帰還編二①_行っておいで
暗い闇の中、誰かの声がする。
水の中で、ふわふわと浮かんでいるような感覚。以前にも、ここを見たことがある気がする。
「随分と大人の顔つきになったね」
この声も、覚えている。
思い出した。ここは、この世界に来る直前に見た、夢の中だ。
「これまでのきみの旅は、どうだったかな。良いものになったかい」
そんなこと、考えるまでもない。
よかった、と安心したように、嬉しそうに、声が言う。あなたは誰なのだろう。
しかし、この声の主はずっと、私の味方だった。私の気付かないうちから、ずっと。
そうでなければ、そんな包み込むような優しい声を、出せはしない。
水面に光が差す。泡が昇っては弾けて消える。
「きみの世界で、きみが幸せに生きてくれることを願うよ」
私は幸せに生きる。それが、栄一さんへの恩返しでもある。
「さあ、行っておいで」
泣きそうなほど優しい声だ。何故か、涙があふれた。
輝く水面に、手を伸ばす。
私は帰る。私のいるべき場所へ。
重い瞼を開ける。
カーテンから差し込む朝日、時を刻む時計の音。
長い、夢を見ていたような感覚である。先程までいた世界は、夢だったのだろうか。
首を振る。夢のわけがない。
私は記憶している。私の中には、あの世界の時間が、しっかりと刻まれている。
「栄一さん」
あの声、笑顔、手の温かさ。全てを、鮮明に思い出せる。
目元をこする。泣いていてはいけない。
私は、栄一さんの作った世界を見届けると決めたのだ。泣いていては、何も見えない。
この世界は、決して優しいものではない。不安ばかりである。
それでも私は、負けず生きなければならない。
栄一さんが教えてくれたのだ。何があっても、どんなに理不尽な世界でも、その時自分ができることを全力でやるべきだと。
朝日が昇る。どんどん明るくなる。太陽は、こんなに眩しかっただろうか。
もたもたしていられない。私は、私のできることを、精一杯努める。
あの人の作った世界に生きる喜びを、この身に噛みしめて。
本作はノベルゲーム原作を小説版に書き下ろしたものです。
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