AAI★★鉄砲水のタマとり物語
宇宙船が動き出す。
――BAHYUUUUMU――
幾つかの宇宙船を残し浮上すると、何かを族に向けた宇宙船が突然揺れると同時に、族の二輪動機の回路や接線が火花を散らし停止した。
戸惑う族の面々もいるが、慣れた様子で動かなくなった二輪動機を捨て置き走り、逃げ惑う異星人を追い回す族。
文明の利器も、元々が暴徒の族には武器なぞ最初から要らぬとばかりに、機械もそこらの枝木と同じ棒のようにへし折り振り回していた。
二人乗りで更に宇宙船へと進む族の特攻は、利器に頼っていた異星人を恐怖に陥れていた。
そして、遂に一台の二輪動機が逃げ帰る異星人を待っていた宇宙船の入口にそのまま突入した。
それを皮切りに、次々と宇宙船内部に入り込む族。
慌てて地上に残っていた宇宙船の殆どが浮上して行く。
見捨てられた異星人が必死な顔で助けを求めて何かを叫ぶが、無情に最後の一隻も浮上しようとしていた中。
「させるかぁぁあああっ!」
――WOWOWOWOOOOOO!――
ウカG自ら先陣を切って宇宙船内に飛び込んで行った。
しかし、そのまま浮上して他の宇宙船団と合流して行く。
その様子を地上で嘆き項垂れる異星人と、族長ごと連れ去られて手の届かない所まで行ってしまった宇宙船を見上げていた族の集団。
――PABOOONN!!――
――BYUUUUMU――
突然幾つかの宇宙船がバランスを崩し墜ちて行く。
何が起きたのか?
――PABOOONN!!――
――BYUUUUMU――
と、見ているとまた別の船も墜ちて行く。
――PABOOONN!!――
――BYUUUUMU――
良く見ていると船団の中の三隻程が隊列を乱し、その周りの船が墜ちていた。
その隊列を乱している内の一隻はウカGが乗り込んだ船だった。
「ウカGだ! アレ総長だぞ!」
――WOOOO!WOOOO!WOOOO!――
見上げる宇宙船に拳を突き上げ歓声をあげる族の集団に、完全に希望を失った異星人がへたれ込む。
そして、他の二隻の内一隻は二輪動機が特攻して行った船。
ならばもう一隻は誰が?
族が仲間を見回し確認していた。
目を覚ましたEトカワは自身に起きた事と共に現状迄を精査するように辺りを見回す。
「な、何だコレ!?」
周りで倒れている数人の異星人に焦るが、よく見れば操舵室のようだった。
そして……
舵を取る青年がコチラに気付き振り向くと声をかけて来た。
「お目覚めかい?」
トカトカ星語だ!
顎髭を弛わせニコニコと笑いながらいい加減に船を操舵し、適当にパネルを押しては起こるその挙動に興味津々に弄りまわしていた。
「あ、ああ、君はトカトカ星人か?」
「俺がトカトカ星人とかって? ロックじゃねえな!」
笑っている青年が手持ち無沙汰に舵を回す。
――MUWAAAA!MUWAAAA!――
「うぉ! やめろ馬鹿!」
警告音と共に傾き旋回する宇宙船の遠心力に振り回されるEトカワが怒りに叫ぶが、笑う青年は更に舵を逆に切る。
「俺はKヨシロウ、ロッカーだ!」
――MUWAAAA!MUWAAAA!――
またも警告音と共に傾き旋回する宇宙船の遠心力に振り回される。
Eトカワの怒りは操舵にでは無く、未知なる文明の利器に対する操作のいい加減さだと知ってか、Kヨシロウが就けとばかりに指すはパネルだらけの席。
「あんたG広場の魔物だろ?」
見透かされた真実に触れられ驚くEトカワに、指された意味を気付く他なく立ち上がる。
パネルの前に立って見れば先程の操舵のお陰か周囲の船が衝突を回避しようと避けた結果、連動して避けた船が別の船を危険に晒し隊列が崩れていた。
「こ、これは……」
適当に思えた操舵は考えていたとは思えないが、脈絡無く起こしたとも思えない混乱に、飄々と笑みを浮かべ顎髭を弄る青年は何を考えているのか……
「トモカZ行けそうか?」
「素人に無茶を言わないでくれ、その人みたいな知識は無いんだ」
奥の席で何かを調べていた男が、読める筈の無い異星人の船のマニュアルか何かを漁り頭を悩ませていた。
KヨシロウにトモカZと呼ばれた赤い靴を履いた男の整った顔は清潔感が有り、何故この顎髭と共にこの宇宙船内に居るのかと……そうだ!?
