AAK★★線上にかける端
とてもモデルが着るとは思えないツナギ型のタイプ316の宇宙服は多少の船外作業用にと買っていたが、着て出歩く事まで想定していなかった為にさしたデザインもなく、紺と黒のストライプ柄のアーヤと、グレー地に水玉模様のポリン。
――PARIPI――
何とも冴えない顔をして戻って来た二人に、BIKKEがアームでボディから取り出したバングルをつけるようにと促す。
先程 二人に教育ビデオを観せ消えた三十TEA(凡そ三十分)の内にBIKKEはコレを作っていた可能性に気付いたアーヤが颯爽と身に付けたものの……
「バングルつけてもツナギはツナギだわ」
「もうちょいオシャレを勉強してよね」
――PARIPI――
【これで惑星内でもこの船と通信可能】
「え? 何これ文字が……」
「ヴィッキーの声ここからしなかった?」
――PARIPI――
【何か有ればバンクルの両端をタップし通話】
「ヴィッキー、端的ね」
「うん、もうちょい愛らしさ欲しいよね」
――PARIPI――
【UC・Cを忘れずに、いってらっしゃいませ】
「これ……メイドロイドを意識したとか?」
「じゃない?」
何も言わずに操舵室へ向かうBIKKEの後ろ姿に恥ずかしさから逃げる何かを感じるも、とりあえずに宇宙船ランウェイGOから降りSAのレンタルバギーを借りに受付へと向かう二人。
そもそも宇宙船に乗るのも初めてだった二人は勿論降りるのも初めてで、それが惑星間チューブのSAとなれば勝手がわからないのも当然の事。
鬼ON星人も姿は同じ人型だが、体型に目や髪の色その他様々に違う部分を挙げればキリがない。
とはいえ惑星間交友を初めてから長きにわたる。
そこへの驚きは既に無い。
分からないのも最初だけ。
何事も、やってしまえば後の祭り!!
と、モデルならではの気構えが臆病風を吹き飛ばす。
――PARIPI――
【入星許可書に観光を選択したらバギーレンタル受付へ】
BIKKEの助言付きなら尚更に。
そのBIKKEはといえば、操舵室でこの宇宙船ランウェイGOの船体を調べながらここホクダンSAで入手可能な機器を検索していた。
購入に際してのUC・Cにはアーヤでもポリンでもない別の名前が……
――BABABABABABA――
アーヤの運転するバギーはニコル村のビワ葉矢秀食べ放題の農園を目指して走り始めていた。
「これ、バギーの必要ある?」
運転しながらアーヤが問うのも無理はない。
惑星間チューブの中は意外と広く、バギーを初めての運転するにも快適に走る事が出来るが、わざわざ重力磁場を発生させてまで摩擦抵抗と削りカスを発生させる四輪を使う必要があるのかに疑問が頭を過ぎる。
「え、そりゃあ磁場を作るなら磁場を推力にした方が速度も速いし……何か理由があんじゃないの?」
トンキン星団の算出データによるとモデラー星の重力値は人型の平均より少し高い値にあり、その為に他の人型より手足が長く胴体や頭部が小さい事で体重は軽く動き易くなっているとされる。
それと同じ様に人型ではないものの、手足が長く胴体をコンパクトにして起伏の激しい惑星で進化を遂げたハチク星の蜘蛛型や蠍型の昆虫星人と同種扱いに揶揄される事があるモデラー星人。
この鬼ON星の隣にある惑星こそがハチク星であり、当然のように受付で揶揄する目を向けられ苛つきを覚えた二人は八つ当たる様にバギーを飛ばしていたが、
この車重を軽減させるホバー機能は多少浮遊するが安定性も低くサスペンション頼みのバランサー、かと言って二輪程のバランス感を楽しめる操作性も無い。
そこにもって速度も出ずに速度が合わないタイヤの回転速度に摩擦係数ばかりが上がり、オープンカーのバギーなのにオーブン状態の車体の熱量とチューブ内の細粒埃が口腔内へ侵入するのを危険とした宇宙服はスキンケアを自動的に発動させた。
チューブで惑星内に入れる為、宇宙船とは別の降下シャトルを必要としない便利さは有るが……
「PAソナが災妻と手を組んだからですよ」
「!?……何あんた?」
「何処から……」
突然、アーヤもポリンも知らない三十路程の女がバギーの後部シートから顔を出して話に入って来た。
