AAD★★★★八本足の星のツボ。
――BIRIBIRIBIRIBIRI――
「奴ハ何処ダ! 撃チ捲クレ!」
――DOBUDOBUDOBUDOBU――
「クソっ! イイカラ撃テ!」
――BIRIBIRIBIRIBIRI――
天閣からワタリがタラバを救出し、ハナサキとアンタレスに向け川から港に抜け出し万棒に向かってからも、ハム星人のストカー追跡班はトンボリ道に戻り捜索していた。
そこを紫の光が覆う。
天閣では熱源光でアンタレスの仲間オプトの蠍毒を蒸発させ、毒ガスとして街に蔓延する。トンボリ道のハム星人が痙攣と共に泡を吹きバタバタと倒れ出した。
「何ダ何ナンダ、アノ光……グバっ」
「カ、神ノ怒リに触レタンダ……グボっ」
「フザケルナ! 俺等コソ神ナンダぞ! グブっ」
逃げ惑うハム星人達だが光線の明かりから逃げるも影に隠れようとすればする程に周り込む毒ガスの餌食となって行った。
――KAAAAAAAAAAHH!!――
「ア? タダノ紫外線ジャネェか! クソっ」
逃げるストカーはスキンケアを起動しヨード川沿いにホバーバギーを走らせていた。
が、後ろから何倍ものスピードで向かって来る何かに気付き岩場に隠れるストカー。
――SHUFOOOOOHH――
MJのホバーボートが通過するのを見て追走しても間に合わないと解り、退路に進路を考えていた。
不敵な笑みを浮かべたストカーは港に向かう。
「何だアノ光、」
万棒でも見える光線にインジン星人の不安が広がる中、水面下で待機中のワナカと海老型ハチク星人のクモエビ。
予定では水上でヤシがワタリと合流して作戦が始まる筈だったが、ヤシが万棒を切り倒す音は聞こえない。
蠍型ハチク星人のアンタレスが操縦するF−89(飛行型ホバージェット)でハナが花魁館に戻って女郎に経緯を伝え、蜘蛛型ハチク星人のパークと合流し花魁館に散らされたピートの蜘蛛の子を一掃する為に飛び立ってから、この合図を待っていた。
しかし、水上での作戦が始まらない事にワナカが焦りに確認に浮上する。
と、水面でワタリとヤシが争いを始めていた。
「何やってんだ!」
「ワナカ、コイツだ! ワタリが裏切ってたんだ!」
「違う、ヤシお前いつから」
ヤシとワタリの言葉にどっちが本当かも判らないが、水面での大太刀回りにインジン星人が気付き出すのも時間の問題だった。
ただ、どちらかが裏切ったという話そのものに、何を裏切ったのかも分からないまま争う二人をどう対処すれば良いのかも判らない。
ましてや、ヤシは先程まで共にミッションをこなして来たばかりで、ワタリはトンボリ道の民衆を避難させ危険を顧みずに……
任務の遂行にワナカがするべき対応は唯一つの確認だった。レーザー銃を取り出し質問をする。
「おい、裏切り者は何をした?」
互いの顔を見合わせる蟹型ハチク星人、ヤシが先に口を開いた。
「オイオイそいつは何だ? ワナカ、俺との付き合いはどんだけあるよ! コイツはいきなり襲ってきたんだぞ! 裏切り者以外の何なんだ?」
視線をワタリに向けるワナカ。ヤシの話を聞いて泡を吹きつつ呆気にとられた顔を見せていたワタリが、ワナカの視線に気付き下を向きつつも静かに応える。
「私は、タラバを救出してハナサキに預け、裏切り者のヤシを捕らえに来たのですが……」
「ほら見ろ、タラバを解放したってよ! 裏切り者じゃねえか! な、コイツも裏切り者だったんだよ! とっととそいつでワタリの醜いハサミを焼き切っちまえよ!」
銃口を上げワタリを見るワナカが、ヤシに応える。
「ああ、質問に答えて無いのはお前もだがな、ヤシ!」
「ああ? 他に何を言えってんだ?」
「いや、言っちまったんだよ……」
静かに会話を思い返す二者の顔がワナカの持つ銃口に向くと、ワナカはヤシに狙いを定め待っていた。
少しずつ泡を増やすヤシ。
「たったそれだけで俺を撃つ気か? ワナカ!」
「十分だろ! コレはアカシの最新兵器だぞ、残念だよヤシ」
「ヤシ、どういう事なんだ!」
ワタリが確認に漕ぎ寄った瞬間、ワナカが叫ぶ。
「ワタリ!」
――BADONN!――
「ぬぉっ!」
突然、下から三本目の左足を撃ち落とされたワタリが呻く。
――PIIIIIII――
ワナカの叫びも間に合わずに上部監視棟から撃たれたワタリの援護に、万棒に対抗射撃するワナカ。
「ハッハッハッ! 形勢逆転だな!」
負傷したワタリに襲いかかるヤシ。
「来いっ!」
痛みを堪え逃げるワタリが射撃の死角に入ろうと万棒に近づこうと足をかくが、落とされた足の痛みに普段のスピードは出ない。
ヤシの泳ぎは早くは無い。が、万棒に触れれば微弱電流に引き付き痺れ、動きに制限がかかり兼ねずギリギリの攻防に、ヤシはハサミを振るい襲いかかる。
――BADONN!――
――BADONN!――
――PIIIIIII――
