AAL★加害授業
ここモール星の中でも密集市街地にあたる竜の巣タウンで、一階の家系に育ったフランクは、下階のケルンと共に中流階級とまでは言わずもそれなりの階級の学校に通い、専攻科目も同じくして地下の坑道調査を行っていた。
――GAGAGAGAGAGAGA――
掘削作業に舞い上がる粉塵が周囲の仲間を煙に巻く。
「ケルンっ! どうだ?」
「……ダメ! まだ反応無し」
「クソっ、この辺りに埋まってんのは間違いないんだ!」
「例の研究機関の電磁波を使った大規模な地質調査では反射反応があったんだろ?」
フランクが入手した情報を元に古い坑道を掘り進めていたが、あまり居心地のいい穴では無い事から、少しナーバスになるのを隠したいのか強がろうにも苛つきへと変わるケルン。
誰が撒いたか霧状散水サーキュレーターにより粉塵も落ち着き仲間の姿が見えてくると、掘った穴の深さも見えてくる。
仲間と挟み撃ちで角に出っ張る先を柱として残すように掘っていた。
「ぶつかる前に出てくるんじゃなかったのか?」
ジギルも苛つきを隠せずにいる。
組んでる相手がこだわり屋のハイドだからではないだろうが、見えぬ終わりに疲労が口調を荒くする。
ハイドはフランクと同じ一階の家系で、フランクとは親同士も交流がある。
ハイドのこだわりは細か過ぎるが故に皆から嫌われ学内でも孤立していた。
フランクは知った馴染みに声をかけ、面倒を見るとまでは言わずも気にかけてはいた。
けれど、そんな折に同じ専攻科目に居たジギルとは、最初の授業でペアを組まされて以来一度たりとも文句を言う事もなく互いの性分に合致したのか息も合い、交わす言葉は少なくも互いの声には耳を貸す。
そのジギルがケルンに向けて聞いて来るのは、ハイドに対しては信用している証拠でもあり……
ケルンに対する疑義。
それは詰まる所、フランクの情報に対する疑義だった。
それに気付いたフランクが、自分も掘削で疲れているのに余計な争い事は更に面倒だからと、一先ず説明に休憩を申し出る他に無い。
「ああ待て、ケルン! 冷えたジェルドレン取ってきてくれ!」
少し離れた場所に置いた荷物の中に在るジェルドレンサーバーをため息交じりに取りに行くケルン。
ジギルがハイドと共に角岩壁の裏側との距離感を確認しながらフランクの方へとやって来る。
「フランク、その情報の出元は?」
「電磁ロウとかいうあの異星人共さ!」
嘘だろ? といった顔を寄せるジギルとハイド。
それもその筈、このモール星では長きに渡りETVS星という近隣惑星からの侵略者が、50人程の若い学徒を連れ立って来ては科学兵器を用いてこのモール星のコロニータウンを焼き払い、跡形もなく消し去って行く。
その部隊を仕切る電磁ロウやゲーニン等という隊長連中が科学兵器を持ち込み、それを嬉しそうに撮影しながら若い学徒に教えを説き、まるで課外授業をするかの如くの振る舞いで科学兵器を使って見せていた。
その様子は自星のETVSで放映され、映像を観たETVS星人達は勝利の報告と言わんばかりに笑い声が音を埋める。
このモール星でもその映像は観れていた。
モール星の研究機関で怪しい通信を傍受しての解析に研究を重ね、それが映像として理解したと同時に彼等ETVS星人の映るそれを、星の防衛に各コロニータウンでも観れるようにと、その技術を各コロニータウンへも配した。
結果、どのコロニータウンでもETVS星人達の愚行は伝えられている。
フランクの得た情報が、そのETVS星人の隊長である電磁ロウだと言うのだからジギルとハイドが怪訝な顔になるのは当然の事。
ジギルが自分の頭で処理しきれなくなったのか口にする。
「だって、奴等は大量のアルカボンを電磁熱で溶かしてコロニータウンに上から垂らすような非道を平気でやるような……」
「ああ、それだよ。その映像を解析していて解ったんだ!」
言葉にはしないが、何が? という顔をフランクに向けるジギルとハイド。
「そのアルカボンなのさ! 奴等の宇宙船が!」
「嘘だろ?」
