AAH★★★★オレハマッテイタ
――KATUNKATUNKATUNN――
階段を上がると歩みを緩めたAインコウに追い付く。
と、人差し指を立てて何かに気取られないようUGロウに注意を促す。
見ればコスには興味も示さずやたらと周囲に目を凝らしている連中が五人程。
「取り締まりか?」
「いえ、アレは多分ハム星人……O鴨トに何か頼まれたと考えれば」
「俺等か!」
顔を見合わせ焦り逃げ道を探す二人……
「居た!」
突然二人の肩に手を掛けて来た先程の男。驚く二人に陽気に声を掛けて来た。
「叫べタイヨウ族、さっき見たけどソレ似てますね! それに連れの娘エロイドコスとはギリもいい所じゃないすか」
目立ちたくないタイミングでのこの男の陽気な話しっぷりに、Aインコウは一瞬焦っていたが良く見るとこの男のコス……
肥え太っているせいで気付かなかったが新G老のレーススーツだ。
UGロウは新G老なんかに興味も無かったからかレーススーツに気付きそうもない。
気安く肩に手を掛ける男の話も理解出来ずに困惑していた。
「貴男名前は?」
「あ、俺いや、私は新G老、環境の為に女性の下着を禁止し有料化します! なああんてどう?」
チャラけて見せる肥えた男の冗談に、冷めた顔の二人。
気不味さが漂うとUGロウが気難しい顔で真面目に応える。
「最低な野郎だったが、その政策なら賛成するぜ!」
「いえ、それこそ最低なんですけど……」
「お、流石Aインコウ!」
男のツッコミに振り返るハム星人達が節操なく近寄って来るのが見え、焦るUGロウが争い事に身構えるとAインコウがその腕に手を置き首を振り何かの妙案が有る事を伝えた。
「私は娘ユリコ刑の命を請けこのコス乱を取り締まりに来ました。今この会場に居る者は全員隔離します!」
会場の誰もが固まり注目する中、ハム星人達は走りビルの外へと逃げ出した。
アッキー場のジャポメカ星人達は逃げる事は無く、逃げ出すハム星人を含めその幕劇総てを観守っていた。
注目に慣れていないのか目立ちたいのか鎮まるフロアに男が口を開く
「私は新G老、環境の為に取り締まりを禁止し有料化します!」
フロアの六十人程が安堵と共に鼻から漏れる笑いに段々と腹の底から笑みが溢れる。
広がる笑いに戸惑うUGロウを指す者が口にすると注目が注がれる。
「ああ、アレ、叫べタイヨウ族のボスか!」
「おお、懐かしいな! 俺あれ見てたよ」
「私さっきアノ新G老に見せて貰ったけど似てるよね」
判らずとも視線が集まり戸惑うUGロウにAインコウがそっと口添えをすると、UGロウが人差し指と中指で目前の何かを広げるような素振りでフロアを覗き込む。
「おお、ブラインドポーズだ!」
「若いのにやるじゃねえか」
――HYUUUUHYUUU!――
叫べタイヨウ族の決まりポーズなのか歓ぶ観衆に、訳が分からずAインコウに振り向くと皆に手を振り出て行く。
解らずも合わせて手を振り追いかけるUGロウ。
ビルを出る手前でフードを被るAインコウの冷静さは、エロイドとはいえプロの殺し屋の様でもあり頼れる相棒にも思えていた。
ビルの外は相変わらずの空虚さが漂う古いテナントビル郡に、狭い道には凡そ似つかない幅広の四輪バギーが脇をかすめる。
行きとは道を変えたか更に狭い路地を抜けるAインコウに、先程のハム星人への警戒かとも思えたが、ビルのフロアを抜けたりも有り方向感覚を失い自身の磁針も判らなくなる程の右往左往に、迷っているのかとも思えて来て声を掛けようとしたその時、突然ビルの階段を降り出した。
今度は地下道か? と、ついて行くと振り返り尋ねるAインコウの話に建物を見回し唖然とするUGロウ。
「こんな所に宇宙船の武器が?」
「こんな所で悪かったな!」
髭面に髪は薄いが整った顔の見た目には若い男が、店主なのか当たり前に付けられたケチにケチを返して現れた。
「あ、いや、この狭い建物の何処に武器を収めてんだ?」
「ふん、これだからトーシロウは」
「いや、俺はUGロウ」
「ああ?」
Aインコウが店主の肩を叩くと一瞬慄くが、目を細めて見直し指を立ててそのまま向ける。
「エーヨスか! 相変わらず馴れねえ顔だな! 無πなんて今や裏取引でも見なくなった希少品だし娘ユリコ刑の右腕って悪いイメージが付いたAインコウのせいで商売鞍替えさせられて……」
「すいません」
会話しながら扉の奥に入る二人に付いて中を覗くと、そこには宇宙港並のドックが拡がっていた。
