AAK★★★★★★★★★★★線上にかける端
女神像内でポリンが見付けた文献資料を、地元民である戦伝が知るこの鬼ON星の伝記に照らし合わせて出した答え。
それは文献資料に書かれヤEも解らずに読みあげていたあの単語。
【森・核・瞑れる・線上・エサキ・マジの断層……】
その最後に書かれていた【視線が減る】という部分が何を意味するのかに、戦伝の知る鬼ON星の伝記が関係していたという。
「普段、女神像に上がって鎮魂の云われにハチク星ばかりを見てましたけど、解除した壺爆弾をシアZ達とバギーに積み込んで女神像を振り返った折にふと伝記を思い出しまして、運転はジョイSに任せ一人残って上から鬼ON星の大地を見て確信したんです! それでみんなに急いで伝えようとシューターを降りた所で、ストカーと鉢合わせてしまって……」
「で、ストカーを追って来たオレが、ストカーに撃たれて足を引き摺るお前を見付けたと」
戦伝の説明に合点がいったミウラがなるほど顔を浮かべるが、ようやく理解し始めたDrKrが問う……
「……オーケー、で、ストカーは?」
「さあな、奴が女神像内の爆弾かき集めて展望デッキに並べてた所にオレがシューターで上がって来たもんだから、慌てて展望デッキから飛び降りてったよ!」
「オレは女神像から何かが飛んで行くのを見て、ミウラが心配になってここに戻って来たものの、降りるミウラと上がるオレのシューターが重なった所でドカーンってな!」
ふとDrKrは、これを爆破する折にストカーは何処に行ったのかを考えるが、頭部がハチク星へと吹っ飛んで行く様をニタニタと観覧席の様な場所で見ようとしていたに違いないと考えれば自ずと一つの場所しか……
「ホクダンSAだ! 奴はきっとそこに行った筈!」
……無反応の皆に、あれ? といった顔で返事を待つDrKrだが、誰もそこに興味を持っていない事に気づいていなかった。
そっとDrKrに近付き背中に乗って肩を叩くパーク。
「どんまい! アンタの説明おもろかったで! まあ、外れとったんわしゃーないわ! ストカーの件もそやけど爆弾元々少なくなってたんとか、知らんかったもんな! しゃーないしゃーない!」
「……あ」
慰めなのか貶めなのか、パークの言葉が突き刺さり間違った推測に顔を紅らめるDrKr。
「で、その伝記って何なの?」
「ああ、」
ポリンの問いに戦伝が話を戻す。
OROKONO伝記というのがトンキン星団の広きに渡って残っている。
この星系のはじまりの物語のような話に、星を作った神さま的な話の中で、その神さまが最初に作った星がこの鬼ON星なのだという……
そして話の中で神さまは「来なさい」「見なさい」と歌う籍入という鳥が、宙より来たりて宇宙に浮かぶ橋にとまり神と神の仲人を務め、ここに愛の巣となるオロコノ島というのを最初に置いた。
そこに立って宇宙に矛を挿し回し泡立てては矛を持ち上げ、零れた雫が星となり、他の星も次々に作っていく訳だが、その最初に置かれたオロコノ島だと云われている島がこの鬼ON星に三箇所在るのだという。
「……ねえ、はじめの島が何で三つもあるの?」
アーヤの問いは皆も思っていたのか静かに頷く。
「いや、三つ所じゃないんだ。近い星にもいくつかあって、何処が本物かも判らないから、みんなウチが本物だってなもんさ!」
何を知るのかミウラが口を挟みだす。
「あ、オロコノ島。それってナムカタカ伝承とかってのにも出て来たような……」
「おお、ナムカタカ伝承。そらオレも知っとるで、ハチクで見付かったやつやんな!」
不気味に意気投合するミウラとパークが何とも怪しい雰囲気を醸し出すのを、ポリンが冷たい視線で見ると八つ当たる様に戦伝に問う。
「で、その伝記と女神像に何の関係があったの?」
「ああ、支点ですよ。その三つのオロコノ島だって所を結ぶ三角の支点の中に、女神像っていうもう一つの支点を充てると答えが見えてきたんです!」
鬼ON星北限のA島
鬼ON星東のヌゥ島
鬼ON星南部のオロコノ縞鳥
この三つを結ぶ三角の支点に加えて女神像という支点の存在を考えた時、女神像の上から確認して確信した答えに【視線が減る】の意味が解ったという。
「その星の始まりの三点の支点を視点で捉える女神像が支えているのは星の核に繋がる支点であって、支点が消えればエサキやマジのに見る断層を伝う森から瞑れる。つまり視点が瞑れて視えなくなる。って事ですよ!」
その暫らくの沈黙に、最初に声を出したのはパークだった。
「お、アンタそれ、次元の話か?」
「そうです! よかったぁ解ってくれて……」
未だ理解に苦しむ他四名を置き去りに出来ず、理解を求めて話を少し丁寧に繰り返し始める戦伝。
