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AAM★★なごやかなる見栄の商人欲


 老練な(めぇ)CH(チャン)社長のビル・レイは会議後、秘密裏に接触してきた密偵から、言ってもなければ聞いてもいない攻撃指令の事後報告を受け、急ぎ自らの部屋に戻ると、指示元と判明したビザ・レギン福社長が社長椅子にどっぷりと腰掛け待ち構えていた。


 副社長のビザの方が歳は上で杖をつく、長い付き合いもありそこに座る事に一々怒るでもなく、自分を通さず出した指令についての確認を求める社長のビル。



「既にロボを衛星ウールーの(かい)CH(チャン)に向かわせたと聞いたが、何故にそこまで急ぐ? アラォドはなごやかバリユス (賭場)周辺に住んでいる。名CHの目と鼻だ、慌てる必要もあるまい!」


「それ故よ! ダム・ガンの威力を試したくば今しか無かろう?」



 ここから程近い公園の地下に在る機密開発工場とは別に、なごやかキャストゥルムの周りにある、城のお堀に流入する河川のダム内に仕込まれた研究所で開発された秘密兵器がダム・ガンである。



「馬鹿な! こんな事でアレをウールーに向ける気か?」


「ふん、自星の衛生にアレが当たればここもただでは済むまいに、アレが何処まで届くのかを見せれば良いだけの事」



 ダム・ガンは一種のレーザーを放つ事が出来る兵器である。

 それ故、撃つ方向に波長の揺らぎを起こす何かが無ければ収束された電子が拡散するまで進む、それが届く距離など考えるまでもない。

 何処まで届くのかも何も、試射でわざわざ誰に見せるというのか……


 そう考えていたビルだが、椅子に腰掛けるビザが杖の柄を執拗に撫でる様を見ていて、頭に浮かんだ一つの仮定に思考が揺らぐ。




「まさか! なごやかバリユスから賭場衛星(ギャンブル・コロニー)に侵攻しようというのか!」


「何を小さな事、賭場衛星でも落としてトンキン星団の民を目醒めさせてやれば、少しはこちらにも目が向こお!」



 ビル社長は自身の成長戦略を凌駕するビザ福社長の戦略に、一つの非人道性の可能性に気付き狂気を感じてハッとする。



「……コ、衛星(コロニー)を墜とす? それは、その意はまさか」


「ダム・ガンの威力ならアレをトジミン星に落とすも可能ではないか?」



 これはまだ災妻(ワザツマ)の乗っ取り計画に手を結ぶ()ユリコ(ケイ)も影を潜め、賭場衛星の元締めが改壊(カイカイ)の東タヌウキ星ではなくトジミン星だった頃の話である。


 惑星間協議の可決権争いの政争の具にもなっている賭場衛星を、元締めの星であるトジミン星に落とせば、トンキン星団の惑星間協議の可決権争いも他に移す事の必要に、ダム・ガンの威力を持ってアンコ星ないしこの名CHが……


 詰まる所、賭場をここアンコ星のなごやかバリユスに遷す事で、名CHが元締め的にトンキン星団の惑星間協議の可決権争いを取り仕切ろうと言うのだ。



「なら、海CHへのロボ攻撃は、なごやかバリユスを取り仕切る為の対抗勢力の排除が目的とでも言うのか?」


「箔付けよ! アンコ星の中でもウールーという衛星と覇権争いが有ると解れば、なごやかバリユスの価値も上がろう」



 なごやかバリユスは、アンコ星とウールー星においての一大娯楽にもなっている賭場。


 その為、アンコ星界隈のメディアはなごやかバリユスという賭場の覇権を競って、その周辺に住むドジな希少動物アラォドを捕獲したメディアに委ねられるとされ権利争奪戦をしている。


 アラォドにとっては不運な話だが、これが中々どうしてか捕まらないアラォドに、いつの間にかメディアの争奪戦そのものが なごやかバリユスの賭けの対象になっている。



 それをロボやダム・ガンまで出す大戦に見せる事で、トンキン星団にも賭場の一大イベントとしてアピールしようと言う事に……



「馬鹿な、そんな事の為にウールーの民をも巻き込もうと言うのか? アレを撃てば死人が出るどころでは済まんのだぞ!」


「・・・人を撃つ覚悟もない者が人を撃つ物を持つ事の罪は重い。解るか? ビルよ、上に立つ者にはその資質に下に就く者達の命運をも握っているのだ。ここで言うのはアンコ星の行末よ、このままタヨットの連中に好き放題させていては元から居る連中はどうなる?」




 タヨットとは、元は機織り機を生産していたが、生活の足に皆が乗る蹴玉動機(ケッタマシン)に安定性と町工場の大荷輸送までを担う事を主題に掲げ、四輪動機のバギーをアンコ星でも安く入手出来るようにと大量生産を行う事で成り上がった巨大企業。



 しかし、そのタヨットも代替わりしてから商人欲が露骨になり、安くて安定感がある事を売りにしていた筈が、外星への売り込みに躍起になり始めると、トンキン星団の政局にも便宜を図り出していた。


 全ての民が一人一台ずつ持つ事をまでが利益率とした捕らぬ狸の皮算用の目標値の数字を平然と掲げ、売れなければトンキン星団にとっての赤字かの如くに不安視させる。


 これにより、トンキン星団の各惑星は四輪動機の走行に適した道路へと再整備を進め出す。



 元はそこに暮らす庶民の足に蹴玉動機で歩く者も安全に行き交わせてすんなり通れた生活道路があった。


 だが、プロ市民を雇い、当たり屋を使い、蹴玉動機が危険である等と煽り追い出すと、道路も狭くて火災時に危険だからと民家を潰し、道路拡幅工事を容易にして行く。


 一度信じた嘘にプロ市民を根付かせてしまった町は、反対する者は何故か悪い噂や不幸が襲い死ぬ事までも……



 風雪の流布を信じる者は安易な話に流され易く、自分の頭で考える事をあまりせずに情報を精査することもなく忙しい生活を言い訳に、キチンと考え嘘を正そうとした者を殺す事に手を貸し、知らず識らずに己の手を汚している感覚も無く血に染めている。