少し離れていた為に、独り的にされたワナカは対抗射撃に余裕も無く必死に逃げつつもワタリの様子を覗うしか出来ない事に苛つきを隠せない。
――BOGAAAHHNN――
「こっちだ!」
――BOGAAAHHNN――
「そんなものか!」
「この、ちょこまかと……」
――BOGAAAHHNN――
万棒を背にヤシの怒りを誘い煽るワタリが避ける毎にヤシの大きなハサミが万棒を打ち砕く。
砕けた杭は微弱電流が途切れて引っ付く事は無い、ヤシの腕力の成せる技だ。
しかし、ヤシの打撃に揺さぶられた上部監視棟のインジン星人の砲撃が止む。
「コレならどうだ!」
ワタリが一気に万棒沿いに移動して、苛つかせたか必死に追うヤシ。
援護にワナカが銃口をヤシに向けるが、離れ動く的に照準も波打ち揺れる。
その時だった。ワタリがハサミを先のヤシが打ち砕いた万棒の穴に向け叫ぶ。
「ワナカ! 行け!」
万棒の砕けた穴を見てワタリの頭を使った戦法に気付き、参ったな、とばかりに首を振りつつ敬意に万棒の内部へと穴に手をかけワタリを見るが。
「行け! こっちは問題ない!」
ようやくヤシがワタリの頭脳戦にヤられたと気付き怒り顕に更に暴れ出す。
男気溢れる頑固なワタリの押しに負け、申し訳無さそうに侵入して行く。
――BOGAAAHHNN――
上部監視棟のインジン星人が衝撃で何人か落ちて行く。
――BOGAAAHHNN――
「何だコレ、どういう事だ?」
万棒の中は特別何かが在る訳でも無く、何の為に建造したのかも解らない。
万棒の内側はただの宇宙船の停泊場となっていて、一際目立つMACベイ戦艦も杭の高さに砲撃も出来ない状況で、意味を成さない防壁に何の為に大金を賭けたのか……
解らない意図の答えを考えるのを止め、自らの任務に頭を切り替えMACベイ戦艦に取り付き吸盤で甲板に顔を出すと、インジン星人は甲板で宴会中。
何の警戒感も無ければ危機感も無い。
微弱電流が流れるだけでほぼ見せかけだった万棒と、インジン星人の指揮管理能力も戦闘のいろはも無い……
その薄っぺらなハリボテに警戒し、裏切り者まで出したハチク星人の未熟さにつけ込んだハム星人こそが、本当に倒すべき敵だと知ったワナカ。
この作戦の本当の狙いが頭に過ぎる。
「まさか!」
――BOGAAAHHNN――
――GABO!!――
「ぐばっ!」
ヤシが投げ付けた万棒を破壊した杭の欠片がワタリの下から三本目の右足に直撃して落とす。動きを止めたワタリにヤシが迫りハサミを振り上げる。
「いつまでも逃げられると思ったか? 馬鹿にしやがってフニャ甲羅野郎が!」
「くっ」
――PIIIIIII――
「ダァアアアっ!、は、ハサミが、俺の……ワナカ、テメェー!?」
覚悟に下を向いていたワタリが顔を上げると、ヤシのハサミを破壊し現れたのは、水面に浮くホバーボートの上でレーザー銃を構えたMJだった。
「悪いな、遅くなっちまった!」
後から来たMJに状況を説明しようと怪我に無理して話そうとするワタリ。
「MJ、ヤシが……」
説明するワタリの対応に再度誤魔化しを図るヤシだが、ここに至るにコシオリと遭う筈と、もう片方のハサミを後ろ手に身構える。
「MJ、何しやがる! おい、ピート達はどうした?」
「ピート? コシオリの間違いだろ?」
MJの応えにヤシの顔が変わる。ワタリは事情は解らないが状況は判る。MJの足でまといにならぬように静かに離れる。
「コシオリはどうした?」
「足が無くなってな!」
「……それは?」
「そういう意味だよ!」
――PIIIIIII――
MJのレーザー銃が振りかぶり万棒の欠片を投げ付けようとしたヤシのハサミを破壊する。
両の大爪を無くしたヤシが覚悟を決めたのか、落ち着きに溺れる前に岸に上げろとMJのホバーボートに近付く。
「よせ、MJ!」
――ZABAAAAAHH――
ワタリの叫びにホバーボートを後進させるとヤシが全足を使い掴み掛かろうとしていたのか足と共に水飛沫が舞い上がった。
――PIIIIIII――
咄嗟にレーザーを放ったMJ。
「ヤシ……」
「ちっ! そんな顔すんな! 兄貴の所に逝くだけさ……」
「バカ野郎、コシオリは生きてる!」
「ハァァァ、クソっ! アイツが生きてんなら、まあいいさ! おい、ハチク星はハム星人に騙されてたんだ」
「それももう解った」
「ったく、お前達が先に来てれば違ったかもな……」
――ZUBUBUBUKUBUKUBU――
「ヤシ……」
甲羅の真ん中に開いた穴からみそを流し、沈み行くヤシを見送るMJの肩に足を掛けるワタリが状況を説明する。
無くした二本の足を心配するMJに洒落た返しで男気を見せるワタリ。
「これで私も君達と同じ八本足だ」
ワナカが既に中に入った事を聞き、急ぎ後を追うのにワタリに連絡を頼みホバーボートを預けて穴から中に入るMJ。
――SHUFOOOOOHH――




