ティータイムに音楽を ~Over flow~
day.holiday ティータイムに音楽を ~Over flow~
盗賊たちを捕縛するため、冒険者ギルドの新人達と一緒に、馬車に乗り込む。
帰りには、捕まえた盗賊たちを乗せるためか、二頭立ての馬車が二台続く。
「随分信用されてるみたいだけど、ジルコって、そんなに強いんですか?」
同乗しているアネホさんに聞いてみると。
「あぁ、ご存知ないですか?彼は、物心ついた時から各地の戦場、魔物討伐に連れ回されて、知る者の間では、『天を震わせ、地を揺るがす』、【震天】とも呼ばれているんですよ」
……どうやら、思った以上に凄い奴だったらしい。
「ですから、盗賊ごときを相手に、万に一つも後れを取るなど、ありえません」
そんな話をしている間に、どうやら襲撃地点に着いたらしい。と。
ド・オォーーーーーーーーーーーーーーン!!
森を揺るがすほどの爆音が、鼓膜を叩く。
「……あぁ、片が付いたみたいですね」
「おい、そこの木のところに印がある。この奥みたいだぞ」
同行していた馬車から、バンディが声を上げる。
「っていうか、今の音って一体……うわっ!」
枝葉に隠れて見辛かった、獣道の奥から、轟!と突風が打ち寄せる。
「おぉ~し、行くぞお前ら。盗賊団、一網打尽だ」
オォーーー!と、新人冒険者達が気勢を上げる。
「くっくっ。こいつら、ロハで経験点を稼げるからって、浮かれてんな」
とは、バンディの言だ。
「ここからは、徒歩で行きます。隠れて様子を窺っている賊がいないとも限りません。充分に気を引き締めて取り掛かるように!……では、アガペー。見張りを頼みます」
「はぁ~い!みんな、頑張ってねぇ~~~♪」
アネホさんの号令一下、皆で行軍を始めた。先頭にバンディ、最後尾はアネホさんが務める。
結論から言うと、潜んでいる敵は居なかったらしく、森の中の開けた場所まで、順調に進んだ。
「!っジルコ!大丈夫か!」
森の広場、といった感じの場所で、戦槌を携えたジルコを見つけ、声を掛ける。
「来たんだが、カケル。……俺だば、なんともね」
当然と言えば、当然なのかもしれないが、ジルコの方は平然としたもの。下手をすれば、農作業の合間に、訪ねてきた知り合いと話す程度のノリだった。
辺りを見回してみれば、広場中至る所に、盗賊団と思しき人、人、人……いずれも劣らぬ、イキッたような格好の男達が、そろいもそろって一様にノビていた。
「スッゲエな。これ、ジルコが一人でやったのか?」
「あ?んだ」
事もなげに言うけど、二、三十人はいるんじゃないか?……マジすげえ。
「さて、それでは今のうちに縄を掛けますよ!はい、急ぐ!」
アネホさんが号令をかけて、皆で盗賊たちを縛り上げる。もちろん、俺も手伝った。
「これで全部ですか?馬車までは歩いてもらわなくてはいけないので、先ずは起こしましょうか」
縄の緩みがないかを確認して、アネホさんは、どう見ても長いヌンチャク、彼女のいう所のツインヘッド・フレイルを構えると、パカカカカカカカカカカーン!と、盗賊たちの頭を小突いて回る。
「あたっ!」「いでっ!」「うっ!……なんだなんだぁ?」
次々と目を覚ます盗賊たち。状況が掴めていないようで、キョロキョロと辺りを見回している。と、そのうちの一人が、俺たちの方を見て、鼻息も荒く、喰ってかかる。
「おうおう!お前ら、冒険者だなぁ?俺らにこんなことして、只で済むと思ってんのかぁ?お前ら如きなんざ、頭が戻りゃあ、一発でボコボコ……に……」
めっちゃイキってたけど、その視線がアネホさんに移ると、途端に滝のような汗を流す。
「そ、その修道服……ま、ままま、まさか!焔獄の姉妹か!」
つい今しがたまでの威勢はどこへやら、蒼白となった顔色の男は、力なくへたり込む。
「マジか……」「終わった……」「あぁぁぁぁ、真面目に働いときゃ良かった……」
観念したらしく、盗賊たちは、揃って首を垂れる。
「能書きはそれだけですか?気が済んだのなら、あなたたちを連行します。……コホン。これより後、拘留、護送を経て、皆さんは王都の司法院での裁きに掛けられます。皆さんには、神に祈る権利と、『かぁちゃん!』と泣き叫ぶ権利が保証されています。尚、我々や警務隊、司法吏に対しての暴言、暴力等は、それぞれの心証を悪化させ、処刑台への近道となりますので、お気を付けを。以上、説明と警告となりますが、何か質問はありますか?」
