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GODS I:黒光の章 ― 神々に支配された世界で、選ばれし俺は黒き革命を起こす ―  作者: ZM_16
エピソード7: 天才(プロディジー)と呪われし者
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第7章・3: 躊躇い(ためらい)

最後の闘士グラディエーターたちが姿を現すと、闘技場アリーナ全体が地鳴りのような歓声に包まれた。


二人の瞳には、明確な決意と燃え盛るような闘志が宿っている。彼らの一歩一歩が『宣戦布告』であり、その心臓の鼓動一つ一つが、彼らに課せられた『使命ミッション』だった。


重々しい戦太鼓ウォードラムの重低音に、竪琴リラの美しくも軽やかな調べが入り混じる。


「――淑女紳士(レディス&ジェントルメン)、獣たち、そして神々よ! 『GODS』選抜試験、最終ラウンドへようこそ!!」


その情熱的で芝居がかったアナウンスに、全員の視線が闘技場の最上段へと釘付けになった。そこには、妖艶で美しき神がマイクを握りしめて立っていた。


「相変わらず、目立つのが大好きな奴だ」ヘラクレスが豪快に笑う。

「全くだな」アレスが隣で静かに同調した。


「……えっ!? あなたたち、いつからそこにいたの!?」

突然現れた二柱の神を見て、アフロディーテが素っ頓狂な声を上げる。

「最初からだ」

「嘘でしょ!?」

「本当だ」


「さあさあ、今大会で最も期待を集めたカードが、ついに幕を開けるよ!」ディオニソスが興奮冷めやらぬ様子で実況を続ける。「果たして、この信じられないカードから何が生まれるのか!?」

「勝利の女神はどちらに微笑む!? 完璧なる天才プロディジー、シュウ・サジェスか!? それとも、底知れぬ新星、エデン・ヨミか!?」


……


二人は闘技場の中央でピタリと足を止め、互いの目を真っ直ぐに見据えながら戦闘態勢ファイティングポーズをとった。


シュウは武器を持たず、ただ己の拳だけを構える。

対するエデンは、背に負った『黒き剣』をゆっくりと引き抜いた。


微かな海風が二人の髪を揺らし、足元の砂が薄っすらと舞い上がる。


「はじめェッ!!」


――ズバァァァァァァァンッ!!


ディオニソスの合図と同時、エデンは一切の躊躇なく、弾丸のような猛烈な突進チャージを仕掛けた。

そのあまりの速さに、シュウは即座に防御の姿勢を余儀なくされる。


エデンの振るう剣は、まるで彼自身の肉体の延長線上にあるかのように自然で、かつ凶悪だった。

どの一撃にも明確な『殺意プロセス』があり、無駄な軌道が一つもない。


その獣のような連撃のラッシュは、観客席の神々ですら反応に遅れるほどの凄まじいものだった。四方八方から、あらゆる流派をデタラメに繋ぎ合わせたような斬撃がシュウを襲う。


刺突、そして上下左右からの予測不能な切り裂き。

シュウは、休む間もなく襲い来るその凶刃を躱すため、超高速での回避ステップを強いられていた。


「……一体何のつもりかしら?」アフロディーテが怪訝そうに呟く。「あんなデタラメな特攻が、シュウのように精密な相手に通用するとでも思っているの?」

「絶望的な実力差のせいで、パニックを起こして最悪の選択をしたみたいね」と女神は冷酷に分析する。


「……果たしてそうかな」

戦局を細部まで観察していた軍神・アレスが異を唱えた。


「確かに、奴の剣術はまるで野獣のようで、俺が見てきた中でも最低レベルに洗練されていない。……だが、奴の『戦術アイデア』は極めて理にかなっている」

「奴は、自分とは比較にならないほど強大で、洗練された技術を持つ相手と戦っているんだ。こんな状況で長期戦に持ち込めば、絶対に勝ち目はないと奴自身が一番よく分かっている。だからこそ……『短期決戦』に全てを賭けたのさ」


