AAK★★★線上にかける端
「ちょっとぉお! ビワ葉矢秀は?」
「食べ放題……」
ニコル村のビワ葉矢秀食べ放題の農園に着いたアーヤとポリンだが、そこには映像で観た様なたわわに実るビワ葉矢秀は一つとして無かった。
農園脇に佇む入園の受付ともなっているヤEの家に到着して早々、入らずとも判る目の前の木には葉すらも無く、ただそこに木が並んでいるだけにしか見えなかった。
「大丈夫だから! あれは別の木。ビワ葉矢秀は奥にあるの! ちょっと待ってて、父さんただいま。お客さんも連れて来たよ!」
ヤEの話に顔を見合わせホッとする二人。
暫くしてお客さんと聞いて奥から顔を出したヤEの父親は二人を感慨深げに見ると何か信じられない様な口ぶりで確認する。
「本当にお客さんですか? ビワ葉矢秀を食べにいらしたんで?」
「食べ放題、出来るんでしょ?」
ポリンも不安気に聞き返すのをアーヤが静観しているのは、何か感動の再会をした親子の様な雰囲気に飲まれそうだったからだが、本当の親子のヤEとは既にあっさりと再会を済ませているこの父親……
「おお、お客さん!」
「この時を待っていたわ!」
何の小芝居かも分らないポリンとヤEの父親が肩を抱き合い踊りだした激情演技を放置して、アーヤは家の中に掛けられた写真や勲章やに目を向けていた。
そこにはこのビワ葉矢秀農園で家族連れや若者が楽しそうにビワ葉矢秀を掴み取る姿や食べる姿と共に、ヤEの父親が何かの戦いに出向いた折の勇姿があり、後ろでポリンと肩を抱き合いフザケているおバカな一面は微塵もない。
よくよく見れば大きなタコ型星人であるハチク星人と……
「あれ? ニコル……村長?」
アーヤが見たのは名前の方だが、その一言には慣れているのか、後ろでポリンと戯れ合っていたヤEの父親本人がその名前に口を出す。
「ニコル村が名前で、昔俺長官だったんだよ」
「あ! そこに写ってるタコ星人って、ヤEが昔食べたって言うハチク星人?」
ポリンが後ろから口を出すと、ニコル村が少し怒り気味にそれを征する様に答える。
「馬鹿言うな! あれはワナカ……いや、昔の事だ。さあ! ビワ葉矢秀をタップリ食ってくれ! 行こう!」
何かあるのは確実の様だが深入りする気はもとよりなく、面倒事より今はビワ葉矢秀の食べ放題で何処まで食べれるかに重きを置いていた。
農園の奥には丘斜面に沿って並ぶ木に大きな実が身を寄せ合う様に沢山ついている。
【ビワ葉矢秀食べ放題:三十TEAで千NO】
「大体みんな二十個位食べた所でお土産用の箱詰めに走るけど二人は幾つ位……」
ヤEが荷物を置いたか遅れてやって来ると、既にビワ葉矢秀にかぶり付いていた二人の口元を見て目を丸くしていた。
それもその筈、ビワ葉矢秀の皮を剥かずに種までもをガリガリと……
脇で見ているニコル村も、その豪気な食べっぷりに呆気にとられているのか口をあんぐりと開けっ広げていた。
「ちょ、父さん! 二人共駄目! 皮は剥いて種も捨てて!」
「えぇぇ……」
「あぁぁ、どうりで……」
「あ、すまん……」
アーヤは何となく気付いていたのか苦味故か可笑しいとは思っていた様だが、ポリンは普通に種までを噛み砕いていたからか今更言うなよ感が物凄く顔に出ている。
ニコル村はといえば怪物を目の当たりにした敗北感すら醸し出しているのは何故なのか、ヤEもそこにだけは納得行かずに怒っていた。
勿論お客さんに対して注意すべき事をしなかった事にではあるが、昨今お客さんが殆ど来なくなった事もあり色々と説明するのも忘れていたが、皮を剥き種を捨てる事位はビワ葉矢秀食べ放題に来る客が知らない等とは思いもしなかった。
「オートコックのビワ葉矢秀は丸ごと食べられたから……」
アーヤの一言にヤEとニコル村が何かに合点がいったのか悩ましい顔を見合わせていた。
「……何?」
その異様な親子のやりとりにアーヤが気取り聞く。
ポリンは皮や噛み砕いた種をペッペッペッと渡されたバケツに捨てている中、ヤEが申し訳序でに語り出した。
「二人が食べたビワ葉矢秀のオートコックのデータって、多分何処かの催し物とかで買ったんじゃない?」
「そうだけど……」
「やっぱり!」
アーヤの返事を聞いたヤEがニコル村にそらみたことかと食いかかる。
当然説明待ちの二人は置いてけぼりにされ親子が何を揉めているのかも解らない。
小競り合いしながらそんな二人に気付いて今度はニコル村が説明を始めた。
「いや、そのオートコックのデータな! 実は昔この星の守り神として建造された巨大な女神像が在るんだが、そこで土産用に作ってたお菓子を元にしたデータらしいんだわ!」
「やっぱり! だから苦いんだわコレ!」
尤もらしく話すポリンにヤEが程よく否定する。
「それは多分、皮と種を食べたからだと思う……」
「うん、実だけ食べるとほんのり甘くて美味しいよ。ほら!」