「……大人しくしてりゃあ、処刑はされねえってか?」
「まぁ、軽くても農奴、無償奉仕といったところでしょうね」
サラッと説明するアネホさんだけど、農奴って、農業奴隷ってことだよね。地味にキツそうだ。そんな話をされて、嚙みつくかと思われた男たちだったけど。
「命が助かるってぇなら、それも仕方ねぇか。……分かった。逆らわねぇよ」
意外なほどあっさりと、男は恭順の姿勢を示した。
「なんていうか、随分簡単に諦めんのな、おっさん。もっと嫌がると思ってた」
思わずこぼした、俺の言葉に、
「おいおい、小僧。物語の見過ぎじゃねぇか?俺たちゃあ、喰うに困ってこんなことしてただけだ。農奴だろうと、仕事があるだけマシってもんだ。それに、命あっての物種って言うしな」
「~~~、そんなもん、か?」
「ああ、生きてりゃそのうち、再起もできる。これを機会に、真っ当な暮らしができる奴も、な」
国に仕えて、命を懸けるような、騎士や兵士じゃない。勝手気ままなその日暮らしも悪くはないが、元々は食い詰め者やハンパ者。普通の暮らしができるのなら、そうしたい奴もいるのだ、と。吹っ切れたような顔で、男はそう言った。
捕らえた盗賊たちを連れて、馬車で待っているアガペーと合流、帰還することに。盗賊たちの数が多いので、警戒も兼ねて、俺たちはぞろぞろと、馬車の脇を歩いてゆく。
「それじゃあ、ギルドに向かってゴーゴー☆あ、みんな、最後まで気を抜いちゃダメだよ~♪……家に帰るまでがお仕事です!」
相も変わらず上機嫌なアガペー。ふんす!と胸を張って、皆に注意を促す。
帰りの道すがら、俺はこの姉妹とも、軽い会話を交わす程度には打ち解けていた。
「ところで、アネホさん。さっき言われてた、焔獄の姉妹って、なんなんです?」
「それは、その……少々、お恥ずかしいのですが……」
言い淀んでいたところに、少し前を歩いていた、バンディが割って入る。
「あぁ、さっきのアレな。この二人、教会からの派遣で、冒険者ギルドの指導員やってるんだけど、魔物討伐なんかの実演でやりすぎちまってな。二人が通った後には草一本残らねえ、焼け野原になっちまうってんで、付いたアダ名が『焔獄』ってぇわけだ」
「バンディさん。勝手にベラベラと喋らないでください」
「悪ぃ悪ぃ。言いにくそうにしてたから、つい、な」
あくまで冷静な態度を崩さず、バンディを睨むアネホさん。よく見ると、ほんのりと頬が赤い。
「大体、あれは少し張り切り過ぎただけです!……まぁ、ちょっと手違いで、森や建物を焼いてしまったりはしましたけど」
マジか。ちょっとって言ってるけど、アダ名を付けられるくらいだ。相当なものだったんだろう。
「ってことは、アネホさん達って、火の魔法とか、使うんですか?」
「えぇ、何代か前までは大掛かりな術も使えたそうですが、私達は、武器に炎を纏わせる程度ですけどね。こういう感じに」
ぼう、と、手にしたフレイル……もう、ヌンチャクで良くね?に、炎を灯す。
「あ!お姉ちゃん、何してんの?アタシもやるぅ~~~♪」
どこから取り出したのか、ノリノリで三節棍を構えたアガペー。
「イックよ~~~!ちょ~かえん、せんぷ~……!」
「ちょっ!やめなさい、アガペー!」
……時すでに遅し。アガペーの放った炎の輪は、手近な木に燃え移り、轟然とした火柱を上げる。
「わぁ~~~っ!アガペーさんが、またやらかしたぞぉ~~~っ!」
「またか……水もない!燃え移らないように、木を切り倒せぇぇぇぇっ!」
「「「おうっ!!!」」」
一糸乱れぬ様子で、冒険者たちが消火にあたる。見るからに、慣れた感じ。
「あの、しょっちゅうこんな感じ、なんですか?」
「……お恥ずかしい限りです。あの子も、悪い子ではないのですが、調子に乗ってしまうと言いますか、考えなしと言いますか……」
斧や両手持ち大剣を手に、懸命に木を倒しにかかる人たちを背景に、項垂れた様子で、アネホさんは語る。でも、この光景を見て、焔獄の意味を解った気がした。
そんなこんなで、ちょっとしたトラブルはあったものの、無事に街に戻ろうかという頃合い。
「いや~、さっきはちょっと危なかったですねぇ」……色んな意味で。
「全く。申し訳ないことです。あの子ったら、もう……」
ため息交じりのアネホさんだけど、我関せずといった様子のアガペーが、ニコニコ笑顔で、話に混ざってくる。反省は……してないな、こりゃ。
