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 午後になり、私たちはカリスマさんと神殿前で待ち合わせをしていた。ハイテンション老師に筋繊維の下処理と涎の加工を教えて貰ったら店から追い出されてしまったが、丁度良くメッセージが届いていて助かったところである。


「煮詰めたら寝かせるからこれで勉強しておけ、とはなあ。グレッグ先生とはずいぶんタイプが違うな」


 押しつけられた、厚みが人の顔ほどある皮装丁の本を開いてみている。魔法文字大全と題の付けられたこれを完全に習得できる気がしない。


 ミミズののたくったような一文字が『魔力にて点灯・消灯切り替え。稼働時魔力供給元:接触者。機能維持魔力:空気中より自動収集。明るさ三段階調節可能。光色:白』と言う意味を含む、とかわかるわけないだろ。もう全然出来る気がしなくて絶望である。ちなみにこれは良くあるランタン型魔法道具の設定らしい。


「お待たせお姫様、ごめんね遅れちゃって」


 初デートに遅れた乙女のようなセリフでカリスマさんが登場した。いえいえ、難読辞書と睨めっこしていたので大丈夫ですよ。ストレージに放り込んで立ち上がり、挨拶。ウールちゃんもこんにちは。


「……ンメ」


「まあウールちゃん良くできたわね! もう大好きよウールちゃん!」


 ウールちゃんが小さく挨拶を返してくれたと思った刹那、カリスマさんが壊れた。こんな人だったろうか。抱きしめられてウールちゃんが迷惑そうだが、カリスマさんの胸筋を叩く力加減には愛情を感じる。


「はっ、ごめんねお姫様。ちょっと辛い事があって……運営のメール、もう見たかしら」


 カリスマさんの寂しい顔を見て合点がいった。そうだ、運命の王子様が存在してないと言う想定外の事態が起きていたんだった。すっかり忘れていた。


「ええ、でも大丈夫ですよ。そのうち第2陣がやってきますから」


「そうよね、頭ではわかってるんだけど。ごめんねえ、ちょっぴり情緒不安定なのは気にしないでほしいわ。さて、今日も作業場に行きましょ? ちょっと散らかると思うから」


 カリスマさんに連れられて作業場へ。カリスマさんが隣にいると視線が集まって仕方ない。目立つもんなあと隣を見上げて微笑みかけられた。顔のつくりは一級品なのにどうして残念な方のメイクをしてしまったんだろう。


 汎用棟110号室。カリスマさんがまず取り出したのはぬめるような光沢をもつ黒の外套だった。フードを少しコンパクトにした代わりに襟を高く立ち上げて顔を見づらくしてあるロングコート型のもの、か。


 イルが苦しいのではないかと思ったのだが、着てみると背中側にはかなりゆとりを作ってあり、イルが収まっても余裕が残るほどだった。他の所も動くことを前提にデザインしたのか緩くもきつくもない。職人の仕事である。


「素敵ですね」


 率直に感想を述べるとカリスマさんは嬉しそうに笑った。


「そう? 嬉しいわ、お姫様の為に一生懸命考えたのよ。それじゃあ今度はこれを着てみて」


 取り出されたのはボディスーツのようなぴったりした全身タイツである。同じ色なのでこれも翼竜の皮であろう。試着室を出してもらって着替える。……恥ずかしいのだが。


「大丈夫よ、その上に着るものもちゃんとあるから! 今だけだから、ちょっと動いてみてきついところがないか確認させて頂戴」


 試着室から出ることを躊躇っていると、カリスマさんからそんな声が飛んできた。そうですか、しかしモデルでもないのに人前で恥じらうなとはハードルが高い要求だ。


 これは作業だと自分に言い聞かせて何とかこなした。頑張ったと思う。次に出てきたのは長いブーツとローブだった。矢が刺さった話をしたせいなのか、関節部分がかなり強く作られている。足元は腰までスリットが入っているし動きは阻害しなさそうだ。


「ああ、良いわね。ローブとブーツは銀背猿の毛皮で作ったわ。内側の緑の部分はトロール皮よ。肌触りと見た目は悪いんだけど性能が良すぎて捨てられなかったのよね。だからボディスーツも作ったの」


 カリスマさんの葛藤の産物であるらしい衣類を見下ろして、私はふと思い出した。


「そう言えば、元々お願いしたのは外套だけではなかったでしょうか? これらは別途お支払いします」


「またそんなこと言って! アタシは無料でやるって言ったのに山ほど素材置いて逃げたんだから、アタシへのお詫びとしてこれを受け取りなさい! これは断らせないわよ」


 怒られてしまった。不平等だと思ったのに、カリスマさん側からするととんでもない事であったらしい。


『翼竜皮のロングコート ワイバーンの皮を加工した長いコート。生地を重ねた内側にトロールの筋繊維を仕込み、柔軟性を残しつつ強度を上昇させてある。腰より下の自由度を上げるため留め具を排している。被ダメージ10%カット。被打撃ダメージ10%カット。受けた炎、風の効力を半減。夜間の被探知率5%ダウン』


『翼竜のボディスーツ ワイバーンの皮と鱗を駆使したボディスーツ。内臓部分を覆う鱗が少々の衝撃を受け止める。被ダメージ10%カット。これのみを装備している場合隠密効果5倍』


『銀背猿のロングローブ シルバーバックエイプの毛皮から作成されたローブ。裏地にトロール皮を使用して強度を高めている。帯は翼竜製。左右に腰までのスリットを入れて脚の可動域を狭めない工夫を施してある。被ダメージ10%カット。被打撃ダメージ30%カット』


『銀背猿のロングブーツ シルバーバックエイプの毛皮から作成されたブーツ。裏地にはトロール皮を使用してある。爪先、踵、脛、膝部分には翼竜の鱗製の心材が入れられており蹴りの威力を高めると同時に脚を保護する。また踵には翼竜の牙を取り付け、上手く蹴ることで刺突ダメージを追加することができる。被ダメージ10%カット。被打撃ダメージ30%カット。与ダメージStr値の25%加算』


 ……私でもわかる、怖い性能の防具たちを手に入れたのであった。


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