AAD★★八本足の星のツボ。
襲撃されたノウミの森は今サンタワーが立っているだけのように見えるが実態は、制圧され技術を奪われた後も施設は横タヌウキ星人の監視の下、ハチク星人の研究者を使い車に転用出来る新しい技術を作らせていた。
当然ハチク星人の研究者は水面下で反抗の機を伺い、蜘蛛の子を散らして花魁館に伝達を届けている。
その為、MJとワナカはハナやピート達の情報が万棒の微弱電流で塞がれている中でも、ノウミの森からの直接の伝達によりトンボリ道の情報は掴んでいた。
トンボリ道八天王の嘗ての頭タラバがインジン星人の万棒に囚われてからは、水面下でワタリが仕切っているという。
八天王の他の蟹型ハチク星人も各地に潜伏して機を伺っている中、ハナサキとヤシを呼び出す為ヨード川の河岸で合図にとパンを撒き待っていた。
「いい加減パンはヤメてくれ!」
「よお、ヤシ久し振りじゃねえか! ハナサキは?」
「だからパンの掃除だわ! 川汚し」
「面汚しみたいに言うなよ、今はこれしか無いんだから我慢してくれ!」
ワナカとヤシが昔馴染みの会話に嫌味を混ぜて笑い合う中、MJがヨード川の様子に違和感を覚える。
「もう、片付け大変なんだからね」
「ハナサキ! 上から何か来るぞ! 早くあがれ」
――SHUFOOOOOHH――
MJの声に皆が上流を見るが暗がりに瞬間には良く判らない。
が、靄がかかる川面に広がる影にそれが船団だと気付いた皆が走り河岸のホバーボートに乗り込むと、急ぎ森の中へと潜み向け様子を覗うワナカがヤシに問う。
「おいおいおい、何なんだあの船団は」
「ハム星人のストカー率いる監視船さ、誰が繋いだかインジン星人と協定を結んだらしいぜ!」
ここから各河川に散らばりハチク星人の行動監視に盗聴盗撮と偽の情報操作で民衆を誘導。
見せしめに、ブロック毎に一人の魔女狩りターゲットを作り出しては、違法兵器で拷問を民衆に手伝わせる事で踏み絵としていた。
通過する船団の甲板に異様な物体と配線の山にガスや放射口……
「あんな兵器を何処で、まさかノウミの?」
「いや、奴等は古い技術の違法兵器を平然と使ってやがんだよ!」
MJの不安を拭うヤシの話にも安堵は出来ない内容に奴等が作戦の妨害にならないかと、甲板で薄ら笑いを浮かべるハム星人の様子に眉を寄せていた。
「先ずはワタリとシオヤに合流して万棒の情報だ!」
「ハナとピートの情報もな!」
MJとワナカの掛け合いに後部座席のハナサキが口を出す。
「ハナとピートは無事よ!」
驚きに振り返るMJとワナカ、続けるハナサキの話に更に驚きを隠せずホバーボートを停めるMJ。
「ノウミの森の地下に隔離されてるって……何で? 蜘蛛の子から聞いてるんじゃ?」
「おいおいおいおい、これって……MJ」
「ああ、拙いな」
花魁館への情報が操作されていたと知り、作戦そのものの遂行に問題が生じた事に計画の練り直しが必要となり思考を巡らすMJ。
「タラバの情報もあるのか?」
「いえ、それは……」
MJの問いに何か言い辛そうなハナサキ、その様子を見ていたヤシが口を開く。
「裏切りだよ! あの野郎が裏切りに気付いたコシオリ(八天王の海老型ハチク星人)を殺しやがったんだ!」
「タラバが? ちょっと待て……」
焦るMJにワナカが気付きヤシを問い詰める。
「おいおいおい、何処まで情報が洩れてるんだ? まさか」
「大丈夫だ、ノウミの森の研究はタラバとワタリも含めた八天王の知る所だが、ルナGの件はハナサキと俺しか知らねえ!」
尚も焦りを止めずに思考を巡らしているMJが、思い当たる節に疑念が晴れずにいた。
「……だとしたら、ノウミの森からの情報操作は誰が?」
「とりあえず女郎に知らせねえと……」
焦るワナカにMJは、前戦での裏切りに花魁館は内部で働く何処までが敵か味方かと考える……
「よせ、駄目だ! いつからか判らんが既に相当量の蜘蛛の子を受け入れてるんだぞ!」
「ならアカシもヤバいんじゃないのか?」
不意に思い出した女郎の糸の振動通信の言葉尻『それも、頼んだわよ』も、だ!