「ちょぉ~~っと、シッパイしちゃったね!アハハハハハ♪ところで、お姉ちゃんと、え~っと、カ、カケ、ルくん?ん~……長いから、カー君でいい?二人で何話してたの?」
「いや、長いか?俺の名前。まぁいいけど。ところで、さっきから思ってたんだけど、アガペーって、なんかマラカスとか似合いそうじゃね?」
のっけからのアミーゴ呼ばわりといい、やけに陽気なところといい、ピッタリな気がする。
「マラ、カス?ってなあに?」
コテン、と小首をかしげて聞いてくるアガペー。ってか、変なところで区切るなよな。
「あ、知らないか。マラカスって言う名前の楽器があってさ。イメージ的に似合いそうだなって」
「––––え?楽器?どんなの?知りたい知りた~~~い!!」
楽器と聞くや、キラキラと目を輝かせて、食い気味に身を乗り出してくる。
「あ、うん。楽器、好きな––––」「大好き!」……やっぱり食い気味のアガペー。
「そ、そうなんだ。ええと、マラカスっていうのは……」
このくらいの大きさで、こんな形で……と、説明してゆくと、話を聞いてゆくにつれて、どんどんと笑みを深めて、居ても立っても居られないといった感じで、うずうずとし始めた。
「とまあ、シャカシャカ振って、リズムを取る楽器なんだけど」
「––––面白そう!お姉ちゃん!アタシ、先に行ってもいい?」
「仕方ないわね。ここまで来たら、まぁ良いでしょう」
「ありがとう!じゃあ……」
言うが早いか、解き放たれた矢のような勢いで、街の中へと猛進するアガペー。
「おっちゃんおっちゃ~~~ん!ど~ぐやのおっちゃ~~~~~ん!!!」
「え?なに?アガペーって、そんなに音楽とか好きな感じなんスか?」
「ええ。というより、私達修道騎士団は、各々何かしらの楽器を習得します。それというのも、遥かな昔、この地に降臨された、初代の雷の聖女様が、『魔物との戦いに勝利するばかりでなく、それによって疲弊した、民の心を音曲によって慰めなさい』との、慈悲深き御心あってのことと聞き及んでおります」
闘うだけでなく、その後のアフターケアまで……その気遣い、正に聖女だわ。
「じゃあ、アネホさんも、なんか楽器をやってたり?」
「そうですね。機会があれば、ご披露しますよ?」
ふわり、と、野の花の咲くように、穏やかな笑み。クール系のこれは、反則レベルだな。
そんなこんなで、冒険者ギルドに到着。盗賊たちは、この後警務隊に引き渡されるとのことで、そのまま馬車で待機。アネホさんを先頭に、受付窓口で、状況報告をした。
「……ということで、盗賊団は押さえましたが、頭目は逃走した模様です。なので、中堅以上のメンバーを動員して、これから捜索に移りたいと思いますが、いかがでしょう?」
「そうですねぇ……ただ、賞金額はあまり大きくないので、参加してくれますかどうか」
つまり、コスパが悪いと。どうするんだろうと見ていると。
「では、いつものアレで行きましょう。……皆、清聴ぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ホールに向き直って、アネホさんが叫ぶ。すると、ざわついていた場の空気が、一瞬で引き締まる。
「盗賊団は捕縛したが、頭が逃走中だ!これを逃すわけにはいかない!よってこれより、諸君らの力を借りて、追撃に向かおうと思う!……ヤロウども、山狩りだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!!」」」」」
ビリビリと、地響きのような喚声がこだまする。
「しかぁし!今回の報酬は少ない!良くて一人一杯のエールが関の山だろう!だから、ここで問う!お前たちは、金で動く商人か?それとも、誇りに生きる、冒険者か?」
「「「「「俺たちゃあ、冒険者だぁ!」」」」」
「よく言ってくれた!更に問う!魔物は!」
「「「「「全殺し!!!」」」」」
「悪党は!」
「「「「「半殺し!!!」」」」」
「この街の冒険者の心意気、見せつけてやれ!」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
剣持ち、槍持ち、弓携える冒険者たちは、支度を整えると、怒涛の如く駆けだした。
「う、受付さん。あれ、なんです?アネホさんって、あんなキャラじゃなかったような……」
豹変と言っても過言ではない、アネホさんの振る舞い。一体、どうなってるんだ?
