京都編五⑤_僕たちの役目だ
「ああいう差別は、絶対に無くさなきゃいけない。あんな悲しくなることをなくすことも、僕たちの役目だと思う」
帰り道、夕日の照らす砂利道。渋沢さんはぽつりとつぶやいた。
「藍染めは変な仕事じゃない。大事な職だよ。それなのに、その仕事に就いてるだけで、悪く言われるなんておかしい。
身分だってそうだ。武士はみんな偉そうにしているけど、武士がみんな偉いわけじゃない」
私の世界では、身分制度はとうの昔になくなっているが、差別は変わらずにある。
差別は良いものではない。しかし、悲しいが差別を排除することは不可能なのではないかとも思う。
理解できないものは拒む。自分の下に人を置き安心する。それが人間の性なのだから。
「簡単にはなくならない。なくならないかもしれない。それでも、なくすように動くべきだ」
一般人である私には、何もできないし、何をすべきかもわからない。しかし、渋沢さんは明確に、差別はなくすべきだと声にした。
強い人だと思う。この人なら、本当に結果を出しそうな気さえする。
「ご主人も奥さんも、想像以上につらい思いを抱えていると思う。けど、きみみたいな差別しない人に出会えて、二人の救いになったと思うよ
首を横に振る。何もできない。できていない。私には。
「お二人、大丈夫でしょうか」
「二人で支えあっているから、きっと大丈夫だよ。いいご夫婦だよね」
奥様たちは、心から信頼しあっているように見えた。隣に人がいるということがどれだけの救いになるか、私にも少しわかる。
「僕も将来は、ああいう関係を築ける人間になりたいな」
渋沢さんの隣に並ぶであろう人を想像する。きりっと、何かが痛むような感覚がした。
「渋沢さんも、奥様みたいな方が好みですか?」
「そうだな。奥さんみたいな明るい人は、素敵だと思うけど」
奥様は私の目から見ても素敵である。優しく明るくしっかり者で、私とは真逆の。
「でも、僕は」
風が吹く。巻きあがる砂ぼこり。反射する夕日。
「きみみたいな人が……
いや、きみが」
さらに強く風が吹く。頭の布が飛ばされないように、押さえつける。
風のせいで聞こえなかった。聞こえなかったことにした。
黙ったまま歩を進める。渋沢さんもそのまま口を閉じ、もう一度言うことはなかった。
先ほどの言葉が頭をよぎる。聞き間違いだとしたら、なんと恥ずかしいことだろう。
もし、その言葉が、私の聞き間違いでないのであれば。どんな顔をしたらいいのか、わからない。
うるさく鳴る風の音。
もうしばらく、私の心臓が収まるまで。強く吹き続けて、この心音を掻き消して欲しい。
本作はノベルゲーム原作を小説版に書き下ろしたものです。
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