり考える必要はない。」


小さく笑う。


「ここにいる連中は、簡単な道が嫌いなんだ。」


「一番下から始まるのも、悪くない。」


「頂点に辿り着いた時、

その分だけ達成感も大きいから。」


「エデンの言う通りだ。」

シュウが頷いた。


「これまでも、自分たちの限界を超えるような状況を乗り越えてきた。」


「今回も同じさ。」


「一緒なら、きっと乗り越えられる。」


「私も……協力する。」


ユキは少し照れながら言った。


「ありがとう……みんな。」


ヴァイオレットは小さく微笑んだ。



「でも、よく考えたらゼウス寮じゃなくてよかったかも。」


エデンがぼそりと呟く。


「どういう意味だい?」

シュウが怪訝そうに聞く。


「ちょっと、今いい雰囲気だったのに!」

ユキが怒鳴る。


「想像してみろよ。」


エデンは真顔で言った。


「ゼウスの肖像画と彫像だらけの屋敷だぞ。」


「悪夢じゃないか。」


「君のゼウス像、ずいぶん偏ってるね……」


「自己愛が強くてナルシストな神って印象かな。」


「……それは否定できないかも。」

シュウは苦笑した。


三人の無邪気な笑顔。


その光景を見て――


ヴァイオレットも思わず笑っていた。


(ここが本当に自分の居場所かどうかは分からない。)


(でも――)


(この人たちに出会えたことは、きっと幸運なんだと思う。)


(いつか私も――)


(同じように輝く笑顔で笑える日が来るのかな。)


「行こうか?」

シュウが言った。


三人は静かに頷いた。


こうして――


少しずつ、彼らの距離は縮まっていく。




数分後――


四人の前に現れたのは、巨大な屋敷だった。


紫と黒を基調とした外壁。

完璧なまでに洗練されたゴシック様式。


ハデス寮は、静かな威圧感を放ちながら彼らの前にそびえ立っていた。


「最下位グループの寮にしては、悪くないね。」

シュウが感心したように言った。


「ほらね、ヴァイオレット。」


「いつも悪いことばかり考える必要はない。」


「君のおかげで、こんな優雅なゴシック屋敷に住めるんだから。」


「……犯人は僕じゃなかったのか、この野郎。」

エデンが歯を食いしばる。


「何のことだろうね。」


(あとで絶対に仕返ししてやる……)

エデンは心の中で呟いた。


……


その時――


エデンの視線が、あるものに引き寄せられた。


巨大な大理石の彫像。


そこには、一人の男が刻まれていた。


その瞳には、不思議な温もりと冷酷さが同時に宿っている。


片手には、闇と血に染まったバイデント。

その中央には、死の象徴が刻まれていた。


もう片方の手には、三つの頭を持つ獣――


ケルベロスを繋ぐ鎖が握られていた。


「知っているのかい?」

シュウが隣に立つ。


「いや。」


「この場所に来るまで、神様なんて会ったこともないからね。」

エデンが皮肉混じりに答える。


「冥界の神――ハデス。」


「この地に姿を現すことは少ないが、アケア王国では非常に恐れられ、同時に敬われている存在だ。」


「ゼウスですら、彼の言葉には耳を傾けると言われている。」


シュウは、どこか憧れるように微笑んだ。


「いつか、あの方のように尊敬される人間になりたいものだ。」


「どうして神様って、彫像のあそこをやけに細かく作るんだろうな。」


「聞いてた?!」


「たぶん、裸に対するこだわりがあるんじゃないかな。」

エデンは真面目な顔で結論づけた。


(やっぱり聞いてない……)

シュウはため息をついた。


「あなたたち、いつまで像のそこを見ているつもり?」


ユキが呆れた目で二人を見る。


「別に見てない!」


シュウが顔を赤くする。


「そ、その話はやめてください……!」

ヴァイオレットが恥ずかしそうに俯いた。


「え、なんでそんな話になってるんだ?」


「このバカ……」

ユキは額に手を当てた。


「もういい、早く入ろう。」


シュウは視線を逸らした。


「……う、うん。」


……


【ハデス寮・内部】


エデンは自分の名前が刻まれた、小さな木製の扉を開いた。


中には、決して広くはないが――


どこか温もりを感じる部屋が広がっていた。


今日から、ここが彼の居場所になる。


(ついに始まるんだ――)


(GODSでの新しい人生が。)


エデンの瞳に、強い決意が宿る。


(どんな壁が立ちはだかろうと、絶対に止まらない。)


(必ず、あなたを連れて帰る――祖父さん。)


その瞬間。


エデンの体が硬直した。


ベッドの上に――


一人の少女が眠っていた。


短い金色の髪。


鋭さと美しさを併せ持つ顔立ち。


「はは……」


エデンは乾いた笑いを漏らす。


「どうして、こういうことだけは毎回俺なんだ……?」


こうして――


波乱に満ちた初日は、まだ終わらない。


光の中でも、影の中でも。


盤上の駒は、静かに動き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