「あぁ、アレは、当ギルドの儀式のようなものなんですよ。今回のように、報酬は少ないけれど人手が必要、というときには、ああやって士気を高めることにしているんです」
「ってことは、今のは定型文っていうか、決まり文句みたいな?」
「はい。この街の冒険者ギルド発足当時に決められたものでして。発案者は、そちらの……」
受付さんが示したのは、俺の後ろ。腕を組んで、ニヤリと笑う、双剣の剣士。
「俺だ」
どこか自慢げに、親指で自らを指す、バンディ。
「え?バンディが?って、どういうこと?」
「そりゃあ、俺もここのギルドの創設に関わったからな。五年くらい前だっけ?」
意外と浅かった、冒険者ギルドの歴史!いや、それよりも。
「でも、ギルドの創設に関わるって、バンディ、もしかして、スゴイ人?」
「あ~、それについちゃあ、ま、そのうちな」
照れくさそうにはぐらかすバンディだったけど、さっきのジルコのことといい、雑専ギルドの人達って、実はスゴイ人の集まりなんじゃないだろうか。孤都さんの、焔狐?もメッチャ強かったし。
興味は尽きなかったけど、もうお昼も近くなってきたので、一旦戻ろうか、と俺、ジルコ、バンディの三人で、連れ立って雑専ギルドまで帰ることにした。
「あ、お帰りなさい、皆さん。……あら?ご一緒だったんですか?」
「はい。途中で行き合ったんだけど、ゴタゴタに巻き込まれちゃって。(ぐうぅぅ)……っと、すんません。軽くでいいんで、何か食うもの、いいっすか?食べ歩きもしそびれたし」
考えてみれば、リッツォタンパ一本しか食ってない。ぐぅぐぅと鳴る腹を押さえて、空腹を訴える。
「ふふっ。いいですよ。丁度お昼の準備も出来たところですし、すぐにお持ちしますね」
よく見ると、カフェエプロンみたいなものを締めた受付さんが、パタパタと駆けてゆく。
昼食は、クラブハウスサンドと、何かの芋のスープ。ローストされたターキー?のスライスしたのや、しゃっきりとして、味の濃いレタスやトマトが挟まったサンドイッチは、嚙みしめるほどに旨みが溢れてきて、スッゲエ旨かった。
「カケルちゃん♡ホラ、ほっぺにパンくず着いとうよ?(ひょいパクッ)ん~♡」
「ちょっと、孤都さん。恥ずかしいから、やめてくださいって」
当然のように、俺の隣で世話を焼く、孤都さん。なんだか、少し慣れてきている自分に、こんな甘やかされ願望があったかな?と、ちょっと疑問に思ったり。
そうこうしているうちに、食事を終えたジルコが、懐から一つの包みを取り出した。
「あ、ジルコさん。無事に荷物、受け取ってきてくれたんですね」
「ん」
受付さんの問いかけに、短く応えたジルコは、さっき運び込まれた、例のジュークボックスのような道具の方に歩み寄った。包みの中から出てきたのは、大きな水晶みたいなもの。
「受付さん。あれって一体、なんですか?」
「はい。あれは、魔晶石と言って、色々なものの動力になるんですよ」
「へえ~。なんか、便利なもんですね」
色々なものの動力、ってことは、バッテリーみたいな感じ、なのかな?
「せば、動がすど」
魔晶石を道具に組み込んでいたジルコが、スイッチを入れる。最初は、ザーっという音がしていたけど、ツマミをいじっているうちに、次第に何かが聞こえてきた。
『ザーッ……ジッ、ジジッ…………ぃ上、お昼のニュースでした。次は、お天気コーナーです』
段々とクリアになる音声。どうやら、ニュース番組だったようだ。…………って!