「はあ? 何だコレ!」
驚くUGロウを見る二人が脇のパネルで何かを操作すると更に驚く事が起きる。
――PURIPURI――
――SYUWOOONN――
イエローサブマリナーだ。
目の前に突然現れたその光景に目を疑うUGロウ。
「な、え、な、何でココに……はあ?」
笑う二人へのムカつきを押さえて確認に周囲を見回すと、ドックの端に繋がらない柱やワイヤーに、歩く港湾局員が場所により突然消えたり現れたりと視覚に違和感を覚える箇所が幾つかある。
「3D、宇宙港の監視カメラを使ってるのか?」
「正解だ」
スンナリと当てた所見の男に予想外の顔を見せる店主にAインコウが告げる。
「UGロウ、彼がタイヨウ星人の」
「噓だろ? って、叫べタイヨウ族のボスコスか……」
あからさまに醒めた顔で3Dのイエローサブマリナーに近付き確認する店主が、底部に使われていない排放射口の継ぎ目を見付けると、3D映像をタップしてデータのサイズを合わせて使える武器を検索していた。
――PURIPURI――
「おい! あんたコレ何だ?」
店主がイエローサブマリナーを回し甲板の格納部を指しUGロウに尋ねる。
「ああぁ、ソコは……」
――PIPIPIPIPIPIPI――
「おいオマエ! 何を持ってる?」
店主がUGロウに向けた指で空間をタップするとポケットの辺りに危険物を確認していた。
指された辺りを確認するUGロウがポケットを弄ると何かがある。
取り出すと掌サイズのカプセル型の何か、スグに思い出した洗濯物に入っていたソレをつまみ上げて店主に見せる。
「これか?」
「何なんだソレ!」
「知らね!」
「ああ?」
「それで調べてくれよ!」
不意に投げて来たカプセルを慌てて受け取る店主。
思わずキャッチした事に自身が焦って放り捨てようにも恐ろしく、爆発物じゃないかを急ぎ確認に空間をタップする。
――PURIPURI――
「お、オマエこれ何処で手に入れた?」
「ああ、その甲板で干してた洗濯物に入ってた」
3Dで映し出されたイエローサブマリナーを指して応えるUGロウの言い分に、馬鹿にされた気もするが確認するのが先なのは流石の武器商人故か。
――PURIPURI――
3D映像を巻き戻して行くと停船後に洗濯物を取り込むUGロウの姿が目の前に……
更に店主が空間をスワイプしてズームすると港湾局員が来る直前ポケットに何かをしまう手元を更にズーム。
「な!」
「……あんた、得体の知れない物を良くポケットに入れる気になるな」
肯ける言い分に納得の表情を浮かべるUGロウに、Aインコウも店主と同じ顔を見せている。
話を変えるUGロウ。
「で、ソレ何なんだ?」
「おお、コイツはとんでもねえ拾い物だよ! エーヨス、お前じゃないのか?」
「いえ、何なの?」
「驚いた事にコイツが、横タヌウキ星の暗号通信機だ」
「え?」
驚くAインコウ。
それもその筈、自身が作られた理由こそが横タヌウキ星人の裏切りの証拠を掴む事だったのだから無理もない。
そして店主を含めアッキー場のジャポメカ星人達が待ち望んでいた物だった。
それを洗濯物に紛れていたからとポケットに入れ持ち歩いていたUGロウの引きの強さに……
「これが黒幕を教えてくれる筈だ。ありがとう感謝しきれん! 何でも好きなの持って行ってくれ!」
「あそ、ならその磁場編成機と光軸屈折装置を付けられるか?」
UGロウが即決する理由はただ一つ。
「勿論だ、スグに付けさせよう」
――PURIPURI――
「ん、どうやってここから運ぶんだ?」
「運ぶも何もココに在るのは彼の頭脳だけ」
Aインコウが暗号解析を店主に任せると、港に向かう為にバギーを取りに行くのかと思ったが、バギーの鍵と置いた四十八番を伝えソレも任せた。
不穏な顔のUGロウ。
「おい、惑星ステーションに行くんじゃないのか?」
「あんた、あんな横タヌウキ製の四輪に乗ってチンタラ行くよりサブウェイのが早いって!」
「サブウェイ?」
「あ、えぇと、本当は行きに言おうと思ってたんですけど、もうバギー借りちゃってたんで……」
「言えよ!」
「だって、久々に外の風を浴びるとか何とか言って聞かなかったから……」
恥ずかしい過去を穿り返されたような思いに苦虫を噛み潰した顔になるUGロウ。
「お前が冬だと言ってれば返してたよ!」
やり取りを見守る店主が楽し気に笑っていた。
何となく腹が立つUGロウ。
