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魔法道具専門店目指して二人で歩いた。高級すぎるとニーの街脱出計画がまた遠ざかるのだが、果たしてどうであろう。
緊張しながら扉を開けると、思った以上に清潔感のある店内であった。怪しい香料の匂いもなければ、蜘蛛の巣もない。当たり前か。小さな机と大きな作業台、試着室まで設えられている。野営セットは店員さんに聞かなければ出て来ないのかもしれない、どこにも見えなかった。
「おお……気が付かんですまんかったのう、何が要るんじゃ?」
声を何度かかけたが返答もなければ誰も出て来ないまま10分は経っただろうか。出直そうかと思い始めた頃に、足腰が大分弱っていそうなご老人が現われた。店主であるそうだ。
「娘が手伝うてくれるから続けられるんじゃよ。今は使いに出とるんじゃが、可愛いんじゃよ。ほいで、野営セットじゃの? あれは大きいからのう、どこやったんじゃったかの~」
老人がよろよろと店内を歩く。はらはらしながら追従して、大分店の奥まった辺りで足を止めてくれたことにほっとした。
「おおこれじゃこれじゃ。そうじゃな、何人で野営するんじゃ?」
前に大きめの空間を開けた棚の前である。何人でと言われても、私とイルだけだ。
「1人と1匹です。1匹の方は私より小さいです」
「ほお。隠棲でもするんかい? ほっほ、若い身空で大変じゃの。そんならこの辺なんぞどうかのう」
あながち間違ってない冗談を言って老人は一人で笑った。そして棚から……色のついた正四面体の石を取り出した。そしてそれを床に放り投げた。石が上手い事着地したと思ったら煙が噴き出す。謎の演出で店内が大変な事になった。
「何も見えないのですが……」
「若いもんはせっかちじゃの~。この煙の良さがわからんとはのう。これで一晩の魔物よけになるんじゃよ」
セットの内容どころか老人も見えていないのだが、この煙こそが魔物よけの仕掛けであるそうだ。と言う事は、毎日野営セットを展開しないといけないのか。
「わしらには解らんのじゃが、効果は確かなんじゃ。伝統ある魔法道具じゃよ。おお、ほれ、そろそろ見えてきたの」
老人の言葉通り、煙がようやく薄れてきた。成程一人用だと納得できるサイズの木の小屋、と言うよりは大きい木の箱に見える物体である。1畳くらいしかなさそうだ。丸まって寝るのが精一杯か。∞世界ではエコノミー症候群を心配する必要はあるのだろうか?
「すみません、身体を伸ばして寝たいのでもう少し大きいものが良いです」
体調的にも精神的にも、箱詰めの気分はいただけない。疲れて入って癒される気がしないのである。老人は片眉を引き上げてこちらを見た。
「なんじゃあ? 素人じゃろうとは思うたが、スーパー素人じゃったのか。案ずるより産むが易しじゃ、ちょっと入ってごらん」
スーパー素人扱いされつつ、扉を開けてみた。あれ? 一畳分の面積しかないのに開けると四畳半くらいのスペースがある。これならちょっとした物置くらいの広さだ。
「空間魔法ですか?」
「馬鹿を言うでないわ、魔法道具職人の技術じゃい。空間拡張は難しいんじゃぞ」
そうなのか、面白い。現実ではありえない物体の外と中を見比べてみたり触ってみたりしていると、老人が笑いだした。
「ふぉふぉ、興味津々じゃのう! よしよし、ちょいと教えてやろう、基礎の基礎の初歩中の初歩、光る石の作り方をの」
老人が何時の間にか手に持っていた杖を軽やかに振った。杖と言うか指揮者棒に見えるそれから魔力が流れて棚を開け、石とペンを持ち帰ってきた。私の目の前まで来たそれらを停止させて、老人はにやにやと私を見てから目を丸くした。
「ほ? 今のが見えておるか。スーパー素人じゃが素養はあるかも解らんの」
老人がさりげなく私を罵りつつ褒めてくれる。複雑な思いだが石とペンを両手で持った。
「魔力は扱えるようじゃの。ではこのペンに魔力を込めて石に『光れ』と書くのじゃ」
え?
