AAK★★★★★★★★線上にかける端
森に着きバギーを駐めると降りたヤEが二人に振り向き、ビワ葉矢秀のお菓子と本物の箱詰めセットを土産にと笑顔で渡す。
「ありがとう。ここからは危険だから二人はホクダンSAに戻って!」
そう言い残して格好良く去る筈だったヤEに、予想外の返事が返って来た。
「いや、ここ何処よ」
「地元民の観光案内無責任過ぎない?」
「それにこのバギーの設定戻して貰わないとだし」
「戻したら遅くなるんでしょ?」
「ちょっとお! ヤE?」
「ねえ、ヤE聞いてる?」
「え、あぁぁ……」
ヤEにとっては森に運んで貰う為のバギーの必要に二人 (ほぼポリンのみ)に頼んだ格好だが、二人にとっては観光案内の序での寄り道。
そのバギーにしたって、ヤEが勝手に四輪のシステム設定解除をしたままではレンタルなだけに返すのに違約金が発生し兼ねない。
「……じゃぁ、ちょっと待ってて貰えます?」
「はあ? こんな何もない所で待つの?」
「だったら着いてく。面白そうだし!」
「え、いやそれは……」
そして現在、森に在る祭壇建設現場を探し草木を掻き分け進む中、完全に探検気分で盛り上がるアーヤとポリンにヤEは戸惑っていた。
「アーヤ隊長! この花は何でありますか?」
「な!? ポリン隊員、それは毒草だぞ気を付けるんだ!」
「……いや、違うけど、微妙に惜しい事にそれ、ハエードクソウって名前の多年草で、ちなみにアーヤの左足に在るのがパープルニガナ……って、何かゴメン。続けて」
ごっこ遊びに説明をした所、ポカンとした顔で二人に見られ話の入りはソレじゃないと気付き、ヤEにはそれが歳の差なのか華やかな業界人との差か星の差かも判らずに、とりあえずに前を向き祭壇建設現場を目指し歩みを進めて誤魔化した。
――SHUFOOOOOOOOOO――
シューターを降りた戦伝の目の前に、派手な宇宙服を着た男が何やら怪しい機材を持って立っていた。
焦る戦伝だが男の方も予想外だったのか互いに固まる一瞬の内に、誤魔化しを謀るはどちらが上か……
しかし、誤魔化しよりも先に戦伝が男の姿に記憶を覚える。
「あ、確か……ストカー?」
誤魔化しの利かない言葉に先手を取られ、焦るストカーは謀った誤魔化しを捨て対応を選択する。
「ァアアッ!? ストカー様ダロ! テメー」
「すいません。いえあの、ここの爆破を今スグ止めないと大変な事になるんです!」
引きつくストカーの目元に嫌な予感が走る戦伝。
「テメーハ、何ヲ言ッテル? アア? 何二気付イタ?」
「この女神像が……いえ、失礼します」
押し黙り消え行く戦伝を目で追うのを止めシューターに乗り込もうとするストカーだったが、小走りの様に早足で行く戦伝の後ろ姿に妙な違和感を覚え、入る一歩手前で躊躇っていた。
「オイッ! オマエチョット待テ」
振り返りもせずに走り出す戦伝。
「コノッ! ン? チッ!」
――BIBIBI!――
「うぐっ!」
途端、腰に手をやるも慌て胸脇から違法電波銃を取り戦伝の左足を捉えたストカーだが、戦伝は足を庇いながらも走り去った事に追うでもなく。
「チッ! マァイイ、今ハコッチガ先ダ……」
――SHUFOOOOOOOOOO――
腰の銃を何処に忘れたのかも考えるが、それよりも今は女神像の上を目指してシューターに入ったストカー。
――SHUFOOOOOHH――
その頃、米コック・レストランの駐車場にPAソナ従事者専用バギーで乗り着けたミウラが巨大な女神像を望み見ていると、その足元から足を引き摺りながらも必死に走って来る戦伝の姿が……
「何だ? どうなってる。クソっ!」
見えない事だらけの状況に苛つくミウラだが、戦伝には見覚えがある。
急ぎ救護に肩を貸そうと向かった。
「おい、何があった?」