「自分の敗北が絶対的になる前に、な」

「……本気で言ってるの?」アフロディーテが目を丸くする。


「素晴らしい(ファンタスティック)!」

エデンの猛攻を見下ろしながら、ディオニソスが称賛の声を上げた。


エデンの怒涛の攻撃は止まらない。回転斬り、真っ向からの唐竹割り、フェイントを交えた刺突……。しかし、そのどれもが、シュウの氷のように冷徹で完璧な防御ガードの前には決定打とならなかった。


「こいつを食らいなッ!」エデンが吠える。


エデンは左拳に炎の『全華ゼンカ』を限界まで圧縮し、シュウの顔面めがけて渾身のストレートを放った。

だがその瞬間――シュウの瞳が『黄金色』へと変色し、彼は余裕を持って半歩だけ後退バックステップした。


――ドゴォォォォンッ!!


空を切ったエデンの拳がそのまま地面に激突し、巨大なクレーターと共に分厚い土煙を巻き起こす。


(……馬鹿なのか、こいつは?)

シュウは信じられないものを見るように内心で毒づいた。

(あんな大振りの一撃、誰がまともに食らうっていうんだ?)


(まあいい。こいつが何をしようと、僕の『眼』の前では常に一手遅れだ)


だが――分厚い土煙の壁の中から、突如としてシュウの顔面を正確に狙った『凶悪な蹴り』が飛び出してきた。


(……遅い!)

シュウがそれを躱そうとした、その時だ。


「……なっ!?」


蹴りはただの『フェイント』だった。

エデンは空中で素早く両手を地面につき、瞬きする間に自らの体を独楽こまのように回転させたのだ。

そして、死角から放たれた強烈な『裏回し蹴り』が、シュウの首筋(頸動脈)にクリーンヒットした。


「おおおおおおおおッ!?」

予想外の展開に、観客席から地鳴りのような歓声が沸き起こる。


その強烈な脳震盪により、シュウの『神の眼』がほんの1秒だけショートし、黄金色から元の緑色へと戻った。


天才の体が大きくぐらついたその隙を見逃さず、エデンは後方へ鮮やかな宙返り(バックフリップ)を決めながら、地面に突き刺さっていた自身の剣を素早く回収した。


「……この、野郎ッ」

シュウが初めて、その完璧な顔に怒りを滲ませて毒づいた。


エデンは荒い息を吐きながらも、油断なく体勢を立て直し、シュウから一瞬たりとも視線を外さなかった。


(やっぱり、あの眼には何か裏がある……。俺の次の動きを、完全に『先読み』しているみたいだった)エデンの脳内で、猛烈なスピードで思考が回転する。(だが、あの眼には致命的な『制限リミット』があるはずだ。もし奴の視界ラインから外れれば、俺の動きは読めなくなる)


(それに……あの眼には明確な『時間制限タイムリミット』がある。もし、あの眼が強制的に解除される(ショートする)その『一瞬の死角』を突くことができれば、必ず裏をかける!)


(俺の勝利は、その『一枚のカード』に全てを賭けるしかない……ッ!)

エデンは覚悟を決め、再び黒き剣を正眼に構えた。


「まぐれ当たり一発で、あまり調子に乗らないでほしいな、エデン」

シュウは冷たい瞳のまま、軽く首を鳴らした。

「もう二度と、僕に触れることすらさせない」


「さあな、それはどうかな!」


エデンは再び前傾姿勢から猛烈なダッシュを仕掛けた。だが、彼を待ち受けていたシュウの瞳は、すでに『神の眼(黄金色)』へと切り替わっていた。


両の掌に濃密な『全華ゼンカ』を纏わせたシュウによって、エデンの死角からの斬撃すらも神速の正確さで迎撃パリィされていく。

刃と掌が交錯する度、その威力は加速度的に跳ね上がった。

衝突の衝撃波が闘技場アリーナを激しく震動させ、強欲な神々の顔に歓喜の色を浮かび上がらせる。


エデンは『全華』を乗せた様々な剣技を繰り出す。しかし――その攻撃のいくつかはシュウに届く直前で不自然に霧散し、あるいは標的を外れて虚空へと逸れていった。


その奇妙な現象・・・・・・が、シュウの逆鱗に触れた。

彼はギリッと奥歯を噛み締め、湧き上がる激しい『怒り』を抑え込もうとしていた。


エデンは超高速で多角的な奇襲を掛け続けるが、シュウは圧倒的な静けさと冷酷さで、その全てをいとも容易く粉砕していく。


(違う……違う……こんなはずじゃない……ッ!)