「え?」
「何じゃ耳が悪いんか? いいかの、この、石に、ペンで、『ひ・か・れ』と、書くんじゃ」
いやそうではなく、聞き取れなかったのではなくて。魔法道具作りってそういう仕組みなんですか? 意外なチープ感に戸惑いを隠せない。とりあえず、光れと書いてみた。日本語でいいのだろうか。
「光った」
「うむ。ごく簡単な命令であれば書くだけで発動するのじゃ。勿論、売り物になるほど役に立つ道具を作ろうと思えばもっと勉強せねばならんがの。魔法道具は書くスペースが限られておる上、文字数が増えるほど効率が落ちるのじゃ。一文字で複数の意味を持つ魔法文字を習得せねばならぬのよ」
急に饒舌に語りだす老人。魔法道具作りに情熱を捧げて人生を過ごしてきた者の風格が滲んでいる。お年は召しているものの精神までは老いていないということか。
「と、言うわけで学ばんか? 寧ろ学ぶがよい! うむうむ、文字ペンを初めて触ったのに使えたのじゃから素質充分じゃて! わしの技術をたんと受け継ぐがよいわ!」
わはははと急に笑い出した老人。私はそんなつもりでここに来たわけではないので丁重にお断りすることにした。
「すみませんが私は調薬師でありまして、」
「そうと決まれば早速お主専用ペンを作成せねばならんな! さあて手頃な素材があったかの?」
「あの、申し訳ありませんが魔法道具作りを学ぶ気は全くありません」
「うーむ、芯部分の繊維が今いちじゃのう。握りの部分の楡の木は、あったあった」
「聞いてください、買い物に来たのであって弟子入りに来たのではないんです」
「おんや? 涎がちと少ないのう。これ弟子、呆けとらんで手伝わんかい! そこらの棚からペン先用の水晶を見繕うのじゃ、二番目のガラス棚に入っとる」
「ですから!」
この糞じじ、いや老人は私が了承するまで耳の遠いふりを貫いたのである。いっそ見事な演技力と面の皮であった。一時間はゆうに超えており、根負けした形である。尚、師匠となった糞じ、老人の名前はバーノンであった。
辰砂 Lv.70 ニュンペー
職業: 冒険者、調薬師、魔法道具職人の弟子
HP:1185
MP:3380
Str:470
Vit:250
Agi:500
Mnd:610
Int:610
Dex:530
Luk:230
先天スキル:【魅了Lv.9】【吸精Lv.10】【馨】【浮遊】【飛行】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】
後天スキル:【魔糸Lv.12】【調薬Lv.20】【識別Lv.20】【自動採集Lv.1】【採掘Lv.24】【蹴脚術Lv.4】【魔力察知Lv.7】【魔力運用Lv.15】【魔力精密操作Lv.22】【宝飾Lv.6】
サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.13】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.7】【調薬師の心得】【冷淡Lv.4】【話術Lv.6】【不退転】【空間魔法Lv.6】【付加魔法Lv.11】【細工Lv.2】【龍語Lv.6】【暗殺Lv.2】【料理Lv.4】【夜目Lv.4】【隠密Lv.12】
ステータスポイント:0
スキルポイント:73
称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の友】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】
イルルヤンカシュ Lv.29 仔水龍
HP:7500
MP:5000
Str:1150
Vit:1150
Agi:350
Mnd:630
Int:630
Dex:400
Luk:100
スキル:【水魔法Lv.28】【治療魔法Lv.5】【浮遊】【飛行】【強靭】【短気】【環境低減】【手芸Lv.4】【アヴァンギャルド】【風魔法Lv.1】【雷魔法Lv.1】
スキルポイント:2
称号:【災龍】【水精の友】【ツンデレ】【絆導きし者】