AAE★★アーヤとポリン初めての宇宙旅行。
中々に終わらないBIKKEのお散歩に飽きたのか、移動するBIKKEを尻目にポリンが船室のソファに横たわりBIKKEに語りかける。
「疲れたぁぁぁ、ヴィッキーも休憩してお茶にしようよお」
それでアーヤが思い出した。
「そおだ、オートコック!」
ポリンがハッとして起き上がる。
急ぎ素材の固形包装を持ってBIKKEの元へと向かうポリンの姿を、アーヤは呆然と見ていた。
食に突き動かされるポリンの行動理念を……
「見付けた! ねぇ、ヴィッキー」
外部センサー系の配線を直していたBIKKEを見つけると、呼びかけに振り向くBIKKEのカメラセンサーに固形素材を見せるとハンドアームを延ばしたので渡すポリン。
「その固形素材しか無いの! 後、データカード使いたいから何とかして! ね、お願い」
可愛くおねだりするポリンに、心なしか反応しているようにも見えるBIKKEの動きを、不思議とも思わず頼り戻るポリン。
「お願いしといたよ」
「マジか、凄っ」
アーヤの驚きはBIKKEの対応力と共に、先程まで地獄の案内人と疑っていたドロイドに頼るポリンのいい加減な気分屋感覚だ。
暫くして戻って来たBIKKEを拍手で迎えるポリンを前に、オートコックの電源を切ると留め具を外して裏側の基盤を剥き出しにしていく。
――PARIPI――
段々とアーヤがメカ弄りに興味を示し出した。
間近に見つめ外した物を脇に置く程度に手伝い始めると、徐々にBIKKEとの息が合っていく。
――PARIPI――
「これ?」
殆どのパーツを戻し終わり、何処から持って来ていたのかBIKKEがセンサーパネルを取り付け、配線を弄りプログラムに手を加える為かポッドも付けると電源を入れた。
「完成?」
――PARIPI――
「まだか」
早速アームを延ばしアクセスするBIKKEに、何をしているのかに何となく見えて来たアーヤが気付きソファに向かう。
「終わったぁあ?」
ソファで寝転がり3Dファッション誌を読み着せ替えしているポリンに、何となく腹が立ったアーヤがポリンの背中にドカっと座る。
「ちょっとぉお!」
むくれるポリンの上で乗っかり抱きつくアーヤが意地悪に耳元へ囁く。
「データカード何にする?」
目を輝かせるポリン。
「本当に使えるの?」
自分で頼んでおいて信じてはいなかったのか、それなのにソファで寛ぎ待っていたポリンのぽわんぽわんのお気楽な性格にも対応するBIKKEへの信頼は、アーヤにとっては頼れる兄貴のように……
「噓……」
突然慄くポリンの声にアーヤがポリンの顔を見るが、ホラー映画を見たように目を見開き口を開けたまま……
何を見ているのかと目を向けたのは、フザケている内にいつの間にか3Dファッション雑誌は船外モニターに切り替わっていた。
そこに映るは死体の山……
「地獄に着いちゃった……」
ポリンが言うのも納得の状況にアーヤも息を呑む。
さっきの信頼関係はどこ吹く風か、疑い振り返りBIKKEを見るとアクセスアームでまだオートコックを弄っている。
地獄への案内はされていない筈。確証は無いが信頼関係を取り戻すようにアーヤは操舵室へと向かっていた。
「え、どういう事?」
正面モニターに死体は無い。
しかし、側面モニターにはしっかりと映る死体の数々……
――PARIPI――
オートコックの手直しを終えたのかBIKKEが操舵室まで来ていた。
アーヤの右足の裾を引かれて気付く。
「あ、ちょっとアレ何?」
アーヤが指差す先にBIKKEが向くも、スグにアクセスアームをポッドに挿すとモニターにガイド枠が現れ、死体の映るモニターがズームアウトし文字が浮かぶ。
【元惑星アトランデス帯域】
アトランデス星といえば高い知能にいち早く文明が栄え外郭宇宙への一歩を踏み出した事で有名な星。
しかし、その多くのアトランデス星人は不運な事に惑星爆発により亡くなったと聞く。アーヤも思い出した。
「あ、確か変な円盤積んだ箱がビッグバン帯域の向こう側から抜けて来たからか、物凄い推進力で……ぶつかって、爆発したって云う……アレが、コレ?」
――PARIPI――
そうだ。とでも言いた気に応えるBIKKEがズームアウトさせると、モニターのガイド枠には
【Voyager Golden Record】
と、書かれた金属盤の画像と概要説明が流れる。
【迷惑な不法投棄がもたらした悲劇。】
と題され、警告文が注いている。
【生物の亡骸は宇宙空間では腐りません。環境保護にも見た目にも問題があります。危険な不法投棄はやめましょう】
「うえぇぇぇ、ある意味地獄でしたか」
「ポリン、いつから?」