シュウは内心で吠えた。


エデンの怒涛の連撃は止まらない。だが、その攻撃を捌けば捌くほど、天才の心に渦巻く『怒り』はより大きく、より明確なものとなっていった。


(お前の力は、本当にこんなものなのか?)

――ドゴッ!


(あれだけの大口を叩いておいて、これが自慢の力なのか!?)

――バキッ!


(これが……お前の『本当の意志』だっていうのか!?)

――ドガァッ!


(本当に……心底がっかりだ)


――ズガァァァァァァッシュッ!!!


その瞬間――観客席の誰もが、眼前に広がる光景に完全に凍りつき、言葉を失った。


闘技場の黄金の砂が、おびただしい量の『血』で赤黒く染まっていく。

シュウが怒りに任せてエデンの首を片手で乱暴に締め上げ――そしてもう片方の手には、エデンの胸を冷酷に貫く『一本の槍』が握られていたのだ。


――ガハッ!

エデンの口から吐き出された鮮血が、明らかな『苛立ち』と『失望』に歪むシュウの美しい顔を赤く染め上げた。


「やっと……死闘を繰り広げられる『戦友きょうだい』を見つけたと思ったのに」

シュウの冷たい声が響く。

「結局、お前も他の有象無象と同じ……ただの『足手まとい』だったってわけだ。本当に……失望したよ、エデン」


「嘘でしょ……」

観客席から見下ろすユキが、血の気を完全に失った顔で呟いた。


……


だが――その瞬間、シュウの表情が劇的に一変し、驚愕と、そして狂気じみた『歓喜』の色が入り混じった。


「……本気かい?」

突如として、エデンが落雷のような速度でシュウの背後へと現れ、渾身の裏拳を容赦なく叩き込んだのだ。


――ドッバァァァァァァァンッ!!


猛烈な衝撃により、シュウの体は空中で錐揉み回転しながら闘技場の端まで吹き飛び、分厚い壁に激突してそれを大きく粉砕した。


「……クソッ。水分身クローンを作るのがあんなにキツイなんて思わなかったぜ」

エデンは口内に溜まった血を吐き捨てながら、荒い息をつく。

観客席の全員が唖然として見下ろす中、シュウの槍に貫かれていたはずのエデン(分身)が、陽炎のように揺らめいて消滅していった。


(ユキの奴……よくあんな面倒な技をあんなに簡単にやってのけたな。莫大なエネルギーを持っていかれて、体中の骨が軋んでるみたいだ)


遥か上空の観客席から、ユキはその光景を驚きと共に分析していた。

(エデンの攻撃が不自然に外れていたのは……決して偶然じゃなかったんだわ)

(奴の狙いは、シュウの意識を散らして、ゆっくりと時間をかけて自分の『全華ゼンカ』で分身クローンを創り出すことだったのね)


(外れたように見えた小さな攻撃の数々は、実は消滅していなかった。ただ、使われるのを待って『そこ』に留まっていただけ。……そして、シュウの集中力がほんの一瞬だけ途切れた隙を突いて、本体と位置を入れ替えた(スイッチした))

(……あいつ、いつの間にあんな芸当を覚えたのよ?)


……


粉々になった瓦礫の山の中から、シュウは深い混乱と共にゆっくりと立ち上がり始めた。

(どうして……どうして僕の『神の眼』の予測を、再び超えられた!? 一体何者なんだ、こいつは……!)


