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 気になりすぎる発言を残された私はベッドに一人で寝ていた。イルがいない。部屋は散らかされたままで、作りかけだったのか紐を何本か編んだ途中で床に落ちている。


 天草さんは装身具に変わると言っていたのを思い出し、自分の体を見回した。覚えのない腕輪が着いているのを発見。イルをモチーフにしてあるのか、腕を登る龍に見える。しげしげと眺めて、どうやってここからイルが出てくるのか思案した。天草さんはそこら辺の説明はしてくれなかったな。勝手に出てくるものだと思ったのだが。


『パートナーはプレイヤーログイン後30秒で自動的に出現いたします。※このウィンドウは初回のみ表示され、以降は省略されます』


 急に眼前に出たウィンドウに面食らったが、それと同時に腕輪が光ってイルが現れたのでウィンドウを閉じた。イルも戸惑った様子で手元を見ている。


「あれ? 俺網編んで……あ、辰砂おはよう、ゲフン、ございます」


 とりあえず挨拶を交わす。イルには何ら説明なく仕様が変更されたようだ。


「おはよう。イル、今度から私が長く寝るときはイルも眠たくなるようになったらしい。食事の心配はしなくて良さそうだ」


 システムだとかアップデートだとかそう言う事を省いて伝えようとすると、こんなぼんやりした連絡になってしまった。イルに気にした様子がないのがありがたい。


「へーそうなん……ですね! 便利だなじゃない、ですね! 正直暇過ぎたもんな……過ぎましたから」


 ぎこちない言葉遣いを気にしてないふりをしながら魔力を渡した。それから新着メッセージを開く。運営だった。第1回データ解析結果?


 なんでもアップデートのタイミングで、各種データを集計してプレイヤーに周知するらしい。表計算ソフトで作られたらしい、実用性一辺倒の表とグラフのファイルが添付されていた。何を集計したのか気になり、上から目でなぞっていく。


 種族別分散値。系統別の大雑把な分布のようだ。私は妖精系統で、下から2番目と言う微妙な位置だ。最多は獣人系統だった。まあ確かに耳だの尻尾だの生えたプレイヤーはかなり多い。2位は意外なことに人系統である、と思ったがそう言えばエルフもドワーフもこの系統だったか。


 最下位は、明らかに知り合いである。天部系統であった。と言うか種族に偏りがあるよなあ。他の系統は少なくとも何十人か存在しているのに、妖精系統は7人だし天部は1人だ。カリスマさんの運命の王子様はまだ存在すらしていないと言うことが証明されてしまった。早いところ第2回のソフト販売を行ってもらいたいところである。


 タブを切り替えると、就いている職業の分布があった。冒険者がダントツである、と言うかソフトの初回販売数とほとんど同数だ。推奨されていることでもあるし当たり前か。他の職業は兼業と言うことになるのだろう。私の調薬師のように。調薬師を探して目を滑らせる。


 表を上から下までとっくり眺め、調薬師が一人しかいないと言う世知辛い結果が見つかった。鍛冶師も裁縫師も暗殺者だって2桁以上いるのに、何でだ。調薬スキルに対する偏見と言い、失礼千万である。しかし他にも数の少ない職業はいるのだ。仲間はいる。


『騎士』『織手』『侍女』『怪盗の弟子』『忍者』『豚』『作家』『左官』『歌手』『復讐者』見よ、独りきりの仲間はこれほどいるのだ。ところどころ変だがこれは深く考えてはいけないだろう。


 他にも取得スキルやレベル分布など色々あるようだったが、調薬師の不遇ぶりでもう胸が逆の意味で一杯である。ウィンドウを閉じて今日やることを考える。装備が出来上がるまで引き籠って石磨きに精を出そうか。


「うーん。イル、戦闘以外でやりたいこと何かあるか? 今日は何をしよう」


 日がな一日石を磨けるほど私は悟りを開いていない。イルに何かしらのアイディアを求めると、イルも思案しているようだった。


「何だろな? じゃない何でしょう? あ、そう言えば野営セット買うって言ってなかったっ、言ってませんでしたか」


 おお! そう言えばそう言う予定もあった。現在の所持金は目標額に届いていないのだが、相場の調査も兼ねて専門店に行ってみよう。もし手が届けばすぐ購入したい。


「行ってみるか」


 可哀想に、早いところ外套の完成を祈るばかりだ。巻きスカートの裾に隠れるイルが健気でこちらが辛い。どこら辺りがツンデレなのだ。


 意気込んで出発しようとしたのだが、野営セットと言うのは何屋に置いてあるのかさっぱりわからなかった。女将さんが今日も掃除をしていたので聞いてみよう。


「野営用品は魔法道具専門店で取り扱っておりますよ、魔物を避ける魔法がかけてありますから」


 魔法道具と言うものがあることも驚いたが、なんでも魔法使い向けの杖もそこで取り扱っているそうだ。魔法道具職人と言う人たちの渾身の逸品なのだそうで。買いに行く前から敷居が高い感じである。


「行くだけならタダじゃん、行ってみようぜ辰砂! な! ……無料でございますー」


 背中を押してくれるイルだったが、そこまで言い切ってから言い直しても遅いのではないだろうか。


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