「支点が三つで視点は一つ。三つの支点を視るのが女神像。つまり女神像の視線は三次元の視点の目で、支点のどれかが消えても視点が瞑れて二次元になる。それがエサキやマジの断層で伝ってく森から始まり泡と消えて線上に……」
「ここ、中心点ではないですよね?」
ミウラは三つのオロコノ島を知っているのか、場所を頭に浮かべて三角と女神像の位置関係から思考を巡らしていたのかナムカタカ伝承になぞらえていたのか答えに遠いのか、返答に困る戦伝。
そんな中、アーヤは先の爆破の衝撃に重ね思い浮かべた答えを口にする。
「ああ、断層ね! 地震で崩れたから女神像が支点になった。て事?」
「そお、いや、女神像を建てた後の地震だったんですけどね。でも、支点に重きを置かれて文献資料に書かれたのも地震の後みたいなんです」
全然違うだろ! と、思っていたアーヤの気付いた話がまさかの正解だったと知り、ポリンも理解をし始めた。
「そっか、じゃなきゃ断層の事が資料に書かれる筈無いか……」
ようやく話を理解してくる事にアーヤがキョロキョロしだすとポリンも気付く。
パークの言っていた二次元の話に繋がった。
「ポーク!」
「パークやっちゅうに! 絶対わざとやろ!」
「……あ、地獄釣り?」
「えげつな! それ、ここで思い出す?」
アーヤは何も考えていない。単に神さまの話に真逆の地獄を思い出しただけ。
しかし、ポリンに救出方法を想起させるには十分だった。
「……籍入は宇宙に浮かぶ橋にとまって愛の巣を置いたんだっけ?」
「まあ、神と神の仲人を務めた結果ですけど、それが?」
戦伝の補足を聞いて、またパークの苦手な何も無い所を睨み出して考えるポリン。
しかも今度はパークにとって物凄く嫌な予感しかない……
ポリンが答えに行き着く前にアーヤが上を見上げて思い出した。
「あ、宇宙に浮かぶ橋あるじゃん!」
「そっか、惑星間チューブっ!」
ポリンがナイスッ! と指を突き出しアーヤを褒める。
答えに意味が理解出来ないままの他三名はポカンとしているが、段々とその意味に気付きだしたパークが焦り出す。
「……いや、いやいや、いや! いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……嘘やろ?」
静かに笑みを浮かべてパークを見るポリン。
アーヤはパークの糸で釣りが出来ると思って観光気分に期待の目を寄せている。
「うぅわっ! この娘等最悪やな!」
「ふん、決まり。あとはタモが必要か……」
「やった! この辺って何が釣れるの?」
未だ立ち直れていないのか、考えるも解らないまま静かになっていたDrKrを見て不適に笑うポリン。
「ヴィッキー、調べて欲しいんだけど……」
――PARIPI――
――PARIPI――
「何これ、ポリンこれどういう意味か分かる?」
「そこが釣りのポイント」
バングルにメッセージの返信が早いのはBIKKEの心配の表れか、調べも速く見付けたポイントに向かう為には……
勝手に進む話に文献資料の謎を解いた戦伝が、二人の話に謎が湧く。
「あの、さっきから何を言ってるの?」
「ああ、そうだ戦伝とそこの……誰?」
ミウラを指して今更に聞くポリン。
「あ、現場監督のミウラです」
「どうも、現場監督。ってこれの?」
壊れた女神像を指すポリン。
「まあ今となっては……上から見てた感じだと代替本部も消えてるし、どうなんですかね」
「知らない。あ、けど現場監督の仕事あるから。戦伝も」
ポカンとする二人を捨て置きアーヤに近付くと耳元に囁くポリン。
「それだけ?」
「うん」
下目に考えるDrKrに近付くアーヤ。
「あなたにしか出来ない事があるんだけど頼める?」
自分にしか出来ない事と言われ自尊心を擽られたDrKrが前を向く。
「……最悪や」
かくして三EAT(凡そ地球時間の三時間)後、二次元になり消えた森が在った辺りの上空にある惑星間チューブの上にパークは居た。
軽い治療を済ませたミウラがチューブの中から全体を見ながら通信機で指示を出していた。
戦伝は消えた森から少し離れた泡の影響がまだ無い自身の実家で待っている。
森から一番近いアワGSAに居た筈のスペースポリシーの船団は既に無く、森の泡化に慄きPAソナ代替本部に残る隊員も捨て置き逃げ出すのをBIKKEがカメラ映像をクラッキングして確認していた。
今はそこにランウェイGOが来るのを待ち、惑星間チューブの中からアーヤとポリンはミウラの通信機を取り上げパークとDrKrへの指示を荒げる。
「パーク! 何また二人引っ掛けてんの! 早くヤEを釣ってよ」
「知るかボケっ! 勝手に糸に群がっとるんをどうせい言うねん!」
「Kr早くその人置いて戻って来て! またパークがWで釣り上げちゃった! 落とさないと糸切れて落っこっちゃう」
「いや、ちょっと……そろそろ休憩を、これじゃPAソナの時より労働環境が……」