シュウが怒りに任せて身を起こそうとした、その時。

氷のように冷たい凶刃が、彼の首筋にピタリと当てられた。


「……いい加減に降伏しろ、シュウ。俺は、お前を傷つけたくない」

「降伏?」シュウは血を吐くような声で皮肉を言う。「ふざけるのも大概にしろよ、エデン」


「この場所に立つ者は全員、『死』の覚悟を背負って来てるんだ。お前のように自分の手を血で汚す覚悟すらない奴は、最初からここに来るべきじゃなかったんだよ」

「俺は、あのクソ神共の退屈しのぎ(ゲーム)に付き合うつもりはねえ」エデンは一歩も引かずに断言する。「俺たちはあいつらの娯楽のための『オモチャ』じゃない。……血の通った『人間』だ」


「お前は何も分かっていないんだよ、エデン。僕たちは、この一瞬のためだけに全てを捧げてきた。僕たちにとって、ここで『負ける』ことは『死ぬ』ことと同義なんだ」

「ここで負ければ、一生『一族の恥(失敗作)』として記憶されることになる」

「これ以上先へ進みたいなら……僕を殺せ」シュウの顔に、冗談の欠片もなかった。「僕は絶対に降伏なんてしない。必要なら、お前の手で僕を殺せよ」


「……それとも、ただの薄っぺらい『友情ともだちごっこ』のために、自分の夢を捨てるつもりかい?」

エデンはギリッと歯を食いしばり、黒き剣の柄を握る手に限界まで力を込めた。


「この世界は、決して公平じゃない。夢や希望みたいな綺麗な幻影イリュージョンだけで生きていけるほど、甘くないんだよ」


シュウがその言葉を口にする度、彼の脳裏に『曖昧な過去の記憶』がフラッシュバックしていた。

小さな男の子の顔。しかし、天才の心に深く根付いた凄惨なトラウマにより、その顔はひどく歪み、ノイズに覆われて判別ができない。


(何かを手に入れたいなら……力ずくで奪い取れッ!)


「アアアアアアアアアアアアッ!!」

エデンが雄叫びを上げ、怒りと共に剣を強く握り直した。


――ドゴォォォォォンッ!!


強烈な刺突が、シュウの横の壁を瞬時に吹き飛ばし、巨大な風穴を開ける。観客たちは固唾を呑んでその結末を見守った。


……


「……本当に、がっかりだよ」


エデンの黒き剣は、シュウの首を斬ることなく、その後ろの分厚い壁に深く突き刺さっていた。

エデンは肩で大きく息をしながら、動けずにいる。


「俺は……お前を殺さねえよ、シュウ……。俺は、お前のことを……大事な『ダチ』だと思ってる」

「これが正解かなんて分からねえ。でも、俺の『心』がそう叫んでるんだ」


「……お前は、本当に弱いな、エデン」

壁に寄りかかっていたシュウが、ゆっくりと身を起こす。対するエデンは、うつむいたままピクリとも動かない。


「お前と違って、僕には『情け』をかけることなんてできない」シュウが静かに宣言する。「僕は今まで、悲しみなんて感情を抱いたことは一度もない。僕の中身は、完全に『空っぽ』なんだ」

「……なのに、どうしてだろうね。君を見ていると、ほんの少しだけ……躊躇い(ためらい)を感じてしまうんだ」


エデンが顔を上げると、そこには――初めて見る、どこか悲痛で『傷ついた』ようなシュウの瞳があった。


「……ごめんね。でも、これはどうにかして終わらせなきゃいけないんだ」


その瞬間、シュウの体内から莫大な『全華ゼンカ』が制御を失ったかのように爆発的に噴き出し、観客席の神々すらも絶句させた。

その闘気オーラはあまりにも巨大で、闘技場コロッセオの外からでも目視できるほどだった。


『苦痛』と『完璧』が複雑に混ざり合った、眩いほどの黄金のオーラ。


「……さようなら、僕の『友達ともだち』」

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