「あ、私ヤE、地元民ね。帰りのバギー代が無くて困ってたのよ。ごめんね勝手に乗っちゃって」
「いや、いいけど……あなたスキンケアは?」
「あ、そうね。だってイキナリにメット越しで話しかけたら怖いかな? って思ったから一応の挨拶までに一時解除したんだけど」
ヤEはスキンケアを再起動すると、シートの間からダッシュボードのパネル操作でバギーの裏ワザ的な何かをし始めた。
運転中のアーヤが当然気にする。
「ちょ、何してんの?」
「速く走りたいでしょ?」
「そりゃ、まあ……」
「だったら飛んだ方が早いでしょ! いい?」
「え?」
――SHUFOOOOOHH――
「んのぉぉぉおおっ!!」
「ちょっとアーヤ! ぶつかるぅう!!」
――SHUFOOOOOHH――
突如として完全浮遊したバギーに操作性の違いから焦るも何とか軌道修正したアーヤの顔は勿論の事、どうする事も出来ないままに必死に掴まる他なく息の荒くなったポリンと、二人はそれを笑うヤEに怒りが巡る。
「殺す気かっ!!」
「聞くより慣れろよ」
ヤEの言葉に思わず共感してしまうのはモデルの気構えに似ていたからか、何となく気が合う様にも思えた二人。何となく許していた。
「で、コレ何なの?」
「このバギーって、元々はハチク星のホバーボードの技術を奪った物なのよ。だからシステムに後付けした四輪への駆動系システムを切っちゃえば……」
「元通りに浮遊する……」
ポリンも理解出来たが揶揄されまくるハチク星の話に曇る顔。ただ、今の話に揶揄は無く、むしろハチク星人を肯定するかの……
「ヤEさん、ハチク星人に知り合いか何か居るの?」
「昔ね、この鬼ON星ではハチク星のタコ型星人を食してた時期があって、ハチク星のアカシの辺りに壺爆弾を落としては……」
ヤEの話から、ハチク星に向けたインジン星人の侵略戦争に勝利し宇宙船を建造中だったハチク星人だが、既にハチク星の軌道上には宇宙港が整備されていた事を知らず、突如としてその宇宙港に惑星間チューブが接続され、新たな侵攻作戦に破れたらしい。
それを指揮していたのがPAソナで、侵攻作戦に必要だからと隣にあるここ鬼ON星が拠点とされ、協力を要請された折に住民のハチクのタコ星人を食す文化に浸け込まれ今尚PAソナに占拠されたままにあるという。
が、勿論二人の耳に入る情報量は僅かなものに“タコ星人を食す文化”に想像が膨らんでいた。
アーヤも運転しながらの想像に口に出る。
「ヤEさんも食べた事あるの?」
「小さい時に少しだけ、足だけよ!」
「ああ、八本足なんだっけ?」
ポリンの記憶にもその姿は奇妙に映ったのか、タコ型星人と言われてスグに浮かぶも、足の数まで覚えていたのは誰かが話していた「八本もあんなら一本や二本……」等とモデラー星人を馬鹿にする折に触れた文句の記憶から。
何となく自分も食べられる様な気がしてヤEの口元を見たポリンが口を漏らす。
「私達、美味しくないですよ」
「え? ああ、味は忘れたけど食感がいいのよ、アレ!」
「……食感」
自分の胸やお腹をつまんで確認するポリンを脇目にしながらアーヤが一応に聞く。
「あの、私達ニコル村のビワ葉矢秀食べ放題の農園に向かってるんだけど、ヤEさん知ってる?」
「知ってるも何も、私そこの娘」
は? といった顔を明ら様に二人が顔を見合わせる中、ヤEが何かを思いついたか続け様に口を開く。
「ねえ! タダ乗りじゃアレだし、アワGの案内してあげる!」
ヤEの思わぬ提案にアーヤもポリンもふと気付く。
そもそも二人がこの鬼ON星に降りたのは理由も分からずスペースポリシーに追われての逃避行。
なのに、BIKKEがビワ葉矢秀を推した理由も分からないまま今ここに至っていると。
「あれ? ポリン、私達って……」
「ああ、そういえばビワ葉矢秀を食べる以外何も考えてなかったし、調度良いんじゃないアーヤ?」
「いや……まあ、いいか」
分からない理由を考えるより、ヤEの提案に乗りアワG観光をした方が……と、楽しんだ者勝ちの定義に乗っ取り、いい加減な判断に身を任せる二人。
ただの機械と思ってる二人がBIKKEの推す事の理由に意図を感じる筈も無く、とりあえずに観光案内をヤEにお願いした。
「先ずはウチの農園ね!」