「!? ミウラ? 何でアンタがココに?」
「そんなのは後だ! それより」
「そうだ! 大変なんです本部に連絡しないと!」
「あ? それなら俺のバギーに通信機がある。それよりその怪我、ストカーの仕業じゃないのか?」
「そうですけど、何で?」
「オレはストカーを止めに来た」
「止めに? まさかアイツ爆破を早める気じゃ?」
「多分な」
「止めてくれ! この女神像がないとあの森は……ペチャンコになっちまうんだ!」
「……よく分からんがそのつもりだ。まあ相手が悪過ぎるけどな! とりあえずお前は行け!」
「頼みます。奴はシューターで上に」
ミウラは女神像を見上げ戦伝の肩をポンっと叩いて走り向かって行った。
戦伝も急ぎミウラの乗って来たバギーに入り通信機を手に取った。
ヤEの父ニコル村が祭壇建設に反対したのは、森の環境と共にPAソナの従業員に対する処遇改善を考えた上で、鬼ON星の首都アワGから程近いこの森に祭壇建設などという何とも侵略の象徴的な行いに、嘗てのハチク星との戦禍の記憶を重ねそれを見過ごす事が出来なくなっていたからで。
そんな中、娘のヤEもビワ葉矢秀のデータ売買の噂話から女神像解体の話にと、PAソナの行う事業の皮を被った盗用・洗脳・搾取とやりたい放題の実態に気付き立ち上がった事をニコル村はあまりよしとはしなかったが、内心は嬉しかったのか夜中にジェルドレンを呑みながらヤEの子供の頃の写真画像を肴にしていた。
そんなニコル村の姿を見たとヤEは仕方無しに二人に話しながら歩いていた。
何故ならば、森を歩き出してスグに探検隊ごっこではしゃいでいた二人だが、見付からないよう森の鬱蒼とした所を延々と歩かされる事に飽きと疲れに項垂れ出し、何か話して! と言われるも草花の話で足を止めては元も子もなく星の歴史に興味も持たず……
仕方無しに親子の話をさせられていたが、ようやく建造中の祭壇が見えると建設作業員の声が聞こえてきたので話を途切るが、ポリンが何を見たのかヤEに対して不思議に問う。
「で、何でニコル村が森を破壊するよう指示してるわけ?」
「はい?」
ヤEが振り返りポリンを見ると建設現場の櫓を指している。
遠目に櫓を細めて見れば、ニコル村が陣の中心に設計図面と人の配置を照らし合わせて何やら明朗快活に指示すると、作業員が敬礼で返し小走りで伝令に……
「……え?」
「さっすが元長官」
アーヤがそれを見て言う台詞にも納得の状況に、正に軍を指揮する長官たる威厳を以ってPAソナ従事者に接しているニコル村。
何がどうしてそうなっているのかに思考を巡らすヤEだが理解出来る筈もなく、頭に血を昇らせたままに父に向かって飛び出して行った。
「ヤE! 何してんの! 戻っ」
「二人は帰って! これは親子の問題だから!」
「いや、どう帰れと……」
止めるポリンの声も聞かずに一直線に櫓に向かうヤEを追うわけにも行かず、アーヤと隠れ見守る事にしゃがむ二人。
「父さん! これは何? どういう状況? 説明してよ!」
「何だコイツ! いったい何処から?」
ヤEの登場に一番驚いていたのはPAソナ従事者達。
それをも征するようにニコル村が口を開く。
「いいんだ。それを通してくれ。私の娘だ」
「ハッ!」
ニコル村に敬礼をし、ヤEに道を開けるPAソナ従事者達。
――PAAAANN!!――
臆すること無くニコル村に向かうヤEが着いていきなりビンタを浴びせた。
止めに入ろうとするPAソナ従事者達に手を上げ制すニコル村が、ヤEの零れ出しかけた涙と口を塞ぎ諭し出す。
「ヤE、見てみろ。ここの連中も元は何処かの星で普通に暮らしていた住民だ。借金に洗脳され突如こんな知らない星へと駆り出され、不安と疲労に心に救いを求め、すがる何かに祀り崇めて信じる事で自身を保とうとする。これはその為の祭壇だ」