MJの中で繋がる話に作戦も思い出す。
【MACベイ戦艦にある例のツボを手に入れろ!】
そう、ツボ!
ワナカの不安の話に答えを見付けたMJが笑って見えるその顔に、本当の作戦内容を遂行する為に頭の中で書き換える。
「おい! MJ、なら一旦引き返して花魁館に入り込んだ裏切り者を叩き潰した方が良いんじゃねえのか!」
「いや、ここからは俺達の単独行動に入る。ノウミの森のハナとピートを救出して偽の蜘蛛の子を散らしてる毒蜘蛛を洗い出す。そこにタラバの情報がある筈だ!」
自信に満ちたMJの作戦変更に覚悟を決めるハナサキとヤシに、ワナカは勝手な作戦に悩みながらもハナサキとヤシの賛同にやむなく覚悟を決めた。
「分かったよ! で、もう作戦は考えたんだろ?」
「ああ! でも、その前にアンタレスだ!」
「噓だろ?」
「何の話だ?」
「え、ひょっとして」
――SHUFOOOOOHH――
――PASYAHH!――
「んあぁぁぁぁっ!」
ノウミの森の地下牢に囚われていたハナが酢責めの拷問を受けていた。
凍みに耐えるが弱る体に動かす足も傷だらけの中、更に酢を撒くハム星人が嘲笑ってハナを痛めつけ、もいだ足の欠片を酢に漬け食べていた。
「ハハッ、コイツはウメェゼ! イイ声出シて誘ッテンノか?」
――PASYAHH!――
「んあぁぅっ!」
「ナントか言エヨ! タコ女!」
「ピートは何処?」
「アア? タコがクモの心配かヨ? イイカラ研究内容を吐ケ!」
――PASYAHH!――
「あぁぁぁぁぅんっ!」
「コノ吸盤使エソウジャン?」
「ハハッサスガ目ノツケ所ガ違ェゼ! ソノデカイノ取ッチマエ!」
――BOGAAAHHNN――
突然の外壁の爆発に、吹っ飛ぶハム星人の二人の内一人がハナの体にもたれ掛かる。
ボロボロの体に気力を振り絞りハム星人の体に足を巻き付け締め付けるハナ。
「ウガァー・ホ・骨ガァー」
――PASYAHH!――
「あぁぅっ!」
もう一人のハム星人が酢をかけて尚も酢瓶を持って焦った顔で脅しを賭けようとハナに向けるが、ハナは凍みに耐え離さない。
更に締め付け一本の足の吸盤をハム星人の口元に伸ばす。
「コレでイイ事したいんでしょ?」
焦るハム星人の二人。
締め付けられながらも焦り逃れようと藻掻く男の様子を見て、恐怖が増幅されたか酢瓶を落とし仲間を見捨てて逃げようとする男。
「やり過ぎだバカ!」
「すまん何せ久々で力の加減が……あ!」
ワナカとヤシの掛け合いに、逃げようとしていたハム星人が唐突に現れたタコ型と蟹型ハチク星人に逃げ道を塞がれ立ち尽くしていた。
ハサミで捉えるヤシ。
「ワナカ!?」
「ハナ! 良かった無事……なのか?」
横からの声に見れば、ハム星人と抱き付く様子に傷だらけの体。
ワナカの卑猥な想像に気付いたハナ。
ヤシが捕えた様子に自らの巻き付けた足を更に締め付け倒すと、思い出したか一声かけた。
「あ、イイ事するの忘れちゃった」
「……やっぱお楽しみ中だったのか」
「バカ」
タコ同士久し振りの再会のやり取りにヤシがハム星人を持ち上げ待っていると、震える体に声も上げられず小便を漏らしていた。
「おい、この臭えハムもスライスしちまって良いのか?」
「あ、待って! そいつピートの居場所を知ってるの」
「ラッキー続きだな」
「アンが付くよソレ!」
