AAH★★★オレハマッテイタ
「で、お前はソレをただ見ていたのか?」
エロイドの胸を揉みながら聞いて来るUGロウの耳の痛い質問に、Aインコウは平然と応える。
「ええ、私は右腕であり秘書でもありましたから」
アッキー場のジャポメカ星人が聞いたら驚きと怒りに襲って来兼ねない話にもUGロウは意に介さず、しゃがみエロイドの股間に目を向けている。
「へぇえ、それで、トーヨスは此処に居るんじゃないのか?」
立ち並ぶエロイドの中で動く影に気付きながらも気付かぬふりで、エロイドの細部に目をやるUGロウ。
不穏な動きはアッキー場の仲間内にも有ると理解出来、相手の出方を待っていた。
「博士は……」
「ここには居ないよ! エーヨス・イレブンあんたのせいでね!」
エロイドの中から突然出て来た学生か否か程の女にAインコウの反応は薄く、女が知った顔だと理解し警戒を半分解くUGロウだが、A―YS11の読み方にそれが正式名称だと判明し無知に気不味さを覚えていた。
「私? どういう事? ミハルは知ってるの?」
突然自身のせいでトーヨス博士がここに居なくなったと言われたAインコウの動揺と、女をミハルと呼んだ事から完全に知り合いだと理解するも、会話に女同士の喧嘩のような雰囲気を感じていたUGロウに、ミハルが視線と指を向けた。
「ソッチこそ何なの、コイツ誰!」
「UGロウだ。おたくは人かい?」
――PEHHNN!――
若い女と見てか、颯爽と握手を求めるUGロウに平手打ちするミハル。
「アレと一緒にしないで! 私はトーヨス博士の……」
言葉に詰まり下を向くミハルに、男女の何かかと考えると頷ける仕草。
阿呆らしさを感じたUGロウの警戒心は完全に消えていた。
「彼女はミハル、トーヨス博士の手伝いに来ていたアルバイトの方で」
「違う! いや、バイトだけど私はトーヨス博士の助手だったの!」
下らない乙女心の揉め事に、どうでも良くなっていたUGロウは叩かれた頬を掻き、女が隠れていた辺りに何かを見付けて向かう。
ミハルが尚もバイトか彼女か助手か手伝いかの敬称一つに重きを置いて乙女心を焦がす中、UGロウはミハルが隠れていた折に落としただろうアクセサリーを拾い上げると3D写真が映し出された。
写真は研究室なのか男女異星人様々に八人程が、Aインコウらしき女を囲んで映る記念写真のようだった。
その一番端に居たのがミハルだ。
その中のどれがトーヨスかは、ミハルの目線を見れば明らかだった。
痩せているが細く角々しい顔立ちで、エロイドなんて作るようには思えない清潔感のある出で立ちに、その隣から肩を抱く如何にも卑猥な雰囲気を持つ中年まっしぐらな男に目を移す……
「返して!」
いつ揉め事を終えたのか、写真を取り返して大事そうに確認するミハル。
若さと女に甘えて礼節も無い女に厄介さと鬱陶しさを覚えるUGロウが奥の棚が目に入る。
「……変更パーツ? おい、これ」
目を輝かせるUGロウに、ミハルの冷めた視線とAインコウの申し訳無さそうな仕草が返る。
変更パーツと書かれた棚の中にある物が、何を成す物なのかにピンと来たのか、手に取り大きさと感触を確かめるように揉んでいる。
その卑猥な手の動きに、汚い物を見る目を向けたミハルがAインコウを見てから、期待に膨らませた部位を想像してパーツを揉む男にそっと確認する。
「おじさん、尻フェチ?」
「……尻? あ、て、おじさん?」
尻の内部パーツと思われる物を捨て置き醒めた期待に、他を探す男の性に触れ、Aインコウがミハルには解らないUGロウの趣向を気遣うが故に、無情なる真実を告げる事にした。
「ごめんなさい、そのパーツ……私には使えないんです!」
――PORORIPORORI――
「……んあ? な、何で、これYS11胸用って」
四SLE(凡そ地球時間で八日弱)前の賭場衛星では危険にも動揺を見せず屈強な精神性を見せていた男が、男の性趣向の期待に制限を知り明らかな動揺を見せるUGロウ。
「それは後発の、有πシリーズ用で……」
「無πには……変更出来るパーツも無いのかよ」
項垂れる二人の切ない姿に、気不味さを感じたミハルが自身の胸に目を落とし安堵の表情を隠すように顔を逸らして本題に入る。
「で、あんた等今更何しに来た訳?」
「私は博士に報告を……」
Aインコウの話に疑いを深めるミハルの顔が、二人が気付いていない何かが有る事をUGロウが気付きフォローに尋ねる。
