AAK★★★★★★★線上にかける端
「何で自分が解体工事に?」
サイトの部屋に呼ばれたミウラが怒っているのは、女神像の解体工事の方の現場監督へと自分が左遷される様な扱いに加え、その代わりとして祭壇建造の現場監督に就くのがビワ葉矢秀農園のニコル村と知ったから。
「最近ここの従事者にはスパイ容疑がかけられていてな、PAソナの依頼に動いたのが盗聴盗撮がお家芸のハム星人で報告書には君の名前が在って、私も難儀していたのだよ」
「な、何でスパイ容疑に俺の名前が? 怪しいというならさっきココを出てったDrKrでしょ! あいつ資材の下敷きになった怪我人を救うのに片手で資材持ち上げたんですよ! あんなのは、多分……Mウル星人で間違いないかと!」
サイトに噛み付くミウラだったが、スパイ容疑に焦りを見せる。
「落ち着け。君を解体工事に充てたのは私にも考えがあっての事だ」
諭すような物言いにサイトはデスクを小突くと、不自然に拝む様に手を合わせている事にミウラが気付く。
それがハム星人を意図すると知っていればこそ、この会話も盗聴盗撮されていると理解した。
同時にサイトの考えあっての事と言うのを聞くに一理ある話と思えたミウラがサイトの顔を見る。
と、サイトは視線を壁のポストイットモニターの一つに浮かぶ、大勢がダンスに興じるポスターの様な物に向け告げる。
「ニコル村がここに来る前、例の派手な宇宙服の男が来ててな。ダンシング・オールナイトを知って、急ぎ女神像に向かったよ」
「それって、ストカー……」
「私はこの星が嫌いな訳ではない。女神像を目障りに思うPAソナの駒なのだ」
ミウラはサイトの言わんとしている意味を理解出来た。
PAソナは星の住民には女神像なだけに解体工事という仕方のない事に撤去する様な印象を与える言葉で排除する予定だったが、中々に終わらない解体に苛々を滲ませ秘密裏に爆破解体を指示していた。
しかし、近隣への被害を起こせば問題に訴えられ兼ねない事に、今より三十四EAT後に女神像へこれまでの感謝の思いを込めて葬送の砲弾(花火の様な物)を上げる予定になっている。
「まさか……」
「この星の壺は爆発するらしいな、最後になるなら私も女神をひと目拝んでおきたかったが、行くなら急いだ方がいいぞミウラ」
そう言うとサイトはミウラにテーブルに置かれたビワ葉矢秀のお菓子の入った箱の下を指した後に胸を指して言い足す。
「ストカーの忘れ物だ。届けてやれ!」
お菓子の箱の下から銃の様な何かが……
それを手に取ったミウラも元は何処かの兵役経験があるのか、サイトに向けた敬礼を返事として出て行った。
部屋に独りになったサイトがドッグ8星に残してきた妻の写真を眺めて溜め息をこぼす姿は何処か痛々しい。
――SHUFOOOOOHH――
「近道あるんだけど……」
「行かない」
ポリンが運転するバギーは浮遊するも安定した走りで森に向かい戦伝に教わった道を進んでいた。
ヤEは運転したいのか普段自分が使う道こそが一番の近道だと思っているのか頻りに脇道を勧めて来るが、ポリンもアーヤも二度と御免だといわんばかりに聞く耳を持とうとはしない。
「そこを左に行った方が……」
「絶対行かない」
そんなヤEの事よりもアーヤが気にしていたのは星の住人の事だ。
米コック・レストランまではヤEの近道で人は疎か前を見るのも危ぶまれる様な状態に、住人の事など気にする余裕も無かったが……
「それよりヤE、この星の住人は?」
「この時期は隣町のスモートの方で鬼奴ダンシング・カーニバルがオールナイトで開催されてるから、みんなそっちに行っててこの辺りには殆ど居ないのよ。だからPAソナもこの機を逃すまいと……」
シアZ達に聞いた爆破解体計画の話にヤEが下を向くのを見て心が痛むアーヤだが、不意に前を向いたヤEが言う。
「そこ!」
「行かないっての!」
「いや、戦伝の実家って言おうとしただけで……」
何とも紛らわしい事ばかりのヤEに振り回されていたが、シラケ目に序でだからとポリンが訊ねる。
「ひょっとして、この星の人達ってダンスに行くにも宇宙服なの?」
「え? ああ、コレ? PAソナ従事者の賃金の低さからだと思うけど、今この星の治安ってヤバいのよ」
そこまでを聞けばポリンもアーヤも察しはついたが、一応までにとアーヤが口にする。
「でも、何でみんな宇宙服なの? 惑星内なんだから宇宙服の必要性無いじゃん!」
「……惑星間チューブ。便利を謳ってるけどアワGSAやホクダンSAに降りる客なんて殆ど居なくて、ウチに来た時も他のバギーを見なかったでしょ?」
「確かに」
通っているのは【無重力厳禁物】の物資輸送用バギーくらいのもので、通常貨物は宇宙船の方が重量を気にしなくて済む分惑星内SAから宇宙空間SAまでを使う程度。
ただ、それが惑星内で宇宙服を着る理由と何が関係しているのか? と、元の問に思考が戻るも束の間。
