パリ編一⑦_信用でお金を貸す
「今日お見せしたかったのは、これです」
連れられた大きなレンガの建物の前で、お兄さんは胸を張って腕を広げた。
「これは、バンクです」
「バンク、とは何をするところでしょうか」
「お金をまとめて管理していて、企業などに貸し出ししています。
会社を運営するには、たくさんのお金が必要でしょう。一旦ここでお金を集めて、企業は借りたお金で会社を大きくし、利益を上げる。バンクは、お金を貸す代わりに利益の一部をもらい、そしてまた別の会社に金を貸す。繰り返して、この国は成り立っています。
つまり、銀行はお金の循環の要なんですよ」
お兄さんの説明を聞いて、栄一さんは手を打った。
「そうか、やっとわかった気がする。
今まで見てきた大きな工場が、どうやって作られているのか、わからなかったんだけど。この仕組みのおかげで、大きな組織を作ることができているんですね」
「スエズ運河も、こうしてみんなから資金を集めて、作っているんですよ」
銀行という存在はもちろん私の知るところではあるが、こうして改めて見ると、素晴らしい仕組みである。銀行の仕組みを最初に考えた人は、相当頭が良いのだろう。
「あの人も、金を借りていったようですね」
銀行から出てきた、シルクハットの男性を目で追いながら、お兄さんは言う。
「あの小さい荷物では、たくさんお金を持っているようには見えませんが」
栄一さんの言う通り、男の持つかばんは、特別大きいわけではない。この世界に慣れてきた私は、栄一さんの疑問を理解した。
日本であれば、お金と言えば小判や銭などである。多量のお金を持つとなれば、相当な重労働となる。
「小切手ですよ」
お兄さんは小さな紙を取り出し、私たちに見えるように差し出す。
「これは小切手といって、書かれている額面と同じ価値があるんです。ですから、大金を持ち運ぶ必要はありません。とっても便利でしょう」
「この紙切れが、お金と同じ扱いになるなんて……国民は、それで納得されているんですか?」
「勿論」
現代人の私でも、電子マネーが普及し始めたころ、現金でない支払いには少なからず抵抗感があった。よく考えれば、実物のないものをお金として扱うことは、簡単なことではない。
「信用でお金を貸す。それがバンクです」
「今の日本じゃ、絶対に通用しないな。でも……」
閉じていた目を開き、栄一さんはバンクを力強く見上げた。
「これは、日本の最優先事項だ。鉄道も工場も、作るためにはまずバンクが必要になる、絶対に。
何よりも優先して、この仕組みを日本に作らなきゃ」
銀行を一から作ることは、多くの困難があるだろう。
しかし、栄一さんなら、できる。
「これから、日本がどんどん成長する未来が、僕の頭の中にある。これは、ただの空想じゃない。
僕たちは、これを叶えられる。現実に、できるよね」
絶対に、できる。私なら、言い切れる。
希望は予感に、予感は確信に。
着実に、未来への道が拓けつつある。
「もっと、バンクのことを教えてください」
栄一さんの声が、反響して空気を震わせた。
本作はノベルゲーム原作を小説版に書き下ろしたものです。
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