「今更って、何が今更なんだ?」
UGロウの問いに本当に知らないのでは? と思い始めたミハルが首を傾げる。
Aインコウも首を傾げる。
三人首を傾げて見合う顔に、互い違いの欠けた情報の整理に確認するミハル。
「え、あんた達娘ユリコ刑の命令でトーヨス博士を捕らえに来たんでしょ?」
「はああ?」
「何だそれ?」
意味が解らず呆けた二人の返しの意味が判らないミハル。
二人のあまりに呆けた顔に正直に話してみる事にした。
「え、だって、師匠の売り込んだヨージャを娘ユリコ刑が勝手にダイエットに効くとか言ってトジミン星人に飲ませてたとかで、二SLE(凡そ地球時間で四日弱)位前に訴えられて、責任転嫁に師匠のせいにしたから……」
顔を見合わせるUGロウとAインコウ。
「おい、アソコからトジミン星までは?」
「三十EAT(凡そ地球時間の時がEAT)位……」
二人の不安な素振りは目に入るが、その会話の意味が解らず一応に話を続けるミハル。
「逃走に独りじゃ危険だからって有πG―HQ13を助手ドロイドに改造して、師匠に渡す為に出てったのが一SLE(凡そ地球時間で五十時間)位前だけど……何なの?」
賭場衛星が違法電磁波に吹き飛ばされてから約四SLE経つが、未だに情報が流れていない事と、それを目の前で見ていた娘ユリコ刑がトジミン星に居る事と整合性の無い状況に、何処かで情報操作が成されているのは確実。
「ミハル、もう賭場衛星はトンキン星団に無いの! だからもう逃げなくても……」
「はぁあ? だって、二十五EAT(凡そ地球時間の時がEAT)位前にも娘ユリコ刑から護る為にO鴨トって逃がし屋が来たんだけど、エーヨス、あんた私を騙して何する気?」
「おい待て、O鴨トだああ?」
「二十五EAT前?」
突然UGロウが立ち上がりミハルに詰め寄ると、Aインコウもその名前に覚えがあるからか慌てた様子で追随した顔は鬼気迫るが、そのミハルは話が見えていない。
「何よ、エーヨスあんたは知ってるんでしょ?」
四SLE前に賭場衛星が違法電磁波に吹き飛ばされる前のAインコウが居た時点まではO鴨トとの接触は無かった。
しかし、UGロウを消そうと戦闘船で迎えた娘ユリコ刑の最後の行動からも、Aインコウの知る所に無い事が既に起きている中でミハルから出て来たO鴨トの話は、脈略も無く単純にトーヨスの危険を知らせるに十分だった。
Aインコウの焦る顔にUGロウもトーヨスの危険を理解するが、ミハルだけ理解出来ないのはO鴨トが人体実験好きのサイコパスで名の知れた人殺しだと云う真実を知らないからだろう。
とはいえ既に不安な顔を見せるミハルに、O鴨トの正体を知らせれば不安に責任まで感じさせるだけと思えて正体は言わずにUGロウが確認する。
「それで、トーヨス達は何処へ行ったんだ?」
「ちょっとお、何なの? 何が起きてるのかちゃんと説明してよ!」
「生きてトーヨスに会いてぇなら何処に行ったかを言え!」
言い方がややこしく時間はかかったが、ミハルにもUGロウがトーヨスを連れ帰ると言っている事は理解出来た。
「二SLE前ヨージャが訴えられたって話を聞いて、殺す気かもしれないってスグに連絡取って、師匠は逃走手段にヤクマレト星へ修理に出してた船を取りに向かうって聞いて、アンコ星で会おう! って言って……」
行動を思い出しながらも不安が先走って纏まらない話し方にAインコウが要点を切り取り、UGロウが確認する。
「先ずはアンコ星ね」
「O鴨トには何処まで言ったんだ?」
二人の様子からイケナイ相手に話した自覚に言葉が詰まるミハル。
「……どうしよう、アンコ星で会うって話ちゃった! でも、ヤクマレト星の船の事は言ってないから……博士、大丈夫だよね? ねえ?」
話を聞き急ぎ部屋を後にするAインコウ、結局責任を感じさせた事に自身の尋ね方に反省するも他に術は無く、せめてもの救いに不安を取り除こうとするUGロウが、安心と共に違う話題も織り交ぜる。
「ああ、俺のイエローサブマリナーなら追い付くさ! だからあんたはアイツの胸の変更パーツを造って待ってな!」
「え、あ、はぁ……」
「よし、揉み応えの有るサイズでな!」
「ぁぁ、ぇぇと……」
「頼むぞ!」
ミハルを指し捨て台詞を吐くと、Aインコウを追い急ぎ部屋を出て行くUGロウ。
独り部屋に残されたミハルの不安は拭えたのか何から考えれば良いのかも判らずに混乱した頭をフルに悩まし呆然と立ち尽くしていた。




