AAK★線上にかける端
「え、ここ宇宙船ドックじゃないの?」
――PARIPI――
「やっぱり、アーヤが航路指示したから鬼ON星に降りちゃったんだ……」
――PARIPI――
「はあ? ポリンが回転するデッカい円盤型の何かが大渦の端に見えたって言うからじゃん!」
「だって、何か七色に光ってたんだもん」
――PARIPI――
――PARIPI――
アーヤとポリンが勘違いの言い争いをしている中、モニターにBIKKEが全て解説付きのデータを表示している。
ランウェイGOが降りたのは、鬼ON星の宇宙港兼、八十八星系からハチク星迄を結ぶ惑星間チューブにいくつか在るSAの一つホクダンSAだと。
ポリンが見たのは鬼ON星とハチク星を繋ぐ惑星間チューブに在るアワGSAに、観光余興にと設置されている展望衛星だと。
しかし、二人がモニターに目を向けたのは着港直後のみ、ここから首都アワGに行くにはレンタルバギーでの移動しか無い事を親切心から表示した処、惑星間チューブの存在を理解せず惑星そのものに着陸してしまったと勘違いをして今に至っている。
そもそもアーヤの指示にBIKKEが従って着港する筈も無く……
いや、それはドロイドの機能としては十分可笑しな事由でもあり自由が過ぎる事なのだと認識するべき所。
操縦から航法から宇宙船の造りから、何から何まで判って無さ過ぎる二人だからこそ何事も無く……
いや、何から何までBIKKE任せにしたからこそココまで来れたが、航法も操縦も今は普通に補助が入るのが普通で、オートモードですら持ち主の指示を無視して勝手に色々と変更されたら普通は怒る。
まして、ドロイドとしては意思を持ち過ぎているこのBIKKEに対しても、ドロイドを知る者からすれば異常そのものの行動に気味悪がるに違いない。
知らぬが仏とはこれ然り……
そお思っているのがBIKKEなのかもしれないが、モデラー星にもジャポメカ星にも仏の信仰は存在しない。
スペースポリシーの追跡をかわす為、八十八星系へ向かったように見せるのに、一度鬼ON星を越え八十八星系との間にある大鳴門惑星間チューブの脇ををすり抜け裏側から鬼ON星のホクダンSAに降りたランウェイGO。
スペースポリシーが追っていれば今頃はアワGSA辺りを航行中と予想しているBIKKEが、予測進路図をモニターに表示し二人を安心させようとしてみるも……
――PARIPI――
向こうにランウェイGOの船尾がある程度視えていたなら尚更に好都合で、スペースポリシーが八十八星系へと向かってくれる事を期待し、何の公算か二人にアワG観光を促すBIKKEが、モニターに観光資料を表示していた。
モニターにビワ葉矢秀の写真が表示されるとポリンが気付く。
「ヴィッキー? それはさっき食べた。」
いや、最初からモニターを見てはいたかの様な反応にBIKKEの方が焦り再考している様にも映る。
――PARIPI――
「うそ! 本物のビワ葉矢秀食べ放題? 何それ?」
――PARIPI――
その再考で出した応えに食い付いたのはアーヤだが、モニターにその店の地図を示すとポリンが何かに推理を始めていた。
「まさか、この為にホクダンに降りたとか?」
ポリンの的外れな推理に対し、これ以上の迂闊な対応はポリンの勘違いを増大させる。
まるでそこまでを予測しての反応かとも思えるBIKKEの固まる姿に、アーヤが機械の気持ちを慮ってか救いの手を差し伸べるかの如くに声をあげる。
「とりあえず行ってみようよ!」
「ふぅん、結局アーヤは全部食べ物で決めてるんでしょ?」
「いいじゃん、だって本物食べ放題だよ!」
――PARIPI――
まるで、その意見に賛成とばかりに誰かが撮った満足気に食べ放題を楽しむ家族連れの画像をモニターに出すBIKKE。
アーヤとBIKKEの沈黙の推しが、何ともポリンのお腹に訴える。
「……そりゃあ本物を食べ放題は」
アーヤとBIKKEは顔を見合わせ勝利を確信したか笑い頷いていた。
――PARIPI――
「ちょっとお! 私まだ行くとは」
「行かないの?」
「……行く」
――PARIPI――
ここでBIKKEは三十TEA(凡そ三十分)の間これを観て待つようにと、モニターに鬼ON星の概要を示す観光案内映像と共に、危険な場所や歴史的背景を添えた物を流し、操舵室から何処かへ向かい消えて行った。
まるで、勉強しろと言っても聞かない子供に見せる教育ビデオの様に……
「へぇぇぇ、PAソナの代替本部だって! アーヤ知ってた?」
「お偉いさんに顔見せたらCMの話来るかなあ?」