「偉い人達は安全だなんて言ってたけど、PAソナの件もみんな本当は信じてないのよ」
「ああ、惑星間チューブがいつ壊れるかもしれない可能性に! って話か……」
「そういえば、さっきの観光客は見た?」
たまに本気モードで話し始めるヤEの気分屋感覚に付いて行くのがやっとのアーヤだが、今度はポリンの気まぐれに何処を見たのかに周りを見るが何時何処に観光客が居たのかも判らない。
「ごめん。何の話?」
「さっき過ぎた対向バギーに乗ってた奴、めっちゃ高そうな宇宙服なのに最悪な色使いだったわ!」
ヤEはポリンが見たと言うバギーを思い返すも、随分前に過ぎたPAソナの従事者専用バギーくらいしか見ていない事に気付き、タイプ316では無い事に何か嫌な予感に思考に目を細める中、アーヤはポリンとファッション談議に華を咲かせる。
「色使いって?」
「一番やりたくないアレ!」
「あ、足すと黒になっちゃうアレ?」
「ソレ!」
トンキン星団界隈のモデル業界でも、写真は画像処理が当たり前。
けれど、ファッション誌を読むのに使うモニターやカメラは地球科学のそれとは微妙に違う。
光と色の三原色も星人の視覚機能や表示方法が違えばエラーコードも微妙に異なる。
地球の三撮像管カメラの頃に白黒基調やボーダー服が明度調整を厳しくし、クロマキー合成撮影にグリーンの服がアウトだった様に。
トンキン星団界隈で開発された技術では、黒を表示出来るモニターにクッキリ三原色を与えるとエラー表示を起こして色がくすんだり消えたりする事からモデル業界に御法度カラーが存在していた。
そんなモデル業界裏話に華を咲かせていた二人だが、ヤEが予感に口を突く。
「ひょっとして、女神像に向かった?」
「そっか、あんな派手な宇宙服の観光客なら高い所も好きそ」
「違う! アレ、PAソナ従事者専用のバギーだった。それもお偉方用の……」
話に乗って予想を足したアーヤを遮り、自身の予想に尚も思考を巡らすヤE。
そんな本気モードを露わにしたヤEに対して、ここぞとばかりにポリンが意地悪を口にする。
「ヤEの行動、監視されてんじゃないの? 女神像の壺爆弾を持ち出されてないかの確認に行ったとか!」
「それよ! いや、逆かも!」
何故か意地悪を鵜呑みにするヤEの反応に何とも調子が狂うポリンに、ヤEは答えに悩む中、距離は遠くに前からまたもPAソナ従事者専用バギーが……
「前からバギー、あれもPAソナの。そこ、左!」
「え、あ! 左?」
――SHUFOOOOOHH――
PAソナのバギーと聞き、思わずヤEに従い逃げる様に曲がったポリンに、したり顔のヤEが静かに笑みを零していた。
暫くして気付いたポリン。
「ああっ! ヤラれた……」
「大丈夫。あのまま行ってたらPAソナの代替本部よ!」
ヤEの言う近道は単なるショートカットだと思っていたが、一本道で分り易い戦伝の教えてくれた道は自分の実家への道でもあり、シアZと潜入している代替本部への道でもあるが、それはPAソナ従事者達も使う道。
それ故に殆んど居ない鬼ON星の人通りにあって、二度も対向するPAソナ従事者専用バギーを見る事になっていた。
そして、当然の様に行き着く先には代替本部が在る事からヤEは気を揉んでいた。と、思いたいが最後の悪あがきがたまたま良い方へと向かっただけの様にしか二人には思えない……
「本当に?」
「このまま上に見える惑星間チューブの下を越えて右に行けば森に着くから! そしたら何処かにバギー駐めて父さん救出。その後シアZ達と合流して……」
――SHUFOOOOOHH――
「じゃあジョイS、頼めるか?」
「任せて下さい。女神よりも先にPAソナの祭壇吹っ飛ばしてやりますよ!」
女神像に設置された壺爆弾の爆破システムを解除し、その一部をバギーに詰め込みヤE達の後を追おうかという所……
不意に戦伝が駐車場から女神像を見て、何か嫌な予感に確認したい事があるとして一人残ると言い出し、シアZとジョイSに壺爆弾を託す事にした。
――SHUFOOOOOHH――
「ああ、俺も確認したらスグ行く」
二人を見送り女神像に戻った戦伝が、何か見落としているように思えてシューターに。
――SHUFOOOOOOOOOO――
――HYUUUUUuuu――
上に着き強烈な風が吹き込む。
「ハチク星……いや、ここって、まさか!」
何かに気付いた戦伝が空ではなく下の鬼ON星の大地を見回す。
「ああっ! 解ったぞ。そういう事か……マズい、早く知らせないと!」
――SHUFOOOOOOOOOO――
焦りシューターに乗り込む戦伝。
――SHUFOOOOOHH――
その頃、米コック・レストランの駐車場にPAソナお偉方用のバギーで乗り着けた派手な宇宙服を着た男が、荷台から機材を取り出し何かの準備をしていた。
男は女神像をニヤついた顔で見上げると、準備した機材を持って女神像へと向かって行った。