そう言って設計図を指すニコル村。いつからなのかスッカリPAソナに洗脳されていた。
信じられない! といった顔で間近に父を見るヤEに対し、ニコル村がぎこちないウィンクをヤEに向けた。
その直後、脇に居たDrKrが口を出す。
「こんな事なら前の現場監督だったミウラの方が全然マシだったよ。残念だ」
そう言って職務放棄に森の方へと歩み出したDrKrだが、森の奥に違和を感じて首を傾げる。
――PARIPI――
――SHUFOOOOOHH――
それと同時に櫓の前までPAソナ従事者専用バギーで乗り着けたのはシアZとジョイSだった。
降りて早々にシアZが叫ぶ。
「みんな逃げて! この森はもうすぐペチャンコになるの! 早く!」
計画と違う唐突な話に動揺するヤEに対し、そもそもの計画も知らないニコル村が何事なのかを目で問うも、首を振るしか出来ないヤE。
埒が明かない事からニコル村が現場監督権限にシアZに問う。
「これは何だ! どういう事か説明しろ!」
聞き覚えのある声にシアZが見れば、ヤEもニコル村も堂々と櫓に居る事にこそどういう事かと聞きたい所。
思わず、え? という顔を見せるが急ぎ伝えるべき内容に、顔を振って頭を切り替え戦伝の通信内容を伝えるシアZ。
「ヤE、例のポリンが見付けたあの資料に書いてあった女神像の秘密が解ったの!」
その一言で、計画が変わった理由がヤEにも凡その見当はついたが、森がペチャンコの意味までは解らない。
ニコル村には尚の事……
「何を言ってる? ヤE、お前も知ってるなら説明しろ」
説明のしようもない事に戸惑うヤEとニコル村に、それを見ながら判断に悩むPAソナ従事者達が立ち止まっている事に苛立ちを隠せなくなったシアZが大きな声で叫ぶ。
「ああもう、兎に角みんな早く逃げて! ストカーが今、女神像を爆破しようとしてるの! そうなったらこの森はペチャンコになっちゃうの! もういいから早く逃げて!」
ストカーの名にPAソナ従事者達の顔色が変わる。
真実が何かではなく、その名に刻まれた非道な数々の記憶が精神にも恐れの象徴として判断されたかの如くに怯え出すと、危険を察知し何も言わずに一人、また一人と走り出し、五人も走り出せば皆がそれに扇動され走り出していた。
――DOTADOTADOTADOTADOTADOTA――
建設資材を放置し皆が逃げ出す喧騒の中、ヤEがニコル村と共に近付きシアZに問う。
「じゃあ、ここに壺爆弾をセットしなくてもいいの?」
「うん、多分それ処じゃない。アーヤとポリンはもう帰った?」
問われ思い出し、ハッとして慌てるヤE。
それを見て焦るシアZとニコル村。
「お前、あの嬢ちゃん達ここに連れて来たのか?」
「嘘でしょ?」
「いや、それが森に……」
説明のし難い事に動揺もする中、ニコル村が思い出す。
「おい、森の中に居んのか?」
「うん、帰って! って言ったけど、良く考えたら帰れないからここまで来た訳で、きっと今もあの辺に……」
話を聞いてニコル村の顔が強張り出す。怒っているのではなく恐れているような声を漏らす……
「マズいぞ、DrKrはシアZの話も聞かずに森に向かって……」
三人が不安気に森を覗き、急ぎどう助けるのかに思考を巡らす中、ジョイSが何かを指して三人に叫ぶ。
「ちょっと、あれ! 上を見て!」
「人?」
「あの宇宙服って……」
「ん、糸? まさか、」
その直後、何かの閃光が空を覆う。
――PIKAAAAA――
遅れて轟音が響き渡ると、同時に衝撃が襲って来た。
――DOGGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――