大人しく観る筈もなく会話をしながらも、アーヤの話に突如ポリンが黙り神妙な面持ちでアーヤの心理を覗く様に見ていた。
「……アーヤ、知らないの? PAソナのCMやると落ち目になるって」
「え? あ、だから最近あのシアZって子見ないの?」
「CM公開直後にマネージャーの戦伝がシアZを何処かの惑星に連れてった! とかって聞いたけど……」
話はモデラー星の業界噂話へと移り……
眺める程度の資料映像に、二人が観て覚えられるのは変わった名前と絵ばかりとも知れず。
BIKKEが観光では無い方の映像に示していたのは、PAソナの洗脳と奴隷制度に苦しむ鬼ON星の実態だが、元はスナイパーとして名を馳せたPAソナの名も今やモデラー星では借金返済支援プログラムを担う優良企業的な扱いに認知されている。
なので、アーヤとポリンにはその代替本部がここ鬼ON星に置かれている事実に対する認識もズレている。
説明される洗脳と奴隷の解釈も借金返済を皮肉る会話にしか感じない。
いや、多くの者はそれを知る由もない事で、賭場衛生で負った借金の返済にと甘い言葉に騙され連れ去られたトンキン星団の彼方此方の人々が、奴隷としてPAソナを神として祀る祭壇の過酷な建設工事に従事させられている。
それが何処からの情報なのか、本来は語られぬ筈の情報がどうして漏れているのかにも、BIKKEがどうしてそれを知ってアーヤとポリンに伝えられるのかにも……
何を疑う事も無く、昼の情報番組を観ているかの如くに二人は寛ぎジェルドレンを飲みながらそれを眺める程度に観た後は、星に降りるとなればモデルの誇りにかけた服や化粧にオシャレを凌ぎにかけていた。
「どうよコレ! この前のコロニーウォーカーで森林スタイル特集やったばっかなんだから!」
ポリンの担当した森林特集とは、賭場衛星内の森林公園を背景に撮影した物、その為か森林スタイルとは名ばかりに高貴な中にもラフな印象を受ける宇宙服。
そもそもの企画が賭場衛星観光向けの雑誌で、コロニー内のセレブ宿泊者へ向けた物。そこまでを考えるでも無くオシャレのみを優先するのはモデル故の性。
透き通る湖の様な蒼地に滝をイメージしたのか泡立つ飛沫模様がラインとして入る体のラインをくっきり見せる宇宙服に、それこそ湖面に映る雲の様に白い羽織をフレアに纏う。
「え、それ宇宙服じゃん! 別惑星に降りるんだからその惑星に適したオシャレが必要ってものでしょ」
少し先輩面を意識した物言いも、アーヤの言いたい事にも道理はあるが、アーヤがこの鬼ON星の流行りと見立てたオシャレの基礎が先程の映像からの物。
観光映像に映る少し昔の観光客と、同時にBIKKEの資料映像に映る奴隷の服装から読み取った事に、的外れではあるが基にした処から考えればオシャレなのは確か……
探検家スタイルの様なラインに迷彩柄が入るアイボリージャケットに、下は鮮血の赤と共にビワ葉矢秀を意識したのか淡い橙色がせめぎ合うドレープスカート。
「何? その毒々しぃ殺戮の天使みたいな格好……」
ポリンが怪訝な眼でアーヤを見るのは勿論自分の宇宙服を否定されたから。
「はあ? ポリンだって沼で間抜けに出て来た泉の妖精みたいな格好で! これからビワ葉矢秀の食べ放題に行くんだからさあ!」
――PARIPI――
「調度いい! ヴィッキー、どっちが正解?」
「判ってるよね、ヴィッキー?」
――PARIPI――
戻って早々の難問も、BIKKEが二人にモニターに示した答えとは……
「え、タイプ316の宇宙服?」
「ほら、宇宙服で正解だって!」
――PARIPI――
「ブッ! それじゃない宇宙服着ろってさ!」
「何で? これも宇宙服だよ?」
――PARIPI――
「目立つな?」
「もう、ヴィッキーったらヤキモチ?」
――PARIPI――
「……殺される?」
「はあ? なら、アーヤの毒々しぃ殺戮天使みたいな方がいいんじゃないの?」
――PARIPI――
「早く着替えろって……」
「やっぱり機械ね、オシャレが解んないだわ……」
――PARI――
「うそです」
「早く行こ」
BIKKEの少し違う音が怒った音の様に思えて着替えを急ぐポリンとアーヤ。
機械としながら意志を感じる事の矛盾にすらも気付かずに、世話が過ぎるBIKKEの注意に素直に耳を貸すのが正解なのかも知らぬままに、タイプ316の宇宙服を取り出した二人が合わせた様に声を上げた。
「ええ、コレぇえ?」
――PARIPI――
残念がるその声に反応したBIKKEの音は何の意思なのか……