そう言って何故か剥いて食べてるアーヤは何処からもいで来たのかと見回すポリンが、アーヤの脇に置かれた箱詰めされたお土産用にとニコル村が入れてくれた大きなビワ葉矢秀の事を思い出す。
「ああっ! アーヤそれ、ズルい!」
「ごめぇえん、はいポリンもどうぞ。で、何でモメてたの?」
また見合う親子、今度はヤEが語り出す。
「その女神像のお土産用のお菓子を勝手にデータ化して彼方此方で売り捌いてるのがPAソナの連中で、更に今……」
言葉に詰まる娘に代わりニコル村が説明を続ける。
その内容はこうだ。
インジン星人と共にハチク星の侵略に加担したPAソナは宇宙港からの征圧に成功した。
その後、協力していた鬼ON星住民の過疎化につけ込むPAソナは代替本部をそのまま置きつつ、一方で賭場衛星で借金を負った者達の救済措置として借金返済支援プログラムを賭場衛星を取り仕切る改壊に認可させた。
それを機に借金返済プログラムを担う就職先を創設するとして、鬼ON星観光施設等の再生とは名ばかりに協力金として税を絞り上げ地上げを謀る。
地主には移住者の促進の為として観光施設等を建てる為の土地を買い上げ、移住者には仕事を作るとしてその観光施設の建設工事に従事させる。
鬼ON星住民には、移住者により星にNO(マネー単位つまり金)が回りしいては星を潤す事になる。と、説明していた。
しかし現実は、借金返済でここ鬼ON星に従事する事になった何処の星の者かも言えない者達の賃金は、PAソナにピンハネされ生活するのがやっとの状態で、星を潤す処か窃盗犯が出る程に星の商売にNOを落とす者等居はしなかった。
そうして気付けばPAソナだけが潤う観光施設が乱立し、星の景観も環境も破壊され観光客もPAソナの暴利に勤しむ観光施設の割高感に、元の星の商売にまで来る客も減っていた。
今やPAソナは自らを神とする祭壇の建設を始めており、まるでハチク星人へ見せ付けるかの如くにハチク星に一番近いこのホクダンの先の辺りに建造中なのだが、最近になりPAソナが始めたのが例の女神像の解体工事だ。
自身を神とするのに同じ星に女神像が在っては目障りに思ったか、古くて危険として解体工事を奨めた上で責任回避に下請け先にはインジン星人の業者を入れ、作業員に借金返済移住者を雇わせピンハネと、PAソナのやりたい放題が目に余る様になっていた。
そんな矢先の最近、噂話に知ったのが女神像のお土産お菓子のデータ販売だった。
他星に出かけた首都アワGに住む者が、偶然聞いた話にビワ葉矢秀のデータがあると聞き、PAソナの策略を怪しむ噂話が鬼ON星内に出回りビワ葉矢秀農園のニコル村の元まで流れて来た。
そこで、娘のヤEが調べに行ったと……
「じゃあ、ヤEはその調査の帰りだったって事?」
――PARIPI――
「え?」
ヤEの返事を前に、アーヤが話していたのを聴いていたかの様なタイミングでBIKKEからメッセージが入り、バングルに浮かぶメッセージをポリンが読み上げる。
「逃げろ。スペースポリシーがニコル村の農園に向かってる……はあ?」
「何で?」
――PARIPI――
【PAソナの邪魔をする反逆者としてニコル村を囚えろとの通達を確認】
「え?」
アーヤとポリンが口に出さず読むメッセージに、ヤEとニコル村が先のポリンが読み上げた話で不安を寄せて次のメッセージに何が書かれているのかとアーヤが顔を上げるのを待っている。
アーヤ自身何がどうしてどうすれば良いのかに頭の整理が追い付かないのか顔を上げたが困惑顔を丸出しに……
ポリンも当然困惑顔かと思ったが、すんなり答えに行き着いたのか皆に向けて淡々と口にする。
「スペースポリシーがニコル村を捕まえに来るから、みんな逃げろ! って事でしょ?」
一瞬の静寂の後、皆理解出来たのか慌て出す。
ヤEは自身の調査行動がバレたと考え自責の念に囚われ出し、ニコル村も何故自分がスペースポリシーに追われるのか他の事由に思考を巡らす。
アーヤはポリンがあっさり出した答えに答え合わせを重ねて固まっている。
それを静観していたポリンが再度答えを導き出す。
いや、皆を導く。
「いや、みんな早く逃げようよ!」
一斉にポリンに振り向くと、ようやく答えに理解が追いついたのか納得の表情に頷き……
「そうね。逃げよう!」
「おお、そうだな」
「父さん、権利書関係持って来て!」
慌てて動き出した皆を見て、ポリンはお土産用の箱詰めビワ葉矢秀を持ってバギーへと歩いていた。
「ポリン! ビワ葉矢秀もいでる場合じゃないから!」
アーヤが走ってバギーに向かう中、振り返るとポリンは歩きながらも大きなビワ葉矢秀を見つける度に、ニコル村の長い話に食べていた分箱の空いた箇所にビワ葉矢秀を詰めていた。
「もう、こういう時は落ち着いて行動するのが正解なんだって。て、何かに書いてあったもん」