「あん?」
嗅覚を塞ぎヤシにも再会の挨拶にハイタッチを交わすハナ。
三人はハム星人を問い詰める。
――KASAKASAKASA――
その同時刻、ハナサキがノウミの森からサンタワーを目指しMJとセンサーを避け接近を試みていた。
「何でアンタレスなんかに、シオヤだけでいいじゃない……」
「この作戦にF−89が絶対に必要だからな、それにガトー級潜水艦も」
不貞腐れるハナサキがサンタワー手前の地下侵入扉のロックパネルの配線を切って行く。
――PIPI――
「私、潜水艦は乗らないからね」
「分かったから、行け!」
開いた扉から侵入するハナサキを姪っ子扱いに受け入れたMJが地下からサンタワーを目指す事に。
「中は手薄になってるみたい、読み通りね」
「ああ、後は事が済むまでトンボリ道でワタリが暴れててくれれば」
作戦の囮役に、蟹型ハチク星人一人に任せた任務の重さに不安が過るMJに、ハナサキがワタリの強さを物語るに少しばかりの秘密を洩らす。
「大丈夫、ワタリならやってくれる。なんたってUGロウの仲間なんだから!」
「え、あのUGロウか?」
不安より興味が湧いたMJの顔を笑って侵攻を急ぐハナサキ。嘘か本当か任せた事に後悔は無しとMJも先を急いでいた最中。
不意に見えた警備室を占拠して、サンタワーのシステムに侵入する為の配線図を見ていたハナサキの後ろで、警備の出入管理表が目に入る。
「おい、ハナサキ!」
MJの危機を感じる声に振り返り、MJが指すモニターを見たハナサキも愕然とする。
昨日の出入記録にコシオリの名前がある。
「奴は今何処だ?」
ハナサキが出入管理システムに侵入すると、更に驚愕の事実に手が止まり顔が強張る……
「……ここ、上に居る」
「なるほど、そういう事か……」
裏切り者の本丸に気付き真の狙いを理解したMJが、作戦の遂行を考えていた。
――BIRIBIRIBIRIBIRI――
「奴ダ、飛ビ込厶ゾ!」
――DABAAAHHNN!!――
「こっちだ! こいっ!」
「野郎! 追エッ!」
――DOBUDOBUDOBUDOBU――
「居ルゾ! ソコの角ダ! 撃テ!」
――BIRIBIRIBIRIBIRI――
トンボリ道でワタリが川と街とを行き来し逃げ惑い敵の眼を一身に受け、ハム星人が違法兵器で追い立てる。
その間に奴隷状態だった街の住民を避難させていたシオヤがワタリの隠れた所にやって来た。
「団長、避難は終わりました!」
「よし、後は俺に任せて行け!」
「いや、俺が残りますよ」
「行け、お前達は万棒の破壊に備えるんだ!」
「いや、万棒の破壊に水上で必要なのは俺じゃない。団長アンタだ!」
そう言って吸盤の付いた足を三本程を上げて見せ、もう一本の足をワタリの鋏に向けるシオヤ。
「……解った! 絶対戻って来いよ!」
「ええ、はい勿論!」
颯爽と出て行くとトンボリ道の奥へと向かい、敢えて川から顔を出すシオヤ。
――DOBUDOBUDOBUDOBU――
「コッチだ! 居ルゾ!」
仲間達の姿を見送る間も無くハム星人が違法兵器で位置を把握して来る。
ワタリに任された街の住民達とは逆方向への誘導にトンボリ道を走り出すシオヤ。
――DABAAAHHNN!!――
「マタ飛ビ込ンダゾ! 撃テ!」
――BIRIBIRIBIRIBIRI――