後ろで嫌そうにモニターの警告文を見ていたポリンは、BIKKEが地獄の門を開くんじゃないかとコッソリ後を追って来ていた。
が、開いたのはガイド枠。読んで見れば環境保護団体の教育的な警告文に、舌を出していた。
「ビッグバンみたいな推進力でゴミ放出とかヤバ過ぎでしょ! 誰がそんな兵器みたいな捨て方するかっての! って、え、何コレ?」
右手に何やらボールを持っているポリンが、何故自分がそれを持っているのかの謎に周囲を見回している。
――PARIPI――
下では水のパックを出しBIKKEが、寄越せとばかりにハンドアームを延ばしている。アーヤがポリンのボールとBIKKEの水に推理を働かせ何かに気付く。
「え、まさか、ソレだけの事なの?」
――PARIPI――
「マジかぁ」
アーヤがBIKKEと普通に会話しているようにも見えるやりとりに、ポリンがひいていた。
が、一応聞く。
「何なのソレ?」
「コレコレ! オートコックの素!」
「ん?」
理解しきれないポリンにヤキモキしたか、アーヤがポリンのボールを手に取り、固形の素材をカラコロと中に入れると、BIKKEの水パックを開け注ぎ入れた。
その様子をカウンター席で調理を見るようにボーッと眺めるポリン。
「キモ……本当にそれ入れるの?」
「あぁぁ、うん……でもコレで正解なんだと思う。でしょ?」
――PARIPI――
水を吸い込み膨らみ戻した素材は合成の肉や豆の原料そのもので、ミンチのような粘土のような。
この姿に戻せばオートコックの調理材装入口にも入れられる。
これで、何の食料品も持たず固形素材だけ持って来た二人の食糧問題は解決された。
古いオートコックでは調理材は多種多様な物を入れて作る事が可能になっていて、このような素だけを入れて作る事も出来る万能品なのだが、素にカビや菌が繁殖し易い事から衛生面で嫌われ出し、今では固形素材のみのタイプが主流となっている。
ただ、カビや菌の繁殖対策に真空圧力保存容器を用いたタイプや、この船に設置した容器洗浄可能タイプの少量装入タイプであればそうは繁殖はしない。
余程、湿地帯の惑星で換気でもしない限りは問題ない。
ポリンがアーヤの理解力に疑問を覗かせる。
「……アーヤはアレ? ロボとも心が通じる的な」
「いやいやいやいや、見てたら分かるじゃん! 何となくだけど」
「まさか、アーヤが地獄の案内人?」
「はあ? バカ言ってないでコレ入れて来て!」
「ええぇぇ、さすが地獄の案内人、意地悪ぅぅう」
「おいっ!」
渋々ながらもオートコックに素を入れに行くポリン。
と、BIKKEが船外カメラを移動させると前方右舷に怪しい船団を見付けズームする。
――PARIPI――
「あ、このマークって、スペースポリシー?」
――PARIPI――
航行進路を左舷に寄せるBIKKEに、アーヤが疑問に推理する。
勿論ポリンみたいな飛んだ話では無い。
「ひょっとして、あの噂って本当なの?」
さすがにBIKKEもモデラー星の噂は分からない。
反応がそう言っているように思えてアーヤが質問を変える。
「スペースポリシーは悪い人達って本当?」
――PARIPI――
モデラー星でモデルをしてるお嬢様の二人は業界の裏側を見る事は有るが、裏側のソレ等が何かを知らなければ裏側もまた表面上にはただの仕事仲間である。
が、噂程度にはスペースポリシーの話は知っている。眼の前に居た仕事仲間と思っていた人がスペースポリシーとも気付かずに……
「何とか出来そう?」
――PARIPI――
「良かったぁ、私達じゃ絶対無理だから!」
「何が?」
戻って来たポリンがアーヤとBIKKEのやりとりに段々と馴れたか、ナチュラルに聞いてきた。
「スペースポリシーから逃げるの!」
「え? 何で? まさかヴィッキーって犯罪者?」
「違う違う! スペースポリシーが悪いの!」
「何ソレ? え、アーヤも何かしたの?」
「ああ、もう! 面倒臭いな!」
「あ、キレた。私、殺される?」
「だぁぁあ!」
――PARIPI――
「ほら、これってヴィッキーもそうだ! って言ってるんでしょ?」
「んもおおおっ! って、え?」
モニターのスペースポリシーの船団がコチラに気付いたのか、向きを変え警戒照明を灯し始めた。BIKKEも挙動が激しくなっていた。
「ちょっとぉお、アーヤ何したの? ねえ正直に言って! 私はあなたの事ずっと友達だと思ってるから、一緒に謝ろ! ね?」
「ヤバくない?」
「いや、何でよ! 一緒に謝るって言ってあげてるのに」
モニターに目を向けるアーヤが逃げ道を探す。
宇宙航路の事は良く解らないが、モニターにある平面上の図面から左舷の惑星の八十八星系に回り込めば隠れられそうに思えてBIKKEに指し示す。
