↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いじめられっ子の俺に、魔界No.1暗殺者が家庭教師としてやってきた ~報酬はプリン。ただし俺は、先生の正体をまだ知らない~  作者: 燈野いさり
第1章 家庭教師、来る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/60

第50話 一人で立つ

「客将は、いりません」


 決勝の開始前、シグレは闘技場の中央でそう言った。


 ザクロが、眉を寄せた。


「相手は二人だ」


「知ってる」


「シグレ」


「父さん」


 シグレは、羽織の紐を締め直した。


「俺が客将を連れたら、この勝負、『分家が本家に人数で勝った』になる。……それ、俺が一番嫌なやつだから」


 観覧席が、ざわめいた。


 好意的なざわめきだった。四十二の分家が、初めてこの少年を、真っ直ぐに見ている。


「――よかろう」


 ザクロが、退がった。


「氷雪祭決勝。氷渡シグレ、対、氷渡セツナ及び客将・真昼ケイ。……始めよ」


 鈴が、鳴った。


   ◇


 最初の一秒で、僕は自分の甘さを知った。


 シグレの魔力は、流れなかった。


 壬生の魔力は水路みたいに走った。セツナの魔力は綺麗な川だ。だからどっちも、僕には見えた。


 シグレの魔力は――弾けた。


 手元で、いきなり。予備動作も、道筋も、何もなく。


「ぐっ!?」


 左肩が、裂けた。


 何が起きたのかわからなかった。痛みで初めて、そこに氷の刃が通ったと知った。


「――真昼くん!」


「シグレの氷は」


 僕は、傷を押さえながら後ろに跳んだ。


「――道筋が、ない」


「あるわよ! 短いだけ!」


 セツナが、僕の前に氷壁を立てた。


「あの子の氷は生成が速いの。魔力を練ってから刃になるまでが、ほとんど無い。……代わりに、射程が短い」


「射程!?」


「三メートル。それ以上は届かない」


 三メートル。


 僕は、シグレとの距離を測った。


 ――八メートル。


「じゃあ、離れてれば」


 言い終わる前に、シグレが消えた。


 いや、消えていない。走ったのだ。氷の床を蹴って、三歩で。


 八メートルが、一瞬で二メートルになった。


「あははっ! そうそう、それ言われるんだよね!」


 彼は、笑っていた。


 両手に、氷の刃。刀じゃない。もっと短い、鉈みたいな形の。


「射程短いなら近づけばいいじゃん!!」


 二本目が来た。


 読めない。読む時間がない。


 僕は――当たった。


 右腕。腹。かろうじて頭は逸らした。氷の床に叩きつけられて、視界が白く飛んだ。


「真昼くん!!」


 セツナの氷が、シグレとの間に割り込む。


 シグレは、それを刃で三度叩いて、砕いた。


「姉さんの氷、綺麗すぎ!」


 彼は、その破片の中を、笑いながら抜けてきた。


「どこに張るか、全部わかるんだよ。十年見てんだから!」


 ――ヴィムの言った通りだった。


 セツナの氷は、読まれている。


 僕は、氷の床に手をついた。腕が震えて、体が持ち上がらない。


 観覧席から、声が降ってくる。


 「無理をなさるな」「客人が怪我をされる」「もうよい、降参なさい」


 悪意ではなかった。それが、余計に、きつかった。


   ◇


 立ち上がった時、僕の視界は半分ぼやけていた。


「真昼くん、下がって!」


 セツナが叫んだ。


「わたしが抑える! あなたは外に――」


「氷渡さん」


 僕は、口の中の血を、氷の床に吐いた。


「僕、読めてないです」


「……え?」


「読んで、避けて、隙間に入る。あれ、通用してません」


 シグレが、こちらを見て、にやりと笑った。


「やっと気づいた? 当主様」


 彼は、刃をくるりと回した。


「あんた、目はいい。壬生さん相手のあれ、正直すごかった。……でもさ」


 三歩で、距離が詰まる。


「――読んでから動く奴は、読む時間がない攻撃には勝てないんだよ」


 その通りだった。


 完璧に、その通りだった。


 だから僕は――読むのを、やめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。