 それなりの企業で上の地位に居れば自ずと知れる話だが、それを漏らせば狙われるからと、知るも黙るからこそに表に出ない裏の話は、酒場や女遊びに漏れる事もある。


 故に、地下では普通に話される。


 けれど表に出るのを恐れてか、何処の上からなのか指示をされ、メディアを使いそれ等は陰謀論だと揶揄された。


 気付けば、本当の話を言うと陰謀論者とされ、知るべき筈の民が自らソレを封じ、監視対象としてプロ市民に告げる。


 凡そそれは、誰がプロ市民かをも知っているからこそ、自分に火の粉が来ないようにと真実から逃げ、他者を売って自らは虚構の世界で彼らの利権に従っている。



 嘗て、その真実の芽を潰す役割を担ったビルとビザだからこそに、ビザの言う『打つべき手を持ちながらそれを打たないのなら、それは罪なのではないか』この意はその事だとビルには理解は出来るが……




「だが、それはウールーの民に対しては新たな罪となるのではないのか?」


「犠牲の上に立って初めて責の重さを知れるというものだ。その為の布石となってもらうには程々に近くて心打たれる重さに相当だと思うがね」



 死までを言うビザの人を人とも思わぬ非道のそれに、理解を示そう等と思える筈もなかったビルだが、気になっていたビザが撫でている杖の意に気付き、何かに警戒して応えを変える。




「ビザ、君はそれを踏む私を見て、今度も支えるだけなのか?」


「・・・君が踏めるとは思っていないからこその指示だからな、今頃気付いても遅いのだよビル。既にこのフロアは占拠してある。君は罪を感じる事もない、詰みだ」



 ビザが杖先をビルに向けると、中に仕込まれた銃か何かの口が見える。



「ここに来て君に裏切られるとはな、私は戦略家の謀略如きも気付けぬ間抜けという訳か」



 そお言いつつも何処か落ち着いているビルの妙な雰囲気を怪しみ、勘繰るビザ。



ーーSHAA!SHAA!SHAA!SHAA!ーー



 不意に鳴り響くコール音に、ビザが杖は動かさずも顎でビルに出るように促した。


 その様子からしてもビザの思惑には無い、緊急の用件なのだろう事は理解出来る。


 互いに手は空けておきたいのもあって、スピーカー応答で出るビル。



「私だ、ビル・レイだが?」



 迂闊な事は言うなよ! と、諌めるビザが杖を突き出す。



「あ、まだ、いや、大変です! 先行させたロボが……」



 おそらくはビザの謀略に乗った者なのだろうが、それでも尚ビルに伝えるとなれば名CHにとって相当な問題が起きたと考えるべきだろう。


 ビザもそれを理解したのか、事態の確認を急かせる為に自らが問う。



「先行させたロボが何だ? ハッキリと言え!」


「あ、ビザ社長、え、あ、え……」


「ええい、今はそれより報告だ!」



 苛立つビザが通信に向いてる隙を見て、ビルは棚の何かを手にして後ろ手に隠す。



「何をコソコソとしている! そこを動くな! お前じゃない、お前は報告を続けろ!」



 ビルの怪しい動きを察知したビザが牽制を強め、動きを止めたビル。



「ハっ! その、ロボが、先行していたロボが、食われたとの事でして・・・」


――KUPIPUUU!――


「・・・何? もう一度頼む」


「先行していたロボが食われたとの事です!」



 ビザだけではなく、ビルもその報告に難色を示す他ない。



「後発隊の報告によりますと、何処かでペットとして飼われていた、ガチャンコと言う怪獣が逃げ出したとかで」

「怪獣だと?」


「はあ、ウールー星の住人に聞いた所では、何処かのヘンタイが飼っているらしく、別の星でMウル星人が捕獲した怪獣を密輸入したんじゃないか、との話がもっぱらで」


「後発隊が着いているのに何を呑気に、住人に話を聞く前にすべき事があろうっ!」



 語気を強めるビザだが、どうにも様子が可怪しい事にビルは気付いていた。



「して、今その後発隊のロボは何をしている?」



 ビルが口を挟んだ事に苛つきを見せるビザだが、その返答には黙るしかなくなる。



――KUPIPUUU!――


「・・・それが、今しがた通信していた機も頭部を残し、先行隊と同じく他全てをガチャンコに食われたとの事で、どうしたものか、指示をお願いします」




 予想外の事に打つ手をなくしたのか、顔を強張らせて固まり静かに杖を置くビザ。


 その杖を掴み構造を確認しつつビザに語りかけるビル。



「私への謀略も何処かの馬鹿が違法に持ち込んだ星の怪獣に潰えたか、策士策に溺れるとはこの事か、人の行動などというものは予測に絶えんものだな。こと、庶民というのは規律もないからの!」



 偉そうに説教をたれるビルだが、狙いは時間稼ぎだ。


 後ろ手に持つ通信機で、自身の近衛兵のような自派閥の組織に救出の手を回していた。


 到着すればスグに反乱分子を淘汰し、ここへと迎えに来る筈と待っていたが……




ーーDOKKOOOOOOONN!!ーー


 破壊音と共に、扉の向こうで声がする。


 

「キャハハハハハハ! メカメカメカメカメカメカメカメカ!」


 

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