「本当さ! だからコッチも作ってやろうってんだよ!」
「どうやって?」
――TYUUUWOOOHH!――
急にハイドが前のめりに聞いて来たが、ケルンがキンキンに冷えたジェルドレンを持って来てサーバーから分け配り出した事に会話の途中で待っていた。
――TYUUUWOOOHH!――
ハイドも冷水を差された格好なれど、皆飲み始めるとその冷たさに落ち着きを取り戻す。
その落ち着きに、得意気な顔を見せるフランクが口にする。
「奴等、このモール星でも映像が観れる事に気付いてないのさ! だからあの放送でわざわざ宇宙船の仕組みまでを説いてやがったんだ!」
「本当か? 騙されてんじゃないのか?」
「そうだよジギルの言う通り、作ってみたら爆弾で、わざと作らせて自爆するのを待ってるんじゃないのか?」
黙っていたケルンが何かを納得の顔を見せ、フランクの顔を見ると口にする。
「それでか、フランク! 俺に妙な図面作成を頼んできたアレ!」
「そうさ! アレこそがこのモール星でも建造可能な宇宙船の設計図案さ!」
「なるほど、それでここにアルカボンを採りに来たと……後でその図面見せてくれないか?」
「ああ、ハイドの繊細さがこの計画には不可欠だからな!」
冷えたジェルドレンに英気を養い、皆が元気を取り戻していた中、突如ジギルが不穏に眉を寄せて考え込む。
「おい、待てよ……それで、アルカボンの情報が電磁ロウからってのは、どういう事だ?」
「あ? いや、だから奴等の映像でここにアルカボンが埋まってるって……」
ハイドも気付く、ケルンも、気付いた皆がゆっくりと顔を上げ、互いの顔を見合わせると、坑道内にも響き渡る何かが流れ込んで来る音と、叫び声……
――DOPPO!DOPPUNN!――
「ギャー・うぉあー・ひぃやあー」
――DOPPO!DOPPUNN!――
「敵襲だぁー・逃げろー」
――DOPPO!DOPPUNN!――
「上はもうダメだ! 溶けたアルカボンが流れて来るぞ!」
――DOPPO!DOPPUNN!――
「上位階はもう駄目だ! 別の出口も塞がれてる!」
――DOPPO!DOPPUNN!――
「みんな、すまない。俺がもっと早く……」
「フランク! 最後に一つ聞かせてくれ」
ケルンの質問に答えようと耳を傾けるフランク。
「あの図面は他の研究機関にも送ったのか?」
下を向き首を振るフランクを見てため息を吐くケルン。
「ふん、無駄骨か……」
哀しい笑みを寄せ合うフランク・ケルン・ジギル・ハイドの四匹を溶けたアルカボンがその熱量を武器に襲いかかった。
――DOPPO!DOPPUNN!――
――DOPPO!DOPPUNN!――
――DOPPO!DOPPUNN!――
――DOPPO!DOPPUNN!――
――DOPPO!DOPPUNN!――
――DOPPO!DOPPUNN!――
ここモール星の土の中に住む土竜型星人の密集市街地の一つである竜の巣タウンは、ETVS星人の電磁ロウ先生による科学実験の課外授業のアルカボン型取り実験により、標的ならぬ標本として溶け固められ……
地下に掘られた土竜の巣穴の形を観る為の教材として掘り起こされ、ETVS星の学舎へと運ばれた。
フランクが得た情報は、電磁ロウ先生が学生に集合場所を教える為に土竜の巣穴にアルカボンマークを書いた地図であり、型取る巣穴の選考には地下内部にアルカボンが少ない巣穴が選ばれていた。
何故ならキレイな巣穴の型を穫る為に……
フランク達が掘っても中々見付からなかった理由はアルカボンが少量であったが故。
これにより、知能の高いモール星人であったが宇宙船開発が相当に遅れる事になり、その存在も軽視されたままにETVS星人の実験対象としてショウビジネスの為と、科学の名の下に軽んじられた命を搾取され続けて逝ったのである。
「科学って楽しいでしょ? さあて、今度は何の課外授業にしましょうかね。」
モール星歴M紀996699
フランク達の居たコロニー、竜の巣タウンの消失は【土竜の悲劇】として星の歴史に刻まれた……