「何嘲笑ってんだ」
「いや、エーヨスがこんなに愛嬌があるなんて知らなかったよ凄ぇなあんた」
「ん?」
「そろそろ来るから早く!」
気付けばAインコウは階段に向かっていた。
追いつくと更に地下へと向かい下る事三階分。
突然プラットフォームが姿を現し、別の出入口からジャポメカ星人の人々が往来している。
賑わう駅の様子は地上のソレとはまるで違っていた。
面食らった顔のUGロウにAインコウが説明しようとするが、プラットフォームに飛び込んで来たエクスプレスに乗り込んでからと腕を引いた。
――FOWAAAANN――
乗り込んでスグの席に着くと説明を始めるAインコウだが、エクスプレスの静かな乗り心地と磁針体感の速度との整合性が折り合わずにエクスプレスの速度が如何程の物かが気になって話は全く耳にも入っていなかった。
「で、さっきのは何処で組むんだ?」
一瞬揺らいだそのG圧に何となくだが速度を理解すると、説明のないままの話が先と武器の配備は何処でするのかを尋ねるUGロウにAインコウがエクスプレスの終点【惑星ステーション】その先にある宇宙港を指し示す。
頭を巡らすUGロウ。
「あ、」
「そういう事です」
そう港の3D映像を使い解析し、設置作業は現地で行う。
武器の倉庫は港の倉庫。
宇宙港で宇宙船を直すのを疑う者などそうは居ない。
港には整備用ドックも作業員も兼ね備えていて当たり前。
もし武器が見つかっても外星宇宙船の行き交う港なら許可無許可関係無く港から惑星の中にさえ持ち込まなければ問題無し。
「なるほど考えたな、最も近くて遠い外星武器商人って事か……」
「ええ、出港手続きが終わる迄には整備も終わってる筈です」
「博士の乗ってった船は判ったのか?」
「レンタル宇宙船の安物でした」
腕時計のような端末から3Dデータ映像が浮かぶが武器の搭載は無く速度もあまり出ない近隣惑星移動用のファミリートラベルタイプだ。
「自分が追われるとは思ってもない感じだな」
「博士はその、頭は良いんですけど、お人好しが過ぎる方で……」
何となく変更パーツの数々を思い出し、言われると断れない性格なのは予想がついた。
と、同時に悪い考えも浮かぶUGロウの顔はニヤけていた……卑猥な程に。
その想像の予想がついて苦笑いのAインコウ。
――FOWAAAANN――
二人の怪しい笑顔を鏡の如くに映すモニターに【惑星ステーション】の文字が浮かぶ。
ものの三十TEA(凡そ地球の三十分)程で着いた。バギーの寒さは何だったのか四分の一にも満たない間に着いてしまった事に悦びと哀しみが入り乱れていた。
シャトルで宇宙港に着き、スグに出港手続きに向かうと先の港湾局員が顔を出す。
「あれ、もうお帰りで?」
「いや、ちょっと連れの連れを迎えに行って来る事になってな」
「え、あ、まさか私のせいじゃないですよね?」
「ん? ああ! そおだなぁぁ、助かりたいなら調べてくれないか?」
勝手に不安がる港湾局員にカマかけで手伝わせようとするUGロウ。
「何をすれば?」
「ココにO鴨トって奴の船が来た筈だけど、行き先と船体データをくれ」
――KATUNNKAHHKANN――
搭載整備を終え片付けをしている作業員と操作チェックするAインコウに、何やら余裕を見せ戻って来たUGロウがデータを転送する。
「え、アンコ星の前に横タヌウキ星?」
「ああ、東タヌウキ星人かと思いきやO鴨トの野郎は横タヌウキ星の手先だ! 船の登録見てみな!」
「あ、横タヌウキ星」
「序に同乗者も」
「え、この人確かハム星の……」
「ストカーだよ、つまり……」
慄く状況にも横タヌウキ星に寄るO鴨トの航行申請に、トーヨスに追い付き救出するチャンスも十分に有る事を示唆する船体データ。
そして欲しかった武器の搭載も終えた磁波遠心力船のイエローサブマリナーなら……
乗り込み再起動し新たなパネル配置も再チェック。
港湾局員の姿がモニターに映る。不安気な表情にライトを当てると理解したのか頭を垂れた。
出航に向けいつもの音楽をかけボリュームを回し進み出す。
――YELLOWSUBMARINER――
――YELLOWSUBMARINER――
――YELLOWSUBMARINER――
「待ってな有πG! いや、トーヨス……」
「え、有πG?」
Aインコウの不信感募る目を他所にアンコ星に向け速度を上げた。
とぼける為に……
――BUUUUUUMM――