「アソコに回り込めない?」
――PIIPARIPI――
初めての音の違いにBIKKEに知性を感じる二人。
進路を更に左舷へと向けたランウェイGOが高速航行を始めた。
――KATUNNKAHHKANN――
ランウェイGOで出航してから高速航行は初めてで、宇宙の塵が船体に当たるのを防ぐ船首電磁バリアに漏れ、サイドにかする塵の音の大きさに焦りを見せる二人。
――PIIIWOOPIIIWOO――
突然の警告音に思考が暴走する二人にBIKKEが原因をモニターに映し出す。
――PARIPI――
「ロック・オン?」
「お前のハートにってヤツ?」
――PARIPI――
スペースポリシー船団が更にズームされる。と、何かの射出口が開きコチラに向けられる。ポリンが何かを思い出す。
「あれって、例の星も爆発させちゃう不法投棄?」
「はあ? え、じゃあアトランデス星が爆発したのって……」
――PARIPI――
BIKKEは、それは違う事を示唆してモニターにレーザー砲の概要を映し出したが、二人には兵器の説明をしても理解しきれない。
伝えようの無い二人に困惑するBIKKEと戦慄に固まる二人。
……長い沈黙に口を開いたポリン。
「ランウェイGOが爆発して、私達腐敗もせずに宇宙空間を漂うとか……ゾンビじゃん!」
「それか、捕まってアレヤコレヤされての……」
アーヤが追随した話もあってか、迫る脅威に戦慄の二択に追い込まれるポリン。生きる術を求めて導き出した。
「監獄行きぃいいい!」
――PARIPI――
モニター下の操舵制御盤に投影される3D宇宙空間図と変更された航路線。
アーヤが指した八十八星系の手前に、もう一つの惑星が浮かぶ。
鬼ON星の文字に思い出すアーヤ。
「ここ! この星なら降りても大丈夫!」
「何で? アーヤ行った事あるの?」
「無い!」
――PARIPI――
目をパチクリとアーヤの意味不明な言動に首をかしげるポリンだが、アーヤの自信に何かの考えを察したかBIKKEは既に航路を変更し始めている。
――PIIIWOOPIIIWOO――PARIPI――
更に警告音が鳴り響く、スグにBIKKEが対応に動く。
右舷後方に向け、鉄棒に銅線スプリングが巻き付いた物が数本付いたパラソル型のパネルを展開する。
モニターのソレに見入る二人。
アーヤが尋ねる。
「何アレ?」
「あんなの買ったっけ? 海洋惑星旅行用のパラソルか何か?」
――PARIPI――PIIIWOO――
モニターに映し出される【衝撃波に注意】の文字。
警告音の連続に耳が痛い。
「もぅ、うるさいなぁ。とりあえず机の下にでも入れば良いんじゃないの?」
「え、そおしようか……」
飽き飽きする程の危険の連続に飽き出したポリンの避難対応の基礎的な提案に乗るアーヤ。
BIKKEは下部の吸盤で固定する。
――PARIPI――
何かを伝えるようなBIKKE。
その直後……
――BYUWAWAWAWAWAHHNN――
シンバルのように小刻みに震え波打つ船体に、痺れる感覚からポリンは扇風機の前で出す声のように嗚呼あああ。アーヤは忌呼いいいい。
――KATUNNKAHHKANN――
受けたレーザーを電波変換し更に高速航行しているランウェイGO。アーヤが痺れながらも3Dモニターに見入り気付く。
「こぉぉのお速う度おなら逃げえられえるうんじゃあなあいい?」
――PARIPI――
「やあああたああああああ」
痺れる身体が声も震わせる。躍動感の無い歓喜。
恐らくは狙撃空域を脱したのだろう、モニターのスペースポリシー船団が遠く画像が乱れていた。
ランウェイGOは八十八星系に紛れたように見せかける為、手前の鬼ON星へ向かっているとは思えないように速度を増して行く。
二人は堪らず船室のソファに横たわり操舵は完全にBIKKE任せ。
暫くして思い出した初めてのオートコックをアーヤに頼み、ジェルドレンサイダーを二人分入れるポリン。
「出来たよおデータカード! これ、アワGのビワ葉矢秀ってスウィーツなの!」
「へえ! 美味しそう」
一口入れるポリンとアーヤ、目を見開き笑顔をみせる二人だが、不意にポリンが何かに気付く。
「待って! ビワ葉矢秀? アワG……って、鬼ON星のアワG?」
「そおなの! コレ知ってた?」
「……アーヤ、ひょっとして鬼ON星に降りても大丈夫な理由って」
「ん?」
「考えも甘ああああいっ!」
段々とヤケになってきたポリンと、考えているようで甘々なアーヤ……
ランウェイGOの運命はBIKKEに一任されて、アーヤとポリン初めての宇宙旅行は始まった。
――PARIPI――