森と共に泡にのまれ二次元禍に居る者達には視覚情報が無くなり自身を認識する事も出来ずに、伝播する音も前後上下も無く右往左往するのみ。
そんな二次元を認識出来るパークの八つの目を最大限に活用し、惑星間チューブの上から二次元の森に垂らす……
【地獄釣りのパークの糸】
けれど、人も二次元の間は重さも無いが、三次元に戻って来た途端に一気に架かる重量に、大の大人を持ち上げるにはパークの糸も一人か二人が限度。
そこでKrが三次元に上がって来た所を救い上げて戦伝の実家に運び手当する。
しかし、二人以上がヒットし無意識に糸に人が群がれば切れてしまう。
なので、二人以上がヒットしたら他をKrが蹴落とす役目も担っていた。
「面倒だ。この二人持ってくから、パーク! 糸垂らすのちょっと待ってて……」
「オレもアンタに賛成……あの娘等、蜘蛛使い荒過ぎるわ!」
戻ってきたKrの姿を見て、それがDrKrだと思う人はいないだろう。
シアZが選んだという戦伝も着ていた米コック・レストランの制服にしていた宇宙服のセンスに内心痛々しくもあったが、これだ! と感じたアーヤとポリンがKrに青地に赤字枠に黄色で【米】と書かれた宇宙服に真っ赤なマントを着せ、顔には土産用の神さまのお面を着けさせていた。
偶然最初に釣れたのがジョイSだった事もあり許可も取れ、残るニコル村達の泡化前の安否も判った今、アーヤとポリンはBIKKEに頼めばスグに直せる事に気付かぬままヤEにレンタルバギーのシステム解除を戻させようと考え躍起になっている。
「ヴィッキー、レンタルバギーのシステム解除がバレたら違約金幾ら?」
――PARIPI――
【バギー購入代の六割程が相場】
「高っ! パーク何サボってんの! 早くヤE釣り上げて!」
「アンタ地獄に堕ちんで!」
「ちょっとお! ほら、Krも飛んで! 今は米コックマンでしょ。ジョイSが広告費払ってくれるって言ってたじゃない、頑張って!」
「……馬鹿げてる。信じられない」
Krの気持ちと同様に、バングルの通信機だけでは伝わらないアーヤとポリンの問題に関する聞き方に、BIKKEはこの先の苦悩を受け止める術を模索する。
そのBIKKEがホクダンSAで購入していた物は何だったのか、二人を鬼ON星観光へとやり船内に残り何をしていたのかも不明のままに、ランウェイGOは今アワGSAへ入港しようとしていた。
シアZもスグに釣れ、戦伝と共に救護所とした実家で宜しくやってくれ! と、二人も通信機で話したが、ヤEとニコル村が釣れたのはそれから更に二EAT(凡そ地球時間の二時間)後の事。
暗くなったアワGSAの受付でレンタルバギーを無難に返し、そのまま見送りに来ていたヤEとニコル村と話していたアーヤとポリン。
森の祭壇は破壊するまでもなく次元の歪みが森を襲い二次元へと消えたが、ニコル村のビワ葉矢秀農園もまた二次元の泡に飲まれていた事を伝えた。
その事実にヤEが悟った様に語る。
「良いのよ、森も農園も昔の思い出を汚されて……傷跡を見てるより消えた方がマシってものよ。ああ、スッキリしちゃった!」
ポリンが後ろ手に隠し持っていた食べ放題土産の箱詰めビワ葉矢秀を、渡す様にとアーヤに言われ仕方なく……いやいや渡すポリン。
「え、これウチのビワ葉矢秀、何で?」
「この実にはあの苦ぁい種があったから、植えればまた農園出来るじゃん!」
アーヤが笑顔でヤEに箱を押し付けた。ポリンはそっぽを向いて一言こぼす。
「出来たら送ってよね。」
「……うん、再生出来る。いえ、してみせる! ありがとうアーヤ。いや、ポリン!」
悔しそうな顔を隠さないポリンをアーヤが隠して、ヤEとニコル村に手を振りランウェイGOに向かってポリンの手を引き走った。
ランウェイGOの操舵室に着きBIKKEにただいまを言う二人。
――PARIPI――
モニターに【おかえりなさいませ。お嬢様方】と表示するも、見てる筈だが何の反応もない。
二人が気にしているのは……
「アーヤ、あのビワ葉矢秀があればモデラー星でも栽培出来たんじゃないの?」
「かもね。でもいいじゃん! また来ればさ!」
「なーに格好つけちゃって、栽培して売れば結構稼げたんじゃないのアレ?」
――PARIPI――
「え、実がなれば一つで千NO?」
「あの木、一つに結構な数付いてたんじゃない?」
――PARIPI――
「なに? 鬼ON星からの輸送コストと比較しても儲けは……」
「アーヤのバカーーーっ!!」
――PARIPI――
【線上にかける端】
当初は違う名にしていたのですが鬼ON星という事で【石鬼零】にしたものの、何だかゴーレムみたいな名前にファンタジーに引っ張られそうなので、元の名【籍入】に戻しました。
まあ、【籍入】も何だか別の伝記を解き明かした様な気にさせそうでアレなんですけどね……