「こ、これって、もしかして……」
「あ、カケルさん、ご存知でしたか?そうです、これは、マナ離収音匣です」
ラジオ!マジでか!こんなファンタジー世界で、ラジオなんかにお目に掛かれるとは!
『それでは、明日のお天気です。キファールさぁ~ん!ハレタロー!』
『はい!気象占い師のキファールです。今日は王都のオダイバからお届けしておりますよ~。ハレタロー?あぁ、今日もハレタローは子供達に大人気のようですね。お見せできないのが残念です』
番組は、お天気コーナーになっているようだが、それどころじゃない!蒸気、もとい、マナラジオ!中世ヨーロッパぐらいだと思ってたのが、カンペキひっくり返ったわ。スッゲー!!
「あ~、忘れるどごだった。手紙も来てだったど」
「ありがとうございます。本当にお疲れ様でした、ジルコさん」
大興奮の俺をよそに、ジルコと受付さんが会話を交わす。
「なぁ、カケルちゃん。この後ドラマが始まるんやけど、一緒に聞かへん?」
「ドラマ?……聞いてみたい!」
孤都さんのお誘いにも、興奮気味に、快く快諾。
それからしばらく、孤都さんやディジーと一緒に聞いたドラマは、昼メロというかなんというか、ドロッドロの恋愛劇。どこの女の人も、こういうのが好きなんだろうか。
「皆さん。そろそろお茶にしませんか?」
そう言って、受付さんが焼き菓子とティーセットを乗せたお盆を手に、声をかけてきた。壁の柱時計を見ると、もう三時を回る頃合いだ。バンディ達も集まってくる。
「おっ、もうそんな時間か。今日の菓子はなんだ?」
「いやいや、受付殿の菓子はいつも旨いからの。今日も楽しみ、であるな」
「……んだ」
思い思いにお喋りしながら、二つ、三つの小卓を寄り合わせ、席についてゆく。さっきから掛けっぱなしになっているラジオは、情報番組とか、娯楽系のものになっていた。
『それでは、ここでゴキゲンなナンバーをお届けしましょう!オーク坂45で、《Fry ~ 虹を越えて ~》 先日リリースされたばかりの、ホットなナンバーを、どうぞ!』
「むっ!これはいかん。ボリュームを上げねば」
いそいそと、ライアーがラジオに向かう。オーク坂って、もしかして、グループアイドル?とか思っていると、ラジオからは、ポップで軽快な音楽が聞こえてきた。
さぁ!立ち上がれ
羽根広げ
虹の橋を越えて
どこまでも
くじけずに
羽ばたいて
光差す
空へ
~~~~~~~~♪
「へぇ、こっちにも、アイドルとか、いるんですね」
誰にともなく言うと。
「えぇ、彼女たちはオーク坂45と言って、全員が魔族なんですよ」
マ?ってか、マジでか?全員魔族のアイドル、想像つかないわ~。
「因みに、我の一推しは、この曲でセンターを勝ち取った、クィールちゃんだの」
「いや、それはどうでもい~し」
「……であるか」
推しをスルーされて、涙目のライアー。どんだけだ。
「バッカお前ぇ、それを言うならミノトーリスのポーラちゃんだろ。こう、胸も尻もドーンとでっかくてだなぁ……」
ミノトーリスというのは、ミノタウロスの女性版らしい。けど、今の発言で、女性陣からの冷めきった視線が、バンディへと向けられる。しかし、でかい胸と尻が好きって、欧米か!
「なぁ、カケルちゃん?」
終わりのないアイドル談議に耳を傾けていると、何かを探るように、孤都さんが話しかけてきた。
「なんですか?孤都さん」
「うん。……カケルちゃんも、こういうのがええのんかな、って思てな?」
「えぇと、歌は結構好きだけど、顔が分からないから、それ以上はちょっと……」
「あ、うん。そらそうやんなぁ。ゴメンなぁ、変なこと聞いてもうて」
「?いや、別に構いません、よ?」
なんだろう。まさか、アイドルに嫉妬とか……?ないない。ないよ、ね?
結局、この日は皆で話し込んだり、ラジオに耳を傾けたりして午後を過ごした。出かけようかとも思ったけど、正直昼までが盛り沢山過ぎて、疲れてしまったのだ。
……随分と賑やかな一日だったとは思う。あんまり賑やかなのは得意じゃないけど、ここはなんていうか、不思議と家族のような暖かさがあって、こんな賑わいなら悪くないと思えた。




