江戸編三①_これは変だよ
「順調……だと思ったんだけどな」
村に馴染めてから数日。最初の数十人はすぐに集まったものの、そこから行き詰ってしまった。
「あまり、時間をかけていられないのに」
どうして、と小さく漏れる渋沢さんの声には、焦りの感情が垣間見える。
「みんなとの距離は縮まった。たくさん、同調してくれる人がいる。
……なのに、奉公には手が挙がらない。何か、原因があるはずだ」
事象の把握と原因究明は、課題解決の基本である。何か解決の手立てがないかと、奉公志望者の名簿ぱらぱらとをめくる。
しかし、氏名の羅列を睨みつけたところで、特にめぼしい情報は見つからない。
ふと、ページをめくる手が止まる。そういえば。
「隣の村の人はたくさん京都に来てくれるのに、今いる村からは希望者がいないんですね」
かばっと、突然に腕を掴まれ、言葉を止める。
顔を上げれば、渋沢さんの顔がすぐそばにあり、思わず情けない声が口から洩れた。
「それ本当? この村には、奉公希望者がいない?」
戸惑いながらも頷けば、渋沢さんは名簿を食い入るように見つめる。
「この村の人たちは、何度か渋沢さんと手合わせしていましたけど、希望者はないですよね」
「みんなの出身の村まで、よく覚えてるね」
盗み聞きといえば聞こえが悪いが、渋沢さんを訪ねる人たちの会話は、それとなく聞いていた。必然的に、みんなの出身の村も把握してしまった。
「まさか」
名簿をめくる渋沢さんの目が、鋭くなる。
「ねえ。名簿にある希望者と、名簿にはないけど僕に会いに来てくれている人たちの出身地を、一緒に覚えてる限り書き出してくれる?」
名簿の調査が終わるころには、渋沢さんと平九郎くんの表情は、さらに険しいものになっていた。
「渋沢さん、これって……」
「うん、おかしい。これは、変だよ」
氏名の下に出身地を書き出せば、私でも違和感に気が付く。
「特定の村だけ、希望者がいないんだね」
明らかに、偏りが激しいのだ。
しかし、何故。問うように目をやれば、二人は立ち上がった。
「この予想は、当たってほしくないけど……確かめに行こう」
本作はノベルゲーム原作を小説版に書き下ろしたものです。
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