「君達は何故、どうしてこの宇宙船に居るんだ?」
「宇宙船? そりゃあロックだぜ!」
「え、これ宇宙船なんですか?」
宇宙船とも知らず乗り込み操舵する二人に呆気にとられるEトカワだが違和感を覚える。
「ん? 君達は族じゃないのか?」
「族? あんなの全然ロックじゃねえ!」
モニターに映る地上の族の集団を覗き片眉を上げるKヨシロウと、両手を振り否定するトモカZ。
「だったら君達は何で」
「コイツ等いきなり降りて来て俺の二輪車に傷を付けやがったから修理代金払わせようと思ったら何言ってんのか解んねえ! だったら船を貰ってやろうってな!」
Eトカワの危ない男に送る視線がトモカZにも向けられると、慌てて手を振り否定する。
「Kヨシロウ君が普通に入ってっちゃうから付いて来ただけで……」
思い返すEトカワの記憶に、宇宙船から異星人が降り立ち自分を無視して行く中、奥の方で赤い靴と何かを叫ぶ者達が視線の脇に居たような……
「で、君達は何処に行く気だ?」
パネルに映る船団の動きは先程の旋回を繰り返した影響とは別に、他の船にも侵入した何者かの奪取に乱れる隊列と共に墜ちた船かパネルからマークが消えて行く。
Eトカワは考える事なく、船団を攻撃するその一隻はウカGだと見ていた。
そして、どうして知ったか何の兵器か攻撃により、この先幾程の時をかけなければ交渉等は有り得ない状況に融和的な話も出来無い。
技術の教授も望めない……
ならば!
「さぁな、宇宙船なら何処に行くかねえ!? トモカZは行きたい所あるか?」
「いや、いきなり宇宙って言われても……」
困るトモカZを楽しそうに見ていたKヨシロウが、何かを決断したのか叫ぶ。
「よし! 宇宙に行こうぜ!」
「はあ?」
焦るトモカZにKヨシロウが、説き伏せる。
「こいつは宇宙船なんだぜ! 宇宙に行かなきゃ意味ねえだろ!」
「……いや、別にそんな道理は」
危うくのせられそうになったトモカZは我に返るが、Eトカワが乗る。
「それが君のロックか?」
「ああ、ロックに行こうぜ!」
「良いだろう、行くぞ宇宙!」
意気投合するKヨシロウとEトカワに戸惑うトモカZは、自我の叫びも解らぬままにロックの勢いに巻き込まれて行く。
「え、本当に?」
――PABOOONN!!――
――BYUUUUMU――
「はっ! こんなものか、お前等は何処の者だ? あああっ!」
ウカGが船の大将らしき男の胸ぐらを掴み持ち上げながら操舵を指示するように舵の前に居た男を足蹴にしていた。
操舵室の不穏な異星人の動きを視線の脇に感じたウカGが、周りの異星人が下手な行動に移す前に大将の胸ぐらを捻り締め上げる。
異星人とはいえ同じ人型、苦しむ声は変わらない。
不穏な動きをしていた異星人達の手が止まる。
「さっきのをもう一回撃て」
パネルの兵器を表すボタンを指すウカGに、互いの顔を見合わせ下を向く異星人に使えと鼓舞するように操舵手を蹴りつけ怒鳴る。
「おい! やれ!」
更に大将を締め上げる。呻く大将を気遣い固まる異星人。
「戦う覚悟も無く俺に挑んだか? ふざけるな! この腰抜け共が」
――BUSU!――
締め上げられていた大将が何かのパーツを使いウカGの腕に刺し、自らの気丈さを見せて仲間を鼓舞する。
再び反撃を覗う異星人の士気が上がる。
が、刺されたウカGの反応にたじろぐ異星人。
「何だコレは? ああ? こんなもんで俺を倒せるとでも思ったのか?」
抜き取り大将の腕に刺し返す。
叫び藻掻き苦しむ大将の姿に士気は下がる処か絶望の淵へと落ちた顔に……
抗争に明け暮れる文明も技術も下と見て馬鹿にしていた星のたった一人の野蛮な原住民に、手も足も出ずただ立ち尽くしているだけの異星人は自尊心もズタボロに打ち砕かれていた。
生ける屍になりつつある異星人は指図されるがままに仲間の船を撃ち墜としていく。
少し前、町の自称良民達を嘘で騙し利用していた非道なる者達は、G広場に降りて行く空飛ぶ船の大軍を確認し、漆黒の皇帝に情報を流していた。
そして、漆黒の皇帝をG広場に招き入れてから暫くして鳴り響く轟音に、ニヤニヤと卑劣な笑みを浮かべ森の中へと向かっていた。




