出会二④_女の子の義務じゃない
この世界で、屋敷の外に出るのは初めてである。
不安と期待。複雑に絡まりあう心を持て余しながら、あたりを眺める。
明治らしいレトロな街並みを想像していたのだが、レンガの建物などは見当たらない。代わりに日本家屋が建ち並んでおり、町の人々も洋装ではなく、ほとんどの人が着物である。
そして、ウメちゃんもワンピースを脱いで着物に着替えている。
「ウメちゃんも、着物になんだね」
「うん。洋服はとっても目立つから」
ここは、着物の方が目立たない世界である。
「ねえ、見て、お菓子がある」
ウメちゃんの指さす方には、のれんのかかった小さな家がある。和菓子屋らしい。
甘い香りの誘惑に負けた私たちは、一際美味しそうに輝く牡丹餅を買った。どの世界でも、甘いものは心の癒しである。
様々な店に寄り、二人は慣れたように生活用品の数々を購入してゆく。私にとっては、見慣れないものばかりだった。
「お姉ちゃん、これ似合いそう」
差し出されたのは、丸い小さな缶のようなもの。開けてみると、中身は真っ赤な紅である。
「化粧品か。それも必要だな。女は、綺麗でいなくてはならないからな」
化粧品をのぞき込む伊藤さんに、ウメちゃんは不意に声を上げた。
「伊藤さん、それは違う。女だから、じゃない。オシャレしたいから、可愛くなりたいから、お化粧するの。
言われてやるものじゃない、と思う。Well, こういうの、なんて言うんだっけ」
言葉に詰まるウメちゃんに、思い当たる単語を伝えてみる。
「義務?」
「そう、それ! お化粧すること、綺麗になることは、女の子の義務じゃない」
黙って聞いていた伊藤さんは、その言葉に素直に頷く。
「ああ、それもそうだな。悪かったよ」
ふと、初めて化粧をした時のことを思い出した。
街ですれ違う、おしゃれでかわいいお姉さんのようになりたかった。誰に求められたわけではなく、ただ綺麗になりたい一心だった。
キラキラと輝くラメ。赤く染まる頬と唇。大人になれた気がして、とてもドキドキした。
変わる自分が嬉しく、ときめいた。楽しかった。
いつから、化粧が義務感になっていたのだろう。もう、あの楽しさを巻き戻すことはできないのだろうか。
「お気に召す化粧品が見つかるといいな」
「あっちのお店にも行こう」
二人に連れられ、店を出る。
買ってもらった化粧品は、どことなく輝いているような気がした。
本作はノベルゲーム原作を小説版に書き下ろしたものです。
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