67
精根尽き果てた私は、老人改めバーノン老師に言われるがまま水晶を探していた。大小様々なそれらから、より魔力を通しやすい水晶を探せと言う微妙な無茶ぶりである。もう私の手持ちから出そうかと思うほど魔力が通らない水晶ばかりでいい加減草臥れる。
「老師、自分で採掘した水晶でも構わないのですか? この棚の中の水晶は私では魔力が通りません」
妥協点を見出すべく老師に声をかけた。老師は先程までのよぼよぼぶりが嘘だったかのようにしゃきしゃきと棚を漁っている。
「何じゃ調薬師とか言っておったのに採掘もやるのか? 魔力が通らんじゃあ? 不精するんじゃないわい……すまん、こりゃ断魔水晶じゃったわ。そりゃ通らんわ」
断魔水晶と言うのは魔力に対して一切の反応をしない水晶の総称らしい。使い道がなさそうだが、これはこれで便利なのだと言う。識別をかけてみればよかったか、思い込みは良くないな。識別に対する苦手意識が根付いてしまっている。
「水晶の棚はこっちじゃの、しかし折角じゃから自ら採掘した水晶も出してみなさい」
該当の棚は全く違う場所にあった。ついでなのでストレージから水晶類をまとめた袋を取り出した。水晶と言うか、磨く前の物があれこれ詰め込んである。
「ほ。こりゃまた多いの。色水晶に縞瑪瑙に、柘榴石、青曹珪灰石。今は真珠は要らんが……弟子よ、お主筋金入りのツンデレじゃのう。これだけ魔法道具向きの原石を持参しておきながらあんなに弟子入りを渋るとは! わしじゃなかったら諦めとったぞ、良かったのー」
違います。あくまでもそれらは【宝飾】用だと伝えたがにやにやされただけだった。この爺さん人の話を全く聞かない。これなら材質的には問題ないから最も手に馴染むものを選べと指示され、あれこれ手に取ってみる。一番しっくりくるのは無色の水晶であった。我ながら無難である。
「良く言えば万能型、悪く言えば器用貧乏じゃの。わしと一緒じゃ。まあ心配することなんぞないわ、そこらの魔法道具職人なんぞ十把一絡げに思えるほど仕込んでやるわい!」
わーっはっはっは、と老師は背をそらして笑った。どこからこの自信が湧いてくるのか、そして店番をしていた時の姿は演技だったのか。全然足腰が弱ってなさそうだ。
「さて、それはともかくとして残念じゃが材料が少し足りんのう。芯に使う魔物由来の繊維と接着剤兼魔力馴染みをよくする涎が必要じゃ。お主持っとらんか?」
実にピンポイントな要求である。ピンポイント過ぎて持っている。これを取り出すとまた勘違いが加速しそうで嫌なのだが、使う当てもない物だし仕方なく取り出した。
「なあんてのー……あるんかい! お主ツンデレの鑑じゃのう! 絶対持ってないと思ったのにのう」
危惧した通りである。どんどん私がツンデレで素直になれない魔法道具職人志望者と言うことになっていく。イルが慰めるように足を叩いてきた。すまない。
「しかもトロールの筋繊維と涎じゃと? ゴブリンでもオークでも百歩譲ってオーガでもなくトロールじゃとー! どこで手に入れたんじゃ? わしも欲しい!」
老師のテンションは鰻登りであるが、弟子の私は付いていけていない。とりあえずまだ沢山あるのでいくつかストレージから取り出した。
「北東の森で戦うことがありまして。緑の巨人はトロールと言うのですね、初めて知りました。特に必要ない物なので差し上げます」
「なんと、まあ。お主が倒したんか? 調薬師じゃなかったんか? 戦うツンデレ調薬師? はあ、もうわけ分からんわ、わし」
老師は驚き過ぎたのか、一周回って落ち着いてくれた。ここぞとばかりに椅子を進めて座らせる。ついでにツンデレ設定を忘れてほしい。
「私一人の力ではないですよ。先程1匹とお伝えしましたが、パートナーがいまして。イル、出てきてくれるか」
言い訳ついでにイルを呼んだ。不本意とは言え弟子となったからにはここで長い時間を過ごすことになろうし、イルに忍耐ばかり強いるのは忍びない。イルがするりと抜け出て私の肩辺りに手を置いた。
「……」
老師は目が落ちそうなくらい見開いたまま固まっている。どうしたのだろう、まさか服の下にパートナーを隠すとはなんという不心得者が! などと怒られてしまうのだろうか。
「……水龍の仔かの?」
「そうだぞ、よく分かったなこの爺さん。違った、よく分かりましたね」
イルを信じられないような目で見て、私を見て、老師は目を擦った。
「まさか生きとるうちに水龍を拝むことになろうとはのう。長生きするもんじゃ」
先程までのはしゃぎっぷりが幻だったかのような知性的な雰囲気を醸し出す老師。穏やかな瞳でイルを見つめて――
「ちょっと握手してくれとお願いしてくれんか弟子よ! 冥途の土産にするわい!」
気のせいだった。なお、イルは戸惑いつつも握手に応じてあげていた。【ツンデレ】の称号が全くそぐわない優しい龍である。




